第154話 竜の里
僕はなんとかティアに勝つことに成功し、竜の里に案内してもらうことになった。
ここからは歩いて一時間かかるという。
「竜の里に行けば、紅蓮の宝玉が手に入るんだな?」
「うん。ただ、紅蓮の宝玉を手に入れるためには、竜族の長である【竜王】の許可を得なきゃいけないんだ。何より、魔法によって厳重保管されているから、それも解かなきゃ手に入らないよ」
道中、モンスターと遭遇する。
出てきたのは、オーク五体である。
「ここはボクに任せて!」
ティアはドラゴンブレスを使って攻撃した。
オークたちは跡形もなく消滅した。
「マジかよ、モンスター達を消し炭にしちまったぜ!」
「当然でしょ? だってボクは史上最強のドラゴンなんだから。それにしても、以前はそんなにオークなんか出なかったはずなのに」
「これは魔王の影響か?」
「そうかもしれないね」
それから、僕たちはひたすら森の中を歩き続けた。
周囲は見渡す限り木で覆われている。
竜の里はブルーフォレストの中心にあるようだ。
「あっ」
「どうしたの?」
「そう言えばボク、竜族だからドラゴンに変身できるんだった!」
「ああ、言われてみれば……」
「という訳で、ボクの背中に乗せてあげるね! 今からドラゴンに変身するから、ちょっと待っててね!」
ティアがそう言うと、首輪にある赤い宝石が光り出した。
そして、ティアは再び竜に変身した。
『お待たせ! みんなボクの背中に乗って!』
僕たちはティアの背中に乗せてもらうことにした。
ティアは空に向けて上昇する。
『しっかりつかまっててね! それじゃあ、いっくよ~!』
ドラゴンとなったティアは物凄いスピードで空を飛ぶ。
「おお、スゲー! オレたち、空を飛んでいるぜ!!」
『当然でしょ? だってボクはドラゴンなんだもん。空を飛べて当然だよ!』
「それにしても、どうやって会話しているの?」
『それはね、ボクの首輪にあるこの【魔導具】に魔力を通すことで会話しているんだよ』
ルナの質問に対し、ティアはそのように回答する。
『この魔導具はね、実はボクの力を抑えるための物でもあるんだよね』
「えっ?」
『だってほら、ボクは世界最強のドラゴンじゃん? ボクが本気出すと世界がメチャクチャになっちゃうからね。過去にボクがドラゴンの姿で本気出した時に、世界が天変地異に見舞われたの。だから、竜王からはドラゴンの姿で戦うなって釘を刺されているんだよね』
そう話すティアの声は、少し寂しげに感じた。
自分は最強だと自負する一方で、他人とはかけ離れた力を持っていることに孤独感か何かを抱いているのだろう。
そして、前方には巨大な樹が見える。
「あの大きな木は、もしかして【世界樹?】」
『そうだよ。よくわかったね』
空を飛び始めてから十分もしないうちに、ティアは再び地上へと降りた。
『着いたよ。みんな降りて!』
僕たちが地面に降りると、ティアは人の姿に戻った。
「止まって」
ティアはそう言って、僕たちを止めた。
「竜の里はボクの結界で守られているから、その一部を解くね」
ティアは結界の一部を解いた。
しばらく歩くと、竜の里に到着した。
まず目に飛び込んできたのは、中心にある巨大な木【世界樹】である。
「これがユグドラシルだよ。ユグドラシルは世界中に魔素を放出しているんだ。そのユグドラシルを守ることがボクの使命なんだ」
世界樹は並外れた生命力を誇るため、簡単に破壊されることはないだろう。
しかし、ユグドラシルがひとたび失われれば、世界中から魔素が消失してしまう。
そうなれば、人々の暮らしに影響がでることは間違いない。
そして、この里で気になったことがもう一つあった。
「ここには人間も暮らしているのか?」
「もちろんだよ。竜の里は、人間と竜族が共存している場所なんだよ。ちなみに、竜の里とは言っているけど、実際には人間の方が多いんだよ」
竜の里では、竜族と人間が共存しているという。
「お帰りなさい、ティア様」
「ただいま!」
出迎えたのは、一人の男性だった。
推定年齢30~40代の人間と思われる。
「おや、あなた方は旅の方々ですか?」
「ええ、そうです」
「“この子”たちは小さい頃からボクが面倒を見ているんだよ。ま、ボクがお姉さんみたいなものだね!」
パッと見た感じではティアの方が子供に見えるが、実際には男性の方が年下であるという事実。
先程鑑定してわかった通りティアは500歳であり、竜族がいかに長寿かがわかる。
「こっちに来て。キミたちを竜王のもとに案内するよ」
僕たちは元気に走るティアに付いていく。
里の奥には、一番大きな家が建っていた。
「ここが竜王の家だよ。さ、みんな上がって」
ティアに続いて、僕たちも竜王の家に上がった。
「お邪魔します」
