第116話 王都大防衛戦線
皇女ローラは国王ゼフィールと謁見し、ローランド王国と協力することを約束した。
これにより、親皇女派は王国軍の味方となった。
また、レオナルド将軍からもたらされた情報により、帝国軍の大部隊が近日中に王都エストに侵攻作戦をかけるという。
今回は帝国軍に対する防衛戦についての作戦会議を、セラフィー公爵主導のもとで行う事になった。
作戦会議には、星の英雄たちももちろん出席する。
その他、ギルドマスターのジョージや、レオナルド将軍に竜騎士のグロリアら幹部も参加した。
「では、今度の王都防衛戦についての作戦会議を行う。帝国軍は総勢100万の兵力で攻めてくるそうだ。東と西、それに北から侵攻してくるそうだ。各部隊はおそらく、30~40万ずつで攻めてくるだろう。敵将は闇のクロノス、水のエキドナ、そして地のディーンが各部隊のいずれかを指揮するはずだ。敵はまず、矢や魔法などによる遠距離攻撃を行うだろう。そこで、盾と結界魔法を用いて敵の遠距離攻撃を防御しつつ、こちらも弓と魔法による遠距離攻撃を実施する。敵が接近してきたところで、剣や槍による直接攻撃を行う。被害は大きくなるだろうが、王都は何としてでも死守したい」
情報では、帝国の侵攻作戦は約2週間後に決行されるという。
しかし、一つ懸念事項がある。
場合によっては2週間どころか、数日以内というかなり早い段階で帝国が攻めてくることも十分あり得る。
あくまでも可能性に過ぎないが、情報は共有しておくに越したことはない。
「セラフィー将軍」
「何だね、ファイン君」
「敵には“フードを被った謎の男”がいます。そいつは僕と同様に転移門が使えます。そのため、短時間で同時に大軍を送り込んで来る可能性があります」
「帝国軍内部では【協力者】と呼ばれていた。だが、素性はワシにも分からない謎の人物だ」
「なるほど、侵攻作戦は約2週間後だが、帝国はそれよりも早く来る可能性があるという訳か。王国各地に散らばった騎士団へは王都防衛に駆けつけるよう命令を出したのだが……」
「こちらも僕の転移門を使えば、迅速に部隊を集めることが出来ます」
「それは助かる。ところで防衛部隊の配分だが、星の英雄たちは北部の防衛に当たってくれ。ファイン君には、部隊を指揮してもらいたい」
「お任せください」
僕たちは、セラフィー公爵から王都北の防衛部隊を任された。
帝国に近い北部が、最も敵の戦力が集中するだろう。
しかし、僕たち4人なら何とかなるだろう。
「アルベルト将軍の部隊と、レオナルド将軍率いる帝国の同盟軍には西部を任せる」
「了解した」
「承知」
今回初めて名前が出てきたが、アルベルト将軍はセラフィー公爵と同様に白金騎士の称号を持つ数少ない人物だ。
フルネームは、アルベルト・フォン・ライムという。
年齢は50歳で、伯爵の爵位を持つ。
今の騎士団長はセラフィー公爵だが、古くから王国に仕える騎士である。
「私とギルドマスターの部隊は東部の防衛を行う。ギルドマスターは緊急クエストを発注し、できる限り冒険者たちにも王都防衛に参加してもらいたい」
「承知しました。新人ならともかく、ベテランの冒険者はほぼ全員が参加してくれるはずです」
「正直、戦力的にはかなり厳しい状況になるだろう。監視は常にさせておくので、帝国軍が来てもすぐ出撃ができるように各自待機せよ。私からの説明は以上だ。何か質問事項はあるか?」
誰も手を挙げないため、特に質問はないようである。
「なければ、作戦会議を終了とする。非常に厳しい戦いとなるだろうが、我らがローランド王国は何としてでも死守するぞ。国王陛下のためにも、諸君らの力を今一度貸してくれ」
セラフィー公爵はそう言うと敬礼した。
他の全員も敬礼で返した。
作戦会議が終わり、その場は解散となった。
会議の後、僕は仲間と共に担当する部隊の兵士たちに挨拶しに行った。
「今度の王都防衛戦で指揮を任されることになった、星の英雄たちのファイン・セヴェンスだ。よろしく頼む」
「あんな若造が俺たちの部隊長かよ」
