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英雄たちの物語 -The Hero's Fantasy-  作者: おおはしだいお
第4章 魔王復活~遥かなる旅へ
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第153話 史上最強のドラゴン

 僕たちは木陰に隠れてやり過ごした。

 ティアの圧倒的な力を前に、成す術がなかった。

 このまましばらく隠れて、次の作戦を考えなくてはならない。

 さて、どうしたものか。


「いつまで隠れてるつもり?」


 ティアが向きを変えた。

 彼女は今、僕に背を向けている。

 僕は木から飛び出して攻撃しようとした。


「そこだね!」


 ところが、ティアは僕が隠れている木を火球ファイアボールで攻撃した。

 すぐに避けたため攻撃を喰らわずに済んだが、木は燃え尽きてしまった。

 しかし、なぜ僕の居場所が正確にわかった?


「今度はボクから行くよ。少しだけ本気を出すからね!」


 ティアはそう言って右手を頭上にあげた。

 頭上には、火炎爆弾フレイムボム氷の槍(アイス・ジャベリン)、そして竜巻トルネードといった上級魔法が複数発現した。

 今度は魔法を中心に攻撃するようだ。


「やはり、強力な魔法を複数展開できるのか!」

「当然でしょ? だってボクは史上最強のドラゴンだからね! さて、キミたちにはこの攻撃が避けられるかな?」


 ティアが手を振り下ろすと、上級魔法たちがこちらへ向かって一斉に飛んで来た。

 僕も火炎爆弾フレイムボムを何発か撃って、ティアの魔法を相殺する。

 周囲では大爆発が起きた。


「へぇ、キミもそんな風に魔法を使えるんだね。でも、ボクの魔法はまだまだ終わりじゃないよ!」


 前方からは氷の槍(アイス・ジャベリン)竜巻(トルネード)が同時に飛んできた。


「いでよ、水の精霊ウンディーネよ……アイス・ウォール!」


 ルナが水の精霊を呼び出した。

 僕たちの前方には、巨大な氷の壁が築き上げられた。

 何とか防御できたが、氷の壁は破壊された。


 その後はティアと魔法の撃ち合いになった。

 僕とルナは魔法を撃ち、ティアの魔法を相殺する。

 しかし、このままではこちらの魔力が持たない。

 ジリ貧になるのは確実だ。

 一方、ティアは最強の竜族。どれだけ魔法を撃っても、魔力切れになる気配を感じない。


「あははははっ! キミたち想像以上にやるね! でも、ボクが手加減してるって事、忘れていない?」


 ティアは口からドラゴンブレスを吐いた。

 僕は結界(バリアー)を展開する。

 何とか防御することができたが、非常に強い力を感じた。


 人の姿をしているとはいえ、ティアはドラゴン。

 当然、ブレスで攻撃することも可能であろう。

 ティアの圧倒的な火力により、周囲の木々はすでに破壊されている。


「あれ? ファイン君がいない」


 僕は隠密(ステルス)でこっそり近づき、ティアの背後から聖剣で攻撃した。

 ところが、ティアは突然身体を一歩右へとずらした。

 そのため、僕の攻撃は当たらなかった。


「なるほど、隠密(ステルス)か」

「!!」


 ティアは後ろを振り返り、火球ファイアボールを放った。

 僕はすんでのところで回避する。

 見えないはずの僕の攻撃を正確に躱し、なおかつ魔法まで放ってきたのだ。


「まさか、魔素(マナ)の流れで僕の位置がわかったのか?」

「当ったり~! 例え姿が見えなくても、魔素(マナ)の流れで居場所なんかすぐ分かるんだよね! なんたって、ボクは史上最強のドラゴンだからね!」


 やはり、ティアは魔素マナの流れを感知していたのか。

 僕が最初に、彼女を鑑定したことがバレた理由もこれか。

 ティアに対して、隠密(ステルス)は通用しないようだ。

 ルナが光輝の剣(シャイニング・ソード)を構えて突撃する。

 ところが、ティアは光の刃を手で易々と受け止めた。


「受け止められた!?」

「そんな単調な攻撃、ボクには通じないよ!」


 ルナはティアに蹴りを入れられてしまった。


「キミたち二人がかりでボクに挑みなよ」


 ティアは手招きしながら、僕たちを挑発する。


「こうなったら、コンビネーションで行くわよ、ファイン!」

「わかった!」


 僕とルナは、二人がかりでティアに挑む。

 二人で絶え間なく斬撃を加える。

 しかし、僕たち二人の攻撃は、全てティアに見切られている。

 しかも、ティアの動きには一切無駄がない。

 このままでは、こちらが消耗するだけだ。


 僕たちは、もう一度タイミングを合わせて同時攻撃を行う。

 しかし、攻撃は容易く受け止められてしまった。

