第152話 竜族の少女
僕たちは、ブルーフォレストを進んでいる。
周囲の木は非常に高く、日差しは少ない。
探知しながら、この森の中を進む。
すると、前方から大きな反応を一つ確認した。
「何か来る。戦闘準備を!」
しばらくして、空から巨大な黒いドラゴンが飛んで来た。
そのドラゴンは、僕たちの前に立ちはだかった。
「おいおいおいおい、なんでこんなところにドラゴンがいるんだよ!?」
ドラゴンの大きさは、かつて王都エストを襲ったあのドラゴンと同じくらい巨大だ。
僕たちは剣を抜き、臨戦態勢を取ろうとする。
『キミたちが例の勇者たちだね?』
「な、何だ!?」
どこからともなく少女の声が聞こえた。
すると、ドラゴンは突然白い光に覆われた。
やがてその光は小さくなって行った。
そして、光の中から突然小さな少女が姿を現した。
少女は透明感のある色白肌で、ツインテールに結った濃いピンクの髪に、大きな紫色の瞳。
身長は150cmくらい。
童顔で幼さを醸し出しており、見た目年齢は10歳程度だ。
しかし、幼さに反して胸はかなり豊かで、お尻や腰まわりも大きい。
服装はヘソ出しの黒いトップス、今にも見えそうな程に丈が非常に短い黒のミニスカート。
黒い長手袋に、黒のニーソックスも着用。
おまけに、ガーターベルトまで着けている。
靴は赤色のハイヒールである。
特に、トップスはこれでもかと言う程、胸を強調したような際どいデザインとなっている。
特徴的なのは尻尾と、頭から生えた二つの角。
そして、背中には悪魔のような翼が生えている。
つまり、この少女は【竜人族】である。またの名を竜族と言う。
竜族の特徴は、圧倒的な長寿で数千年という気の遠くなるような年月を生きること。
そして、多少の攻撃では傷つきづらく、回復しやすいという高い生命力を誇る。
もちろん、膂力・魔力・知能などは人智を遥かに超えている。
その代わり、繫殖力は人間よりも遥かに劣る。
また、竜族の名の通り、ドラゴンへの変身も自在にできる。
少女が先程見せたのがそれだ。
「こんにちは! キミたちが噂に聞く勇者だね? ボクはティア・ハイドラ。ティアって呼んでね! 見ての通り、ボクは竜族の女の子だよ! こんな見た目だけど、500年くらいは生きてるよ!」
この声は、先程聞こえた少女の声だ。
ティアと名乗った竜族の少女は、無邪気な笑みを浮かべながら自己紹介をした。
ちなみに、口の中には八重歯が生えている。
「僕はファイン・セヴェンス。君の言う通り、僕は勇者だ。僕たちはこの大陸にあると言う【紅蓮の宝玉】を探している。何か知っているか?」
「教えてあげてもいいけど、条件があるの。ボクと勝負して! もしボクに勝てたら、キミたちに紅蓮の宝玉について教えてあげてもいいよ!」
「ヘッ、おもしれぇ! オレ達がお前に勝てばいいんだな?」
「うん。言っとくけど、ボクはとっても強いよ!」
ティアは僕たちに勝負を挑む。
戦いの前に、いつも通り鑑定を行う。
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・ティア・ハイドラ LV:999
種族:竜人族(女) 500歳
加護属性:光
クラス:ドラグナー
HP:99999/99999
MP:99999/99999
力:9999
魔力: 9999
器用さ: 9999
素早さ: 9999
防御: 9999
耐魔: 9999
魔法:回復・補助LV.10、炎魔法LV.10、氷魔法LV.10、
風魔法LV.10、雷魔法LV.10、土魔法LV.10、
光魔法LV.10、闇魔法LV.10、空間魔法LV.10、
古代魔法LV.10
スキル:竜化、ドラゴンブレス、無詠唱、自己再生、
状態異常無効
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「!?」
何だこのデタラメな数値は。
全ての能力が人智を超えている。
これが、竜族だというのか。
「今キミ、ボクのことを【鑑定】したでしょ?」
そう言って、ティアは僕のことを指差す。
やはり、鑑定したことは彼女にバレている。
そして、ステータスを敢えて見せるのは、こちらの動揺を誘うためだろう。
「なにっ、鑑定しただと!? おい、ファイン。こいつの能力はどれくらいなんだ?」
「ヒューイ、気を付けろ。彼女はとても強い。全ての能力が人智を超えている」
「ヘッ、上等じゃねぇか。相手にとって、不足なし!!」
そう言って、ヒューイは得意げに斧を構えた。
相変わらず、好戦的だ。
「一つアドバイスしてあげる。相手の力量も読めないようじゃ、この先生きていけないよ。まあ先手は譲ってあげるから、いつでも来なよ」
「ヘッ、後悔しても知らねぇぜ? それじゃあ、行くぜ! おりゃあああああああ!!」
ヒューイは雄叫びをあげながら、ティアに向かってダッシュする。
そして、ヒューイは斧を振り下ろした。
ところが、ティアは片手で斧を受け止めた。
