第148話 パルテナ遺跡
ドラグーン大陸。
北西の海に位置する大陸で、エノウ大陸の北にある。
竜の頭に似た形状をしており、自然に恵まれた大陸である。
大陸の中央部にある広大な森林地帯、および山脈地帯には【竜人族】が生息しているという。
またの名を、竜族という。
竜族は人間よりも遥かに長寿で、それこそ何千年という気の遠くなるような長い年月を生きると言われている。
もちろん、力や魔力などは人智を超えており、生命力にも優れている。
また、普段は人間の姿を取っているが、【竜族】の名の通りドラゴンに変身することも可能だ。
ただし、繁殖力は人類に比べて劣っている。
そのため、個体数は少ないと言われている。
そして、ドラグーン大陸は竜族の加護によって守られていると言われる。
それが、ドラグーン大陸と呼ばれたる所以だ。
ノトリア大陸を出発してから約一ヶ月が経ち、僕たちはついにドラグーン大陸に到着した。
船を降りてから、人目につかないところでエストから転移門で馬を呼び寄せた。
「今度も頼むぞ、お前たち」
「ブルルンッ」
僕は言いながら、馬の頭を撫でた。
この大陸に上陸した時から、すでにギグマン帝国に入っている。
地図を頼りに、帝都エフブリッジを目指すことにする。
ドラグーン大陸に上陸してから数日後、僕たちは帝国エフブリッジに到着した。
エフブリッジは工業が盛んで、武器や魔導具の生産量が高いという。
また、冒険者稼業も盛んに行われており、この街には多くの冒険者が所属しているという。
到着するころには日は沈み、すでに夜を迎えていた。
そのため、今夜は宿で休むことにした。
「明日は、この大陸のどこかにあるという【紅蓮の宝玉】を探しに行こうと思う。ここまでに一ヶ月以上はかかってしまったから、一刻も早く見つけ出さなくてはならない」
「おう」
明日は、魔王が欲している紅蓮の宝玉を探しに行く。
だが、その前に宝玉に関する手掛かりを探さなければならない。
「とは言え、何か紅蓮の宝玉に関する情報や手掛かりはないのか……」
「それなら、とりあえず冒険者ギルドに行ってみてはどうかしら?」
「ん?」
「だって、お宝は大抵ダンジョンに埋まっているって言うじゃない? だから、ギルドに行ってみましょう。お宝探しの依頼があるかもしれないわ」
そう言えば、この街では多くの冒険者が活動しているという。
つまり、冒険者ギルドに行けば何か手掛かりが掴めるかもしれない。
「そうだな、ルナの言うとおりだな! よし、ギルドに行ってみようぜ!」
「いいですね」
「それもそうだな。よし、明日は朝イチで冒険者ギルドに足を運んでみよう」
ということで、翌朝ギルドへ足を運んでみることにした。
翌朝、朝食を食べた後にチェックアウトを済ませた。
その後、予定通り街の冒険者ギルドへと向かった。
帝都のギルドなだけあって建物は大きい。
当然、冒険者の数も多い。
ギルドには様々な依頼が出されている。
どこにでもある薬草採取や、ゴブリン討伐などの常設依頼はここにもある。
その他、個人が出したと思われる掃除や探し物などの依頼もある。
取り立てて、面白そうな依頼はない。
僕はもう一度、地図を取り出してみる。
「パルテナ遺跡?」
帝都エフブリッジ西の森林地帯に【遺跡】があるのを確認した。
「みんな、西の遺跡に行ってみよう。もしかしたら、そこに紅蓮の宝玉があるかもしれない」
「ええ、行きましょう」
「そうだな。お宝が手に入るかもしれないな!」
「そうですね」
早速、僕たちはパルテナ遺跡に向かうことにした。
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エフブリッジを出発し、馬で西へ二十分進むと森林に入った。
そして、帝都から約一時間で例の遺跡を発見した。
入口はポッカリと空いており、下への階段が続いている。
下に行けば行くほど暗いため、中の様子を確認することはできない。
人が入った気配はしない。
しかし、中からは強い魔力を感じる。
「ここがパルテナ遺跡か。遺跡の中には罠があるかもしれないから、気を付けろよ」
「ええ」
僕たちは早速遺跡へ進入し、階段を下りる。
すぐに外からの光が届かなくなり、暗くなった。
そのため、灯火を付けて視界を確保する。
しばらく階段を下りると、床が平坦な通路に出た。
探知を使い、周囲の地形や敵を把握する。
どうやら、この遺跡はかなり入り組んでいるようだ。
そして、やはりモンスターも出てくるようだ。
進んでいると、分かれ道が現れた。
「ここは左に進むぞ」
探知で地形を把握する。
ここは左が正しいようだ。
そのため、左の通路を進むことにした。
暗くて長い通路をひたすら突き進む。
「前方から何か来る。気を付けろ」
僕の言葉で仲間たちが戦闘態勢に入る。
現れたのは、ゴブリン五体。
短剣や斧で武装している。
