第118話 復活の天
王都の西部では、アルベルト将軍が率いる部隊が奮闘していた。
その傘下には、レオナルド将軍やグロリアの竜騎士団も加わっている。
そんな彼らのもとに、凶報が入る。
「報告します! 敵の増援が現れました!!」
「やはり現れたか……」
しかし、そこに現れたのは、よりにもよって【天のジェノス】だった。
「ほう、貴様らは……レオナルド、それにグロリアか」
「お前は、ジェノス! ジャズナ王国で戦死した筈のお前が、なぜ生きている!?」
「違うな、俺は辛うじて生きていたのだ。ファイン・セヴェンスの攻撃で瀕死の重傷を負った俺は、協力者に助けられ、一命を取りとめたという訳だよ。そういう貴様らは、なぜ王国側に就いている? まさか帝国を裏切り、皇帝陛下に反旗を翻したというのか?」
「これ以上、ワシらは皇帝陛下の暴挙を許すワケにはいかん。皇帝陛下を打ち倒し、エノウ大陸に真の平和をもたらして見せよう」
「そうか。ならば、裏切り者どもよ、この俺が裁きの鉄槌を下してやろう!!」
天のジェノスは、光のレオナルドとグロリアと戦闘を開始した。
「行くぞ!」
ジェノスは先制攻撃を仕掛けた。
「ぬうっ!?」
ジェノスの義手の力に圧倒されるレオナルド。
レオナルドの右腕も同じく義手である。
しかし、ジェノスの義手は最新型の魔導具である。
よって、その力の差は歴然であった。
「この力はっ!?」
「老いぼれが。腕が衰えたようだな」
「ちっ……!」
「レオナルド将軍!」
グロリアは光のレオナルドの援護に回る。
しかし、グロリアの攻撃をジェノスは難なく防いだ。
グロリアではジェノスを倒すどころか、互角に戦うことすら容易ではなかった。
次第に、ジェノスに押されるグロリア。防御するのがやっとであった。
「未熟者め、その程度の腕では俺を倒せん!」
「くっ……!」
元々強かった天のジェノスだったが、復活してからは更に手に負えなくなっていた。
「フン、歯ごたえのない連中だ」
「どこへ行く!?」
「俺の本命は、貴様ら裏切り者どもではない。俺に深手を負わせたファイン・セヴェンスだ。ヤツは必ず、俺の手で殺してやる!!」
ジェノスはそう言うと、迅速にその場を去っていった。
「逃がすか!」
レオナルドはジェノスを追おうとする。
「どこへ行こうとしている? 裏切り者のレオナルド。貴様の相手は我々だ!」
「くっ!」
しかし、ジェノスの部下の竜騎士たちがレオナルドの行く手を阻む。
「やああああああっ!!」
突然、そこへグロリアが突撃してきた。
そこにはグロリアと共に、フィリップ以下親皇女派の竜騎士たちも加わっていた。
「行ってください、レオナルド将軍!」
「しかし……」
「私たちは大丈夫です。それよりも早くジェノスを追ってください!」
「すまない、グロリア!」
レオナルドはジェノスを追撃するために馬を走らせた。
■■■■■
引き続き、僕たちは帝国の大軍と戦っていた。
「おりゃああああっ!!」
ヒューイは斧で敵を薙ぎ倒し、セレーネは精霊を召喚して攻撃する。
僕も剣や魔法を駆使して戦う。
しかし、すでにかなりの敵を倒したはずだが、まだまだ敵の数は多い。
増援が送られて来たか、あるいはもともと敵の数が多かったか。
「ヒューイ、無茶はするなよ。敵の数はまだまだ多い」
「おう!」
「セレーネも攻撃は僕たちに任せて、魔力はできるだけ温存するんだ」
「はい」
「!?」
何だ? この気配は……。
向こうから殺気と感じる。
それと共に、禍々しい魔力の波動を感じる。
背筋を凍らされるようなゾッとした感覚だった。
嫌な予感がする……。
気配がしてからしばらくすると、西の方角から竜騎士団が向かってきた。
