第145話 悪鬼降臨
追い詰められたグロウは、オーガに変身した。
やはり四天王なだけはあって、一筋縄では行かない。
まずは、鑑定で相手の能力を見極める。
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・キングオーガ(♂) LV:84
種族:悪魔
HP:8000/8000
MP:3000/3000
力4500
魔力1850
器用さ:534
素早さ:781
防御:3000
耐魔:1240
魔法:炎魔法 LV.8、闇魔法LV.7
スキル:無詠唱、状態異常無効
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キングオーガはグロウの圧倒的な体力を引き継いだ上で、その能力をさらに伸ばしている。
その攻撃力はすさまじく、喰らったら一撃で即死級のダメージとなることだろう。
もちろん、生命力と防御力も非常に高く、生半可な攻撃では傷ひとつつけられないだろう。
スキルは少ないが、まだ多くの技を隠し持っている可能性が高いので注意が必要だ。
「セレーネ、グロウがキングオーガに変身した。だが、君は引き続き結界で帝都を守れ。まだ油断はできない」
『わかりました』
僕は念話でセレーネに指示を出す。
「もし、僕たちが負けたら……セレーネ、君は全力で逃げてくれ」
『あら、ファイン様にしては随分と弱気ですね。大丈夫ですわ、私はファイン様が負けるなんて、微塵も思っていませんわ。それに、私が逃げたら、帝都バリアスの人々が危険に晒されます。ですから、私は逃げません。例え何があっても』
「ふっ、それもそうだな」
セレーネは何があっても、逃げ出さないつもりのようだ。
見かけによらず、セレーネは強い子だ。
彼女がいたからこそ、今までの戦いを乗り切ることができたのだ。
そして、それは今回も同じだ。
セレーネが帝都バリアスを守っているからこそ、僕たちはキングオーガとの戦いに専念できる。
まずは自分たちに防御鎧をかける。
これで少しでもいいので、被ダメージを軽減したい。
「今までの礼だ。貴様らは決して生きては帰さん! 必ず殺す!!」
「こいつはヤバそうだな」
「ああ、気を付けろ。ヤツのモーニングスターを喰らったら即死だ」
「ああ。だが、こんな強えヤツがいるからこそ、戦いは燃えるってモンだぜ!!」
「そうだな。……いくぞ!」
僕たちから先制攻撃を仕掛けることにした。
「ふんッ!」
キングオーガは地面を思いっきり踏んづけた。
周囲に土煙が発生し、相手の姿が見えなくなった。
これは目眩ましか。
ということは……。
そう思った直後、土煙の中から鉄球が飛んできた。
僕たちは散開してすぐにその場を離れる。
キングオーガはモーニングスターを戻すと、すぐに僕へ向かってダッシュする。
そのスピードは、巨体に見合わず結構速い。
一方、動きは直線的だ。
つまり、攻撃の的を絞りやすいということだ。
そこで、僕は指先から稲妻撃を放った。
しかし、キングオーガはジャンプして避けた。
そして、僕の目の前に着地する。
僕はすぐに距離を取った。
キングオーガの着地と同時に、衝撃波と土煙が発生した。
「なんて衝撃だ!」
予想はしていたが、凄まじい衝撃だ。
キングオーガは着地後、すぐさまモーニングスターを飛ばして攻撃する。
ターゲットはルナだ。
すると、ヒューイがルナの前に出て、盾で庇った。
「うおッ!? なんてパワーだッ!?」
ヒューイはダメージこそ受けなかったものの、キングオーガの圧倒的パワーにより、盾のガードを崩された。
しかし、モーニングスターの鉄球はまだキングオーガのもとには戻っていない。
つまり、今が攻撃のクールタイムだ。
その隙に、ルナが前に出て一気に距離を詰める。
あまりのスピードに、キングオーガはルナに接近を許してしまう。
その巨体ゆえに、素早い動きはあまり得意ではないようだ。
そして、ルナはキングオーガに肉薄すると光輝の剣で攻撃する。
キングオーガは左腕で防御した。
その皮膚は非常に硬く、かすり傷一つ付けられていない。
「なんて硬さなのっ!?」
「愚か者め!! そんなオモチャで、俺様に傷をつけられると思ったか!!」
キングオーガはすぐに左手で反撃する。
ルナはかわしきれずに拳を喰らってしまい、そのまま木に激突してしまった。
しかし、ルナは攻撃を受ける瞬間に、右腕に防盾を展開していた。
そのため、致命傷はなんとか避けられた。
