第134話 魔王軍の攻撃
その頃……。
魔大陸からは、破滅のグロウが軍備を整えた。
そして、グロウ率いる魔王軍は、一隻の飛空挺でノトリア大陸を目指して出発した。
まずは、魔大陸から近い聖ルナティア王国を侵攻するつもりだ。
その後、ガルシア帝国に攻め込み、ノトリア大陸を制覇する。
そして、出発からわずか数時間後、飛空艇は聖都マルスの上空に差し掛かった。
本来、魔大陸からノトリア大陸までは数日かかる。
しかし、魔族の魔導具技術は人智を超えており、長距離を短時間で移動することなど容易いのだ。
「上空に暗雲を発生させよ!」
グロウの命令により、魔族の兵士は太陽光を遮るための暗雲を上空に発生させた。
ノトリア大陸には、魔王の魔の手がゆっくりと迫っていた。
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地上にある対空魔砲の砲撃により、ホウオウを失ってしまった。
僕たちは、何とか聖ルナティア王国の聖都マルスに降り立った。
ところが、大勢の兵士たちが集まり、僕たちに武器を向ける。
「何者だ、貴様ら? もしや、ガルシア帝国の手の者か!?」
「違いますよ! 僕たちはガルシア帝国の者ではありません!」
隊長らしき一人の騎士が、僕たちに詰め寄る。
どうやら、僕たちがガルシア帝国の兵士だと勘違いしているようだ。
その騎士は、小太り体型の金髪で、髪は少し長めで外側に広がっている。
聖ルナティア王国は、長らく隣のガルシア帝国との戦争が続いていたと聞く。
しかし、今は魔王が復活した為、さすがに休戦状態に入っていると思われるのだが……。
「嘘を付け! 帝国兵ども、どうやってこの聖都マルスに侵入した!?」
「だから帝国兵じゃねぇって言ってるだろ!? おい! 人の話を聞け!!」
「待て、ヒューイ。抵抗するな」
騎士は、僕たちがガルシア帝国の人間だと信じて疑わないようだ。
そのため、僕の話をまったく聞いてくれない。
カグラ公国のムノーを彷彿とさせる。
実にタチが悪い。
力ずくで抵抗すれば、逃げることも可能である。
しかし、僕たちはルナティア王国と戦争をするためにここへ来た訳ではない。
そもそも、星の英雄たちはガルシア帝国兵ではないのだ。
「わかった。大人しく従うことにしよう」
「フン、初めから潔く従えば良いのだ。貴様たち、こやつらを城の地下牢に連れて行け!」
こうなった以上は仕方がない。
僕は騎士に従ったフリをした。
僕たちは手錠をかけられ、兵士たちに連行された。
その後、城の地下牢に閉じ込められた。
「今から、女王陛下へ貴様たちのことについて報告しに行く。その後、貴様らは処刑だ!」
騎士たちは、僕たちを牢屋に入れた後、地下牢を出て行った。
仲間たちを見ると、捕まったと言うのに落ち着いている様子だ。
今まで、幾多の修羅場を潜り抜けて来たせいか、この程度では動揺していない。
「この後どうするんだ、ファイン?」
「仕方がない、すぐにこの牢屋を出よう。僕たちの狙いはあくまでも魔王アガレスであって、聖ルナティア王国と争うことではない」
「そうは言ったって、どうやって出るんだ?」
「転移を使うに決まっているじゃない。そうでしょう? ファイン」
「その通りだ」
ヒューイはいつもの調子で僕に質問してくる。
僕の代わりに、珍しくルナが説明を行う。
捕まってから、すぐに転移で脱出するなど前代未聞の行為だろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
僕たちは、こんなところで止まる事などできない。
「おお、そうか! それなら、一瞬で脱出できるじゃねぇか!」
「シッ! ルナティア王国の見張りの兵士に聞かれてしまいますよ」
「そ、そうだった。すまねぇ……」
ヒューイは調子に乗って、大声を出してしまう。
「大丈夫だ、防音結界を張ってある。会話は聞こえていないはずだ。先程の落下時点で、聖都周辺の地形もある程度把握できた。これならすぐに外へ出られる」
「さすがファイン。相変わらず抜け目ないわね!」
「ああ。では、初めに見張りを眠らせるぞ」
僕は兵士たちに対して、睡眠をかける。
すると、二人の兵士たちは眠りに就いた。
「脱出する前に、僕たちの手錠を外す」
「ふんっ、ぬおおおおおおおおッ!!」
ヒューイは力ずくで手錠を壊した。
「相変わらずの馬鹿力だ……」
「それだけがオレの取り柄だからな! どれ、お前らのも外してやるぜ」
「いや、その必要はない」
「?」
「解錠」
解錠の魔法を使うと、僕の手錠は外れた。
「ルナとセレーネの手錠も外しておこう」
「これで自由に動けるわ。ありがとう、ファイン!」
「ありがとうございます、ファイン様」
これで全員の手錠は外れた。
