第149話 激怒のジャーク
ギグマン帝国の遺跡に入って一時間が経過した。
目の前には大きな扉が立ちはだかっている。
他に通路や階段はない。
つまり、ここが遺跡の最深部と見て間違いないだろう。
「ヒューイ、扉を開けるぞ。手伝ってくれ」
「おう、任せろ!」
僕とヒューイで力を合わせて、大きな扉を開けた。
中は広大な空間となっており、壁には篝火が設置されている。
部屋には太い円形の柱が複数設置されている。
そして、部屋の中央には、三体の魔族が立っていた。
特に、中央の長身な魔族からは強大な魔力を感じられる。
入口から感じた気配は、こいつが放っていたものか。
「お前らが例の勇者どもだな? ようやく来たか。待ち侘びたぜ。とは言え、魔王様の言うとおりだったな。まさか、本当に来るとは思わなかったぜ。オレは【激怒のジャーク】。魔王四天王の一人だ。魔王様の復活までは、魔王様の親衛隊を務めていた」
中央の魔族は四天王の一人、激怒のジャークと名乗る。
ジャークは細身かつ長身ながら、その身体は筋肉で引き締まってる。
刺々しい金髪に、ギザギザの歯が特徴的な容姿をしている。
服装は長ズボンとタンクトップ。
そして、サングラスをかけている。
まるで、どこかの不良か何かのような格好である。
「お前ら、グロウをやったらしいな。だが、アイツは四天王の中で最弱!」
「あれで最弱だったのか……」
「そうだ。だが、オレはヤツとは違って、そう簡単にはやられんぞ」
とりあえず、激怒のジャークを鑑定してみる。
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・ジャーク・イーヴィル LV:85
種族:魔人族(男) 350歳
加護属性:天
クラス:魔王四天王
HP:4500/4500
MP:4000/4000
力:2500
魔力:3000
器用さ:1052
素早さ:920
防御:1500
耐魔:2002
魔法:炎魔法LV.10、氷魔法LV.7、風魔法LV.10、
雷魔法LV.10、土魔法LV.8、闇魔法LV.10、空間魔法LV.9
スキル:身体強化、自己再生、無詠唱、状態異常無効、
消費精神力半減、???
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ジャークはグロウと異なり、魔法による攻撃を得意としているのが分かる。
特に、レベル10の魔法が得意分野なようだ。
魔法が使える分、グロウと比較して戦闘の幅が広くなるに違いない。
そして、先程の言葉からも分かるとおり、ジャークはグロウよりも強力なことは間違いない。
苦戦は覚悟しておいた方がよいだろう。
「ところで、親衛ってよォ、ちゃんと書いてある通り『しんえい』って読むよなァ? それはいい、それはいいんだよ。だが、何で近衛は『このえ』って読むんだよ!? エエッ!? ムカつくぜ、チクショー!! 木の葉みたいな読み方するんじゃねえ!! このボケがァ!!」
ジャークはそう言って、突然激怒する。
こいつ、言葉に対して偏見を持っているのか。
「行け、お前ら。ヤツらにお前らの力を見せてやれ」
「「ウッス!」」
配下の魔族たちが武器を構え、僕たちに向かって来た。
僕は聖剣を抜き、風斬刃を放った。
「グアッ!!」
風の刃が魔族たちの首を斬った。
「ジャ、ジャーク様……」
「オメーら、ホント使えねぇな」
そう言ってジャークは苛立ちを見せる。
そして、聖剣の力により魔族たちは消滅した。
「まあいい。コイツらは所詮ザコに過ぎん。だが、オレは違うぜ」
「ジャークとか言ったな? お前、なかなか強そうじゃねぇか! このヒューイ・サウスリーが相手をしてやるぜ!!」
「フン! テメェじゃオレの相手は務まらねぇよ」
