第155話 異大陸での再会
はるか昔……。
フォースターの船が嵐に見舞われ、エルトリア王国沖で遭難した。
この事故により船は沈没し、多くの人々が犠牲になったという。
生き残った人々は僅かで、船の残骸に掴まりながら何日もの時を耐えた。
そして、事故から数日後に辛くもエルトリア王国の海岸に辿り着いた。
その後、フォースター王国の人々は、運良くエルトリア王国の人たちに助けられた。
フォースターの人々は大いに感謝し、いつか恩返しをすると言った。
その数年後、南西のエルトリア王国では、聖剣を用いた女英雄が強大な魔物から国を救った。
奇しくも、彼女はフォースター王国出身であったという。
それ以来、フォースター王国とエルトリア王国は、友好国となった。
そして、時は現在に至る。
フォースター王国の国王ヘイズルは、エルトリア王国と協力して、魔王軍と戦うことを考えていた。
その使者として、聖騎士エリーゼが派遣されることになった。
「では陛下。このエリーゼ・フォン・ロックストーン、陛下の命に従い、エルトリア王国への使者として行って参ります」
「うむ、頼んだぞ」
エリーゼの後ろには、冒険者パーティーのミネルバも控えていた。
「国王陛下、私たちミネルバもエリーゼ殿の旅に同行させていただきたいのです。どうかよろしくお願いします」
「わかった。許可をしよう」
「ありがとうございます」
アリシアも、エリーゼに同行したいと王に許可を得た。
そのため、ミネルバも共にエルトリア王国へ行くことになった。
「アリシア殿、皆、よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
フォースター王国を出発してから二ヶ月を経て、エリーゼ達はエルトリア王国に到着した。
そして、城の玉座の間にて、エルトリアの国王と謁見する。
「お初にお目にかかります。私はエリーゼ・フォン・ロックストーン、フォースター王国の聖騎士です。本日は魔王討伐の協力のため、国王ヘイズルの命で使者として参りました。後ろの者たちは冒険者パーティー【ミネルバ】の者たちです」
「うむ、長旅ご苦労。よく来てくれた、歓迎する。早速で悪いが、ゲブ率いる我が軍の兵士たちと共にゼオン帝国と協力し、対魔王軍への会議に参加してもらいたい」
「承知いたしまいた」
国王から紹介されたゲブ・スポイルという人物は、エルトリア王国軍の軍師である。
先のゼオン帝国との戦いでは、例え自軍の方が数的不利な中でも、地形や戦術を駆使して必ず勝利を納めた天才軍師である。
ゆえに、ゲブは常勝無敗の軍師として軍内でも崇められていた。
一方で、ゼオン帝国からは【エルトリアの悪魔】として恐れられた。
年齢は四十歳で、メガネをかけた小太り体型が特徴的である。
「それから、この旅には我が娘のニーナも同行したいと言う。何でも、将来のために勉強がしたいというのだ。是非とも連れていって欲しい」
「畏まりました」
エルトリア国王から紹介された王女は、オレンジ髪のロングヘアーに明るい青の瞳が特徴的な少女であった。
「よろしくお願いいたしますわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ニーナはエリーゼに対し、ドレスの裾をつまんで優雅にカーテシーをしてみせる。
「ゲブ、ヴァイス、娘の護衛は頼んだぞ」
「「はっ」」
こうして、エルトリア王国軍と、エリーゼ率いるフォースター王国軍の同盟はゼオン帝国に向けて出発するのであった。
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ティアの背中に乗せてもらい、ギグマン帝国の帝都エフブリッジ付近まで戻ってきた。
「ティア、ここまで僕たちを乗せてくれてありがとう」
「気にしないで。困った時はお互い様だよ! ところで、この大陸の各地から魔物の気配を感じるよ。それも、今までより強い気配だよ」
