第142話 魔族のはぐれ者
サルマン伯爵から、賊に占拠されたミスリル鉱山を取り戻して欲しいと依頼されたファインたち。
ミスリル鉱山に行くと、賊の正体は魔族だった。
ファイン達は魔族たちと戦闘になる。
「ファイン、オレは左のヤツをやるぜ」
「ヒューイさん、私も援護いたしますわ」
「二人とも、頼んだぞ」
「おう!」
ヒューイとセレーネが、一人の魔族を相手にするという。
「ファイン、私とエヴァは右の魔族を相手をするわ」
「あたし達に任せて!」
「頼んだ」
そして、ラベンダーの二人がもう一人の魔族の相手をするという。
人数はファイン達の方が有利である。
そのため、分散して戦いを挑んだ方が効率的と考えたのだ。
「アーネスト、あたしが前で戦うから、援護はお願い!」
「わかっているわ。相手は魔族よ。手強いから、気をつけて!」
「了解!」
戦士のエヴァが前衛、魔法使いのアーネストが後衛に回る。
これはラベンダーのいつものフォーメーションであり、冒険者や騎士団のごくごく自然な形である。
戦闘開始前、アーネストがエヴァに防御鎧をかける。
「エヴァ、気をつけて。敵は武器を持っていないわ。おそらく相手は魔法使いよ」
「了解! それじゃあ、行くよー!」
エヴァは斧を構えて突撃する。
対する魔族は、氷の刃を放って迎撃する。
それも無詠唱かつ、複数発でだ。
魔族は人類が忘れた技術を未だに使っているのだ。
エヴァは氷の刃をかわすが、あまりの弾幕に近づくことができず、魔族とは再び距離が離れてしまった。
「あっぶなー、当たったら一溜まりもないな」
「エヴァ、気をつけて。魔族は無詠唱で魔法を使ってくるみたいだわ」
「オッケー!」
そう言うと、エヴァは再び突撃する。
その勢いは、まさしく猪突猛進。
まるで、考えなど持っていないかのようである。
魔族は再び魔法を撃とうと手を出した。
しかし、それは叶わなかった。
アーネストが氷の槍を放ち、エヴァを援護する。
魔族は最低限の動きで躱すが、回避を優先したため攻撃ができなかった。
二人は幼い頃からずっと一緒だった為、相手がどう行動するかはある程度わかるのだ。
この隙にエヴァが距離を詰め、思いっきり斧を振り下ろす。
魔族は躱して距離を取ると、エヴァに向かって火球を複数発放った。
エヴァはジャンプで回避し、後ろに下がった。
「火炎弾!」
アーネストがフレイムバレットを撃ち込む。
対する魔族は、火球で応戦した。
お互いの魔法がぶつかり合った。
「相殺した!?」
「当然だ。我ら魔族と貴様らとでは魔力量が違うのだよ!」
今、お互いの距離は空いている。
魔族はここぞとばかりに、火球の弾幕を形成する。
アーネストがエヴァの前に立ち、結界を張った。
「くっ、何て威力……!」
何とか火球の弾幕を防ぎきることに成功した。
この隙にエヴァが飛び出し、魔族への接近を試みる。
根拠はないが、魔法は連発できないとエヴァは何となく思った。
そして、エヴァは斧を振り下ろす。
しかし、魔族はジャンプで躱すと竜巻を放った。
「きゃああああああああっ!!」
エヴァは物凄い風圧によって吹き飛ばされてしまう。
そして竜巻は破壊力にも優れているため、エヴァは大ダメージを負ってしまった。
それでも、防御鎧のおかげで致命傷は免れた。
「エヴァ、大丈夫!?」
アーネストは上級治癒をかけ、すぐにエヴァを回復する。
「ありがとう、アーネスト。でもアイツ、すごい強敵だよ」
「ええ。油断は禁物だわ」
「なかなかの連携力だな。その点だけは認めてやろう。しかし、所詮は人間。貴様ら下等生物が我らに敵うはずなどあるまい!」
「大した自信ね。私たち人間を侮っていると痛い目に遭うわよ」
「そうだよ! あたし達、これでもA級冒険者なんだから!」
「そうか、まあいい。格の違いと言うものを教えてやろう!」
魔族は魔法を撃とうと、再び右手をあげた。
