第138話 聖ルナティア王国
破滅のグロウ率いる魔王軍を撃退した後、先程の騎士がやってきた。
「貴様ら、なぜガルシア帝国の人間が、我ら聖王国を助けた?」
「てめぇ、目が節穴か? さっきのオレたちの戦いを見て、まだ分からねぇのか? オレたちはガルシア帝国の人間じゃねぇッ!!」
「な、なんだと!?」
騎士の態度は、まさにカグラ公国のムノーを彷彿とさせる。
そのことに、ヒューイはついに激怒した。
ヒューイの物凄い剣幕により、騎士はたじろぐ。
ルナやセレーネも、不愉快そうに顔をしかめている。
多分、僕も彼女らと同じ顔をしていると思う。
「彼の言うように、僕たちはガルシア帝国の者ではありません。信じていただけませんか?」
「ぐぬぬ……」
口論になっていると、別の騎士がやって来た。
騎士は、僕たちに向かって敬礼した。
「失礼いたします。先程は聖都マルスを救っていただき、ありがとうございます。聖ルナティア王国軍を代表してお礼申し上げます」
「いえ、僕たちは当然のことをしたまでです」
「そうですか。失礼ですが、今から私たちと共に城へ来ていただけますか? 女王陛下があなた方にお会いしたいとの事です」
「わかりました」
「おい、ルークス! 貴様、どういう事だ!? こやつらはガルシア帝国の手の者なのだぞ!! 女王陛下を危険に晒す気ッ……!?」
「アブラハム団長、この方々は帝国軍ではありません」
「うっ……」
「それから、女王陛下より大切なお話があります。アブラハム団長、あなたも一緒に来てください」
アブラハムと呼ばれた騎士は、ルークスと呼ばれた騎士に威圧された。
僕たちは騎士に呼ばれて城に向かうことになった。
玉座には女王が座していた。
容姿は色白肌に金髪碧眼のロングヘアー。
純白のドレスに、王冠を着けている。
僕たちは女王の前にひざまづいた。
「陛下、魔族から聖王国を救ってくれた方々をお連れしました」
「顔をあげてください」
女王の言う通り、僕たちは立ち上がった。
「まずは、聖ルナティア王国を救っていただいたことを、国を代表して感謝いたします。私は女王のイザベラ・フォン・ルナティアと申します。失礼ですが、あなた方のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「私たちは冒険者パーティーの星の英雄たちと申します。私がリーダーのファイン・セヴェンスです」
「星の英雄たち? ひょっとして、エノウ大陸のローランド王国の方々ですか?」
「はい」
「なんと……あの西方の英雄さまが助けに来てくださるとは……」
女王の口ぶりから察するに、このノトリア大陸にも僕たちのことは伝わっているらしい。
「女王陛下! こやつらは帝国の手の者なのです! そうやってウソをついて我々を騙し討ちしようという魂胆なのですよ!!」
アブラハムとかいう騎士が、突然口を開いた。
未だに僕たちがガルシア帝国軍の人間だと思い込んでいるようだ。
「黙りなさい、アブラハム!!」
「ぐっ!」
「あなたはこの方々の話を聞いていなかったのですか? エノウ大陸のローランド王国から来たと、おっしゃっていましたよね? 誰がこのような場所で、そんなつまらない嘘をつくと思うのですか!?」
アブラハムは相変わらずの態度であった。
そのことに、女王イザベラもついに激怒した。
「そう言えば、あなたは先程謎の“飛翔体”を撃ち落したと報告しましたよね? あれは、まさか……」
「その謎の飛翔体……多分、僕たちが乗って来た物です」
「なんて事……」
ホウオウを撃ち落した犯人がわかった。
アブラハムが対空魔砲を発射させた張本人だったのだ。
もっとも、最初の態度で薄々勘づいてはいたが。
そのことに、女王イザベラも頭を抱えた。
「あ、あれは……ガルシア帝国軍が聖都マルス上空へ侵入したと思い……」
「飛んでくる方向で分からなかったのですか? ガルシア帝国は聖ルナティア王国の北東ですよね?」
「はあ……ダニエル・フォン・アブラハム。現時点をもって、あなたからは第6騎士団団長の任を解きます。それと同時に、騎士の資格も剥奪します」
「なっ!? そ、そんな!! わ、私は女王陛下のことを思っているのですよ!? なぜそれが分からないのですか!?」
「私の顔に泥を塗っているとは思わないのですか? 兵たちよ、アブラハムを牢屋に連れて行きなさい!」
アブラハムはついに騎士の資格を剥奪された挙げ句、衛兵たちに連れていかれた。
「星の英雄たちの皆さん、この度は私の騎士がご迷惑をお掛けして申し訳ございません。なんとお詫びしたらよいか……」
「女王陛下のせいではありません。どうか顔をあげてください」
「ですが、あなた方の移動手段が……」
「まあ、なんとかなります」
僕の魔法でどうにでもなるが、女王にそれを詳しく話すのは面倒だ。
僕は、女王に対してノトリア大陸に来た目的を話すことにした。
「女王陛下。早速ですが、私たちは北東のガルシア帝国に行って皇帝を説得してみようと思います。魔族が攻めてきた今、人類同士で戦争なんかやっている場合ではありません。協力して魔族に立ち向かわなければなりません」
「え? ですが、他国の方々にそのような事を頼むのは申し訳ありません」
「気にしないでください。どの道、ガルシア帝国にも行くつもりでしたし」
「わかりました。ではせめてもの気遣いとして、聖王国から数名の騎士たちをお供させます」
「大丈夫、私たちだけで十分です」
「そうですか、失礼しました」
「では、私たちはこれにて失礼いたします」
イザベラ女王は、騎士を僕たちに同行させたいという。