「強い魔物の気配? もしかして、魔王の仕業か?」
「わからないけど、たぶんそうだと思う」
ティアはドラグーン大陸の各地から、多くの魔物の気配を感じると言う。
竜族は、非常に優れた魔力感知能力を持っているようだ。
そのため、離れた場所の魔物からも、魔力で存在を感知することができるようだ。
「よーし! こうなったら、オレたちで退治しに行こうぜ、ファイン! 魔王の陰謀は、オレたち星の英雄たちで阻止しようぜ!」
「ああ、そうだな」
「それじゃあボクは里に戻るから、みんな頑張ってね!」
「ティアちゃんは一緒に来てくれないの?」
「うん。ボクには世界樹を守るっていう大事な仕事があるからついて行けないんだ」
「そう。一緒に来てくれれば頼もしいのに……」
「あれ? ボクが戦えば全て解決すると思った? 甘い甘い、困難は自分たちの力で乗り越えなきゃ!」
ルナは今後の旅に、ティアにも同行して欲しいと願う。
しかし、ティアは世界樹を守るために、竜の里を離れられないと言う。
「でも、大丈夫! ファイン君たちは強いから、何とかなるよ! それに、ボクの力が欲しければ【でんでん太鼓】を鳴らせばどこまでも飛んでいくよ! それじゃあ、みんな元気でね!」
ティアは手を振ると、再びドラゴンに変身して竜の里へと帰っていった。
「さようなら~!」
遠ざかっていくティアに、ルナも手を振る。
「これからどうするの?」
ルナにそう質問された僕は、今後の予定について話すことにした。
「とりあえず、西へ向かおうと思う」
「西と言いますと、エルトリア王国の方ですね?」
「そうだ。とりあえず、エルトリアを目指して進もう」
「おう!」
ということで、僕たちは西のエルトリア王国に向かって進むことにした。
そして、ギグマン帝国を出発してから数日が経過した。
「見て! あっちで誰かが襲われているよ!」
草原で誰かが、魔物の群れ襲われている。
シルエットからして、オークのようだ。
よく見ると二台の馬車が止まっており、その近くで数人の騎士が応戦していた。
しかし、状況は騎士たちの方が劣勢であった。
その一方で、僕は一部の騎士の動きに違和感を覚えた。
だが、そんなことはどうでもいい。
この状況、一刻も早く騎士たちに加勢しなければならない。
「急いで救援に行くぞ!」
「おう!」
「セレーネは怪我人の救護だ!」
「はい!」
僕たちは急いで駆けつけることにした。
そして、騎士たちのもとに辿り着くと、オークたちと戦闘を開始した。
僕が接近すると、気配に気づいたオークたちが一斉に振り返る。
だが、時すでに遅し。
まず、手始めに一体の首を斬った。
「な、何だ!?」
突然の出来事に、騎士たちも驚いていた。
だが、それ以上にオークたちが動揺していた。
オークたちは何とか武器で応戦しようとする。
しかし、巨体ゆえか動きは遅く、僕のスピードについてこれない。
そのため、僕はあっという間に複数体のオークを斬り捨てた。
「おりゃああああッ!!」
そして、ヒューイが最後の一体を倒したところで終わった。
今のでオークの群れを殲滅することができた。
時間にして、僅か五分足らずと言ったところか。
僕は馬車を護衛していた騎士に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「貴殿は……ファイン殿!? それに、セレーネティア殿下も……」
その声には、聞き覚えがあった。
よく見ると、それはフォースター王国の聖騎士エリーゼであった。
「久しぶりですね、エリーゼ。元気そうでなによりです」
「セレーネティア殿下……またお会いできて嬉しい限りです」
セレーネは、エリーゼさんとの再会に感動する。
「ファインさん!?」
この声にも聞き覚えがあった。
エリーゼさん率いるフォースター王国騎士団と共に、アリシアさんもいた。
もちろん、ミネルバのメンバーも一緒だ。
「アリシアさん!? あなた方が、なぜこんなところに……」
「アンタ達こそ、どうしてこんなところにいるのよ!?」