「ただいま~! 竜王、いる?」
ティアが声をかけてから少しして、奥から杖をつく音が聞こえてきた。
現れたのは、杖をついた一人の老人だった。
「ティアか。何用か?」
「お客さんを連れてきたよ」
「ほう、客人とな? ……む?」
竜王は僕のことを凝視する。
「ふむ、お主らから強い力を感じる。特にお主」
竜王はそう言って僕を指さした。
「お主、さては【勇者】だな? 勇者がこのような場所に来るということは、単なる旅が目的ではないはず。何の用でここに来た?」
僕は竜王に紅蓮の宝玉を渡すように頼む。
「竜王様、早速で悪いですが、紅蓮の宝玉を僕たちにください」
「紅蓮の宝玉だと? 何に使う気だ?」
「魔王アガレスに、ローランド王国の民が人質に取られました。魔王はローランド国民の命と引換に、紅蓮の宝玉を渡せと言いました。僕はローランドの人々を救うために、紅蓮の宝玉が欲しいのです」
「ならぬ」
「なぜです?」
「お主は【四宝玉】の危険性について知らぬ。四宝玉は一つ一つに膨大な魔力を秘められている。それらを集めれば、世界を救うことすら可能だという。それこそ、魔王に対抗することなど容易いであろう。だが、一方で悪用すれば、世界を破滅させることもできるのだ。おそらく、魔王はこの魔力を利用しようとしているのだ。したがって、渡すことはできぬ」
「ローランド王国の人々の命運がかかっているのです。どうか……」
「ダメだ。断固として渡すことは出来ぬ!」
「くっ……!」
やはりダメか。
そう思った次の瞬間。
「ボクからもお願い! ファイン君たちに紅蓮の宝玉を渡してあげて!」
「ティア……!?」
なんと、ティアが竜王に対して紅蓮の宝玉を出すよう要求してきた。
「ダメだ。ダメなものは、ダメだ!」
「ローランドの人々を見殺しにする気なの!? 竜王は前に言ってたよね? これ以上、人々が死ぬのを見たくないって。第二次人魔大戦の悲劇は繰り返させたくないって、竜王も言ってたでしょ!?」
「ぬうぅ……」
ティアは諦めずに、ローランド王国の人々を救いたいと説得を行う。
竜王はその場で深く考えた。
そして、しばらくしてから答えを出した。
「……ダメだ。いくらお前の言うこととはいえ、こればかりは聞けぬ。魔王は良からぬことを企んでおる」
結局、ティアの説得はむなしくも却下された。
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僕たちはティアの家に泊めさせてもらうことになった。
その日の夜。
突然、外から大きな音と衝撃が発生した。
あわてて外に出てみると、そこには魔王アガレスがいた。
その手には、赤い宝石を持っていた。
「てめぇは!!」
「魔王アガレス!!」
「星の英雄たちよ、【紅蓮の宝玉】はいただいたぞ」
「なぜお前がここにいるのじゃ!?」
「里の周囲はボクが展開した強力な結界で守られているのに!」
「転移したのだよ」
「そんな!? ボクの結界は破壊はおろか、里の外から転移して侵入できないはずなのに……!」
「愚かな。そんな事はこの魔王アガレスの手にかかれば容易いことだ」
ティアの質問に対し、魔王は答える。
「ならば、その手に持っている紅蓮の宝玉は何だ!? それは結界魔法によって、わしが厳重に保管していたはずだぞ!!」
「わからないのか? これが答えだ。私が結界を破壊し、この宝玉を手に入れたに過ぎぬ」
「バカな!? 魔王と言えども、我ら竜族の結界は簡単には破壊できぬ筈だ!!」
「言ったはずだぞ? 私の手にかかれば、そのような事は訳ないことだ。それはそうと、私はこれにて失礼するぞ。星の英雄たちよ、ローランドの民は人類滅亡の時までは生かしておいてやる。精々、感謝するんだな」
魔王はそう言い残すと、転移で消えた。
「何てことだ……紅蓮の宝玉が奪われてしまうとは……」
竜王はその場で酷く落胆する。
「竜王様、僕たちで紅蓮の宝玉を取り返しに行きます」
「何だと?」
「魔王の手から、紅蓮の宝玉を奪還します」
僕がそう言うと、竜王は目を閉じて考え込んだ。
そして、しばらくしてから口を開いた。
「……どうやら、この状況ではお主らに頼むしかないようだな。魔王の手から必ず紅蓮の宝玉を取り戻せ」
「はい」
「ファイン君、キミたちにこれを渡しておくね」
「これは?」
「えへへ、名付けて【でんでん太鼓】!」
「そのままだな」
「そう言わないでよ。これを鳴らせば、ボクがドラゴンになってどこへでも飛んでいくよ!」
僕はティアから【でんでん太鼓】を受け取った。
これがあれば、世界中どこへでも行けそうだ。
「ありがとう、ティア」
「えへへ、どういたしまして!」
翌朝、僕たちはドラゴンになったティアに、ギグマン帝国の帝都エフブリッジまで乗せてもらった。