今度は、指先から稲妻撃を放つ。
攻撃魔法では相殺しきれないと判断したアーネストは、結界を展開して防御する。
エヴァは斧を構えて飛び出す。
しかし、魔族までの距離はまだ遠く、斧の間合いに入っていない。
当然、魔族にまた魔法攻撃を許すことになる。
だが、アーネストもそれを理解していた。
「エヴァ、伏せて!」
魔族が火炎弾を撃つと同時に、アーネストも火炎弾を放った。
二つの魔法が相殺し、消滅した。
しかし、これは目くらましである。
エヴァもそれを直感で理解し、隙を見て再び突撃した。
「なにっ!?」
そして、魔族に肉薄すると斧を振り下ろした。
魔族はすんでのところで躱した。
「ちっ、惜しい!」
「今のはさすがに危なかったぞ。だが、その程度の攻撃で俺を倒せると思うなよ!」
魔族はそう言って、魔法を撃とうとする。
しかし、アーネストもそれを許さず、氷の矢を三発放つ。
魔族はたまらず回避するが、この隙にエヴァが攻撃してくる。
エヴァの攻撃も躱すしか選択肢がなく、魔族は攻撃ができない。
二人のコンビネーションにより、魔族は次第に追い詰められていく。
しかし、このままでは埒が明かない。
「こうなったら、とっておき行くよー! 身体強化!!」
エヴァは物凄いスピードで攻撃を繰り返す。
回避するのがやっとで、魔族は反撃に転じる隙がない。
「この俺が、人間如きに……!!」
魔族は左腕で斧を受けた。
仕方なく自身の腕を犠牲にしたのだ。
そして、エヴァの動きが一瞬止まる。
だが、この瞬間を魔族は待っていたのだ。
魔族は残った右手に魔力を込め、火炎爆弾を放とうとした。
「終わりだ、人間!」
絶対絶命のピンチ。
しかし、エヴァが動じることはなかった。
彼女は突然、左に動いた。
その直後、氷の槍が魔族の心臓に刺さる。
「ぐはっ……!!」
これは、アーネストが放った魔法だ。
二人は長年一緒に冒険者活動をしていた仲だ。
お互いがどんな時にどんな行動を取るか、言わなくてもある程度分かるのだ。
この隙に、エヴァは斧で魔族の頭をかち割った。
魔族はその場に倒れた。
これが、アーネストとエヴァのとっておきの【必殺技】なのだ。
「やった! 魔族を倒したよ! あたし達、すごいよね!」
「そうね」
魔族を倒したのは、紛れもなく二人の力であった。
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【ヒューイ視点】
オレは鉱山を占拠していた魔族の一人に戦いを挑んだ。
ファインによると、魔族は人間よりも力、魔力ともに強いそうだ。
つまり、オレにとっては戦いが楽しめるということだ。
「気を付けてください、ヒューイさん。あの魔族は武器を持っておりません。つまり、魔法使いだと思われます」
「ならば、接近して魔法を使わせる隙を与えなければいいだけの事だぜ。全力で行くぜ! おりゃあああああああッ!!!」
オレはいつものように雄叫びをあげながら突撃する。
魔族はファイアボールを使って迎撃してきた。
オレはファイアボールをかわしつつ、魔族に接近し斧を振り下ろした。
相手の魔族も回避すると、オレから距離を取った。
距離を取ると、魔族はオレに向かってサンダーボルトを撃ってきた。
かなり広範囲を攻撃してきたので、オレはジャンプして敵の魔法をかわした。
さすがのオレでも、アレを喰らうと感電しちまうからな。
「残念だったな! オレは意外と素早いんだぜ!」
オレは装備は重いが、身体能力が高いので意外と素早く動ける。
魔族は今度はアイス・アローを何発も撃ってきた。
氷魔法なら、殺傷力が高いと判断したのだろう。
だが、セレーネが結界を張ったことでノーダメージで済んだ。
オレはもう一度、魔族に対して突撃する。
魔族のほうも手を前に出して、魔法でオレを迎撃しようとした。