あとはここから脱出するだけだ。
「それじゃあみんな、いよいよ脱出するぞ。準備はいいか?」
「ええ」
「おう!」
「いつでも構いません」
僕たちは四人で手を繋いで輪を作った。
「行くぞ、転移!」
そして、地下牢の外へ脱出した。
出て来たのは、聖都マルスの五キロ東だ。
ここなら聖ルナティア王国の兵士に見つからないだろう。
「魔王の気配は北東から感じられる。とりあえず、ガルシア帝国の方を目指すぞ。きっと魔王はそこにいるはずだ」
「おう!」
ガルシア帝国を目指して出発しようとした、その時だった。
聖都マルスの上空には、暗雲が近づいて来ていた。
やがて、暗雲は急速に聖都全体を覆った。
そして、聖都上空には一隻の黒い飛空挺が現れた。
その飛空挺からは、無数の小さな飛翔体が聖都に向かって降りていく。
あれは、まさか……。
「まずい! みんな、聖都に戻るぞ!!」
「お、おう!」
結局、僕たちはまたすぐに聖都に戻るのであった。
■■■■■
転移で聖都マルスに戻ると、案の定魔王軍が侵攻していた。
竜に乗った魔族たちが、聖都に降下している。
魔族に加えて、コカトリスやガーゴイルと言った魔物まで混ざっている。
聖ルナティア王国軍と、魔王軍の戦闘はすでに始まっている。
応戦する兵士たち。逃げ惑う人々。
聖都中が混乱に陥った。
「た、助けてぇ……」
一人の子供が、ガーゴイルに襲われそうになっていた。
すると、ヒューイが盾で子供を守った。
そして、僕は瞬間移動でガーゴイルの背後に回り込み、聖剣で首を斬った。
「坊主、ここは危険だぜ。早く逃げな!」
「あ、ありがとう!」
子供はすぐに逃げて行った。
ところで、今初めて聖剣を使ったが、その切れ味は驚くほど良い。
並みのモンスターなら、容易く仕留められるだろう。
「さあ、行くぜ! 魔族どもはオレ様が全員ぶっ飛ばしてやるぜ!!」
ヒューイも斧と盾を構えて臨戦態勢に入る。
僕たちは魔王軍と本格的に戦闘に入った。
「貴様が例の勇者だな? 貴様を倒せば、魔王様も喜ばれるだろう!」
一体の魔族が剣を構え、僕に向かって接近してきた。
僕は聖剣で、魔族の剣戟を受け止める。
そして、隙を突いて聖剣で魔族を袈裟斬りにした。
「ギャアアアアアアアアア!!」
魔族は断末魔の叫び声をあげながら消滅した。
聖剣の力はまだ不完全ながら、多少の傷でも魔族には致命傷になる。
これなら、魔族と互角以上に戦えるだろう。
今度は竜に乗った別の魔族が、僕の上から火球で攻撃してきた。
僕は火球を躱し、風斬刃を放った。
風の刃が、竜ごと魔族を切り刻んだ。
先程と同様に、竜の魔族も消滅していった。
予想通り、剣技にも聖剣の魔族特効が付与されるようだ。
しかし、敵の数はまだまだ多い。
聖ルナティア王国軍の兵士たちは、魔王軍を前に苦戦を強いられていた。
ルナの周りには、合計五体のガーゴイルとコカトリスが接近している。
しかし、彼女は光輝の剣を駆使し、一瞬にして魔物たちを切り捨てた。
その動きは美しく、華麗に舞うような剣戟であった。
すると、ルナのもとには一体の魔族が接近してきた。
魔族は剣で攻撃する。
それをルナは、シャイニング・ソードで受け止める。
両者の力はほぼ互角……。
そう思えた。
しかし、ルナは一瞬の隙を突いて魔族の背後に回り込んだ。
そして、剣をレイピア状の細い刃に変えて、魔族の心臓を貫いた。
なるほど、シャイニング・ソードならこんな芸当もできるのか。
魔族は口から血を吐き、その場に倒れた。
ところが、間髪入れずにルナの背後にはガーゴイルが飛んできた。
ガーゴイルは腕を振り下ろし、鋭い爪で攻撃しようとする。
そこへヒューイが、盾を使ってルナを守った。
そして、斧でガーゴイルの頭を叩き斬った。
「油断は禁物だぜ、ルナ!」
「ありがとう、ヒューイ」
一方、セレーネは回復魔法を使い、傷ついた兵士たちを癒す。
しかし、飛空艇からは次々に敵が降りてくる。
魔族たちが、僕たちのもとに集まって来た。
「セレーネ、光の精霊を召喚しろ。一網打尽にするんだ!」
「はい。出でよ、ウィル・オ・ウィスプよ……」
僕の指示で、セレーネは光の精霊を呼び出した。
すると、白い魔法陣からウィル・オ・ウィスプが現れた。
「聖なる光よ、邪なる者を浄化せよ……ホーリーライト!」
ウィル・オ・ウィスプは、手から眩い光を放った。
光に呑まれた魔族やモンスターたちが、一斉に消滅していった。
これで、だいぶ敵の数は減った。
ところが、飛空艇からすぐに新手が降下してきた。
仲間たちは多くの敵と応戦している。
すると、一体の魔族が僕の前に着地した。
それは黒い鎧兜を着た騎士だった。
「お前は……クロノス!」
「また会ったな、ファイン・セヴェンス!」
そいつは、なんと【闇のクロノス】だった。