第132話 久しぶりの故郷
新しい武器を手に入れることができた為、僕たちはローランド王国に帰還することにした。
帰国する前に、ローラ陛下に挨拶しようと思う。
そのため、僕たちは城に訪れた。
玉座の間にはローラ陛下とディオーランがいた。
「ローラ陛下、この度は色々とありがとうございました」
「何をおっしゃいますか。お礼を言いたいのはこちらの方です。ファインさんたちがいらっしゃらなければ、今頃帝都は魔王の支配に飲み込まれていました。本当にありがとうございました」
ローラ陛下はそう言うと、腰を深く折った。
「俺からも礼を言わせてくれ、ファイン。魔族を撃退してくれてありがとう」
「ディオーラン、君はこれからどうするんだ?」
僕は、ディオーランに今後どうするかを問う。
「俺はこのまま帝国の将軍として、この軍に残るつもりだ」
「ローランドには戻らないのか?」
「ああ、俺は帝国の民を守るつもりだ。魔王軍はいずれまた帝都に攻めてくるだろうからな」
「そうか、ディオーラン。そうなると、君とはしばらく会えなくなるな。元気でな」
「ああ、お前もな」
ディオーランと別れの挨拶を交わす。
「ではローラ陛下、僕たちはこれにて失礼いたします」
「はい。お元気で」
僕たちは転移門を開き、ローランド王国の王都エストへと帰還した。
まずは王城へ行き、国王ゼフィールに報告に向かうことにした。
そして、玉座の間にて。
僕たちは、国王ゼフィールの前に跪く。
「ゼフィール陛下、ただいま帰還いたしました」
「おお、元気であったか、ファインよ。そして、星の英雄たちの者たちよ! まずは面を上げよ」
国王の言う通り、僕たちは立ち上がる。
「皆の者、長旅ご苦労じゃった」
「陛下、報告したいことがあります。まずはグランヴァル帝国の皇帝ゴスバールを倒し、帝国軍との戦いに勝利しました」
「うむ、大義であった。これで長らく続いた王帝戦争にもついに終止符を打つことできた」
「しかし、皇帝ゴスバールは伝説の魔物【アシュラ】に変身し、僕たちに襲い掛かりました」
「なんと……」
「みんなで力を合わせたから勝てたので良かったですが、皇帝はその力を魔王から授かったと言っておりました」
「そうか……」
アシュラの話をすると、国王の顔色が暗くなった。
「陛下、それからもう一つ報告しておきたいことがあります」
「魔王アガレスの事であろう? お主の言う通り、ついに復活しおったか」
国王ゼフィールは、僕が全て話さなくても理解してくれた。
魔王放送は、やはり全世界の主要都市にて行われていたようだ。
「陛下、魔王の力は想像以上に強大です。魔王の前に、僕たちは全く歯が立ちませんでした」
「なんと……お主らの力を以ってしても歯が立たぬとは……」
「幸い、魔王はまだかつての力を取り戻してはいないようで、配下を連れて撤退したため、事なきを得ました」
「そうか」
「ですが、悪い事ばかりでもありません。僕たちは女帝ローラ陛下より賜った魔導具により、新たな力を身に付けることができました。それに加えて、僕は聖剣エクスカリバーを入手することができました。この聖剣は、魔族に対して有効な武器だそうです。これなら、どうにか魔王にも対抗できるかもしれません」
「そうか、それなら良かった! お主らも長旅で疲れておるだろう。ひとまず休むが良い」
「ですが、いつまた魔王軍の襲撃があるか……」
「左様。お主の言う通り、魔王軍の襲撃なぞいつ来るか分からん。何より、身体が疲れた状態では本来の力も出すことはできん。ゆえに、お前たちは休める時に休んでおけ。良いな?」
「わかりました。お心遣い感謝いたします」
帝都では皇帝ゴスバールとの戦いに加え、魔王の襲撃を受けて連戦となった。
そのため、僕たちは朝から戦い続けで疲れ果てていた。
国王ゼフィールからも休みの許可が下りたため、僕たちは休暇を取ることにした。
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せっかく休暇をもらったので、久々に生まれ故郷へ帰ろうと思う。