しかし、オレの後ろから氷の槍が三発飛んできた。
どうやら、セレーネが魔法でオレを援護してくれらしい。
魔族は魔法が放てず、後ろに下がる。
その隙にオレは一気に距離を詰めて斧を振り下ろした。
しかし、魔族にはオレの攻撃がかわされた。
そして、魔族はオレに対してファイアボールを放った。
オレはすぐに盾でガードした。
こいつはてっきり下っ端魔族のザコかと思ったが、そうでもないようだ。
このオレを相手になかなか善戦しやがる。
もっとも、オレも負けてはいないがな。
「お前、なかなかやるじゃねぇか。だが、次で終わりにしてやるぜ!」
「それはこちらのセリフだ。人間如きが我々魔族に逆らえないことを思い知らせてやる!」
オレはもう一度、斧を構えた。
魔族も手を前に出して魔法を撃とうとしている。
「行くぜ! おりゃああああああああああッ!!!」
オレは盾を全面に押し出しながら突撃する。
オレが突っ込めば、ヤツはまた魔法で攻撃してくるはずだ。
必ずそこに隙は生まれる!
「火炎爆弾!」
予想通り、魔族は大魔法を放ってきた。
オレが盾で全力で受け止めると、大爆発が起きた。
しかし、オレは構わず突っ込んだ。
多少のダメージは覚悟の上だぜ。
「なにっ!?」
「おりゃああああああああああッ!!!」
魔族はオレが突っ込んで来ることが予想外だったようで、さぞ驚いているようだ。
そして、オレは思いっきり斧を振り下ろし、魔族の頭をかち割ってやった。
「案外、歯応えのないヤツだったぜ。セレーネ、いつもありがとよ」
「どういたしまして」
少し時間がかかってしまったが、オレたちは目の前の魔族を倒すことに成功した。
オレたちが魔族を倒すとほぼ同時に、アーネストたちも魔族を倒したようだ。
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【ファイン視点】
「勇者ファイン、お前の相手はこのデニス様が務めるぜ!」
「いいだろう」
「ファイン、私も共に戦うわ」
「頼むぞ、ルナ」
僕とルナは、目の前にいるリーダー格のデニスを相手にする。
戦う前に、デニスの能力を鑑定しておく。
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・デニス LV:75
種族:魔人族(男) 200歳
加護属性:闇
クラス:魔術師
HP:2000/2000
MP:3000/3000
力:1100
魔力:1500
器用さ:862
素早さ:717
防御:1002
耐魔:1395
魔法:炎魔法LV.8、氷魔法LV.8、風魔法LV.7、雷魔法LV.5、
土魔法LV.5、闇魔法LV.9
スキル:自己再生、無詠唱
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なるほど、こいつは魔法を得意としているのか。
さすがは魔族なだけあって、多彩な魔法を得意としているようだ。
しかも、無詠唱まで持っている。
やはり、魔族は詠唱せず魔法を使うことが教育されているようである。
「お前ら二人が相手か。お前らを倒せば、魔王様もさぞ喜ばれるだろう。行くぞ!」
デニスはそう言うと、臨戦態勢に入った。
「お前らにこれが躱せるか!? 火球!」
そう言うと、デニスは炎魔法を一斉に飛ばして攻撃してきた。
僕たちは散開して、その攻撃を躱す。
しかし、あまりの威力に地面が抉られてしまう。
腐っても魔族。その魔力は侮ることができない。
今度はルナが光輝の剣を構えて走る。
一方、デニスもただ黙って見ている訳がなかった。
「稲妻撃!」
デニスは自身の周りに、サンダーボルトを降らして迎撃する。
ルナは回避すると、一旦こちらへ戻ってきた。
「ヘッ、お前らまとめて消し炭にしてやるぜ!」
デニスは不敵な笑みを浮かべて立っている。
自分の腕に相当な自信があるようだ。
