第125話 皇帝の力
僕はディオーランとの一騎打ちで勝つことに成功する。
ディオーランを生命創成の蔦で拘束した。
「ファイン、やっぱりお前は強いな。俺の負けだ。お前には敵わないな。後は煮るなり焼くなり、お前の好きにしてくれ」
ディオーランは完全に降参した。
僕は剣を鞘に納めた。
「ディオーラン、君をローランドに連れて行く」
「ああ、そうしてくれ」
「だが、勘違いするな。君に決して情けをかけている訳ではない。君は裏切り者として、王国の法にかける。だがその前に、まずは倒すべき敵を倒してからだ」
「しくじりおったか、地のディーン」
玉座の間には、突如男がどこからともなく瞬間移動で現れた。
その男は大柄で、ヒゲ面に黒髪赤目である。
推定年齢は40~50代くらいである。
そして、赤系の豪華な服装を身に纏っている。
その男と出会うのは、今回が初めてである。
だが、その男が誰だかすぐにわかった。
「皇帝ゴスバール……!」
「如何にも。ワシがゴスバール・フォン・グランヴァル。グランヴァル帝国の皇帝だ。貴様が【星の英雄たち】のファイン・セヴェンスだな?」
「そうだ。皇帝ゴスバール、世界の平和を取り戻すために、今ここで貴様を倒す!」
僕はそう言って、再び剣を抜いた。
「ワシを倒すだと? フハハハハ! 寝言は寝て言え、小童が! 貴様如きがワシを倒すなど、笑止千万!!」
皇帝は心底馬鹿にしている。
余程自信があるようだ。
すると、皇女ローラが前に出てきた。
「兄上、もうこんな戦いはやめましょう。人はそんな簡単に世界を支配することはできません。兄上は、本当に世界の支配者になれるとでも思っているのですか?」
「当然だ、ワシにはその資格がある。愚かな妹よ、妹ゆえにお前には今まで心をかけて来た。だが、それも今日までだ。お前も道連れにしてやろう。ワシは必ず世界の支配者になる!」
皇帝ゴスバールはそう言って、左手を天高く掲げた。
左手の指輪から、紫色の光が発生する。
玉座の間は、まばゆい光に覆われた。
そして、皇帝は【アシュラ】へと変貌を遂げた。
アシュラは人型の身体に、6本の腕を持つ伝説の魔物だ。
全身筋肉質で、体長はおよそ3メートルはあると思われる。
本来は伝説上の存在だが、これが現実にいると言うことは……。
「あ、阿修羅!?」
「これが皇帝の力だというのか!」
「フハハハハ! 驚いたか、人間ども! ワシは魔王よりこの力を賜った。だが、ワシは魔王を利用しているに過ぎん。ワシは魔王すらも超えて見せよう!」
「魔王はそんな生易しいものじゃあない。お前は魔王に利用されているんだ!」
やはり皇帝は、魔王から力を授かったというのか。
「皆さん、気をつけてください。あの魔物から、尋常ではない魔力を感じます!」
「おいおいおいおい、やばいんじゃねぇか!? こいつは!」
セレーネとヒューイも警告を発する。
「ローラ皇女は早く安全なところへ!」
「でも……!」
「あなたは未来の帝国を担う人です。あなたが死んだら、残された帝国の民はどうなるのですか!? 今すぐに、グランヴァル帝国の市民たちに避難勧告を出してください!」
「……わかりました」
僕は非戦闘員である皇女ローラを逃がした。
「縄を切れ、ファイン!」
「え?」
「何をしている!? あんな化け物が世に放たれたら、世界は大混乱だぞ!!」
ディオーランは突然縄を切れと言う。
敵だった男を解放するのは、気が引ける。
しかし、今は躊躇っている場合ではない。
僕は彼の言葉を呑み、剣で縄を切ることにした。
「恩に着るぜ、ファイン。さあ、早いとこあの化け物をやっつけるぞ!」
「ああ、ディオーラン!」
ディオーランは剣を構えた。
星の英雄たちはディオーランと共闘することになった。
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皇帝ゴスバール改め、アシュラとの戦いが今始まろうとしていた。
ディオーランは僕たちに協力してくれると言う。
僕とディオーランは、ローランド王国を魔物群が襲撃してきた時以来の共闘になる。実に3年ぶりだ。
「懐かしいな。お前とは、3年前にもこうして共に戦ったな」
「今はそんな事を言っている場合ではないぞ」
「そうだったな」
「フハハハハ、脆弱な人間どもよ! 人智を超えたワシの力の前に触れ伏すがよい!」
「僕たちを侮るな。皇帝ゴスバール、お前の野望は今日ここで打ち砕く!」
「あの怪物を倒して、世界に平和を取り戻しましょう!」
「久しぶりに強敵が現れたようだな! オレ様がぶっ飛ばしてやるぜ!」
「援護は私にお任せください」
仲間たちも、思い思いに意気込みを語った。
「さあ、行くぞ!」
僕たちは武器を構えてアシュラに立ち向かった。
アシュラは右手の拳で迎撃する。
僕たちはその攻撃を躱すが、衝撃で床が陥没した。
「なんて威力だ!」
力自慢のヒューイも驚く。
あれだけの大きさなら、当然それくらいのパワーはあるだろう。
「見たか、ワシの力を! 誰一人として、ワシに敵う者はおるまい!」
アシュラは自身の力を誇示する。
やはり魔王から力を授かっただけあって、並の魔物を遥かに上回る力はあるようだ。
