第114話 帝国の姫君
賊の撃退に成功し、攫われたガイウス領民たちの救出することに成功した。
捕らわれていた人々の中には、ひと際目立つ女性がいた。
その女性は、色白肌で漆黒のロングヘアーに赤い瞳である。
そして、髪と同じく漆黒のドレスを身に纏っている。
また、童顔で身長が低く外見に幼さを残しているが、その雰囲気はどこか大人びていた。
そのため、少女と言うよりは女性と呼んだほうがしっくり来る。
「あなた方は?」
「僕はファイン・セヴェンス。星の英雄たちのリーダーです。レオナルド将軍より、ガイウス領の民が行方不明になったと聞いて捜索に参りました」
「なるほど、あなた方が噂の……。私はローラ・フォン・グランヴァル。グランヴァル帝国の皇女です。民を代表して、助けていただいたことを感謝いたします」
その女性はグランヴァル帝国の皇女と名乗った。
まさか、本当に誘拐されていたとは。
「とりあえず、この洞窟を出ましょう」
僕たちは洞窟を脱出することにした。
洞窟を出ると、兵士たちを率いたレオナルド将軍に会った。
「お主らが殿下を助けてくれたのか?」
「はい」
「そうか。皇女殿下と我が領民たちを救ってくれたことを感謝する」
すると、今度は別の人物が現れた。
それは、見覚えのある女騎士だった。
「殿下! ご無事でしたか!! あなたが攫われたと聞いて、私はとても心配していました」
「グロリア! この方々が私を助けてくださいました。こちらは……」
「あなた達は、星の英雄たち!! なぜあなた達が帝国内へ!?」
「お前は、あの時の……!!」
「全員、構え!!」
グロリア率いる竜騎士団は武器を構えた。
一方、僕たちも武器に手をかけ、臨戦態勢を取ろうとした。
その時だった。
「お待ちなさい!」
そこへローラ皇女が止めに入った。
「武器を下ろしなさい、グロリア。改めて申し上げます。私は星の英雄たちの方々に助けていただきました。よって、丁重になさい」
「しかし、彼らは敵なのですよ!? 何をしでかすか分かりません!」
「そんな事は関係ありません。この方々は命の恩人なのです。あなたは命の恩人に危害を加えるのですか?」
「くっ……申し訳ございません。全員、武器を下ろしなさい」
ローラ皇女の指示により、グロリア以下竜騎士団は武器を下ろした。
「ファイン様、どうかこの者の非礼をお許しください」
「いいんです。僕たちの方こそすみませんでした。敵がいるとなれば、警戒するのも当然のことです」
「殿下、ひとまず私の領地に戻りましょう。話はそれからです」
「ええ、そうですね」
レオナルド将軍の提案により、ガイウス領に戻ることにした。
■■■■■
街に戻ると、僕はギルドに領民を救出したことを報告した。
その後、ギルドから謝礼金が支払われた。
ただし、正式に依頼を受けた訳ではないため、報酬ではなくあくまでも謝礼金ということになった。
そして、レオナルド将軍の屋敷で改めて話し合うことになった。
屋敷には、レオナルド将軍の他、皇女ローラや騎士グロリアといった主要人物も入った。
「ファイン様、この度は私を助けていただいた事を改めて感謝いたします」
「お気になさらず。当然のことをしたまでです」
「突然ですが、お願いがあります。どうか私を、ローランド王国に連れて行ってください!」
「え?」
皇女の突然の要望に、僕は驚かされた。
しかし、その直後ローラ皇女はさらに驚くべきことを言う。
「私は、兄を……皇帝ゴスバールを裏切ります!」
「なんですって!? 殿下、本気なのですか!?」
グロリアは、皇女ローラの言葉に驚いていた。
そんなグロリアとは対照的に、レオナルド将軍はやりとりを静かに聞いていた。
「私は本気です。あなたもわかっているでしょう、グロリア。兄のやり方は悪逆非道です」
「しかし、陛下を裏切ったら、何をされるかわかりません」
「どちらにしても、同じことです。私は、兄に裏切られました」
「なんですって?」
「私を誘拐した賊たちは……おそらく帝国軍の親皇帝派の者が雇った者たちです。おそらくは兄の指示でしょう。兄に対し、戦争に異を唱えた私を邪魔者と判断し、密かに始末するように命じたのでしょう」
「殿下、おそらく殿下を誘拐するよう指示を出したのは【炎のヴォルト】と思われます。先日、ヴォルトは陛下の命で私を処刑しようとしていました。しかし、ヴォルトは突如現れた星の英雄たちによって倒され、事なきを得ました。確証はありませんが、おそらくはヴォルトの仕業でしょう」