「ルナ、ここは二人で行くぞ!」
「ええ!」
僕とルナは二人同時に接近を試みる。
デニスが氷の矢の弾幕で応戦してくる。
これは、躱すのが精一杯である。
そんな中、ルナが持ち前の素早さを活かし、弾幕を躱しながらデニスに肉薄した。
そして、光輝の剣で攻撃する。
ところが、デニスはすんでのところで回避した。
さすがに動きは素早い。
そう易々と首はくれないようだ。
距離を取ったところで、デニスは再び魔法を放とうとする。
その前に、僕が火球を四発撃つ。
威力が強すぎると洞窟が崩壊しかねないので、込める魔力は抑えておく。
デニスは結界を張って防御した。
相手の動きは今、止まっている。
その隙に僕はダッシュで接近しつつ、風斬刃による攻撃を行う。
僕の一撃は防がれたが、結界は音を立てて崩壊した。
「何ィ!?」
デニスは結界が破壊されるのが予想外だったようだ。
僕は一気に距離を詰めて剣で攻撃する。
デニスにはすんでのところで回避される。
しかし、ルナが追撃を入れ、デニスの右腕を切断した。
「グアッ!?」
デニスはどうにか後退すると、残った左手で火球を放つ。
ルナは回避するも、高威力により地面が抉れた。
デニスは、切断された右腕を接合した。
このように、魔族は再生力が高いため、普通の攻撃ではすぐに回復されてしまうのだ。
やはり、ここは聖剣の力に頼るしかない。
「さすがは勇者どもだ。魔王様が危険視するだけのことはある。だが、俺を倒すことはできん!」
デニスはそう言うと、復活した右手で暗黒球を数発放ってきた。
あまりの弾幕により、デニスに近づくのは困難になった。
それどころか、回避するのも容易ではない。
そう判断した僕は、結界で防御する。
「フハハハハ! どうした? 勇者の力はこの程度か!」
デニスは笑いながら、暗黒球を連続で撃ち込んでくる。
「風斬刃!」
ルナが剣を横に薙ぎ、剣技を放った。
すると、暗黒球は真っ二つになって消え去った。
「なにぃ!?」
デニスは驚愕している。
自分の魔法が消し去られる事が予想外だったようだ。
その隙に、ルナは猛ダッシュでデニスに接近する。
「正面から走って来るとは愚かな! お望み通り消し炭にしてくれよう、火炎爆弾!」
しかし、デニスの魔法は発動しなかった。
「火炎爆弾! ……なぜ発動しない!?」
デニスは魔法が発動しないことに動揺し、反応が遅れた。
その隙に、ルナは肉薄し左足で思いっきりハイキックを放った。
「ブゲェッ!!」
デニスは顔面に直撃を受け、後ろに吹っ飛んだ。
すごく痛そうである。
デニスは立ち上がるものの、大量の鼻血を出している。
ちなみに、魔法が発動しなかった理由は、僕がこっそり魔封じをかけていたからである。
「これほどまでに強いとは……! どうやら、貴様らの事を少しばかり侮りすぎていたようだな。そして部下たちもやられて、状況はすでにこちらが不利。今日のところは退却させてもらう。だが、次こそは容赦せんぞ。覚えておけ!」
デニスは捨て台詞を吐き、転移で撤退した。
丁度同じ頃、仲間たちも他の魔族を倒したようだ。
それから、僕たちはタキアに戻り、鉱山を取り戻したことをサルマン氏に報告した。
「……そうですか。魔族が鉱山を……」
「はい。すでに魔族の魔の手がすぐそこまで迫ってきています」
「しかし、いざ魔族が攻めてきたからと言って、この街の住民には成す術がないでしょう。まあ、何はともあれ、皆さん鉱山を取り戻してくれてありがとうございました」
「どういたしまして」
鉱山を取り戻したことで、サルマン伯爵からギルドを通して多額の報酬を受け取った。
「みんな、帝都バリアスへ急ごう。魔王を倒して世界に平和を取り戻すぞ」
「ええ」
その後、僕たちはタキアを後にし、バリアスへの旅を再開するのであった。
しかし、バリアスはまだ遠い。
到着までは数日かかる見込みだ。