第117話 クロノスの謎
王国軍の一部隊をセラフィー公爵から任され、帝国軍から王都北部の防衛を行っていた。
そこに六大帝将の一人である、闇のクロノスが現れた。
クロノスは僕たちの前で馬を降りた。
「久しぶりだな、諸君」
「お前はクロノス!」
「私は今一度、お前たち二人に勝負を挑みたい。あの時の屈辱を晴らさせてもらう!」
「いいだろう。ヒューイ、セレーネ。ここは僕とルナに任せて、二人は周囲の敵を掃討してくれ」
「本当に二人だけで大丈夫なのか?」
「まだ敵の数は多い。4人全員で挑むよりも、分散して敵を倒した方が効率的だ」
「おう!」
「わかりました」
一般兵はヒューイ達に任せて、僕とルナは闇のクロノスの相手をすることにした。
■■■■■
クロノスは両手に、合計二本の剣を構えている。
ヤツの本領は『二刀流』のようだ。
「さあ、行くぞ」
クロノスはそう言うと、ダッシュで向かって来た。
僕とルナは、クロノスの剣戟を受け止める。
やはりクロノスの一撃は重い。
その後、すぐに激しい戦闘になった。
クロノスは二本の剣を巧みに操る。
その剣戟に、僕とルナは押され気味だった。
二人がかりで挑んでもこれか。
僕は正面からクロノスの攻撃を受け止めた。
その直後、ルナが素早くクロノスの背後に回り込み、剣で攻撃した。
しかし、クロノスは重厚な防具をものともせずに、ジャンプでかわした。
「背後からの攻撃など、私には通用せんぞ」
やはり、一筋縄では行かないようだ。
僕とルナは、クロノスに立ち向かう。
クロノスの二刀流は、まるで隙がない。
攻撃を防ぐのがやっとだった。
クロノスは横に斬撃を放つ。
それを僕たちは躱し、一旦距離を取った。
クロノスは両手の剣をそれぞれ横に振った。
「暗黒刃!」
二本の剣からは、闇の刃が高速で飛んで来た。
僕は横に躱し、ルナはジャンプで攻撃を回避した。
ジャンプと同時に、ルナは再びクロノスへ距離を詰めた。
降下と同時にルナは斬撃を放つ。
クロノスは左手の剣で、ルナの一撃を受け止める。
そして、右手の剣で反撃を行う。
ルナはその攻撃を躱すが、クロノスはすかさず連撃を入れる。
ルナは今、押されている。
「離れろルナ! 火球!」
僕は後方より、クロノスめがけて火球を放った。
クロノスは最低限の動きで回避した。
その直後、ルナがすぐに追撃を入れた。
クロノスは躱しきれずに、ルナの一撃を受けてしまう。
傷口からは血が出てきた。しかし、血はすぐに止まった。
「なかなかの連携力だな。だが、その程度で俺は倒せぬぞ」
あの時と同じだ。
傷は深かったはずなのに、すぐに治ってしまう。
一体、ヤツは何者なんだ?
クロノスはすぐに僕たちに向かって走って来た。
そして、僕たちに対して激しく攻撃する。
クロノスの二刀流を駆使した激しい剣戟に防戦一方になる。
そして剣で弾かれ、距離を取られてしまう。
クロノスは間髪入れずに、次の攻撃に移った。
「闇の衝撃波!」
「ぐわああああっ!!」
「きゃああああっ!!」
クロノスは剣を振り下ろし、闇の衝撃波を放ってきた。
ギリギリで回避したため直撃は免れたが、衝撃で吹き飛ばされてしまった。
やはり、クロノスは他のどの帝将よりも強い。
「この程度か。他愛ない」
「まだだ……まだ終わりじゃない!」
ここは、反撃の隙を与えないように、連続で攻撃するしかないか。
僕はクロノスに向かってダッシュで向かった。
そして、クロノスに対して剣戟を行う。
クロノスも反撃するが、僕はそれを上手くかわす。
そこにルナも加勢し、二人がかりでクロノスを攻撃する。
次第に、クロノスは防戦一方になっていく。
クロノスがいくら強くても、人数差で押せばどうにかなるようだ。
そして、僕は一瞬の隙を突いてクロノスの腹部を刺した。
ところが、クロノスは力強く剣で反撃してきた。
僕とルナはすぐに回避した。
クロノスの傷口からは大量の血が出るが、それはすぐに収まった。
回復魔法をかけた素振りは見せていない。
「フッ、少しはやるようだな」