「アイツが3年前に王都を襲ったモンスター群をやっつけた男らしいぜ。ちょっと前に国王陛下のコネで軍に入ったらしいが、軍のリーダーには向いてないだろう」
「帝国からジャズナ王国を救ったって話だけど、本当かな……」
兵士たちがヒソヒソと話している。
まあ、こんな若造がいきなりリーダーになると不満の声もあがるだろう。
「早速だが、作戦を説明する。まず、我々の部隊は王都北の防衛をセラフィー将軍から任されている。北から来る敵は30~40万の兵力が予想される。そこで、まずは私の稲妻斬撃でできる限り敵の数を減らし、少しでも味方の消耗を抑える。その後、前衛全員で突撃して一気に畳みかける。弓や魔法を使う者は、後方から援護に徹して欲しい。説明は以上だ。こんな頼りない若造だとは思うが、王都を守りたいという気持ちはみんなと同じだ。どうか、僕に力を貸して欲しい」
作戦の説明を終え、兵士たちを解散させた。
解散後、一人の若い兵士が僕に話しかけてきた。
「あの、英雄様!」
「英雄様だなんて、照れるな。ファインでいいよ」
「はい。じゃあ、ファイン様。俺、3年前のモンスター群襲撃で王都を守り、カグラ公国やジャズナ王国を救ったファイン様の下で戦えるなんて、光栄です! 他の皆さんはあなたのことを色々言っていますが、俺はファイン様のことを尊敬しています!」
「そうか、ありがとう。でも、僕は英雄と言う程、立派な人間じゃないよ。ところで、君の名は?」
「俺、ジョンと申します。今年軍に入ったばかりです。俺も次の防衛戦では、祖国を守るために精一杯頑張ります!」
「そうか。よろしく頼むよ、ジョン」
「はい!」
ジョンと名乗る兵士は、踵を返して立ち去って行った。
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その後、僕は転移門で王国各地から騎士団を連れてきた。
そして、作戦会議の日から2週間が経とうとしていた。
「報告します! 見張りの兵士より、北の方角に帝国軍と思しき大軍が出現しました!!」
「東と西の方角からも帝国の大軍が現れたとの報告が……!」
馬に乗った王国兵たちがあわてた様子で駆けつけた。
ついにこの時が来たか。
「行くぞ、みんな。準備はいいか?」
「おう!」
「いつでもいいわよ」
「私も」
僕たちも武器を手に取り、出撃した。
王都の北に出ると、帝国の大軍が迫っていた。
こちらも大勢の王国軍兵士たちを伴って出撃しているが、敵の方が数は多いだろう。
「圧倒的な数だ……」
「あの数を相手にやれるのか……!?」
王国兵たちは不安の声を露にする。
まずはできる限り敵の数を減らしたい。
そこで、稲妻斬撃を使うことにした。
無数の稲妻が、帝国軍を襲った。
この攻撃で敵の数をかなり減らすことができた。
しかし、稲妻斬撃は連発できないため、ここから先は普通に戦うことになる。
「あれが、稲妻斬撃……!?」
「やった……! ファイン様が敵の数を減らしてくれた! これなら行けるぞ!」
「行くぞ、突撃ーーっ!!」
「「「おおおおおおおおっ!!!!」」」
僕の号令で、味方の兵士たちが一気に敵陣へと突っ込んで行く。
僕は魔力を温存するために、剣を中心に戦うことにする。
ルナも剣を抜き、すれ違いざまに敵を切り捨てる。
「おらおらおらおら! どけどけどけぇ!! エストに攻め込んで来るヤツらは、このヒューイ・サウスリーが全員ぶっ飛ばしてやるぜ!!」
ヒューイも敵陣に向かって突っ込んで行く。
「出でよ、天の精霊シルフ……天の雷よ、我らに仇成す邪なる者を貫け、【神の雷】!」
セレーネは後方から精霊を呼び出して、敵を攻撃する。
先程の稲妻斬撃で敵の数が減ったため、今は王国軍の方が優勢だ。
しかし、敵はおそらく援軍を投入してくるだろう。
すると、帝国軍の後方からとある騎士が馬で突っ込んできた。
「な、何だ、あれは!?」
敵騎士は次々と王国兵たちを薙ぎ倒しながら、こちらに向かってくる。
「やあ、久しぶりだな諸君」
それは、六大帝将の一人【闇のクロノス】だった。