表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/158

第12話 化け物

 僕とルナはダンジョンの中層部を抜け、階段を下っているところだ。

 ここからはいよいよ下層部に入る。

 上層部から中層部までは石造りの通路で、壁に松明がかけられていた。しかし、下層部は岩石が剝き出しでより洞窟然としていた。おまけに松明もなく、真っ暗である。

 とは言え、モンスターたちは容赦なく襲ってくる。


「真っ暗よ。怖いわ」

「大丈夫、【灯火(トーチ)】」


 僕の頭上に火の玉が浮かび上がった。

 【灯火(トーチ)】とは、火魔法の一種で、自分たちの周囲を明るく照らすことができる魔法だ。

 したがって、暗闇の洞窟や夜道では必要不可欠である。


「わあ、明るい」

灯火(トーチ)くらいは使える人も多いと思うが……」

「そうね。でも、私は剣士だから、魔法は不得意だけど……」

「それよりも気をつけろ。下層部には【血に飢えた狼(ブラッディウルフ)】がいる。奴らは動きが素早いうえに、群れで行動する」

「真っ暗なうえに、敵も強くなるなんて……。訓練ダンジョンとはいえ、下層部は初心者お断りってわけね。ファイン君がいなかったら、攻略できなかったかも!」


 僕は灯火(トーチ)と同時に探知(サーチ)を使った。

 2種類の魔法を同時に使用するには、適切な魔力コントロールが必須である。

 また、消費精神力も当然多くなるので、残りには注意が必要だ。

 しばらく進むと、敵を見つけた。


「いたぞ。前方にブラッディウルフが3体」

「わかったわ」


 ルナが臨戦態勢に入る。

 ブラッディウルフが先に仕掛けてきた。

 しかし、ルナは華麗な動きで攻撃をかわすと、カウンターでブラッディウルフ2体の首を刎ねた。

 残りの1体が僕に飛びついてきた。しかし、僕に到達する前にブラッディウルフへ蔦を絡めてやった。


「残念だったな、【生命創成(ライフクリエイト)】だ」


 僕はそのまま、ブラッディウルフを焼き殺した。


「そんな魔法まで使えるの!? 初めて見たわ! 【無詠唱】といい【隠密(ステルス)】といい、ファイン君って、飛んだ化け物よね!」

「どの口が言えたことか」

「えへへ」

 

 僕とルナはさらに奥へと進んだ。

 今度は5体のブラッディウルフに遭遇した。

 ルナが先制攻撃を仕掛けた。


氷結剣(アイスブランド)!」


 この攻撃で、まず3体のブラッディウルフをやっつけた。

 残りの2体がルナに向かって走り出した。


風斬刃(ウィンドブレイド)!」


 見えない風の刃が、ブラッディウルフたちを真っ二つにした。


「くっ、もう魔力が……!」


 敵の数が多かったため、ルナは剣技を多用していた。

 そのため、ルナは精神力が少なくなったようで、少々苦しそうである。

 ちなみに、場合によっては精神力のことを【魔力】や【魔力量】ということもある。

 ややこしいが、『魔力が少ない』とか『魔力が切れた』と言ったら、それは精神力を現していることが多い。

 僕はルナに魔力を分け与えることにした。


精神力供給(マインドサプライ)

