第146話 旅を急ぐ者たち
キングオーガを撃破した後、僕たちは帝都に戻る。
そして城へ行き、玉座の間にいる皇帝ロバートに、キングオーガを倒したことを報告した。
「報告いたします。先程、キングオーガに変身した魔王四天王の一人、破滅のグロウを倒しました」
「そうか、でかしたぞ!」
「はい。これでガルシア帝国はひとまず安全かと思います」
「そうか。ガルシア帝国の危機を救ってくれたことを、国を代表して礼を言うぞ。国を救ってくれた貴公らには大いに報いたい。そこで、今夜は城で宴を行いたい」
皇帝は、僕たちのために宴を開きたいという。
しかし、これからドラグーン大陸に行き、後三ヶ月以内に紅蓮の宝玉を見つけ出さなくてはいけない。
そして、それを魔王に渡さなくてはローランド王国の民が危険なのだ。
そのため、僕たちはのんびりしている暇はないのだ。
「お気持ちはありがたいですが、僕たちは事情があって急いでドラグーン大陸に向かわなければ行けません」
「もう帝国を出ていくというのか? そうか。残念だが、急いでいるのならば仕方あるまい。ならば、せめてもの報いとして軍資金をやろう」
「軍資金ですか?」
「貴公らはドラグーン大陸へ行くと言ったな? 一億ゴールドやろう。それだけあれば足りるか?」
「十分過ぎるくらいです。ありがたくいただきます」
僕たちは褒賞金として、一億ゴールドをもらった。
それから、僕たちは街で馬車を売却した。
これ以降の旅には、もう必要ないからだ。
その後、僕たちは転移門で港町タキアへと向かった。
一度行った場所へはすぐに行けるため、この魔法は何かと便利だ。
そして、港でドラグーン大陸行きの船を探すことにした。
すると、運がいいことに、一日にたった一本だけドラグーン大陸行きの便があるようだ。
運賃は大人ひとりにつき十万ゴールドであり、距離にしては安いようだ。
すぐにチケットを買い、船に乗ることにした。
ドラグーン大陸行きの船は、大型客船であった。
僕たちは、早速乗船した。
中はかなり広々としている。
そして、何日も海を旅するため、当然ベッドを備えた客室も完備されている。
十分に、寛ぐことができそうだ。
出航時刻を迎え、ドラグーン大陸行きの船はいよいよ港を出る。
■■■■■
魔王アガレスは今、ローランド王国のとある場所にいた。
今は夜。
魔王は自身の弱点となる太陽を避けるために、夜を待ってから行動を開始した。
時折雲に隠れながらも、空には三日月が浮かんでいた。
「グロウめ、敗れたか。まあよい、奴は四天王の中でも最弱! 勇者どもに敗れて当然の結果だ。そして、ルナ・セラフィーも順調に育っているようだな」
魔王は一人つぶやく。
アガレスには何か目論みがあるようだ。
魔王は、唐突に魔王城の通信室へ交信した。
しばらくして、カミラが通話に出た。
目の前には、カミラの映像が浮かび上がる。
『魔王様、お呼びでしょうか』
「カミラか。ジャークを呼べ」
『畏まりました』
それから、しばらくして四天王の一人【激怒のジャーク】が通信室に現れた。
ジャークはなぜか怒った様子で通信に出た。
『おい、誰だ!? このオレを呼ぶヤツはよォ!! こちとらヒマじゃねぇんだぞ!! これから玉座の間へ行き、魔王様に報告しなくちゃあ……』
「私だ」
『エッ!? こ、こ、こ、これはこれは魔王様、大変失礼いたしました!!』
ジャークは、まさか通話相手が魔王だとは思わず、動揺を隠せなかった。
そして、無礼を働いたことを謝罪する。
(カミラの奴、私が呼んでいることをきちんと伝えたのか?)
「まあよい。それよりもジャークよ、ドラグーン大陸攻略の状況はどうなっている?」
『はっ、申し訳ありません。ドラグーン大陸侵攻中に、大陸中央部の森林地帯にて【謎の小娘】に遭いました』
「謎の小娘?」
『はい。その小娘は異常なまでに強く、我々の知らない数々の強大な魔法を使いました。その小娘に全く歯が立たず、我が軍は甚大な被害を被りました。よって、撤退を余儀なくされました』
「それで、ジャークよ。その娘の外観的な特徴は憶えているか?」
『はっ。そいつは小柄なヤツでしたが、角と翼が生えていました』
(角と翼だと? なるほど。どうやら、その娘は只者ではないようだ)
どうやら、魔王にはその娘について心当たりがあるようだ。
『魔王様、今一度オレに兵を与えてください! 今度こそ、このオレにあの小娘を討たせてください!!』
ジャークは右手を握りながら言う。
歯も食いしばらせており、負けたことが余程悔しいようだ。
「ジャークよ、私怨に駆られるな。その娘はお前が逆立ちしたとて、抗える相手ではない」
『はっ、申し訳ありません……』
「まあよい。ジャークよ、お前には別の仕事を与える。お前はもう一度ドラグーン大陸へ行け。そして、ギグマン帝国の帝都外れにある遺跡へ行くのだ。そこで星の英雄たちを迎え撃つのだ。ヤツらはおそらくそこへ来るはずだ。兵を何人か連れて行って構わん」
『はっ、ありがたき幸せ! 勇者どもは、この【激怒のジャーク】が必ず討ち取って御覧に入れましょう。では、失礼いたします』
魔王から勇者討伐を任され、ジャークは意気揚々としていた。
そして、通信を切ろうとした。
「待て、ジャーク」
『なんでしょうか?』
「ルナ・セラフィーという女騎士だけは殺さず、生け捕りにしろ。そして、魔王城へと連れて帰れ。他の者は殺して構わん。上手く行ったらまた報告せよ」
『はっ、仰せのままに』
「準備が出来次第、すぐに出発しろ」
『はっ』
魔王は、ジャークとの通信を切った。
「フン、相変わらず攻撃的な性格だ。もっとも、戦闘面では非常に頼りになるのだがな。そんな事よりも、俺は俺で青天の宝玉を探すとしよう。見つけるには、まだまだ時間がかかりそうだが、時間はいくらでもある。ゆっくり探すとしよう」
魔王はエノウ大陸での旅路を再開する。
全ては人類滅亡のために……。