「それはどうかな?」
僕はアシュラに向かって走った。
アシュラは左手の拳で迎撃する。
僕はそれを上手く躱し、アシュラの懐に潜り込んだ。
そして、剣で胴体を斬り付けた。
ところが、アシュラには傷一つ付けることはできなかった。
その筋肉は、まるで鋼のように硬い。
「フハハハハ、無駄無駄! 貴様程度の攻撃では、ワシを倒すことはできん!」
アシュラはそう言うと、右手のパンチで攻撃してきた。
僕は回避しつつ、一旦仲間のもとへ戻った。
「ちっ! 予想していたが、やはり硬い!」
「だったら、今度はオレ様が行くぜ! おりゃあああああ!!」
ヒューイはそう言うと、斧を構えてアシュラに向かった。
アシュラは6本の腕を巧みに使って攻撃を行う。
左右交互のパンチにより、ヒューイはアシュラに近づくことが出来ない。
「クソッ、なんて攻撃だ!」
アシュラの右パンチが、ヒューイに当たりそうになる。
アシュラの拳は、ヒューイの胴体くらいの大きさはある。
いくら巨漢のヒューイと言えども、あれをまともに喰らったらタダでは済まないだろう。
その時だった。
風の刃が、アシュラのパンチを妨害した。
ディオーランが風斬刃を放ち、ヒューイを援護していたのだった。
「何をしている、筋肉野郎! 少しは頭を使え!」
「ディオーランか!? サンキュー、助かったぜ!」
アシュラは、左手の三連パンチを放った。
ヒューイは上手く躱して懐に入り、斧で攻撃した。
しかし、かすり傷程度のダメージにしかならなかった。
ヒューイの力を以ってしてもこれか。
「バカなッ!? オレの一撃が効いていないだと!?」
「その程度の力では、ワシを倒せん!」
僕はダッシュで、アシュラに向かう。
そして、隙を突いてジャンプし、アシュラの頭を狙って斬撃を放った。
しかし、アシュラは左腕で防いだ。
その直後、アシュラは右手のパンチで攻撃してきた。
僕は防盾でパンチを防ぐが、衝撃が左腕に伝わってきた。
ダメージは無いが、一撃が重い!
「チッ、隙が無い!」
「二人とも、離れて! 氷の槍!」
ルナが氷の槍を放ったため、僕とヒューイは左右に回避した。
迫りくる氷の槍を、アシュラは両腕でガードした。
両腕から少し血が出た程度のダメージしか与えられなかった。
「小娘が! 小賢しいマネをしてくれる!」
現時点において、アシュラに有効打を与えられてはいない。
魔王の僕が相当強いことが窺える。
その強さは、同じく魔王の僕であった蛇大臣とは比べものにならない程だ。
さすがはグランヴァル帝国の皇帝なだけはある。
「今度はこちらから行くぞ!」
アシュラはそう言うと、攻撃態勢に入った。
すると、アシュラは突然ジャンプし、僕たちに一気に距離を詰めて来た。
「は、速い!」
そして、着地と同時に右手によるパンチを放つ。
僕たちは何とか回避することができた。
しかし、その後アシュラは攻守交代と言わんばかりに攻撃を繰り返す。
何とか反撃の隙を窺うが、そんな隙はない。
アシュラ自身の能力は高いが、何よりあの6本腕は非常に厄介だ。
何とかしなくては。
アシュラは僕を狙って攻撃してくる。
僕は回避することで手一杯だ。
すると、ルナがアシュラの背後より風斬刃で攻撃した。
アシュラはルナに狙いを変えた。
アシュラはジャンプで距離を詰めると、右手でルナを掴んだ。
予想外の素早さに、ルナは躱せなかった。
「きゃっ!?」
「小娘が、このまま捻り潰してくれるわ!!」
「離して!!」
アシュラはルナを握り潰そうと、力を込めた。
ルナは腕ごとがっちり掴まれ、身動きが取れずにいる。
「やめろーッ!! ルナを離せ!!」
僕は剣に強化魔法を施し、アシュラに立ち向かった。
そして、アシュラの手首を狙って斬撃を加えた。
すると、アシュラの手はあっさりと切り落とされた。
「グオオオオッ!!」
アシュラは悲鳴を上げる。
何とかルナを助けることに成功した。
「大丈夫か、ルナ!?」
「うん、ありがとう。私は大丈夫よ」
僕はルナの心配をするが、どこも怪我をしていなさそうで良かった。
「ちっぽけな人間共にしてはよくやるようだな。少しは認めよう。見せてやろう、ワシの力を!!」
アシュラはそう言うと、大きな火の玉が5つ召喚した。
「あれは、火炎爆弾!?」
「皆さん、私のもとへ集まってください!」
セレーネは結界を展開した。
「フハハハハ! 虫けら共よ、砕け散るがよい!!」
アシュラはそう言うと、いよいよ火炎爆弾を発射した。
火炎爆弾が結界に着弾し、もの凄く爆発とともに衝撃を発生させた。
「くぅ……!」
結界を張っているセレーネが苦しそうである。
ルナが両手を前に出し、追加の結界を張った。
お陰で何とか火炎爆弾を凌ぎきったが、玉座の間はだいぶ荒れてしまった。
アシュラは切断された右手を拾った。
そして、切断面とくっつけて復元した。
「やはり、再生能力まであるのか!」
「当然だ! ワシは世界の支配するに相応しい男なのだからな! ワシこそ、世界を統べるに相応しい【帝王】だ!!」
高い防御力で攻撃はほとんど効かず、素早い動きと6本の腕で攻撃を当てるのも困難。
おまけに、再生能力まであると来た。
果たして、アシュラを倒す方法はあるのか。