そして、その正体が徐々に明らかになった。
「お、お前は……!!」
それは、ジャズナ王国の王都マシャクで、僕が倒したはずの【天のジェノス】だった。
右目の周囲は金属の板に覆われており、右目が赤く光っている。
右目は義眼か。
そして先程感じた邪悪な魔力は、ジェノスから感じ取れる。
「お前は、ジェノス!!」
「久しぶりだな、ファイン・セヴェンス。また会えて嬉しいぞ!」
「バカな、お前は僕が倒し、そして死んだはずだ!」
「違うな、俺はまだ辛うじて生きていたのだ。とは言え、あれはさすがに俺も終わったと思ったよ。ほぼ死にかけだった俺は【協力者】に助けられ、何とか助かったのだよ」
「アイツか……!」
ジェノスは協力者に命を救われたと言う。
ヒューイとセレーネも加わった。
「なかなか強そうなヤツが出てきたじゃねぇか! オレ様が相手してやるぜ!!」
「ファイン様、私も協力いたしますわ」
「下がれ、ヒューイ、セレーネ!!」
「何ィ!?」
「こいつは危険だ。ここは僕が戦う!」
「だったら、尚更みんなで戦ったほうがいいんじゃねぇか?」
「こいつは二人の手に負えるような相手じゃない。普通じゃない、何かヤバい感じがする」
「ちっ、わかったよ」
ヒューイとセレーネは大人しく引き下がり、帝国の一般兵との戦闘を再開した。
「一人で挑むとは愚かな判断だな。だが、その方が復讐のしがいがあると言うもの。まずは貴様を殺し、俺の復讐を達成する! その後は王国軍を殲滅したのち、ローランドの民を一人残らず血祭りにあげてやろう!」
「冗談じゃない! ローランド王国の民には指一本触れさせないぞ! 復讐なら僕だけにしろ!」
「さあ行くぞ、ファイン・セヴェンス!」
ジェノスは先制攻撃を仕掛けてきた。
竜を巧みに操り、槍による強烈な刺突攻撃をする。
僕はジェノスの攻撃を剣で受け止めた。
「な、なんだ!? このパワーはッ!?」
想像以上の圧倒的パワーにより、僕は押され始める。
以前戦った時、ジェノスはこれ程強くはなかった。
右手は義手か。
僕はジェノスから一旦離れ、すぐにもう一度接近する。
そして、剣で攻撃する。
ジェノスは槍で僕の攻撃をガードした。
「甘いな!」
ジェノスはすぐに反撃に移る。
槍による連撃。
パワーのみならず、スピードまで強化されているようだ。
これをガードしても、こちらが押される。
「フハハハハ!! 貴様の力はその程度かッ!!」
ジェノスの攻撃に対して、僕は防戦一方にになっていた。
反撃すらままならない。躱すのがやっとだ。
まともにやりあっていては、こちらが消耗する。
僕はジェノスから一旦距離を取った。
すると、竜はすかさず口から火炎を吐いて攻撃してきた。
それを僕は躱す。
あまりの高威力により、地面が抉れてしまった。
あれをまともに喰らったら、タダでは済まないだろう。
そして、ジェノスは竜を操り素早く距離を詰めて来た。
ジェノスは、再び槍で連続攻撃を仕掛けてくる。
ヤツは疲れという言葉を知らないのか、という程に攻撃を続ける。
僕は一瞬の隙を突き、剣でジェノスの胴体を刺した。
「バカめ、その程度の攻撃で俺を倒せると思っていたのか!」
「なにッ!?」
ジェノスはすかさず反撃してきたので、僕は咄嗟に回避した。
手応えはあった。
しかし、ジェノスは何事もなかったかのように、攻撃を続けた。
クロノスと同じだ。
しかし違うのは、ジェノスからは禍々しい邪悪な魔力の波動を感じることだ。
それは、ゲルマ湿地帯で遭遇したドラゴンゾンビとよく似た感覚だった。
クロノスも確かに強かったが、強い魔力は感じなかった。
待てよ、だとすればジェノスは……!