 2対1でも圧倒的な力量差により苦戦を強いられる。


「へぇ、キミたち想像以上に楽しませてくれるね。ここまで善戦したのは、キミたちが初めてだよ。でも、まだまだボクには遠く及ばないけどね!」


 僕たちの攻撃は弾かれた。


「今度はボクの番だよ! キミたちに、ボクからとっておきのサプライズを見せてあげるよ!」


 ティアはそう言うと、突然分身した。

 ざっと見ただけでも十体はいる。


「なにィ!?」

「うそ!? 分身もできるの!?」

「あははははっ! 驚いた? 当然でしょ? だってボクは史上最強のドラゴンなんだから!」


 僕はティアの一体に向けて風斬刃ウィンドブレイドを放つ。

 しかし、手応えが薄い。

 ティアの一体はすぐに消滅した。

 つまり、今のは分身である。


「残念! 今キミが斬ったのは、ボクの分身だよ!」


 やはり分身だった。

 すると今度はルナが、喋っていたティアに向けて風斬刃ウィンドブレイドを放つ。

 しかし、これも分身だった。


「うそ!? 本物じゃないの!?」

「甘い甘い! 喋っているからって本物とは限らないよ。安易に考えないことだね! それじゃあ、そろそろ行くよ~!」


 そう言って、ティアは一斉に攻撃してきた。

 分身によって直接攻撃と、離れた位置からの魔法攻撃を上手く使い分けている。

 まるで隙が無い。

 僕は防御するのでやっとである。


 そんな中、ルナは近づいて来た一体に攻撃を試みる。

 しかし、ティア達はここぞとばかりに、後方から一斉に火球ファイアボールを放ってきた。


「しまった! きゃああああっ!!」

「ルナ!!」


 ルナがかわしきれずに被弾してしまう。

 ここまで頑張って戦って来たルナがついに脱落してしまった。


「残りはファイン君、キミ一人だけだね! ちなみに言っておくけど、分身中のボクは“影”の数に応じて弱体化するよ。もっとも、ボクは最強のドラゴンだから、それでも人間よりは遥かに強いけどね!」


 このままでは、こちらが不利である。

 僕は探知(サーチ)を使い、ティア本体を探すことにする。

 しかし、本物がどれかわからない。


 ティアはお構いなしに、僕を攻撃する。


 こうなったら、これしかない。

 僕は天の精霊シルフを呼び、トルネードストームを放つ。

 すると、ティアの分身は全て消え、残るは本体のみとなった。


「まさか、そんな方法でボクの分身を消すとはね。驚いたよ」


 ティアはまだまだ余裕そうだが、正直こちらの魔力はもう残り少ない。

 一か八か、今度の攻撃で決めるしかない。


「さあ、ここからはボクとキミの正々堂々の一騎討ちだよ! 果たしてボクに勝てるかな?」


 先に動き出したのはティアだ。

 ティアは空中を飛びながら、物凄いスピードで僕に迫って来た。

 接近戦を挑むつもりか。


 僕は火球ファイアボールで迎撃する。

 ティアは躱したうえで僕に肉薄し、そのまま拳による打撃を与えてくる。

 聖剣越しに竜族の圧倒的パワーを感じる。


 しかし、ここで怯むわけにはいかない。

 僕はティアの頭上から、稲妻矢サンダーアローを放つ。

 お互いに回避し、距離を取る。


 ティアは木を蹴り、再び僕に向かって来た。

 僕は頭上から稲妻撃(サンダーボルト)を降らせて攻撃する。

 無数の稲妻がティアを襲う。

 しかし、竜族たる彼女はジグザグに動いて難なくかわした。

 そして、ティアは勢いに任せて拳で攻撃してくる。

 僕は間一髪で回避した。


 その後、僕は魔法で攻撃しつつ隙を窺う。

 しかし、劣性を覆すことは難しい。

 さすがは史上最強の竜族である。

 ティアは今まで戦ってきたどんな相手よりも手強い。


「へぇ、想像以上に楽しませてくれるね。ここまで善戦したのは、キミが初めてだよ。もっとも、ボクが優勢である事実に変わりはないけどね!」


 ティアはそう言って、不敵な笑みを浮かべる。

 僕はティアに接近し、聖剣で斬撃する。

 ところが、ティアは猛スピードで回避し、そのまま僕の背後に回り込んだ。


「なにッ!?」

「勝負あったね、ファイン君!」


 ティアは強烈な左キックをお見舞いしてきた。

 僕は咄嗟に聖剣でガードするが、衝撃で勢いよく吹き飛ばされてしまった。


「ぐわああああああああああああッ!!!」 


 僕は背後の木に激突してしまう。

 これまでで一番の大ダメージを受けてしまった。

 しかし、ティアの蹴りを直接喰らった場合、この程度のダメージでは済まなかっただろう。

 痛みはあるが、まだ意識はある。

 そのため、僕は戦いに敗れたわけではない。


「まだ意識があるとはね。でも残念だけど、キミたちの負けだよ。殺しはしないけど、気絶してもらうよ!」


 ティアは左手から火炎爆弾フレイムボムを出した。

 ……今だ!