しかし、敵が来た場合はむしろ足手まといになる可能性が高い。
そのため、女王の申し出は丁重に断った。
僕たちは城を後にすることにした。
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魔王軍の襲撃により、街は無残にも破壊されてしまった。
人々は復興への準備を進めていた。
聖都の民には申し訳ないが、僕たちに復興の手助けをしている暇はない。
「さて、ガルシア帝国に向けて出発するか」
「おう!」
僕たちは聖都マルスを後にしようとした。
「あー、いたいた! アーネスト、あの人たちだよ!」
「ねえ。あなた達、ちょっといい?」
後ろから声が聞こえてたので、振り返った。
そこには、二人の少女がいた。
一人は青髪青目のロングヘアーの少女である。
三角帽子とローブを着用し、手には杖を持っている。
職業は魔法使いと思われる。
もう一人は赤髪赤目のショートヘアーの少女。
軽い防具と斧を見につけた、戦士である。
格好からして、二人は冒険者のようだ。
「僕たちに何か用かな?」
「あなた達、騎士か何か? この国の人たちではないようだけど……」
「僕たちはエノウ大陸から来た冒険者【星の英雄たち】。僕がリーダーのファイン・セヴェンスだ」
「ああ、エノウ大陸の……。あなたたちも冒険者なのね。……コホン、失礼。私はアーネスト・ノート。こっちは相棒のエヴァよ」
「あたしはエヴァ・ガーネットだよ。よろしくね!」
「私たちも冒険者をやっているわ。名前は【ラベンダー】。一応、A級冒険者よ」
そう言って、アーネストは冒険者カードを見せて来た。
A級ということで、冒険者等級は僕たちよりも一つ高い。
アーネストは澄んだ声をしていて、どこか物静かな雰囲気を纏っている。
その雰囲気とは裏腹に、積極的に話しかけてくる。
エヴァは、明るく元気な印象を受ける。
早速で悪いが……【鑑定】。
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・アーネスト・ノート LV:74
種族:人間(女) 20歳
加護属性:水
クラス:魔女
HP:480/480
MP:900/900
力:221
魔力:850
器用さ:648
素早さ:512
防御:246
耐魔:813
魔法:回復・補助魔法LV.5、炎魔法LV.6、氷魔法LV.8、
風魔法LV.7、雷魔法LV.7、土魔法LV.5
スキル:消費精神力軽減、精神力継続回復(微)
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この二人を、こっそり鑑定させてもらうことにする。
最近は相手の能力を鑑定することが、楽しみの一つだ。
まあ、バレることはないだろう。
さて、アーネストだが、見た目どおり魔女である。
A級冒険者なだけはあって、さまざまな魔法が使える。
その中でも、水と天の魔法を得意としているようだ。
そして、能力的には魔力が僕よりも高い。
さすがは魔女なだけはある。
ただし、ルナやセレーネよりは低い。
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・エヴァ・ガーネット LV:72
種族:人間(女) 18歳
加護属性:火
クラス:女戦士
HP:666/666
MP:534/534
力:672
魔力:444
器用さ:382
素早さ:634
防御:372
耐魔:255
魔法:炎魔法LV.3
スキル:身体強化、頑丈
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エヴァは見た目どおり戦士タイプだ。
それゆえに、力や素早さなどが高い。
一方、魔力が低めながら、火属性の魔法だけは使えるようだ。
アーネストから教えてもらったようだ。
「それで、僕たちに何か用かな?」
「あなた達、このような場所へ来るということは、旅をしているのよね?」
「そうだ。実は、ガルシア帝国に魔王が現れたという情報を手に入れた。僕たちはそこへ向かう途中だ」
正確には、魔王の強力な魔力を感じたというのが理由だ。
しかし、そのことを言って騒がれても困るし、ここは適当な理由を述べておく。
「なら、あなたたちに付いて行っていいかしら?」
「なぜ?」
「あなたたちの戦いぶりを見て思ったの。私、もっと強くなりたいって。私たちはA級冒険者で、この国では誰よりも強い。でもあなたたちの見て、私達はまだまだ未熟だと痛感させられたわ」
「なるほど」
「ところで、ファインさん……だっけ? あなた、剣士……なのよね? でもさっき魔法を使っていたわね。ということは、魔法剣士?」
「まあ、一応……」
正確には勇者だが、その事実は伏せておくことにする。
自分の本当の力は、他人には隠しておきたい。
「魔王は先程戦った四天王よりも遥かに強い。魔王は危険な敵だ。それに、道中危険がないとも言い切れない」
「覚悟はできているわ。私たちは今よりも強くなりたい。でなければ、私たちは魔王四天王のような強敵には勝てないわ」
アーネストの目は本気だ。
どうやら、覚悟はできているらしい。
彼女の意志は固いようで、そう簡単に曲げられなさそうだ。
「いいだろう。だがその前に、仲間たちの意見を尊重したい」
「私は大歓迎よ」
「私もです」
「オレもだぜ! 仲間は多い方が面白いからな!」
「じゃあ、決まりだな。よろしく、アーネストさん、エヴァさん」
「アーネストでいいわ」
「あたしもエヴァでいいよ!」
こうして、僕たちの旅にアーネストとエヴァが加わることになった。