「ぬうう、小賢しい小娘が! 俺様の攻撃を咄嗟に防ぐとは! 消し飛ばしてくれるわ!」
キングオーガはそう言うと、自らの左手を上げた。
すると、頭上には火炎爆弾が顕現した。
それも、六発もだ。
「おいおいおいおい、こりゃあ火炎爆弾かよ!? オレ様の盾でも六発は防ぎきれないぜ!!」
「二人とも、僕の傍に寄れ!」
キングオーガは火炎爆弾を放った。
僕は結界を展開して防御する。
周囲では大爆発が起こった。
なんとか防御することができたものの、大爆発により周囲の木々が燃え尽きてしまった。
「チクショー、なんて威力なんだ!! 辺り一面メチャクチャだぜ!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
キングオーガは突然、けたたましく咆哮してきた。
あまりのうるささに、ルナとヒューイは耳を塞いだ。
僕はすぐに防音結界を張る。
キングオーガは続けて、モーニングスターで攻撃する。
巨大な鉄球が、物凄い勢いでこちらに向かって来る。
全員、その攻撃を回避する。
鉄球の凄まじい威力により、土煙が発生した。
これを喰らったら、ひとたまりもない。
もし一撃でも受けたら、終わりだ。
そして、土煙はすぐに晴れた。
「む? あの小僧がいないぞ」
僕は鉄球が着弾する前に、すでにキングオーガの背後に瞬間移動していた。
相手の背後は今、無防備。
今こそ好機だ。
そして、聖剣で頭を狙って斬ろうとした。
「そう来ると思っていたぞ」
気がついたら、鉄球が僕の方に向かっていた。
キングオーガはすでに、モーニングスターを戻すと同時に、自分の背後へと鉄球を回していた。
僕はヤツに誘導されていたのだ。
そのため、もう一度瞬間移動して無理矢理かわした。
「やはり貴様、瞬間移動するようだな。あの時俺様を不意打ちしたのもそれか。二度と俺様の背後から攻撃できると思うな」
すでに、僕の行動はバレていた。
キングオーガはモーニングスターで攻撃する。
僕は素早くかわし、一気に懐に潜り込んだ。
そして、聖剣で心臓を狙い刺突しようとする。
すると、キングオーガは飛んで行ったモーニングスターを無理矢理自分の方に引き戻した。
鉄球が僕の方に向かってくる。
僕は瞬間移動で背後に回り込んだ。
そして、キングオーガの脳天めがけて聖剣を突き刺そうとした。
ところが、鉄球はすでに僕の近くにまで飛んできていた。
僕は防盾で防御した。
「なんて威力だ!」
直接のダメージこそ受けなかったものの、衝撃で後方に吹き飛されてしまった。
「言ったはずだぞ? もう背後から俺様には攻撃できん! そしてッ!」
キングオーガはそう言うと、左手を頭上にあげる。
すると、無数の暗黒球が浮かび上がった。
「暗黒星!」
キングオーガがその手を前に出すと、球が僕たちに向かって飛んできた。
僕は迫って来る弾を、どうにか回避する。
「なに!?」
ところが、振り返ると暗黒星は軌道を変えて再び僕の方へと迫って来た。
隙を突いてキングオーガに近づきたいが、躱すことで精一杯だ。
そこで、僕は風斬刃で一気に薙ぎ払う。
これで、僕の付近はフリーになった。
ルナは軌道を変える暗黒星を上手いこと掻い潜り、キングオーガの背後へと回り込んだ。
そして、光輝の剣での斬撃を狙う。
しかし、キングオーガには勘づかれてしまい、そのままモーニングスターで攻撃を行った。
ルナは咄嗟に防盾で防御する。
しかし、あまりの威力に吹き飛されてしまう。
「がっ……!!」
そして、ルナはそのまま木にぶつかってしまった。
ヒューイは盾で防御するものの、軌道を変える暗黒星に対処しきれず、被弾してしまう。
僕は周囲の暗黒星を薙ぎ払った。
「二人とも、大丈夫か?」
「ええ、何とか」
僕は傷ついた二人をすぐに回復する。
「フハハハハ、見たか! 四天王の俺様には、何人たりとも抗うことはできぬ! さあ、すぐに引導を渡してやろう……」
キングオーガは、自分は誰にも負けないと言って笑っている。
確かに、アイツに攻撃を当てる隙は少ない。
そして、防御力が非常に高く、仮に攻撃を当てたとしてもダメージを与えることが出来ない。
「バラバラに攻撃しても意味がない。こうなったら、三人で連携してアイツに反撃の隙を与えることなく追い詰めるぞ!」
「ええ!」
「おう!」
僕は自分たちに高速をかける。
これで、今まで以上に素早く動くことが可能だ。
それに加えて、身体強化も使い、全体的に能力を底上げする。