「今日はみんなに、僕の故郷であるイナ村に案内しようと思う」
「おう!」
「楽しみですね」
「ファインってイナ村出身だったのね」
アドヴァンスド学園へ入学する際、イナ村を旅立ってから三、四年が経った。
村のみんなは元気にしているだろうか。
そんなことを思いながら、本日三度目の転移門を開く。
そして、村の前に到着した。
「変わってないな」
「ここがファインの生まれ故郷か」
「そうだ。早速村に入ろうか」
イナ村は小さな村であるためか、僕が子供だった頃と何一つ変わっていない。
僕は仲間を連れて、数年ぶりに故郷へ帰還した。
すでに夕暮れ時だった。
村に入ると、偶然そこに村長のゲンブがいた。
「ただいま」
「お、お前……もしや、ファインか!?」
「うん、そうだよ」
「おお……こんなに立派になって……」
村長は久々に僕と会って目を丸くしていた。
そして、目から涙を流した。
「ところで、その人たちはお前さんの仲間か?」
「ああ。今は冒険者パーティー【星の英雄たち】として活動しているんだ。そして、今では世界各地を旅しているんだ」
「そうか。お前も立派になったのだな」
すると、そこへ一人の村人が現れた。
「何やってるんだ、村長?」
「ファインだ……あのファインが帰ってきたんじゃ!」
「本当だ! みんな、ファインが帰ってきたぞ!!」
「ファイン! 元気にしてたか?」
次々に村人たちがやって来た。
「あっ、ファイン兄ちゃんだ!」
「兄ちゃん、久しぶり!」
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
村の子供たちも集まって来た。
あれから三年以上の年月が経ち、子供たちも成長していた。
「あっ、綺麗なお姉さん!」
「こんにちは」
ルナとセレーネのもとにも子供たちが集まって来た。
子供たちは、二人の美しさに魅了されている。
イナ村と言えば、『あの二人』にも会っておくか。
僕はそう思い、村を探しまわった。
そして、村の畑で二人を見つけた。
どうやら、ジャンとネオは農夫になったようだ。
こんな時間だと言うのに、二人はまだ畑を耕していた。
「ジャン、ネオ」
「ファインの兄貴じゃねぇか!?」
「あ、兄貴!? チーッス!」
数年ぶりに村に帰ってきたことにより、ジャンとネオとは久しぶりに再会した。
そんな僕を見て、二人は涙を流し始めた。
「兄貴が帰ってきたよぅ……!」
「兄貴ー!」
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「うっす! 俺たち兄貴がいなくなってから、村の為に頑張ってますよ!」
「そうか。それなら良かった」
「ところで、その人たちは?」
「僕の仲間だ。仲良くしてやってくれ」
ジャンとネオも元気そうで何よりだ。
今夜は村長の家に泊まらせてもらうことにする。
そのため、僕たちは村長の家に向かった。
「いらっしゃい」
家に着くと、村長が出迎えてくれた。
そして、僕たちは家に上がらせてもらった。
「広くはないが、今日はゆっくりしてくれ」
「ありがとうございます、村長さん」
広くはないと言っても、他の家よりは十分広い。
さすがは村長宅だ。
丁度夕食時だった為、ご飯をいただくことにした。
夕食後、みんな疲れているためか早めに寝てしまった。
「ファイン、今いいか?」
「ああ」
その夜、僕は村長に呼ばれた。
そして、村長の部屋にて。
僕と村長は二人きりになった。
「ファイン、実はお前に話しておかねばならないことがある」
「何だい、村長?」
「お前は赤ん坊の時、村に捨てられていたと言ったな」
「今になってどうしたの?」
僕が質問してからしばらくして、村長はその重い口を開いた。
「……実はファイン、お前は剣士ランスロットと大魔道士ユグドラの子じゃ」
「何だって?」
「今まで隠していたが、お前はあのS級冒険者二人組の息子なんじゃよ」
ゲンブ村長から聞かされた話は、衝撃的なことだった。
僕は二人組のS級冒険者である、剣士ランスロットと大魔道士ユグドラの息子であると言うのだ。
そんな話は、にわかには信じがたい話であった。
