第111話 光のレオナルド
【レオナルドの過去回想~18年前】
英暦285年。
ワシは18年前の第一次王帝戦争時から、六大帝将として帝国軍を率いていた。
20年以上前に当時の皇帝陛下より、光の地位を授かって以来、皇帝陛下に忠誠を誓ったのだ。
18年前のある日、ワシはローランド王国に侵攻しようとしていた。
グランヴァル帝国は世界最強の国。
技術力においても、軍事力においても、帝国に敵う国はいなかった。
今回の侵攻作戦も帝国が勝つであろう。
【あの男】が現れるまでは、そう思っていた。
開戦から早2年。
帝国軍は順調にローランドを侵攻しつつあった。
ところが、帝国の優勢は徐々に崩されて行った。
ローランド側には、剣士ランスロットと大魔道士ユグドラという、二人組のS級冒険者が現れたというのだ。
二人の存在は帝国軍内部でも囁かれていた。
この二人の活躍により、帝国に占領されていた各国は次第に奪還されて行ったという。
そんな話は、にわかには信じがたいと思っていた。
だが、ランスロットと戦うことで、次第にその話を信じざるを得なくなった。
そして、ワシはランスロットと実際に対峙することになる。
「帝国の将軍とお見受けした」
「私は六大帝将の一人、レオナルド・フォン・ガイウス。皇帝陛下より光の地位を授かった。【光のレオナルド】とも呼ばれている」
「俺はランスロット。S級冒険者だが、今は戦時中ゆえに王国軍に協力している」
ランスロットは剣士の名の通り、剣を装備している。
そして、鎧兜を纏っており、素顔は見えない。
ランスロットは信じがたい提案をしてきた。
「将軍レオナルド、悪いことは言わない。戦いを辞め、軍を撤退させてはくれないか? 今ならまだ間に合う。命だけは助けてやろう」
ランスロットは敵であるワシに対し、逃げろと言って来たのだ。
しかし、ランスロットに対するワシの答えはこうだ。
「残念ながら、その提案は呑めぬ」
「戦争は愚かだと理解しておきながら、なぜ戦う? なぜ大勢の死人がでるとわかっていながら……」
「私は皇帝陛下に忠誠を誓った身だ。例え、如何なる犠牲が出ようとも、退くことは出来ぬ」
「そうか、ならば仕方がない。敵が攻めてくる以上、こちらも戦わねばならぬ。許せ、ここから先は容赦はしない!」
そう言うと、ランスロットはワシに接近してきた。
そして、剣による斬撃を放った。
ワシは自身の剣で斬撃を受け止めた。
「ぬう!? このパワーはッ!?」
ランスロットの力は想像以上だった。
これ程の力を持った人間がいるのかと、当時ワシは思った。
ワシは一旦、ランスロットから距離を取ることにした。
しかし、ランスロットは猛スピードで再びワシに迫って来た。
まるで、鎧など装備していないかのような、非常に俊敏な動きであった。
そして、ワシに対して激しい剣戟を浴びせる。
ワシはランスロットに対して防戦一方になっていた。
ワシとて六大帝将の一人。生半可な訓練はして来なかったつもりだ。
何とか隙を見て反撃に出ようと、剣を振るった。
「ぐおおおおおっ!?」
ところが、ワシはランスロットに右腕を斬られてしまった。
そして、ランスロットはワシにとどめを刺そうと右腕を上げた。
「覚悟」
その直後、誰かが馬でランスロットに突撃した。
「うおおおおおおっ!!」
「ぬう!?」
「ご無事ですか、レオナルド将軍!!」
「アイザック!?」
現れたのは、当時部下だったアイザックであった。
アイザックは果敢にランスロットに挑んだ。
アイザックは当時22歳。
まだワシの部隊の副隊長に任命されたばかりであった。
「衛生兵! レオナルド将軍をお連れしろ! こいつは私が引き受ける!!」
「はっ、副隊長殿!」
「よせ、アイザック!! お前ではヤツに到底敵わん!!」
「大丈夫です、レオナルド将軍! 時間くらいは稼いで見せます!!」
ワシは衛生兵たちに連れていかれた。
その直後、ランスロットに挑んだアイザックは、馬ごと無残に切り刻まれた。
アイザックは呆気なく戦死してしまった。
「アイザーーック!!」
その後、アイザックや衛生兵に助けられたワシは一命を取り留めた。
しかし、ワシは今でも後悔している。
右腕を失ったからではない。
多くの部下たちの命を失ったからだ。
ランスロットの提案通り、軍を撤退させれば多くの部下を死なせずに済んだのではないかと、今でも後悔している。
この出来事がきっかけで、ワシは戦争の愚かしさを改めて学んだ。
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レオナルド将軍の話は終わった。
ルナとセレーネは終始真剣に話を聞いていた。
しかし、ヒューイは居眠りをしていた。
「ヒューイ……!」
「ん……」
僕はヒューイを叩き起こした。
人が真剣な話をしているというのに、よく眠れるな。
「ホッホッホッ、若者には些かつまらぬ話であったかな?」
そんなヒューイを、レオナルド将軍は怒りもせずに笑った。
その直後、レオナルド将軍は少し険しい表情に戻った。
「戦争というのは、実に愚かしい行為だ。あの時の悲劇を繰り返さない為にも、一刻も早く終わらせねばならん」
「そうですね」
「ところでワシは、明日からまた皇女殿下の行方を捜索しようと思う」
「僕たちに何かお手伝いできることはありますか?」
「ありがとう。だが、お主らのその気持ちだけで十分じゃよ」
「そうですか。宛てはあるのですか?」
「軍には多くの親皇女派の者がいる。大丈夫、必ず見つかるよ」
レオナルド将軍は明日、再び皇女の捜索を再開するという。
「ところで、お主らは今後どうするのだ?」
「帝都へ行き、皇帝の野望を打ち砕こうと思います」
「そうか。今の皇帝陛下は世界を支配しようとしている。お主らならあるいは……。帝国の民も心から平和を願っている。ワシからも頼む。どうか皇帝陛下の野望を止めてくれ」
レオナルド将軍は頭を下げた。
「顔を上げてください、レオナルド将軍。僕たちは明日にでも出発し、帝都を目指そうと思います」
「ああ。だが、今夜はワシの家に泊まっていくが良い」
「ありがとうございます」
夜も更けて来た。
レオナルド将軍は、今夜は僕たちを泊めてくれるという。
そのため、僕たちはレオナルド将軍のご厚意に甘え、屋敷で休ませてもらうことにした。