第127話 戦いは再び
皆さん、大変長らくお待たせいたしました。
ついに第4章が始まります。
王国同盟軍はついにグランヴァル帝国に勝利する。
皇帝ゴスバールは死に、第二次王帝戦争は終戦を迎えたのであった。
しかし、それはエノウ大陸の人類が疲弊しただけで、結局何ももたらさなかった。
この戦争で大地は荒れ、多くの人々が犠牲になった。
「皆さん、戦争は終わりました。ですが、まだ終わりではありません。戦争により土地は荒れ、多くの人の命が失われました。失われた命は決して戻っては来ません。ですが、それでも私は歩み続けようと思っております。私はこれからこのグランヴァルを……いえ、世界をより平和で豊かにして行こうと思っております。皆さん、どうか今一度、私に力をお貸しください」
女帝ローラの演説が終わると、民たちから歓声が上がった。
帝国の新たなるリーダーとなった女帝ローラが民を率い、復興に向けて歩み出すと言う。
しかし、それは決して平坦なものではなく、茨の道となるであろう。
ある意味、ここからが本当の戦いになるのかもしれない。
しかし、そう思った矢先。
「な、何……!?」
帝都オスト上空は突如暗雲に覆われた。
この光景は、かつて人魔大戦で魔族が襲撃して来た時と同じ光景だと思われる。
とても嫌な予感がする。
それから程なくして、上空にはある人物の巨大なヴィジョンが映し出された。
その人物は漆黒のローブを全身に纏っており、頭には王冠を被っている。
そして、顔が髑髏で目は赤く光っている。
そう、それは歴史の教科書にも載っており、人々がよく知る人物であった。
その名を【アガレス・ディオス】という。
300年前の二度に渡る人魔大戦で、暴虐の限りを尽くした魔王だ。
魔王は合成したかのような声で喋り始めた。
「魔王アガレス……!!」
「この世界に住む全人類に告ぐ。我が名はアガレス・ディオス。魔王である! この世は、やはり腐りきっている。人間共は、自分たちのことしか考えていない。ゆえに、自分の欲望を満たそうとする時は平気で人を傷つけ、争い、そして他人の物を平気で奪う。実に解せぬことだ。太古の時代、人間共のエゴによって、一体どれだけの同胞たちが命を奪われていったことか……。だが、そんな世界ももう終わりだ!! 此度、我は完全に復活した! 今度こそ、我が人間共に完全に終止符を打つ!! 時は来た! これより我々魔王軍は人類に対し、宣戦を布告するものである!!」
魔王の演説が終わりると、魔王のヴィジョンは消えた。
「ファイン、大変よ! ついに魔王が復活したわ!」
「最悪なタイミングだ。しかし、弱音を吐いている暇はない。もうすぐ、魔王軍が侵攻を開始するぞ。ディオーラン!」
「わかっている! 残った騎士たちを集めて、防衛戦の準備を行う! ローラ陛下は早く安全なところへ!」
「わかりました。国民の皆さん、帝都の地下シェルターに避難しましょう」
女帝ローラは護衛の騎士数名と共に、帝国国民を連れて避難して行った。
それから、程なくして僕たちの頭上には転移門が開いた。
「何だ……!?」
「クックックックックッ……」
その中から現れたのは、ジャズナ王国で出会ったあの【フードの男】だった。
レオナルド将軍の話では、確か協力者と言ったか。
協力者は嗤いながらゆっくりとフードを外し、僕たちの前に素顔をさらけ出して見せた。
その男は、色白肌で長い銀髪である。
鋭い目の中には、赤い瞳が灯っている。
また、口の中には牙が生えている。
「ゴスバールが敗れましたか……。他愛ありません。やはり、人間は短命の割には使えませんね。ゴミもいいところです。とは言え、あのアシュラを倒したことだけは素直に褒めて差し上げます」
協力者は慇懃無礼な態度を取っていた。
「その口ぶり……そして、その特徴から察するに、やはり“魔族”か?」
「如何にも。私の名は【ディアブロ】。魔王四天王の第一席です。以後お見知りおきを。私は今まで帝国軍に対し、協力者のフリをして利用してきた訳ですが、もはやその必要もなくなりました。ここらで本性を現すことにしましょう」
協力者……いや、ディアブロはおもむろに右手を挙げた。
すると、帝都の上空に巨大な転移門が開いた。
そして、そこから大勢の竜に乗った魔族たちが出てきた。
その数は、ざっと見ただけでも百体くらいは居るだろうか。
魔族は人間を遥かに超える寿命を持つという。
そして、何よりも人智を超えた力と魔力を誇っている。
並大抵の人間では相手にならないだろう。
「それでは、私は忙しいので失礼させていただきます。皆さん、ごきげんよう」
「待てッ……!」
ディアブロはそう言うと、転移門の中へと消えていった。
そんな事よりも、まずは魔王軍との戦闘に備えなくては。
「まずいわ! 魔王軍が攻めて来たわ!」
「人々の安全は守らなくては……!」
「魔族か。なかなか歯ごたえのありそうな連中だな! 何体来ようが、オレ様が全員ブチのめしてやるぜッ!!」
「魔族はそんな生易しいものじゃない! セラフィー公爵たちを念話で呼び、応援を頼む!」
僕が通信魔法でセラフィー公爵を呼ぼうとした、その時だった。
丁度良いタイミングで、馬に乗ったセラフィー公爵たちが到着した。
「ファイン君!」
「セラフィー公爵! ついに魔王アガレスが復活を遂げてしまいました。時間がありません。魔族たちが攻めて来ます!」