だが、村長は真剣な眼差しで嘘を付いているようには見えなかった。
「ファイン、黙っていて悪かった。だが、わしの言ったことに噓偽りはない。どうか、信じておくれ……」
「わかった、村長の言うことだ。信じるよ。しかし、あの時何があったのか話してもらいたい」
「もちろんじゃ。その為にお前をここに呼んだのだからな」
ゲンブ村長は昔の話を始めた。
「わしとあの二人の出会いは、約二十年前に遡る。あれはわしが婆さんの薬草を採るために、オー森に入った時のことじゃった。わしは運悪く、ゴブリンの群れに見つかってしまった。絶対絶命のピンチ。そんな時じゃった。突如現れた二人組の男女が一瞬してゴブリンどもを撃退した。わしはその二人に助けられたのじゃ。それが、剣士ランスロットと大魔道士ユグドラだ。わしは助けてもらったお礼に、二人を村まで連れて来た。大したもてなしはできなかったが、家でお茶をご馳走してやった。わしらの出会いはここで始まったのだ」
村長は森でゴブリンに襲われているところを、ランスロットとユグドラに助けられたと言う。
その後、村長は二人を村に招待したのだという。
「ランスロットは元気の良い若者でな、自分の体験した出来事や旅の思い出を語ってくれた。一方、そんなランスロットとは対照的に、ユグドラは物静かな女子であった。一言で言えば、どことなくお前に似ておったな。それからというもの、ランスロットとユグドラは定期的にこのイナ村に遊びに来てくれた」
村長は当時の思い出を嬉しそうに語る。
ところが、村長は突然表情を変えて話し出した。
「ところが、ある日事件は起こった。その日はどんよりとした曇り空であった。ユグドラが突然、赤ん坊のお前を抱えてこの村に駆け込んできた。その時わしは驚いたぞ。どうやら、ユグドラの話によると、王都エストに【ディアブロ】と名乗るナゾの人物が現れ、街の人々を襲っているというのだ」
「ディアブロだって……!?」
ここで、村長はディアブロという衝撃的な名前を出した。
ディアブロと言えば魔王四天王の一人で、協力者のフリをして皇帝を利用したヤツだ。
「今はランスロットが応戦しているから何とかなっているという事だったが、このままでは彼が危険だという。突然、彼女は赤ん坊のお前をわしに預けると、『もし私が戻らなければ、死んだと思ってください』と告げて村を去って行った。その後聞いた話によると、エストは何とか無事だったようじゃ。じゃが、彼女が再び村に戻ることはなかった。何とも言えぬ危機感を覚えたわしは、お前をこの村で匿うことにした。そして、お前がランスロットとユグドラの息子だとバレぬよう、7番目の孤児と言うことにして【セヴェンス】の姓を与え、孤児院に預けたのだ」
なるほど、つまりディアブロが僕の両親の仇という訳か。
だが、二人の遺体が見つかっていないのが気になる。
十中八九、魔法で消されたと思われるが、その理由は分からない。
だが僕は、自分でもよく分からない怒りの感情が込み上げてきた。
僕のよく知らない人とは言え、自分の両親を殺されたから?
そのことに、僕は静かに右手を握った。
「村長、父さんと母さんは、ディアブロに殺されたんだ」
「そうか。受け容れたくはないが、そうじゃろうな……」
「アイツは魔王四天王の一人だ。いずれにせよ、ディアブロを殺さなければ人々の平和は脅かされる一方だ」
「そうじゃな」
「それと村長、今までこんな僕の面倒を見てくれてありがとう」
「気にするな、わしは当然のことをしたまでじゃ。何せお前は、命の恩人の息子なのじゃからな。さあ、わしの話はおしまいじゃ。今夜はもうお休み」
「うん。お休みなさい、村長」
僕は与えられた部屋に戻り、布団に入った。
エクスカリバーを手に入れたことによって、僕の前世は大賢者ユリウスだったことが判明。
そして、村長の話によって僕の両親が剣士ランスロットと大魔道士ユグドラだという事も判明した。
僕の力が規格外なのは、これが理由なのだろう。
これから、僕たち人類は魔族との本格的な戦いを迎えるであろう。
僕の力で魔王アガレスを倒し、世界に平和を取り戻さなければならない。