第135話 黒の素顔
僕の前に現れたのは、あの六大帝将の一人【闇のクロノス】だった。
クロノスは兜を外し、素顔を見せた。
色白肌に、赤くて鋭い瞳。
そして、漆黒の長い髪を伸ばしている。
「やはり魔族だったのか。道理であの攻撃で致命傷を受けなかった訳だ。薄々、勘づいてはいたけどな」
「そうだ。貴様の言う通り、私は魔族だ。私の目的は唯一つ、己の強さを磨きあげ、そして強者と戦うことだ。しかし、下級魔族として生まれた私は魔王四天王になることは叶わなかった。そして、四天王たちからは【出来損ない】と蔑まされる日々が続いた。ある時、ディアブロ様の誘いで私も人間界に行くことになった。そこで騎士として、グランヴァル帝国軍に加入した。私は皇帝ゴスバールから実力が認められ、六大帝将の一人である【闇】の地位が与えられた。私としては、これ以上にない名誉だった。ハッキリ言っておこう、私は魔王様の目的などどうでも良い。私は、私自身の為に戦うのだ。そして、三度目の正直だ。全身全霊をかけて貴様たちを倒す!」
クロノスは話を終えると、背中から二本の剣を抜いた。
戦う前に、クロノスの鑑定することにした。
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・クロノス・シュヴァルツ LV:84
種族:魔人族(男) 220歳
加護属性:闇
クラス:暗黒騎士
HP:2500/2500
MP:1500/1500
力:1200
魔力:1000
器用さ:800
素早さ:820
防御:1100
耐魔:825
魔法:闇魔法LV.8
スキル:身体強化、暗黒剣技、無詠唱
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魔族なだけはあってか、レベルの割に僕よりステータスは高めである。
ルナたち仲間は、まだ他の敵と応戦している。
魔族の質は高い上に、数も多いのだ。
なにより、街の人々を守らなくてはならない。
ここは、クロノスと一騎討ちに臨むしかない。
「行くぞ、ファイン・セヴェンス。今までの屈辱、存分に晴らさせてもらう!」
そう言ってクロノスは、僕に向かって突撃してきた。
クロノスは二本の剣で、僕の首を狙う。
僕は聖剣を両手に構えて防御する。
「この力は……!?」
「当然だ。私は王都エスト侵攻作戦で貴様たちに敗れて以来、鍛錬を積んだのだ。私には勝てん!」
そう言って、クロノスは不敵な笑みを浮かべる。
僕はクロノスに押され気味だった。
さすがは魔族なだけはある。
単純な力比べでは、クロノスに勝てないだろう。
しかし、僕もこんなところで負ける訳には行かない。
僕は一旦クロノスから距離を取る。
すると、ヤツはまた僕に詰めてくる。
「その行動が読めていないとでも思ったか?」
「なに?」
僕はクロノスの動きを事前に予測し、足元に生命創成を仕掛けておいた。
そして、相手が接近した瞬間に魔法を発動した。
クロノスの左脚に蔦が絡まり、動きが止まった。
僕はこの隙を突いて、クロノスに斬擊を入れた。
「ぬんっ!」
ところが、クロノスは右足で地面を蹴り、強引に蔦から抜け出した。
そのため、僕の斬擊は外れた。
「相変わらず抜け目のないヤツだな。だが、この程度の攻撃で、私を倒せると思ってもらっては困るな」
クロノスは相変わらず自信に満ちている。
まるで、今回こそ僕に勝てると言わんばかりにだ。
しかし、侮られては困る。
僕とて、生半可に鍛えてきた訳ではないのだ。
僕はクロノスに向かって、風斬刃を放った。
クロノスは上半身を反らして躱す。
僕は続けざまにクロノスに接近し、聖剣による斬撃を放つ。
クロノスも負けじと、二本の剣を駆使して応戦してくる。
やはり、相手の方が剣の腕は上のようだ。