「そんな事が……」
「帝国国民は戦争など望んでおりません。一刻も早い平和を願っています。それに、このまま帝国にとどまっていても、いずれ私は殺されるでしょう。ですから、私はローランド王国に行きます」
皇女ローラの決意は固いようだ。
そう簡単に考えを曲げることはできないだろう。
「あなたの考えはわかりました。僕が何とかしましょう」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ただし、今すぐと言う訳には行きません。それにあなたが王国に対するスパイの可能性もあるため、今は完全に信用しきることができません」
「ちょっとファイン……!」
「ファイン殿! いくらあなたが殿下の命の恩人だからと言って、無礼は許しません!」
グロリアは腰から剣を抜こうとする。
すると、皇女ローラはそれを手で制止した。
「いいのです。私はあなた方にとっての“敵”なのですから、警戒されて当然のことでしょう」
皇女が王国に対するスパイという可能性は低いが、念のために警戒しておいた方が良いだろう。
そのことにルナは批判的だが、まだ出会って間もない人を完全に信用しきるのは危険だ。
まして、敵対する国の人間ならば尚更だ。
そのため、王国に着くまでは厳重に監視するつもりだ。
「今はアポロ・セラフィー将軍が率いる王国軍が帝都に向けて進軍しているはずです。とりあえず、話し合いのために王国軍に合流するのはいかがでしょうか」
「わかりました。それでお願いします」
僕たちだけで判断し、独断で行動するとトラブルの原因にもなる。
そこで、王国騎士団長であるセラフィー公爵と話し合うつもりだ。
皇女ローラもそのことに同意した。
「私も是非ご同行させてください。私はローラ殿下に忠誠を誓った身です」
「私もお供いたしますぞ、殿下。これ以上、皇帝陛下の暴挙を許す訳には行きません」
「グロリア、レオナルド……ありがとうございます。あなたたちのような有力者が来てくれれば、心強いです」
二人の騎士たちも、皇女ローラと共に行動すると言う。
「ですがその前に、兵士たちにもこの事を話してきます」
そう言って皇女ローラは、帝国の兵士たちを集めた。
そして、屋敷の広い地下室に全員が集まった。
「私、ローラ・フォン・グランヴァルは、光のレオナルドや騎士グロリアと共に兄・ゴスバール・フォン・グランヴァルを裏切ります。そして、星の英雄たちの皆さんと共にローランド王国へ行きます」
突然の皇女からの発表に、帝国兵たちからもどよめきの声があがる。
「兄はこの戦争を、自らの野望を実現させるための手段としてしか考えていません。ですが、民はそんな事は望んでいません。一刻も早い平和を願っています。それは私とて同じ事です。そこで私はローランド王国へ行き、兄と敵対するつもりです。しかし、私だけでは力不足です。そこで皆さんに協力を要請したいのです。私と共についてきていただける方はいないでしょうか? ですが、私について来た場合、祖国を裏切ることになります。かつての同胞と敵対することにもなるでしょう。強制はしません。ですが、少しでも多くの方々に協力して欲しいのです。どうか、お願いします」
話を終えると、皇女ローラは深々と頭を下げた。
静寂がその場を包み込む。
帝国兵たちはお互いの顔を見合わせる。
しばらくすると、一人の帝国兵が出て来た。
「私も皇女殿下に同行します。いや、同行させてください」
「あなたは?」
「第13独立部隊所属、フィリップ少尉と申します。確かに、殿下のおっしゃる通り、皇帝陛下のやり方は悪逆非道です。実は帝国軍内部でも、この戦争に疑問を抱く者は少なからずいます。これ以上戦争が長引けば、帝国軍、王国軍ともに疲弊します。ですから、私たちも戦争の早期終結を願っています」
「フィリップ……ありがとうございます」
「私も殿下に付いて行きます!」
「僕も付いて行きます!」
「俺も!」
フィリップに続いて他の兵士たちも協力を申し出た。
結局、この場にいる全ての帝国兵たちが、皇女ローラに付いて行くことを決意した。
それだけ、この皇女のカリスマ性は絶大と言う事なのだろう。
それと同時に、王国に対する味方がまた増えるということだ。
「みんな……ありがとう!」