第115話 反乱者たち
皇女ローラは、光のレオナルドや騎士グロリアと共に、皇帝に反旗を翻すと宣言。
配下の騎士たちも、皇女に付いて行くことを決意した。
そして、皇女ローラは僕たち王国側に協力すると申し出た。
そのためには、まず王国軍本隊と合流し、セラフィー公爵と話し合わなければならない。
僕たちは皇女たちを引き連れ、王国軍と合流するべく東への移動を開始した。
おそらく、王国軍は帝都に向けて北へと移動している途中だろう。
問題は正確な位置が分からないことだ。
転移門でセラフィー公爵のもとに合流できればいいのだが、初めて訪れる土地にこの方法は使えない。
ならば、おおよその位置を予測して、その場所に賭けるしかないか。
「ファインよ、この先の山間の地域には帝国軍の防衛部隊が展開している。彼らの守りは非常に強固だ。とりあえず、南側を捜索してみるのはどうか?」
「そうですね」
レオナルド将軍の言う通り、山の南側を探してみることにした。
出発してから約1週間が経った。
王国騎士団と思しき軍団を発見したため、合流を試みる。
なお、レオナルド将軍には白旗を上げさせ、王国軍に戦闘の意思がないことを証明させる。
そして、僕たちは無事にセラフィー公爵と合流することができた。
「お久しぶりです、セラフィー公爵」
「ファイン君!? それにみんなも……? なぜ君たちが帝国軍と共に行動している?」
「彼らは王国軍に協力を申し出た者たちです。そして……」
「はじめまして、セラフィー将軍。私はローラ・フォン・グランヴァル。グランヴァル帝国の皇女です。私は兵を率い、皇帝ゴスバールに反旗を翻します。兄は自らの野望を実現するためにこの戦いを起こしました。私はこの戦いを終わらせる為に、兄の野望を阻止するために、あなた方王国軍に協力します。どうか、私たちを王国に連れて行ってはいただけないでしょうか?」
「なるほど、我々に協力を申し出ると……しかし、王国に連れていく前に、詳しく話を聞かせていただきたい」
「もちろんです」
「それから、武器は全てこちらで預からせてもらう」
「承知した」
すでに夕暮れ時だった。
その夜、王国軍と帝国軍はテントを設営し、そこで話し合うことになった。
「……なるほど、皇帝はこの戦いを『世界を支配する』という、自身の野望を叶えるための礎にしているに過ぎないと……」
「はい。兄・ゴスバールは危険です。これ以上戦いを続けると、今後より多くの犠牲者が出るでしょう」
「あなたの言う事はもっともだ。だが、我々王国軍に協力すれば、あなた方は帝国国民を敵に回すことになるが?」
「すでに覚悟はできています。民はこれ以上戦禍の拡大を望んではおりません。それに、私やレオナルドは兄に裏切られた身です。どの道、帝国に残っていても私たちは殺されるでしょう」
次にレオナルド将軍が話を始めた。
「セラフィー殿、ワシの部下が掴んだ情報なのだが、近々帝国軍本隊が大規模作戦を企てているようだ」
「その内容とは?」
「ローランドの王都エストへの侵攻作戦。六大帝将のうち、水のエキドナ、闇のクロノス……そして、地のディーンらの指揮により、およそ100万の軍勢を率いた大規模侵攻作戦になるそうだ」
レオナルド将軍の口から告げられた言葉は、驚くべき事であった。
帝国軍は、王都エストに対する大規模な侵攻作戦を計画しているらしい。
100万の兵力を投入するということは、今度の作戦には帝国軍も本気のようだ。
「なんだと? ローランドを滅ぼす気か!? それで、具体的な時期は?」
「正確な時期はわからんが、作戦はこれから約2週間後に実行されるそうだ。そのために、今は各地に散らばった兵力を集めているところらしい。その前準備として、王国騎士団を帝国内に誘き寄せて、四方から包囲して壊滅させる予定だったそうだ。その後、王国軍の総戦力が低下したところで王都エストに一気に攻め込む気だったようだ」
「なるほど、道理で国境の守備が薄かったわけだ。それで、戦力配分は分かるか?」
「ああ。東と北、それに西から王都を攻めるようだ」
「なるほど。つまり、南以外の方角から攻め込むという訳だな」
「そうだ。だが、どの部隊を誰が指揮するかまではわからなかった。侵攻作戦そのものは、少し前から計画されていたそうなのだが、ワシは陛下に戦争に対する異を唱えた。ゆえにワシは陛下から信頼を失い、侵攻作戦について伝えられなかった」
「そうか。しかし、有力な情報の提供、感謝する。問題は、ここから王都まで戻るにしても、2週間以上はかかる。それまでに間に合うかどうか……」
セラフィー公爵は頭を抱えた。
「ご心配なく。僕が転移門で王都エストに繋げれば、すぐにでも行けます」
「なに? そんなことが出来るのか?」
「はい。ただ、僕一人の魔力では大きさや持続時間に限界があります。そこで、ルナとセレーネに魔力を分けてもらおうかと思います」
「任せて!」
「そうか、わかった。ファイン君のいうことだ。君たちを信じよう」
今日はもう遅いので、今夜は休むことにした。
■■■■■
そして、翌日を迎えた。
ローランド王国に帰還する準備を行う。
準備と言っても、すぐに済むが。
「ルナ、セレーネ、準備はいいか?」
「いつでも」
「お任せください」
僕は作戦通り、ルナとセレーネに魔力を分けてもらうことにした。
