第144話 罠
魔王アガレスは、ファイン達に自身の要求を伝えた後、魔王城へと帰ってきた。
そして、玉座の間の奥にある、とある部屋へと向かった。
ここは【魔力制御室】という。
その部屋は無駄に広く、中央に五つの窪みが入った台がポツンと置いてあった。
中央の窪みにはすでに、黒い球が入っている。
この魔力制御室は、宝玉の膨大な魔力をコントロールするために設置された場所だ。
魔王は台の一番左の窪みに、新緑の宝玉を嵌め込んだ。
宝玉は、一度だけより強い輝きを放った。
「クックックッ、これで世界滅亡への欠片が一つ揃ったぞ」
魔王は玉座の間へと戻り、そのまま玉座に着いた。
「お帰りなさいませ、魔王様」
「うむ」
玉座の間ではカミラが出迎えた。
「新緑の宝玉は見つかりましたか?」
「ああ、見つかったよ。後は残り三つの宝玉を集めるだけだ」
魔王はそう言うと、右手の指を鳴らす。
すると、グロウが転移で玉座の前に現れた。
グロウはすでにひざまづいていた。
なお、その右腕はすでに回復していた。
「お呼びでしょうか、魔王様」
「うむ、今からガルシア帝国の帝都バリアスを襲撃せよ」
「はっ」
「そして、星の英雄たちも今、そこにいる。彼らも一緒に倒して来い」
「承知しました」
「貴公にはこれより、約一万の兵を与える。準備が出来次第、すぐに出発しろ。今度こそ、勇者たちの首を討ち取ってくるのだ」
「はっ! 必ずや、魔王様のご期待に答えてみせます」
魔王は勇者討伐をグロウに命じた。
グロウは返事をすると、転移で玉座の間から出ていった。
「では、私も出掛けるとしよう」
「あら、帰ってきたばかりなのにですか?」
「そうだ。今度はエノウ大陸に行き、【青天の宝玉】を探してくるぞ」
「お気をつけて」
魔王は玉座から立ち上がると、エノウ大陸に転移した。
魔王城の外にて。
グロウは与えられた兵士たちを集めた。
「全員集まったな。よーし出発するぞ。今度こそ、勇者ども首を討ち取るのだ! これ以上、魔王様を失望させるな!」
グロウは泊められていた飛空挺に兵士を乗せ、自身も飛空挺に乗って魔王城を飛び立つ。
しかし、グロウはひとつ気になることがあった。
それは、兵の数が少ないということだ。
一万の兵力では、帝都を攻め落とすには物足りない。
とは言え、魔族はもともとの数が人間に比べて少ない。
ゆえに、グロウは魔王軍の総戦力が足りないせいだと割りきった。
だが、それは魔王の思惑の一つに過ぎない。
そのことを、グロウが知る由もなかった。
出発から数時間後が経過した。
すでに朝を迎えたが、飛空艇は帝都バリアスの近くまで来ていた。
グロウは兵を出撃させようとする。
しかし、一人の魔族兵があることに気がつく。
「グロウ様! 帝都バリアスはで結界が覆われています!!」
「なにッ!? どういうことだ?」
「あんな巨大な結界、聞いたことがありません!」
予想外の出来事に、グロウ軍に動揺が走った。
すると、別の兵士がまたある事に気がついた。
「グロウ様! 地上を見てください! 帝都の外に、二人の人間がいます!!」
「なっ!? あれは!!」
地上には、馬に乗ったファインとヒューイがいた。
「ファイン・セヴェンス……!!」
グロウは拳を握る。
ファインの姿を見て、自分に屈辱を味わわせたことではらわたが煮えくり返りそうになった。
「出撃するぞ、各員! 今度こそ、ファイン・セヴェンスの首を討ち取るのだ!! 奴らを殺せば、魔王様も喜んでくれよう!!」
「「「おおおおーーーーッ!!!」」」
グロウは冷静さを忘れ、飛空挺の操縦に関わる者たちを除き、兵士たちを全員出撃させる。
■■■■■
帝都バリアスに着いた日の翌朝。
信書を受け取ったアーネスト達が出発しようとしていた。
アーネストとエヴァは、杖を箒代わりにして乗る。
僕たちは、ラベンダーの二人を見送る。
「じゃあアーネスト、頼んだよ」
「ええ。必ず女王様に信書を渡すわ」
「ファイン君、みんな! 短い間だったけど、楽しかったよ! また一緒に冒険しようね!」
「ああ。機会があれば、また」
アーネスト達はゆっくりと浮上する。
「健闘を祈っているわ」