ましてや、クロノスは二刀流であるため、僕の方が尚更不利だ。
そして、お互いの剣と剣がぶつかり合う。
「私と剣で真正面からぶつかって、勝てるとでも思っているのか?」
「忘れたのか? 僕の特技は剣だけじゃないぞ」
「なに?」
僕は隙を突いて、クロノスの頭上に雲を発生させる。
そして、雲からは強力な稲妻撃を放った。
魔法を放つと同時に、僕も後退した。
当然、そのままでは僕自身も魔法を喰らってしまうからだ。
ところが、間一髪のところでクロノスには避けられた。
さすがは魔族なだけはあって、身体能力にも優れている。
やはり、一筋縄では行かないようだ。
「危ないところだった。貴様のことだから、何か企んでいるとは思っていたがな」
クロノスは相変わらず、不敵な笑みを浮かべていた。
今のところは、クロノスと何とか互角に戦えている。
しかし、状況はこちらの方が不利か。
敵はクロノスだけではない。
未だ多くの敵が残っているからだ。
「今度はこちらから行くぞ」
クロノスはそう言うと、剣を構え直した。
そして、二本の剣をそれぞれ横に薙いだ。
「暗黒刃!」
クロノスは二本の剣から、暗黒の刃を二つ飛ばしてきた。
僕は結界を張って防御した。
次に、クロノスは僕に向かって走って来た。
そして、ジャンプして二本の剣で上からの斬撃を放つ。
僕は後退してクロノスの攻撃を躱す。
ただの剣戟でありながら、衝撃で地面が抉れた。
そして、土煙も発生した。
土煙で視界が悪くなった隙に、僕は風斬刃を放った。
しかし、手応えがない。
風斬刃は空を切ったようだ。
「後ろだ」
後ろから、クロノスの声が聞こえたので、僕はすぐに振り返った。
クロノスは、いつの間にか僕の背後に回り込んでおり、そのまま剣で攻撃しようとする。
瞬間移動でもしたのか。
そして、クロノスの剣戟は僕の首に到達しようとしていた。
しかし、剣戟は鈍い音と共に空中で止まった。
「なにっ? これは……結界か!」
そう、結界である。
僕はクロノスが背後に回るだろうと予測しており、風斬刃を放つと同時に展開していた。
僕は赤熱剣で、クロノスの胴体めがけて刺突を放つ。
しかし、僕の刺突は避けられてしまい、十分なダメージを与えるには至らなかった。
とは言え、聖剣はクロノスの胴体にかすり傷を与えることはできた。
クロノスの傷口からは血が流れはじめた。
「ぐふっ……まさか、私の行動をここまで読んでいるとは……ファイン・セヴェンス、やはり貴様を侮ることはできんようだ。いいだろう。ファイン・セヴェンス、貴様には尊敬の念を持って、全力で挑ませてもらう!!」
クロノスはそう言うと、再び剣を構え直した。
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僕とクロノスは、お互い剣を構えて睨み合う。
「行くぞ、勇者ファイン!」
クロノスは僕に向かって走って来た。
僕は火炎弾を三発撃った。
しかし、クロノスは二発を剣で切り裂き、残りの一発は避けた。
そして、僕に向かって剣を振り下ろす。
僕は聖剣でクロノスの剣戟を受け止める。
クロノスの動きが止まった。
僕はこの隙に、クロノスの足元に土の針を放つ。
しかし、クロノスも間一髪のところでジャンプした。
僕は追撃として、空中に向けて風斬刃を放った。
クロノスは自身の剣で防御するも、空中ということでバランスを崩す。
僕はさらに、クロノスの頭上から稲妻擊を発射した。
クロノスにようやく攻撃が命中した。
しかし、まだダメージは浅い。
何とかして、聖剣による直接攻撃を当てなければ、致命傷を与えることはできない。
クロノスは何とか体勢を立て直し、上手いこと着地した。
僕はクロノスに対して、氷の矢を三発撃つ。
クロノスは剣で氷の矢を切り刻んだ。