そして、両手をかざして転移門を開いた。
「これが【転移門】か。すごいな」
ルナとセレーネの魔力が上乗せされた為、目の前にはいつも以上に大きな転移門が現れた。
「さあ皆さん、通ってください。王都エストの北側に通じています」
王国と帝国の騎士たちは、転移門に入ることを躊躇う。
「今はファイン君を信じよう。大丈夫、彼は今までにも奇跡を起こしてきたのだから」
セラフィー公爵は、恐る恐る転移門へと入って行った。
サン・セラフィー以下王国騎士たちも、セラフィー公爵に続いた。
しかし、帝国軍はまだ進むのを躊躇っている。
「行きましょう、皆さん。この先が私たちの目指すローランドです。ローランドに行き、一刻も早くこの戦争を終わらせましょう」
「御意」
皇女ローラが言葉を発した後、彼女が率先して転移門をくぐった。
それに続いて、帝国の騎士たちも次々と進んでいった。
最後に、僕たち星の英雄たちが転移門に入った。
そして、僕たちはおよそ半月ぶりに王都エストに帰還した。
「すごい……本当に着いてしまった」
帝国軍の誰かが、そんなことを呟いた。
その後、セラフィー公爵は、皇女ローラとレオナルド将軍、それにグロリアを連れて玉座の間へと向かった。
そして、国王ゼフィールとの謁見に臨む。
「陛下、帝国領内で帝国軍の襲撃を受け、我が軍に被害が出ました。このままでは帝都侵攻作戦に支障をきたす為、一度帰還いたしました」
「そうか、ご苦労であった。……して、その者たちは?」
「帝国より、我が軍に協力を申し出たいと言う者たちです」
国王ゼフィールが質問すると、皇女ローラは前に出た。
「国王ゼフィール様、はじめまして。私はグランヴァル帝国の皇女、ローラ・フォン・グランヴァルと申します。私たちは、兄・皇帝ゴスバールの世界を支配するという野望阻止のために、ローランド王国と共に戦いたいと思います」
「そうか。協力してくれるのはありがたいが、詳しく話を聞かせてはくれぬか?」
皇女ローラは、これまでの経緯を話し始めた。
なお、内容はほぼ同じなので割愛する。
「……そうか、そんなことが……」
「はい」
「ローラ姫よ、改めて問うが貴公らは我々王国に協力してくれるのだな?」
「これ以上、兄の行いを許すことは出来ません」
「それに、帝国は王都エストに対して軍勢100万による大規模な侵攻作戦を計画していると言います」
「うむ、何とか対策を急がねばな……」
「防衛部隊を用意して、帝国の侵攻に備えましょう」
「うむ、それしかあるまい。防衛戦に関しては貴公に任せるぞ、アポロ」
「はっ」
帝国の侵攻作戦の話が出ると、今度はレオナルド将軍が前に出てきた。
「国王陛下、我々帝国軍から強力な武器を提供いたします」
「これは?」
「これは魔導弓と言う帝国軍の優秀な魔導具です。魔力を込めて引き金を引けば、離れた敵に対して攻撃ができます」
「ほう、それはありがたい!」
「陛下、魔導弓は強力な武器です。直ちに我が軍の兵たちに訓練させましょう」
「うむ、そうだな。貴公らの話はわかった。ローランドの未来の為に、貴公らの力を貸してくれ!」
国王ゼフィールがそう言うと、帝国騎士たちは敬礼した。
こうして、帝国反乱軍は正式に王国軍の同盟に加入することが決定した。
「そして、星の英雄たちよ、期待しているぞ。今度の防衛戦はお前たちにかかっていると言っても過言ではない! お前たちが防衛戦を成功させるカギを握っておる。頼んだぞ!」
「お任せを」
「私たちの故郷は守り抜いて見せます!」
「微力ながら、私もお力添えいたします」
「帝国の連中はオレがまとめてぶっ飛ばしてやるぜ!」
国王ゼフィールからも、僕たちに期待がかけられた。
そして、全員がそれぞれの意気込みを語った。
今回は今まで以上に厳しい戦いになるだろう。
それでも、負けることはできない。
僕たちの祖国は、何が何でも死守してみせる。
■■■■■
その頃……。
帝国城の一室に協力者がいた。
蝋燭が灯った薄暗い空間で、協力者は何やら怪しげな行動を取っていた。
そして、もう一人の人物が目の前の台に横たわっていた。
「ご気分はいかがですか?」
「……」
協力者が声をかけると、その人物は目を覚ました。
「ご気分はいかがですかね、【ジェノス将軍】?」
「ああ、悪くはない」
何と、それはジャズナ王国で死んだはずの天のジェノスだった。
ジェノスはゆっくりと起き上がった。
「あなたはファイン・セヴェンスとの戦いで重傷を負いましたが、奇跡的に一命は取り留めました。ですが、損傷が酷く完全な回復は不可能でした。そこで、あなたの右腕は切除して義手にしました。また、右目も同じく義眼にしております」
ジェノスは義手となった右手の指をゆっくりと動かす。
「それは、我が帝国が誇る最新鋭の魔導具です。今まで以上に精確に動く筈です」
「クックックッ、素晴らしい力だ! 今まで以上の力を感じるぞ! これなら、今度こそあのファイン・セヴェンスに勝つことができよう!」
ジェノスはそう言うと、突如部屋を出ていった。
「……クックックッ。行きましたか、私の“駒”よ。お前は既に死人なのですから、私の駒ということです。さあ、思う存分暴れてきなさい、天のジェノス。復活したお前の力で、今度こそローランド王国を滅ぼすのです!」
一人になった協力者は、何やら不穏なことを呟いていた。