「行くぞ!」
まず、ヒューイが盾を構えて前を走る。
中列には僕で、その後ろにはルナが続く。
「ふんっ!」
キングオーガはモーニングスターを振って攻撃する。
ヒューイが構えていた盾で防御した。
身体強化で腕力などが底上げされているため、ヒューイは鉄球を難なく受け止める。
さすがはパーティーの守護者だ。
ヒューイが攻撃を受け止めている隙に、僕とルナでキングオーガの左右に回り込む。
しかし、相手がこの状況をただ黙って見ているほど優しくはない。
キングオーガはすぐにモーニングスターを振り回して攻撃する。
僕とルナは上手くジャンプで躱し、懐に潜り込む。
スピードはこちらの方が上回っている為、接近すること自体は容易だ。
そして、キングオーガに肉薄し、それぞれ剣で攻撃する。
ちなみに、僕たちの武器には既に強化魔法をかけておいた。
そのため、キングオーガの身体には小さいながらも傷を付けることが出来た。
「ぬうう……小童どもが、小癪な……! 俺様の身体に傷を付けるとは!」
キングオーガは、僕に向かってモーニングスターを振り下ろして攻撃する。
しかし、動きが大振り且つ単調である。
そのため、回避自体は容易だ。
僕たちは引き続き、キングオーガに対して絶え間なく攻撃を行う。
「図に乗るなよ、暗黒星!」
キングオーガは、再びあの闇魔法を使って来た。
僕は風魔法【竜巻】を複数発動し、キングオーガの魔法を相殺する。
「なにぃ!?」
キングオーガは予想外の出来事に驚愕している。
だが、僕はかつて世界を救った【大賢者ユリウス】である。
つまり、この程度の魔法を消すことなど訳ないのだ。
そして、僕は敢えて正面からキングオーガに走って近づく。
すると、予想通りキングオーガはモーニングスターを振り下ろした。
僕は瞬間移動で背後に回り込んだ。
キングオーガは当然、後ろに振り返る。
しかし、背後に僕はいない。
僕はキングオーガの前方に再び瞬間移動していた。
そう、背後に回り込んだのはフェイントである。
そして、頭上から赤熱剣でキングオーガの脳天を貫いた。
「ギャアアアアアアアアッ!!」
キングオーガはけたたましい悲鳴を上げる。
僕は聖剣を刺したまま、一旦離脱する。
だが、これで終わりではない。
キングオーガはまだ生きているのだ。
そのため、次の攻撃で確実にとどめを刺す。
「今だ、ルナ! ありったけの魔法をブチ込めッ!!」
「ええ!」
ルナが剣を納め、左手を天高く掲げた。
そう、稲妻斬撃を使うのだ。
以前にも話したが、対魔族用の必殺魔法。
つまり、四天王たるキングオーガにも有効なはずだ。
「稲妻斬撃!」
上空に現れた暗雲から無数の雷と、稲妻の剣がキングオーガを貫いた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
キングオーガは断末魔の悲鳴を上げ、真っ二つに切り裂かれた。
「俺様を倒すとは……貴様らは一体、何者なんだ……?」
キングオーガはそう言い残すと、絶命した。
これで、魔王四天王の一人である【破滅のグロウ】をようやく倒すことができた。
しかし、まだ戦いは終わりではない。
グロウ達をここまで運んで来た、あの飛空艇がまだ残っている。
飛空艇はグロウの敗北を悟ると、反転して西へ向かおうとしている。
魔王城に逃げるつもりのようだが、逃がす訳には行かない。
しかし、ここから上空に攻撃することは容易ではない。
「出でよ、火の精霊サラマンダー」
そこで僕は、サラマンダーを召喚することにした。
真っ赤な炎のオーラと共に、サラマンダーは姿を現した。
火の精霊は、六大精霊の中でも特に火力に優れた魔法を扱うことが出来る。
そのため、あの大きな飛空艇を撃ち落すには最適だと言える。
「火炎爆弾!」
僕が魔法を唱えると、サラマンダーは右手から巨大な火の玉を発射した。
普段、僕たちが使っている火炎爆弾よりも一回り大きい。
当然、精霊が使う一般魔法は、人間のものよりも高威力なのだ。
火炎爆弾は、高速で飛空艇へと向かって行った。
そして、着弾と同時に大爆発を起こした。
この大爆発により、飛空艇は海の方へと落下していった。
これで、ようやく一つの戦いを終わらせることが出来た。
しかし、のんびりしている暇はない。
この後は、皇帝ロバートに最低限の報告だけ済ませる。
そして、船でドラグーン大陸へと向かい、三ヶ月以内に紅蓮の宝玉を探しに行く。
ローランド王国の人々の命運がかかっているのだ。