第113話 敵国の民を救え
レオナルド将軍の屋敷に泊めていただいた翌日。
僕たちはガイウス領を出発し、帝都に向けて旅を再開しようとしていた。
レオナルド将軍も皇女を捜索するため、領地を出発した。
街を出ようとすると、冒険者ギルドがあることに気がついた。
「ねえ、ファイン。さらわれた皇女様の情報をギルドで聞いてみましょう」
「皇女を助けるつもりか? 僕たちはこれから帝都に向かわなければいけない。残念だが、皇女を捜索する時間はない」
「きっと皇女様はどこかで助けを求めているわ。お願い、皇女様を助けに行きましょう」
「……わかった。ただし、有力な情報は得られないかもしれないが、それでもいいか?」
「ええ。それでも構わないわ」
皇女を助けたいというルナの意見に従い、僕たちは冒険者ギルドに入ることにした。
ギルドは冒険者らしき人々で賑わっていた。
これからクエストを受けに行くようだ。
「これは……?」
そこで、僕は行方不明になったガイウス領民の捜索依頼の張り紙を目にする。
しかも、行方不明になったのは女性や子供ばかりらしい。
十中八九、何者かに誘拐されたのだろう。
冒険者たちの間でも、行方不明たちを案じる声が上がっていた。
「この人たちを探しに行きましょう」
ルナは突然、行方不明になったガイウス領民を捜索しようと言い出す。
「皇女はどうするんだ?」
「皇女様も探すわ。でもその前に、行方不明になった領民さんたちを助け出さないと。女の人や子供ばかりだって言うから、きっと怖い思いをしていると思うわ」
「助けにいくのはいいが、手掛かりが少なすぎる。どこへ攫われたのか分からないぞ」
「大丈夫、手掛かりならあるわ」
「?」
そう言うと、ルナは突然冒険者ギルドを出た。
そして、ルナは僕たちを街の広場へと連れて行った。
「これを見て」
街の中には、この地域周辺を現す地図があった。
こんな物があったとは。僕はこの地図を見落としていた。
そして地図によると、ガイウス領の西には森がある。
その森の中には、洞窟があるようだ。
「街の西に洞窟があるのか。ここに領民たちが攫われたと言うのか?」
「そうよ」
「そうか、なるほど。連中の狙いがわかったぞ。魔物だらけの洞窟に、わざわざ人は近づかない。それを逆手に取って、領民たちを攫ってここに逃げ込んでいる可能性が高い。よし、それじゃあ早速向かうとするか」
「おう!」
僕たちは早速、ガイウス領民たちを救出するために街を出た。
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ガイウス領から馬に乗り、西を目指した。
これから、誘拐された人々の救出に向かう。
被害者の多くは、非力な女性や子供だという。
大方、奴隷商にでも売って、高い金を得るつもりなのだろう。
決して許せる行いではない。
問題は、なぜわざわざ洞窟に逃げ込んだかだ。
おそらく、魔物だらけで人々が寄り付かない場所を選んだのだろう。
いずれにせよ、何としてでも救い出さなければいけない。
そして、森の中へと進む。
出発から2時間が経過し、目的の洞窟に到着した。
「ここが例の洞窟だな。よし、この洞窟に入るぞ」
僕たちは早速、洞窟の中に入ることにした。
暗闇の洞窟を、灯火で照らしながら進む。
天井には、【洞窟コウモリ】というモンスターがいた。
数は3匹いる。
ケイブバットはその名の通り、洞窟に生息するコウモリだ。
目はほとんど見えないが、音に敏感である。
また、好戦的ではないが、刺激したり手を出すと攻撃してくるという。
ユリウスの魔物図鑑で見たことはあるが、実際に見るのは初めてだ。
ケイブバットたちは、僕たちに襲いかかってきた。