この大陸にも生息しているようだ。
そして、同じゴブリンと言えども今までと比べてレベルが高いようだ。
敵はこちらに向かって走ってきた。
僕は風斬刃で迎撃する。
今の攻撃で、三体の首を斬った。
しかし、残りの二体は上手くかわした。
一体のゴブリンが斧で僕に攻撃を仕掛ける。
しかし、ヒューイが前に立ちはだかり、盾で防御した。
「へッ! 今までのゴブリンと比べれば強いようだな。だが、所詮ゴブリンはザコに過ぎねぇぜ!!」
そして、斧による反撃でゴブリンを倒した。
「氷の刃!」
ルナが氷魔法を放ち、最後の一体の脳天に直撃させた。
これで、この場にいるゴブリンは全て倒した。
それから、さらに遺跡の通路を進む。
今は天井が高い所を進んでいる。
「向こうから何か走ってくる」
前方からやって来たのは、三匹のネズミ型魔獣であった。
こいつは【ジャイアントラット】という。
大きさは、猫や小型犬よりも一回り大きい。
また、雑食の為にそれらの動物を捕食することもあるそうだ。
もちろん、人を食うこともある。
生息地は地中や洞窟といった、暗くて狭い場所を好む。
ジャイアントラットは構わずこちらに向かって来る。
「氷結剣!」
そう言って攻撃したのはルナだ。
地面から飛び出てきた氷の剣によって、ラット達は的確に貫かれた。
それから、階段を下りてしばらく進むと、一段と狭い通路に出た。
通路は二人分の幅で、天井は二メートル弱の高さである。
しかし、ここにおける真の問題はもっと別にある。
「気を付けろ。この通路には罠が仕掛けられている」
魔力探知で罠が設置されているのがわかる。
入ると地面から火柱が出たり、壁からトゲが出たりするようだ。
一応、罠を回避して進むことも可能なようである。
しかし、わざわざ危険を冒す必要はない。
「どうするんだ?」
「横の通路に迂回する。もっとも、かなり遠回りにはなるが……」
罠を抜けたとしても、おそらくその先には強力なモンスターが潜んでいると思われる。
よって、迂回したほうが安全に進める。
それから、しばらく迂回路を進んだ。
「何か来る。気を付けろ」
曲がり角の向こうから、気配を感じる。
現れたのは、ゴブリン三体であった。
それに加えて、後方からはオークまで現れた。
「オークまで……挟み撃ちか!」
「オークはオレに任せな! おりゃああああああああ!!」
そう言って、ヒューイはオークに挑んだ。
三体のゴブリンは武器を持ってこちらに走ってくる。
僕は鞘から剣を抜いて風斬刃を放つ。
ゴブリン達は真っ二つになった。
ヒューイもオークの攻撃を盾で防ぎつつ、斧による反撃でオークを倒した。
「歯ごたえのないザコだったぜ! もはやオレ様の敵じゃあねぇな!」
ヒューイはそう言って得意気になる。
長い通路をひたすら進み、階段を下りた。
しばらく進むと、広い部屋に出てきた。
「止まれ」
僕は手で仲間を制止する。
「どうしたの?」
「この部屋には爆弾が仕掛けられている。探知した結果、わかった」
「どうするんだよ? このままじゃ進めないぜ?」
「こうするんだ。【魔封じ】」
すると、床に仕掛けられた爆弾トラップが解除された。
「さあ行こう。これで進むことができる」
僕は部屋に足を踏み入れる。
すると、躊躇っていた仲間たちも僕について来る。
遺跡に入ってから三十分が経過し、だいぶ下の方まで下りてきた。
おそらく今は中層。
そこには魔族が三体いた。
「また会ったな、勇者ども!」
「お前は……!」
中央の魔族が僕に話しかけてきた。
「誰だっけ?」
しかし、僕は相手が誰だか憶えていなかった。
「てめぇ、忘れたのか!? 俺は以前貴様らに敗れた【デニス】だッ!」
「ああ、あの時の……」
「やっと思い出したか。この前は不覚を取ったが、今回はそうはいかねぇ。この遺跡を貴様らの墓場にしてくれよう!」
魔族たちは臨戦態勢を取る。
「さあ、行くぞ。あの時の屈辱、今こそ晴らさせてもらうぞ!! ……ッ!? 身体が動かん!?」
「デニス様、足元を見てくだせぇ!!」
「な、なにぃ!? 俺たちの足元から蔦がッ……!?」
「ベラベラ喋っているからだ」
今回はまともに戦うのが面倒くさいので、すぐに終わらせることにする。
僕は魔族たちが喋っている隙に、生命創成で拘束した。
そして、聖剣を抜いて風斬刃を放った。
魔族たちの首は真っ二つになった。
「バ、バカな……俺の出番、これで終わりかよ……」
デニスは無念そうな台詞を残して消滅した。
しかし、こんな所にも魔族が出るとは……。
そして、まだ奥の方から強い魔力を感じる。
そのため、遺跡の奥まで進んでみることにした。
ひたすら通路を進み、階段を下りていく。
その結果、かなり奥まで進んできた。
この遺跡に入ってから、一時間は経過したと思われる。
目の前には大きな扉が設置されている。
どうやら、ここが最深部のようだ。