ジャークはそう言うと構えた。
「さあ、行くぜ。勇者ども! 火球!」
両手からは八発の火球が放たれた。
セレーネが結界を張って防御する。
「フン! さすがに初撃は防御するか。並みの人間なら、今の攻撃でイチコロだぜ。だが、これならどうかな?」
そう言って、ジャークは再び右手を前に出した。
「氷の槍!」
ジャークの手からは氷の槍が複数発撃たれた。
さすがは魔法が得意なだけはある。
ましてや、魔王四天王の一人。
高い魔力から放たれる魔法は半端ではない。
仲間たちは散開して避ける。
そして、僕はそのまま聖剣を抜いてジャークに向かって走った。
しかし、相手もただ黙って見ているを訳がない。
「フン! やはり近づいて来るか。稲妻撃!」
ジャークは指先からサンダーボルトを放つ。
凄まじい稲妻たちが、僕めがけて飛んでくる。
僕は左腕に防盾を展開して防御する。
そのまま怯むことなく、なおもジャークに向かって接近する。
そして、僕はついに相手に肉薄し、聖剣で斬撃を放った。
ところが、僕の一撃は見えない壁に阻まれてしまう。
「これは……結界!?」
「そうだぜ」
ジャークはニヤリと笑う。
「ファイン、上!」
ルナの一声で、僕は上を見た。
すると、天井付近に暗雲が発生していた。
僕がすぐに後退すると、上から稲妻が降って来た。
咄嗟に回避したため、喰らわずに済んだ。
「そう簡単にオレが倒せると思っていたか? 見通しが甘いぜ」
「まさか。しかし、ただ黙ってやられる訳には行かないんでね」
「威勢だけはいいようだな。だが、所詮お前らは人間。オレたち魔族に勝つことはできないんだよ。ましてや、オレは魔王四天王の一人、激怒のジャーク! オレに勝つことなんざ、百年早ぇんだよ、火炎弾!」
ジャークは右手から、四発の火炎弾を撃ってきた。
すると、ヒューイが前に出て来た。
「聖盾!」
ヒューイの盾が、ジャークの放った火炎弾を防御した。
さすがは守護者。
パーティー内での防御力は、ヒューイが最も優れている。
「チッ!」
ジャークは舌打ちをする。
自身の攻撃が防がれたことに苛立ちを感じているようだ。
この隙に、ルナがダッシュで急接近を仕掛ける。
それに対し、なぜかジャークは悠然と構えている。
そして、ルナはジャンプして光輝の剣で刺突を放つ。
ジャークは自らの右手で受け止めた。
光輝の剣がジャークの手を貫通した。
「そんなオモチャがオレに通用すると思っていたのか!!」
ジャークは右手でルナを潰そうとした。
地面から土煙が発生する。
「ン?」
しかし、そこにルナはいなかった。
よく見ると、彼女はいつの間にかジャークの右側に回り込んでいた。
そして、ルナはもう一度ジャークに向かって走る。
「フン! なかなか素早いようだが、パワーはそれほど強くはねぇようだな」
ジャークはそう言って、右手でルナを捕まえようとする。
ルナはジャンプで躱し、さらに接近する。
ここまでで、ものの十数秒しか経っていない。
それ程までにルナは素早いのだ。
「ちょこまかと……うっとおしいんだよ!!」
ジャークは口から火球を吐いた。
「きゃっ!」
予想外の攻撃だったためか、ルナはまともに喰らってしまい、吹き飛ばされてしまう。
致命傷ではないようで幸いだが、僕はジャークの行動に少し違和感を覚えていた。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
今はとにかく、ルナの援護をしないといけない状況だ。
僕は聖剣で風斬刃を放つ。
対して、ジャークは結界で防御した。
「お前のその武器……確か聖剣エクスカリバーとか言ったか? 魔族に対して致命傷を与えるそうだな?」
ジャークにはすでに聖剣の力が見抜かれている。
そう簡単に攻撃を受けてはくれないだろう。