しかし、ルナがケイブバット3匹を、まとめて剣で切り捨てた。
しばらく進むと、今度は3体のウェアウルフに遭遇した。
ウェアウルフたちはこちらに向かって走って来た。
「ここはオレに任せな!」
そう言うと、ヒューイは前に出た。
ウェアウルフたちは、一斉にヒューイに襲いかかる。
しかし、ヒューイは斧で2体のウェアウルフを一気に両断した。
残る一体がヒューイに飛び掛かるが、ヒューイは盾で受け止めた。
「ヘッ! 残念だったな!」
そして、そのままウェアウルフを盾で壁面に叩きつけた。ウェアウルフは昏倒した。
それから、ひたすら洞窟を突き進む。
今度は、ミノタウロスに遭遇した。
ミノタウロスは僕たちを見るや否や、斧を構えて向かって来た。
僕は剣を抜いてゆっくり前進した。
ちなみに、ミノタウロスは大抵単独で行動していることが多い。
余程自分の腕に自信があるのだろうか。
ミノタウロスは僕に近づくと、斧を振り下ろした。
衝撃により、地面から土煙が発生した。
しかし、僕は一歩右に動くことで、ミノタウロスの攻撃を躱した。
その直後、ミノタウロスの太い右腕が切れ、そのまま地面に落ちた。
「ギャアアアアアアアアア!!!」
ミノタウロスはたまらず悲鳴を上げる。
腕を切り落としたのは、もちろん僕である。
ミノタウロスの攻撃を躱すと同時に、右腕を切断していたのだ。
僕はミノタウロスの首を斬ってトドメを刺した。
それから、僕たちは洞窟の地下深くへと進んで行く。
「本当にこんな所にいるのか?」
暗闇の洞窟をひたすら突き進む。
時折、モンスターと遭遇するため、ここに人が逃げ込むとは思えない。
この洞窟は外れではないのか、ここには攫われた人々はいないのではないかと、少しずつ不安になってきた。
しかし、その心配は杞憂だった。
洞窟の奥へ行くと、8人の賊らしき連中がいた。
賊どもは、剣やナイフなどで武装している。
そして、賊の後ろには、数人の女性や子供たちがいた。
どうやら、領民たちが攫われたというのは本当だったようだ。
「なんだおめぇらは!?」
「お前たちがガイウス領民を攫った賊どもだな?」
「ああ、その通りだぜ。こいつらは奴隷商に高く売るつもりなんだよ。だが、冒険者や軍の捜索隊が出ているって話だからな。オレたちは追っ手から逃れるために、わざわざこの洞窟に避難したワケよ。モンスターだらけのこの洞窟なら、人が立ち入らないと踏んだワケよ」
賊のリーダーらしき男は、自分たちの悪事をあっさりと白状した。
それと同時に、賊どもは武器を構えた。
「だが、見つかったからには、てめぇらは生かしてはおけねぇな! 野郎ども、やっちめぇ!!」
そう言うと、賊どもは僕たちに襲いかかってきた。
僕たちは賊と戦闘になった。
僕は剣を抜いて応戦する。
向かってくる賊たちを、次々に切り捨てる。
1体1体の強さはさほどでもない。
途中で一人の賊と、剣と剣でぶつかり合う。
すると、後方から別の賊がとびかかって来た。
しかし、ルナが2人の賊をまとめて倒してくれた。
チームワークならこちらも負けてはいない。
「お前らみたいな悪いヤツらは、オレ様がまとめてぶっ飛ばしてやるぜ!」
ヒューイが残った賊たちをまとめて片づけた。
「な、なんだ……おめぇらッ……ただの人間じゃあ……ねえッ」
そして、賊の撃退に成功した。
賊に攫われたガイウス領民たちの救出に成功したのだ。
捕らわれていた人々の中には、ひと際目立つ女性がいた。
「私はローラ・フォン・グランヴァル。グランヴァル帝国の皇女です。民を代表して、助けていただいたことを感謝いたします」
何と、その女性はグランヴァル帝国の皇女と名乗った。