「胴体を刺したと言うのに、すぐに血が止まる。やはりお前には何か“謎”があるな」
クロノスは再び僕たちに向かって来た。
僕とルナは、もう一度コンビネーションでクロノスに挑む。
二人がかりならば、クロノスと互角以上に戦うことができる。
「さすがだな。だが、それだけ激しく動いていては、果たして体力は持つかな?」
「そうかな?」
「何?」
確かに、クロノスの言う通り激しく動くと体力の消耗は著しい。
しかも、今回は帝国が大軍で攻めてきているため、長期戦は必至だ。
だが、僕とて生半可に体力を鍛えてきた訳ではない。
それに、僕はただ闇雲にクロノスと戦っている訳ではないのだ。
「何だ? 体の動きが鈍いぞ……!?」
「ようやく気がついたか」
「低速化か!」
「そうだ。同時に僕たちには高速化もかけておいた。まともにお前とやりあっても、消耗するだけだからな」
僕はもう一度、クロノスとぶつかり合う。
隙を突いて生命創成を使い、蔦でクロノスの動きを封じた。
「何? これは……【生命創成】かっ!」
「今だ、ルナ! やれっ!!」
「ええ!」
僕が指示を出すと、ルナは剣を天高く掲げた。
すると、雷雲が空を覆った。
僕はクロノスから距離を取った。
「あれは!? まずいッ!」
クロノスは何とか蔦から抜け出そうともがく。
しばらくして、ようやくクロノスは蔦から抜け出すことができた。
だが、時すでに遅し。
「稲妻斬撃ーー!!」
「ぐわあああああああッ!!」
クロノスに稲妻の剣が直撃した。
断末魔の悲鳴をあげるクロノス。
あまりの破壊力で、周囲に土煙が発生した。
そして、土煙が晴れた。
そこには、瀕死ながらもクロノスはまだ生きていた。
「これだけの攻撃を受けながら……まだ生きていられるのか……!!」
「どうやら、またしても貴様たちにしてやられたようだ……」
「やはり、お前には謎があるようだ」
「ファイン・セヴェンス、それにルナ・セラフィー……この私をここまで追い詰めるとは……やはり貴様たち【星の英雄たち】の存在は危険だ。これ以上、戦闘の継続は不可能だ。悪いが撤退させてもらうぞ。……諸君、また会おう」
クロノスはそう言うと、転移石を使って撤退した。
とりあえず、強敵を一人撃退することに成功したか。
しかし、危機はまだ去ったわけではない。
帝国軍はまだかなりの戦力を残している。
それに他の帝将たちもいるはずだ。
敵の戦力を削ぎ、一刻も早くこの戦いを終わらせなくては。
「報告いたします! 東側で戦っているセラフィー将軍の部隊が、水のエキドナの軍勢によって劣勢に立たされています!!」
一人の兵士が馬に乗って駆けつけてきた。
それは、セラフィー公爵たちが苦戦しているとの悪い知らせだった。
「その為、他の部隊に対する援軍要請が出されています!! 至急、援軍を!!」
「行くんだ、ルナ」
「でも……!」
「ここは任せろ。僕たちだけでも大丈夫だ! さあ、お父様を助けに行くんだ!」
「わかったわ!」
「一個小隊、ルナを援護するんだ!」
「はっ!」
ルナは数名の騎士たちと共に、馬で東のセラフィー公爵のもとへ急いだ。
■■■■■
その頃、とある帝将が援軍を率いて王都に向かおうとしていた。
そう、【天のジェノス】である。
「ファイン・セヴェンス……ヤツはこの俺が必ず殺す!!」
ジェノスは、自分をこんな目に遭わせたファインに対し、復讐心を募らせていた。
当初、周囲の帝国兵たちは復活したジェノスを前に驚いていた。
しかし、皇帝の命でジェノスの部隊に加わることになった。
「クックックッ……さあ遊ぼう、ファイン・セヴェンス! 貴様はこの天のジェノスが相手をしてやろう!」
「準備はいいですか、ジェノス将軍」
「ああ、もちろんだ。さっさと転移門を開け!」
協力者は転移門を開いた。
ジェノスはいよいよ行動を開始する。
すべては、ローランド王国を滅ぼす為に。
そして、今度こそファインを倒すために。
しかし、それはとある人物の思惑に過ぎなかった。
そのことを、ジェノスが知る由もない。