「もうやめろ、ジェノス。お前はとっくに死んでいるんだ」
「血迷ったか、何を愚かなことを言う? 俺は死んでなどいないぞ」
「ならば、なぜ胴体を貫かれて生きている? 普通は致命傷だぞ。お前はあの時……ジャズナで僕に討たれて死んだんだ。お前は【アンデッド】……つまり、死者として協力者に甦らされたんだ。お前は協力者に利用されているんだ!」
「フン! ならば、せいぜいこの“体質”を利用するまでだ! それに、貴様に対する復讐の価値はさらに上がった! 全身全霊の恨みを込めて、貴様を血祭りに上げてくれよう!! おい、貴様たち! ファイン・セヴェンスを攻撃しろ! ヤツを倒せば、勝利は目前だぞ!」
「「「おおおおおおおッ!!!」」」
ジェノスの号令で、帝国の竜騎士たちが一斉に僕に狙いを定めて来た。
一体一体の強さはそれ程でもないが、敵の数が多い。
これだけの数で攻め込まれたら、さすがの僕でもひとたまりもない。
次第に追い詰められていく僕だったが、何とか竜騎士たちを捌くことに成功した。
しかし次の瞬間、背後の方から気配を感じた。
「もらったぞ、ファイン・セヴェンス!!」
背後からジェノスが僕を狙って来た。
「しまった!」
ヤツの狙いは最初からこれだったのか。
ジェノスは自分の配下を上手く囮に利用することで、自分は安全に僕を攻撃することが狙いだった。
絶体絶命のピンチ。
しかし、そこへ突然誰かが乱入してきた。
現れたのは、レオナルド将軍だった。
レオナルド将軍は僕を庇い、胴体を槍で貫かれてしまった。
「なにぃ!?」
「レオナルド将軍!!」
レオナルド将軍はその場に倒れてしまった。
「レオナルド将軍……なぜ!?」
「チッ、邪魔を……!!」
僕はレオナルド将軍を治療しようとした。
しかし、無慈悲にもジェノスはとどめを刺そうと槍を構えた。
そこへ、ヒューイとセレーネが駆けつけてきた。
ヒューイは斧でジェノスの攻撃を受け止めた。
「よくもやってくれたな!! おりゃあっ!!」
「ムシケラが、貴様程度の力では到底俺は倒せん!」
「くッ……!」
ヒューイはジェノスと戦闘を開始した。
しかし、ジェノスの言葉通り、ヒューイは押され始める。
「セレーネ、レオナルド将軍は僕が治療する。君はヒューイの援護を!」
「はい!」
「レオナルド将軍、しっかり! 今、治療します」
僕は特級治癒で、レオナルド将軍を治療しようと試みる。
しかし、レオナルド将軍の傷は良くならなかった。
「もうよせ……この傷では、もう助からん……」
「しかし……!」
「気にするな、ワシはもう十分に生きた。ワシは今までに多くの若者が命を落とす瞬間を何度も見て来た。もうこれ以上、若者が死んでいく瞬間を見るのは辛い。戦場で死ぬことこそが、死んでいった若者たちに対するワシの唯一の贖罪。そして、ワシの本望……! お主はまだ若い。お主の命と比べたら、老いぼれのワシの命など安かろう」
「そんな事は……!」
「ファインよ、これからのエノウ大陸の未来をお前たちに託すぞ。皇帝陛下の野望を、お前たちが打ち砕くのだ。そして、お前たち自身の手で平和を取り戻すのだぞ……」
「はい……!」
「ワシにはわかる……お前たち【星の英雄たち】は、途轍もない力を秘めている。期待しているぞ……」
レオナルド将軍はそう言うと、静かに眠った。
一方でヒューイとセレーネは、ジェノスとの戦闘を続けている。
二人は何とか善戦しているものの、ジェノスにはいまだ傷一つ付けられていない。
そして、ヒューイは竜の火炎で吹き飛ばれてしまった。
「ぐおおおおおおッ!?」
「別れの挨拶は済んだか!? ならば、今度こそ終わりにしてやろう!!」
ジェノスが標的をヒューイから僕に変えて来た。
「出でよ、光の精霊【ウィル・オ・ウィスプ】」
僕は光の精霊ウィル・オ・ウィスプを召喚した。
ジェノスがアンデッドならば、光魔法が有効なはずだ。
精霊が見えているはずだが、憎しみのあまりかジェノスは構わず突っ込んで来る。
「聖なる光よ、邪なる者を浄化せよ……【ホーリーライト】!」
眩い光がジェノスを包み込む。
「ギャアアアアアアアアア!!!」
光に包み込まれたジェノスの身体は、火に焼かれたように崩壊していく。
やはりジェノスはアンデッドになっていたようだ。
ジェノスは断末魔の叫び声をあげた。
そして、ジェノスと彼の竜は完全に消滅した。
しかし、まだ不利な戦況は続いている。
帝国軍は次々と援軍を送って来たようだ。
東ではセラフィー公爵の部隊が、水のエキドナの軍勢と戦っている。
それに、【地のディーン】ことディオーランもいるはずだ。
彼を倒さない限り、王国軍に勝利はないだろう。