「またね!」
ラベンダーの二人は帝都を旅立った。
さて、僕たちはこれから魔王軍を迎え撃たなければならない。
これは僕の勘でしかないが、近いうちにこの帝都バリアスを襲撃してくるだろう。
「予定通り、各員は所定の位置で待機。会話は通信魔法で行う」
「了解」
セレーネを除き、三名は帝都の外へ出る。
外に出て、人目につかないところで転移門から馬を取り寄せた。
「じゃ、行ってくるね!」
「ああ、気を付けて」
ルナは馬に乗ると、まっすぐ北へと向かった。
僕は通信魔法を開いた。
「セレーネは神聖結界を張れ」
『はい』
「僕とヒューイはこのまま待機だ」
「おう」
僕とヒューイは馬に乗って待機する。
それから待つこと、一時間が経過した。
西の方角から黒い雲が迫って来た。
そして、飛空艇の姿も見えてきた。
あれは間違いなく魔王軍だ。
近々来るとは思っていたが、こんなに早く来るとは思ってもみなかった。
飛空艇からは、大勢の魔族たちが竜に乗って降りてきた。
その一団の中に、グロウの姿も確認できた。
「来たぞ。手筈通り、北の渓谷まで敵を引き付けるぞ」
「おう!」
『了解!』
僕とヒューイは、北へ逃げて魔族たちを誘導する。
すると、案の定魔族たちもこちらを追いかけて来た。
敵を目の前にして、みすみす逃がす訳がない。
あとは予定通り、北の渓谷までこのまま敵をおびき寄せる。
そして、ルナが光の精霊を召喚し、聖なる魔法で一網打尽にすれば完璧だ。
僕たちはひたすら北に向けて馬を走らせる。
後ろを振り返って確認すると、魔族たちはちゃんと追いかけてきている。
決して、僕たちを逃がさないつもりのようだ。
しかし、それはこちらにとっても好都合なことだ。
そして、飛空挺から帝都に対して魔砲による集中放火が浴びせられる。
しかし、セレーネの神聖結界によって、その攻撃は無効化された。
しばらくして、砲撃は止んだ。
攻撃を続けることは無駄だと悟ったようだ。
それから、ひたすら走り続けた。
途中の森を抜けると、目標の崖が見えてきた。
「崖っぷちまで追い詰めたぞ。もう貴様らは終わりだな!!」
「それはどうかな?」
「な、なんだこれは!?」
僕は結界で魔族たちを閉じ込めた。
魔族たちは予想外の出来事に狼狽える。
「今だ、ルナ! やれッ!!」
「出でよ、光の精霊ウィル・オ・ウィスプよ……聖なる光よ、邪なる者を浄化せよ……聖なる光!」
近くで待機していたルナが、ウィル・オ・ウィスプを召喚した。
まばゆい光が、魔族たちを焼き払う。
「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
魔族たちは断末魔の悲鳴をあげながら、次々に消滅していった。
これで全ての魔族を殺すことに成功した。
そう思っていた。
ところが、一人だけ生き残りがいた。
それは、破滅のグロウであった。
グロウは全身血だらけで瀕死ではあったものの、辛うじて生きていた。
「ば、馬鹿な、なぜ生きている!?」
どうやら、自分の竜とまわりの部下たちを盾に使ったらしい。
そこにグロウの耐久力が加わったことで、瀕死ながらも生き残ることが出来たようだ。
「この俺がこれほどまでに追い詰められるとは……やはり、貴様らは一筋縄ではいかぬようだな。こうなったらこれを使わせてもらうぞ。ふん! ぬおおおおおおおおおおッ!!」
グロウは雄叫びをあげながら、全身に力を込めた。
眩い光が発生する。
次の瞬間、グロウはの姿は変わっていた。
人型の身体は今までと同じだが、体長は三メートルにまで及ぶ。
全身筋肉質で赤色の皮膚に、髪と髭が白色である。
口には牙まで生やしている。
そして、右手にはモーニングスターを構えている。
そう、オーガである。
変身したグロウの傷は、すっかり回復していた。
「フハハハハ! 見たか、これが俺様の真の力だ! この姿を見たものは何人足りとも生きては帰れん!!」
なるほど、ステータスのスキル欄がひとつ『不明』になっていたが、これのことだったのか。
やはり、魔王四天王は一筋縄では行かないようだ。
補足ですが、新緑の宝玉はここ(●)に置いています。
○
●ー◎ ○
○