「この大陸の各地に魔物が出たと聞いて旅をしていたんです。それよりも、皆さんこそどうしてこんなところに?」
「我々フォースター王国軍は、友好国のエルトリア王国と手を組んで魔王に立ち向かおうと思っていたところだ」
エリーゼさんは、他国と手を組んで魔王に立ち向かうと言う。
数百年前、フォースター王国の客船が嵐に見舞われ、エルトリア王国沖で遭難した。
そこをエルトリア王国の人々に助けられて以来、遠く離れたフォースターとエルトリアは友好関係を結んだ。
それゆえに、二国で協力して魔王に立ち向かうつもりなのだろう。
「ファイン君、久しぶりだね!」
「久しぶりだニャ! また会えて嬉しいニャ!」
フランやミーナも僕たちとの再会を喜んでいる。
エリーゼさん達と話していると、一人の男が僕のもとへやって来た。
「危ないところを助けていただき感謝する。俺はヴァイス・シュトローム。エルトリア王国所属の騎士だ」
男はヴァイスと名乗る。
黒髪に褐色肌の大男である。
大剣と盾を持ち、軽い防具を身に纏っている。
そのため、騎士というよりは戦士に近い恰好をしている。
また、顔や身体のあちこちに傷があり、いかにも歴戦の戦士といった風貌だ。
装備などからして、壁役と思われる。
この男はオークと応戦し、馬車を護衛していたうちの一人だ。
すると、馬車の扉が開き、中から一人の少女が降りて来た。
目は大きく明るい青色で、肌は色白い。
髪はオレンジ色で、腰までかかる程長い。
服装は純白のドレスで、頭にカチューシャを着けている。
少女は神秘的な雰囲気を纏っている。
「危ないところを助けていただき、誠にありがとうございます。私はニーナ・フォン・エルトリアと申します。エルトリア王国の王女ですわ」
エルトリア王国の王女と名乗る少女は、その場で優雅にカーテシーしてみせた。
その直後、後ろの馬車からメガネをかけた茶髪で小太りな男が降りてきた。
「助けていただきありがとうございます。私はエルトリア王国軍の軍師ゲブ・スポイルと申します。これから我々は魔王討伐のためにゼオン帝国へ赴き、彼らと話し合い、協力して魔王討伐を行おうとしていたところでした。その道中、運悪くオークの群れに襲われてしまったのです」
メガネの男は軍師ゲブと名乗り、僕たちに感謝する。
ゲブは魔王軍への対策として、ゼオン帝国との話合いの場を設けるという。
「あの失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
ニーナ王女の質問に僕は答える。
「失礼いたしまいた。僕はファイン・セヴェンス。星の英雄たちのリーダーです」
「星の英雄たち? ではあなた方が噂に聞くエノウ大陸の英雄ですか?」
「えっ? ええ、まあ……」
ニーナ王女は、星の英雄たちの名を聞いて目を丸くする。
すでにエノウ大陸から遠く離れた、異大陸にまで僕たちの噂は広まっているようだ。
「まあ! 何て運が良いのかしら!」
「?」
「もしよろしければ、私たちの旅にご同行いただけませんか? かの有名な英雄様が一緒ならば、これほど心強いことはありませんわ!」
「王女殿下もこのようにおっしゃっています。是非ご一緒に来ていただけませんか?」
「わかりました」
ニーナ王女は、僕たちにも旅に同行して欲しいという。
力になりたいと思った僕は、彼女らに同意した。
「では、行きましょうか。場所はゼオン帝国との国境付近にある砦です」
軍師ゲブはそう言うと、自分の馬車に戻ろうとする。
その時、ゲブが怪しげな笑みを浮かべたのが一瞬見えた。
……この男、何かキナ臭いな。
嫌な予感がする。
そんなことを思っていると、ニーナ王女も自分の馬車に戻った。
「ではファイン殿、我々も行こうか。あなた方がいると実に心強い」
「ファインさん。こうして、あなた達とまた一緒に旅ができるなんて思いもよらなかったので、嬉しい限りです」
僕たちはエリーゼさん達と共に、エルトリア軍に同行することにした。