続けて、僕はクロノスに向かっていき、赤熱剣で攻撃しようとする。
ところが、クロノスには物凄いスピードで避けられてしまった。
「なに?」
「ファイン・セヴェンス、やはり貴様は一筋縄では行かないようだな」
「なるほど、身体強化か」
「そうだ。ここからは本気で行かせもらうぞ!」
クロノスはそう言うと、猛スピードで僕に迫って来た。
僕はクロノスの攻撃を剣で防ぐ
「くっ!」
しかし、あまりのスピードに防御するのがやっとだ。
そのため、反撃すらままならない。
これが、闇のクロノスの本気か。
僕は防戦一方になってしまった。
「フハハハハ、どうした? ファイン・セヴェンス。貴様の力はそんなものか!」
クロノスは絶えず攻撃してくる。
右から、左から、僕に対してあらゆる方向から攻撃を仕掛けてくる。
下級とはいえ、さすがは魔族と言ったところか。
その強さは認めざるを得ないものがある。
「ここで終わりだ、ファイン・セヴェンス!!」
クロノスはそう言って、僕にトドメを刺そうとした。
しかし、クロノスの動きは突然止まった。
そして、その場にがっくりと膝をついた。
「なっ!? こ、これは一体……!?」
「ようやく聖剣のダメージが効いてきたか」
「聖剣……だと!?」
「そうだ。聞いたことがないか? 聖剣は魔族の回復能力を阻害すると」
「なんだと!?」
「その様子だと、聖剣による傷は相当深くまで侵食しているようだな。僕はこの時を待っていたんだよ。お前が動けなくなるこの時をな」
クロノスは、苦悶の表情を浮かべながら血を吐く。
傷口からの出血量は、先程よりも多くなっている。
「くっ、まだだ! これしきの傷で、私が引き下がるとでも思っていたか!!」
クロノスは立ち上がると、僕に対して突撃してきた。
正直、クロノスが引き下がるとは思っていない。
しかし、悪あがきもいいところだ。
クロノスは、右手の剣で攻撃しようとした。
すると、突然クロノスの右腕は切断された。
「ぐあッ!? なんだと!?」
そこには、ルナが加勢しに来ていた。
ルナはクロノスの背後から、右腕を切断したのだ。
「助けに来たよ、ファイン!」
「ありがとう、ルナ」
クロノスが動きを止めた一瞬の隙を突き、僕は生命創成でクロノスの動きを封じた。
「悪いがとどめを刺させてもらうぞ、クロノス」
僕はクロノスに接近し、赤熱剣で心臓を突き刺した。
「ぐはっ……」
クロノスは口から大量の血を吐き出した。
「ファイン・セヴェンス……やはり貴様には敵わないな。……完敗だ」
「さようなら、クロノス」
クロノスは聖剣の力で消滅した。
ここに来て、ようやくクロノスを倒すことに成功したか。
後は周囲に残っている雑魚どもを倒せば、この戦いは終わるはずだ。
ところが、そう思っていたその矢先のことだった。
上空にいる飛空艇から別の魔族がまた降りてきた。
そして、着地の瞬間に大きな衝撃と土煙が発生した。
しかし、それはクロノスのものよりも数段大きなものだった。
土煙が晴れると、そこにいたのは巨漢の魔族であった。
「役立たずのクロノスめ、人間如きに敗れおったか。所詮、奴は下級魔族の出来損ないに過ぎん。やはり、我ら【魔王四天王】には遠く及ばぬな」
魔王四天王を名乗る男は、野太い声で喋る。
筋肉質で身体が大きく、その身長は約二メートルを超えている。
ヒューイよりも大きい。
また、魔族にしては珍しく色黒の肌で、赤い髪とヒゲを生やしている。
どちらかと言えば、獣人に近い容姿である。
そして、右手には【モーニングスター】という棒の先にトゲ付き鉄球を備えた武器を持っている。
こいつは、接近戦を得意としているようだ。
「星の英雄たちよ、魔王四天王の一人である、この【破滅のグロウ】がじきじきに相手をしてやろう!」
破滅のグロウと名乗った男は、僕たちに戦いを挑んできた。