「えっ!? 私の魔力が……!? 魔力を分け与えてくれているのね。ありがとう」


 ルナの苦しそうだった表情が和らいだ。

 ルナは僕にこんなことを訊いてきた。


「ファイン君の魔力は大丈夫なの?」

「問題ない。僕の魔力量は多いからな」

「さすが魔法使い(メイジ)ね!」


 僕とルナはさらに奥へと進んだ。


■■■■■


 僕たちはついに最下層に着いた。

 そこには大きな扉があった。つまり、ボス部屋への扉である。

 この中にはボスの【魔導人形(ゴーレム)】がいる。

 扉に近づくと、自動的に開扉した。そして、ボス部屋に入ると、扉が勝手に閉じた。

 したがって、魔導人形(ゴーレム)を倒すか、もしくは倒されるまで外に出られないのだ。


 部屋に入った直後、壁の松明たちに火が灯った。

 広々とした部屋の中心には【魔導人形(ゴーレム)】が佇んでいた。

 魔導人形(ゴーレム)は巨体で体長は3メートル。そしてボディは分厚い岩石である。

 こいつは学園の教師が魔法で制作した人形で、防御力が強化されている。また、一部を除く属性魔法にも耐性が施されている。

 したがって、生半可な攻撃では傷一つ付けることができない。


 魔導人形(ゴーレム)はゆっくりと歩き出した。


「いよいよボス戦だな」

「ええ、私がいつも通り前で戦うわ。ファイン君は援護をお願いね!」

「えっ? ちょ、待っ……!」


 ルナは僕の話を最後まで聞かずに、魔導人形(ゴーレム)に立ち向かった。

 そして、氷結剣(アイスブランド)で攻撃した。しかし……。


「効かない!? なら!」


 ルナは魔導人形(ゴーレム)に近づいた。


赤熱剣(ヒートソード)!」


 ルナは真っ赤に染まった剣で魔導人形(ゴーレム)に斬撃した。

 しかし、魔導人形(ゴーレム)に右腕でガードされ、ダメージはほとんど入っていない。

 魔導人形(ゴーレム)は左腕を大きく上げてパンチしてきた。

 ルナはその攻撃を回避し、無傷だった。

 ルナはすぐに体勢を立て直し、魔導人形(ゴーレム)に対し再度攻撃した。

 だが、ルナの攻撃は決定打にはならなかった。


「離れろルナ、火球(ファイアボール)!」


 僕は隙を見て、ルナを援護した。

 火球(ファイアボール)魔導人形(ゴーレム)に命中した。しかし、姿勢を少し崩しただけで、大したダメージにはなっていない。

 それもそのはず。魔導人形(ゴーレム)の堅いボディは、火も氷も耐性があって効きにくい。

 魔導人形(ゴーレム)の弱点は【雷魔法】である。


 ルナは隙を突いて魔導人形(ゴーレム)に再度攻撃を仕掛けた。

 しかし、ルナから攻撃を受ける直前に魔導人形(ゴーレム)は体勢を立て直し、ルナの攻撃をガードした。そして、魔導人形(ゴーレム)はすぐさまルナに反撃した。


「しまった!」


 ルナは咄嗟に剣でガードするも、魔導人形(ゴーレム)のパンチで吹き飛ばされてしまった。

 ちなみに、魔導人形(ゴーレム)の動き自体は遅いものの、反応は早い。

 加えて、背後からの攻撃にも対応できる。


「きゃああああっ!!」


 ルナは遠くで倒れた。その衝撃によるダメージで、立てずにいる模様。

 魔導人形(ゴーレム)は倒れたルナにゆっくりと近づいて行く。

 僕は右手で剣を抜き、そのまま【強化魔法(エンチャント)】を施した。

 魔導人形(ゴーレム)はルナに近づいた。そして右腕を大きく上げ、そのまま振り下ろした。

 僕は魔導人形(ゴーレム)の前に立ちはだかり、剣で魔導人形(ゴーレム)の右腕を切断した。その際、比較的脆い関節部を狙って斬撃した。

 そして、ルナを連れて魔導人形(ゴーレム)から離れ、【治癒(ヒール)】でルナを回復した。


「痛みが消えていく……ありがとう」


 ルナを回復させた後、僕は魔導人形(ゴーレム)の方を向いて右手を上にかざした。

 すると、黄色の魔法陣が発現した。


 ゴロゴロゴロゴロ……。


 部屋には、天井を覆う雷雲が発生した。

 それを見て、ルナは驚愕していた。


「その魔法は……ま、まさか!?」


 そう、これは古の英雄が対魔族用に開発したと伝えられる必殺魔法……。

 僕は魔導人形(ゴーレム)に狙いを定め、手を振り下ろした。


 【稲妻斬撃(サンダースラッシュ)】!


 雲の外側から中心にかけて、稲妻が収束し始めた。


 バチンバチンバチン! ズドーン!!


 凄まじい黄金の稲妻が、魔導人形(ゴーレム)に何度も直撃した。

 そして、最後に一瞬だけ剣の形をした稲妻が、魔導人形(ゴーレム)を貫いた。

 これこそ、この魔法が【稲妻斬撃(サンダースラッシュ)】と呼ばれたる所以である。


 魔導人形(ゴーレム)はバラバラになった。

 魔導人形(ゴーレム)を倒したことで、僕とルナは地上に帰還した。

 帰還するや否や、ルナは怪訝そうな表情で僕に問いかけてきた。


「ファイン君が今さっき使った魔法……、あれは【稲妻斬撃(サンダースラッシュ)】ね。ファイン君のことだから、使えても何らおかしくはないと思うわ。でも問題なのは、本来この魔法は屋外かつ剣装備時限定発動ということ。にもかかわらず、あなたは地下のダンジョンで、しかも剣を持たずに【稲妻斬撃(サンダースラッシュ)】を放ったわ。つまりね、あなたは条件を無視して稲妻斬撃(サンダースラッシュ)を発動できたってことよ」


 なんだそれは……。

 屋外限定? 剣がないと発動できない?

 そんな事実は初耳だぞ。

 ルナはさらに続けた。


「そして、魔導人形(ゴーレム)の腕を切断したファイン君の剣戟、それに入学試験で試験官に勝った時の戦い方……。あなたは魔法使い(メイジ)でありながら、剣術も常人以上に優れていると見たわ。そこで私、ルナ・セラフィーは、ファイン・セヴェンス君……あなたに対して【剣術】での決闘を申し込みます!」

「エエッ!?」


 僕はルナに決闘を申し込まれてしまった。あまりに唐突だったので、僕は思わず声が出てしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