「なにッ!?」
ティアはヒューイに対して右手で反撃する。
ヒューイは咄嗟に持っている盾でティアの攻撃を凌ぐ。
凄まじい金属音と共に、衝撃波が発生した。
あまりの威力にヒューイの身体は後方に飛ばされてしまう。
「うおおおおっ、なんて一撃だ!!」
ヒューイは何とか踏ん張ったが、ティアのパンチで盾は凹んでしまった。
なんて威力だ。
ティアは小柄な体格に反して、圧倒的な怪力を誇っている。
竜族は、万物を破壊する程の膂力を誇るという。
このことは聞いていたが、これ程とは。
「この程度? まさか、それで本気って言わないよね?」
「いいや、まさか。女の子だから、少し手加減してただけさ」
「心配ないよ。さっきも言った通り、ボクはとっても強いから、手加減無用だよ!」
「それじゃあ、ここからは本気を出させてもらうぜ! おりゃあああああああああああああああ!!!」
ヒューイは再びティアに挑む。
「破断岩斧!!」
そして、ヒューイは自慢の必殺技を放った。
ところが、結果は先程と同じ。
ティアはヒューイの一撃を右手だけで防いだ。
「バ、バカな!? オレ様自慢の必殺技を受け止めやがっただと!? しかも、ビクともしねぇぞ!!」
「やっぱり、キミ大したことはないね。これはボクからのプレゼントだよ」
「ヒューイ、一旦下がれ!」
ティアに左手をあげた。
そして……。
「火球!」
ティアは左手を振り下ろし、火球を発射した。
しかし、威力は火球のそれではない。
大きな火の玉が、ヒューイに向かって飛んでいく。
そして、火球はヒューイに着弾すると大炎上した。
「ぐおおおおおおおおおおッ!!!」
「ヒューイ!!」
ヒューイは火球をモロに受けてしまい、一撃で倒れてしまった。
膂力だけではない。もちろん、魔力も人類を遥かに上回っている。
「今度はこっちから行くよ~!!」
そう言うと、ティアは突然物凄いスピードで僕たちに迫って来た。
まず、ティアはセレーネに肉薄し、セレーネの腹部に右手のパンチで攻撃する。
「きゃあっ!!」
セレーネはたった一撃で、後方の木まで吹き飛ばされてしまった。
「セレーネ!!」
「回復役は真っ先に潰しておく。これ、戦いの鉄則ね!」
僕とルナは、ティアから距離を取った。
「なんてことだ……。ヒューイに続き、セレーネまでも……」
「大した事はないね。本当にキミたち勇者? とは言え、二人は気絶しているだけだから、安心してよ。さて、キミたちはボクを楽しませてくれるかな?」
ティアは余裕の表情を見せる。
すると、ティアはクラウチングスタートの構えを取った。
ティアは地面を蹴ると、弾丸のように物凄い勢いで僕に向かって飛んで来た。
「は、速い!」
さすがは竜族なだけあって、とんでもない速さだ。
僕は牽制の為に、火球を六発放った。
しかし、ティアには難なく避けられてしまう。
「そんな攻撃じゃあ、牽制にすらならないよ!!」
そして、あっさりと肉薄されてしまう。
ティアは左手で思いっきり僕にパンチをかます。
僕は剣で咄嗟にガードするが、あまりの威力に後ろに飛ばされてしまう。
「ぐううううっ、なんて威力だ!!」
僕は地面に体重をかけ、何とか踏みとどまる。
聖剣エクスカリバーだから耐えられたが、並みの武器なら粉々に砕けていただろう。
しかし、ティアはすかさず再度接近してきた。
そして、連続拳を放ってきた。
僕は左腕に防盾を展開して防御する。
しかし、一撃一撃が重い!
「あははははっ! そんなんじゃあ、ボクには勝てないよ!」
ティアは楽しそうに攻撃を続ける。
まずい、このままでは持たない!
そして案の定、防盾はガラスのように音を立てて割れた。
ここでルナが加勢する。
ルナはティアの顔面目掛けて、左キックを放つ。
しかし、ティアは少し後退することで蹴りを躱した。
「ふーん、“白”か。シンプルだけど、かわいいパンツ穿いているね!」
「な!?」
ティアは、ルナのパンツを覗き見していた。
ルナは顔を赤く染める。
「ちょ、ちょっと! どこ見てるのよ!?」
「あははは、赤くなった! キミ可愛いね! そんなに短いスカート穿いて激しく動くからだよ!」
どの口が言えたことか。
僕は、風斬刃を放った。
しかし、ティアは左腕を横に振るだけで風斬刃を弾いた。
まるで羽虫を落とすみたいだった。
ティアは突然、僕の目の前に現れた。
まるで、瞬間移動したようだった。
「速っ……!!」
そして、ティアは左足で僕の腹めがけて思いっきり、蹴りを放った。
僕の身体は勢いよく吹き飛ばされてしまった。
しかし、蹴りを喰らう瞬間、僕は腹部周辺に結界を張った。
そして、後方の木に打ち付けられた。
ダメージは軽減されたが、それでもかなりの衝撃を受けた。
「へえ、ボクが蹴りを放つ一瞬で結界を張るとはね。なかなかやるじゃん」
ティアには一連の動作が見えていたのか。
さすがは竜族。動体視力も非常に優れているようだ。
ティアは竜族なだけあって今までのどんな敵よりも強力で、苦戦を強いられていた。