 チャンスは一度きりしかない。

 僕はこの一瞬に全てを賭けた。


「な、何!?」


 ティアの足元から突然蔦が伸び、素早く彼女を拘束した。

 僕はティアが火炎爆弾フレイムボムを出すと同時に、生命創成ライフクリエイトを発動した。

 彼女は魔素マナの流れを感知できるため、普通にやると回避されて終わりだろう。

 しかし、上級魔法は生命創成ライフクリエイトよりも強い魔力が発生する。

 そのため、同時に発動すればカモフラージュが可能だ。


「これは、生命創成ライフクリエイト!? こんな蔦でボクを拘束できると本気で思っているの?」

「まだ終わりじゃないぞ」


 僕はすぐさま蔦により強力な魔力を流す。

 蔦は太い木に成長し、ティアの全身を拘束した。

 ユリウスの魔力を得た今、蔦を木に成長させる事など容易だ。


 いくら竜族とは言えども、そう簡単には抜け出せまい。

 ただ、長く足止めは出来ないだろう。

 ティアの怪力なら、数秒経てば抜け出してしまうだろう。

 だが、三秒でも足止めできれば、それでいい。

 そして、僕の予想通りティアは三秒で樹木を破った。


「ちょっと驚いたけれど、こんな樹木でボクを拘束したつもり? ……って、あれ? ファイン君がいない……?」


 僕はティアの背後へ回り込み、首元で聖剣を寸止めした。


「なるほど、瞬間移動テレポートか……」

「そうだ」


 奥の手は最後まで隠しておくものだ。


「ボクの負け、だね」

「……随分あっさりと負けを認めてくれるんだな」

「だってここまでボクを追い詰めたのは、キミが初めてだから」


 ティアは自分の負けを認める。

 しかし、この戦いは彼女が手加減していたから何とか勝てたものである。

 もし、ティアが本気を出していれば、僕は間違いなく負けていたであろう。

 正直、体力も魔力も限界に近い。

 とは言え、勝ちは勝ちだ。


「さあ、約束だ。僕たちに紅蓮の宝玉について教えてくれ」

「オッケー。約束通り、キミたちに紅蓮の宝玉について教えてあげるね。紅蓮の宝玉は【竜の里】にあるよ。今からボクが案内してあげるね!」


 ティアは僕たちを竜の里に案内してくれるという。

 紅蓮の宝玉はそこにあるという。


「それにしても、まさかキミだったとはね。そうでしょ? 【大賢者ユリウス】」


 ティアは僕のことを大賢者ユリウスと呼ぶ。

 そう、三百年前にユリウス時代の僕はティアと出会っていた。


「やはり、気づいていたのか」

「ううん。ただ気配は似てたけど、確信がなかったんだ。でも、ファイン君の魔法や戦い方を見て確信したの。この人が大賢者ユリウスなんだって」

「ああ、確かに僕はユリウスの生まれ変わりだ。でも、このことは仲間たちにはまだ話さないでくれ」

「それはいいけど、どうして?」

「今はまだその時ではない」

「ふーん。よくわかんないけど、わかった。まあそれはそうと、ファイン君の仲間たちを回復してあげるね。特級治癒エクストラヒール!」


 ティアが回復魔法を発動すると、広範囲に魔法が展開された。

 すると、無残にも破壊された木々が、嘘のように元通りになった。

 そして、僕たちの傷も回復し、仲間たちも起き上がった。


「うっ……」

「こ、ここは……? オレは一体……」

「確か、私たちは竜族の女の子と戦っていて……。そうだファイン、勝負の行方は!?」

「ファイン君はボクに勝ったよ。ということで、キミたちを竜の里に案内してあげるよ。ボクについて来て!」


 僕たちはティアに付いて行くことにした。

 相変わらず、周囲は木々に覆われた深い森である。

 出発してから五分もしないうちに、ティアが両手で下腹部を押さえてそわそわとしだした。


「はあ……」

「どうしたの?」


 僕が質問すると、ティアは困った感じの笑みを浮かべながらこんなことを言った。


「ボク、おしっこしたい」

「……は?」


 ティアは突然、衝撃的なことを言い出した。


「ちょっとその辺の木陰でしてくるから、そこで待っててね!!」

「あ、ちょっと……!」


 ティアはそう言うと、猛ダッシュでどこかへ行ってしまった。

 それから、待つこと5分。ティアが戻って来た。


「お待たせ~。ふう、スッキリしたぁ。4時間ぶりのおしっこだったから、結構いっぱい出ちゃった!」


 ティアは満面の笑みでそう言う。

 ……何と言うか、デリカシーに欠けている子だな。

 まあ、500歳とは言え、竜族としては子供だから仕方がないか。


「そういう事、堂々と言わない方がいいわよ」

「ゴメン、ゴメン!」

「それにしても、竜族でもおしっこするのね?」

「当たり前でしょ? 竜族だって生きているんだから、おしっこやうんちだってするだよ。キミたち人間とボクたち竜族は、根本は同じ【生き物】なんだからね!」


 確かに、人間と竜族の外見はほとんど同じだし、ましてや骨格や内臓の構造もほとんど同じはずだ。


「さ、行こうか。竜の里には後1時間くらいかかるからね!」


 ティアは深い森を突き進んでいく。

 僕たちは彼女の後を付いて行くことにした。

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