「もっとも、喰らうつもりは毛頭ねぇがな」
そう言って、ジャークは右手を前に出した。
ルナに空けられたその手は、すでに治っていた。
それから、少しして地面が揺れ始めた。
「なんだ? 地震か?」
「まずいっ、二人とも散開するんだ!!」
僕たちが散開すると、すぐに地面から無数の針が突き出した。
土の針である。
しかし、危険を察知して動いたため、誰も攻撃を食らわずに済んだ。
「チッ、避けたか。勘のいいヤツだ。魔王様がお前を警戒するだけはあるな」
「皆さん、私の魔法で素早く動けるようにします。高速化」
セレーネがファストの魔法をかけてくれたお陰で素早く動けるようになった。
「今度はオレが行くぜ! おりゃああああああああああああッ!!!」
ヒューイはそう言って、猛ダッシュで立ち向っていく。
対するジャークは、稲妻撃で迎撃する。
「聖盾!」
ヒューイは自身の盾で稲妻を防御しつつ、なおもダッシュし続ける。
聖盾は強力な魔法をも防ぎきる程、強靭な防御力を誇っている。
この隙に、僕も走って接近する。
そして、ヒューイはジャークに対して斧を振り下ろした。
しかし、その一撃はジャークの片手に受け止められてしまった。
「なにッ!?」
「バカが。オレは魔王四天王だぜ。そんな単純な攻撃が通用すると思っていたのかッ!!」
ジャークは右手から火炎弾を放つ。
しかし、ヒューイは上手く盾で防御した。
「ふぅ、今のはさすがに危なかったぜ!」
「ああん? オレの攻撃を防いだってのか!? うぜぇな!」
ジャークは自分の攻撃が防がれたことを怒っている。
ヒューイは再度斧で攻撃しようとする。
僕はジャークの背後に回り込む。
それと同時に、ルナも柱の影から飛び出した。
そして、タイミングを合わせて攻撃する。
ところが、ジャークは結界を全面に展開して防御した。
「おめぇら頭脳がマヌケか? オレがテメェらの接近に気づかないとでも思っていたのか!!」
ジャークが両腕を広げると、僕たちは衝撃波によって吹き飛ばされた。
三人を同時に対処できるとは、やはりジャークは一筋縄では行かない。
間違いなく、グロウよりも手強い。
「皆さん、下がってください。出よ、光の精霊ウィル・オ・ウィスプ」
セレーネがウィル・オ・ウィスプを召喚した。
光魔法で一気にカタを付けるつもりのようだ。
「聖なる息吹!」
光の精霊は、白くまばゆいブレスを吐いた。
「光魔法か、なるほど。確かに光魔法はオレたち魔族の弱点だぜ。だがッ!」
ジャークは両腕を前に出して防御する。
そのまま、光のブレスを浴びるジャーク。
やがて、大爆発が発生した。
ところが、ジャークは依然として健在であった。
今の攻撃で、ダメージを受けた素振りは見せていない。
「なぜ生きている!?」
「結界だぜ。オレ自身の周りに、極小の結界を展開してな。オレが弱点魔法に対して、何の対策もしていないと思っていたのか!? このボケがッ!!」
ジャークはそう言って啖呵を切る。
やはり四天王の一人というだけあって、一筋縄では行かない。
「お前らの旅もここまでだ。暗黒星!」
ジャークは右手から、黒い球体を出した。
球体は分裂し、無数の暗黒弾となった。
これはキングオーガも使っていた、ホーミング性のある魔法だ。
無数の暗黒星は僕たちを襲ってきた。
僕は火炎爆弾を放ち、敵の魔法を相殺する。
ルナは素早い動きで柱の影に入り、上手いことホーミングする魔法を蒔いた。
「聖盾!」
ヒューイは盾を前に構える。
聖盾の高い防御力により、魔法を防ぐことに成功する。
そして、セレーネは結界を張って防御した。
ジャークは魔力が高いだけではない。
その性格に反して、賢さも持ち合わせており、まるで隙がない。
僕たちは激怒のジャークを前に苦戦を強いられていた。