「わかっている。我々、王国同盟軍はグランヴァル帝国の民を守るために戦う! 全軍、戦闘態勢に入れ!!」
「「「ハッ!!」」」
セラフィー公爵の号令により、王国軍の騎士たちは隊列を組んだ。
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ついに、魔王アガレスが復活した。
そして、今まさに大勢の魔族たちがこの帝都オストに迫ってきている。
僕たち人類は、押し寄せる魔王軍との戦闘に備えた。
「来るぞ! 弓兵と魔法使いの部隊は迎撃せよ!!」
セラフィー公爵の命令で、王国軍が先制攻撃を仕掛ける。
今の攻撃で、何体かの魔族を墜落させることに成功した。
しかし、依然として多くの魔族たちが迫ってきている。
今度は魔族たちがお返しと言わんばかりに、矢や魔法で攻撃してきた。
矢と魔法が高速で迫ってくる。
しかし、王国軍に着弾する前に、それらは空中で弾かれた。
よく見ると、セレーネが結界で防御していたようだ。
敵の飛び道具を警戒しているとはさすがだ。
魔族たちは、接近して結界の破壊を試みる。
しかし当然のことながら、そう簡単に壊すことはできない。
「出でよ、光の精霊ウィル・オ・ウィスプよ」
僕はこの隙に、ウィル・オ・ウィスプを召喚した。
「聖なる光よ、邪なる者を浄化せよ……ホーリーライト!」
まばゆい光がウィル・オ・ウィスプより放たれた。
ホーリーライトの直撃を受けた魔族たちが、もがき苦しみながら消滅した。
予想通り、光魔法は魔族に対して有効だ。
この攻撃で、約十体の魔族を消滅させることに成功した。
しかし、攻撃範囲が狭いため全ての魔王軍を消滅させるには至らなかった。
したがって、敵の数はまだまだ多い。
すると、ここでセレーネに異変が起きた。
「もうダメです! 私の結界は持ちません!」
先程のアシュラとの戦いで、セレーネの魔力は限界に達していた。
そのため、セレーネの結界は消滅した。
この隙を見逃さずに、魔王軍は地上へと侵攻してきた。
「よく頑張ったぞ、セレーネ。エーテルを飲め」
「申し訳ありません。私が至らなかったばかりに……」
「いいんだ。それよりも前線は僕たちに任せて、君は後方から援護してくれ!」
「はい!」
セレーネは下がり、代わりにルナとヒューイが前に出てくる。
「人々の安全は守らないと……!」
「来やがったか。魔族どもはオレ様がみんなまとめてぶっ飛ばしてやるぜ!!」
「油断するなよ、ルナ、ヒューイ。魔族は今まで戦ってきたどんなモンスターよりも強い」
「ハッ、上等じゃねぇか! 相手にとって、不足なし!! どこからでもかかって来やがれ!!」
ヒューイはそう言いながら、斧を担いで挑発する。
竜に乗った大勢の魔族たちが地上に降りてきた。
魔族は人間と同様に四肢があり、顔つきも人間とほぼ同じである。
そのため、正式な種族名は【魔人族】である。
しかし、人間と同じなのは外見だけであって、性格はまるで違う。
その性格は狡猾かつ残忍で、人を苦しめたりいたぶったりするのが大好きである。
分類上、魔族はモンスターと同類であり、決して彼らを人類と同じだと認めてはならない。
王国軍はついに、魔王軍との直接戦闘になる。
「いいか、魔族の弱点は心臓か脳だ。それ以外は致命傷にならないから、気を付けてくれ」
「わかったわ」
「おう!」
まずはルナが氷結剣を放った。
巨大な氷の刃が魔族たちを襲い、数体の魔族を氷漬けにした。
ヒューイも斧で、接近する魔族と戦う。
敵の槍と、ヒューイの斧がぶつかり合った。
僕の目の前には一体の魔族が立ちはだかった。
「さっきはよくも俺たちの同胞をやってくれたな! ぶっ殺す!!」
魔族の兵士はそう言うと、持っている槍で攻撃してきた。
僕はそれをかわし、剣で魔族を袈裟斬りにする。
魔族の兵士は胴体に深い傷を負い、血が大量に吹き出てきた。
しかし、程なくして傷は回復した。
回復魔法をかけた素振りは見せていない。
「ケッ! てめぇの攻撃なんざ、痛くも痒くもねーぜ!!」
「チッ……!」
魔族の兵士は今だピンピンしている。
致命傷になっている素振りは見せていない。
やはり、急所を突かなければ殺すことはできない。
僕は赤熱剣で魔族の脳天を突き刺した。
魔族の兵士はようやく倒れた。
すると、もう一体の魔族が接近してきた。
僕は光魔法【神聖】を放つ。
「ギャアアアアアアアアア!!」
僕の左手からまばゆい光が発生し、魔族を焼き殺した。
一体一体の強さはそこまででもない。
しかし、魔族というだけあって生命力が尋常ではなく、倒すのに苦労する。
一方、王国同盟軍と帝国軍は魔王軍を前に苦戦を強いられていた。
数こそ人類の方が勝ってはいるが、質は魔族の方が上である。
セラフィー公爵やディオーランなどのエース格はなんとか善戦している。
しかし、それ以外の一般兵は魔族に蹂躙されていた。
戦闘を続けていると、前方に紫色の邪悪な光が発生した。
そこからは、明らかに禍々しい魔力の波動を感じた。
「何か嫌な予感がする。みんな、行くぞ!」
「おう!」
嫌な予感がしたので、僕たちは光が発生した方向に走った。
そこには、髑髏顔の男が立っていた。
そう、魔王アガレスであった。
「魔王アガレス!」
「来たか、勇者ども」
ついに、魔王アガレスと対峙する僕たち。
こいつが、この戦いを招いた全ての元凶である。
僕たちは改めて武器を構えるのであった。