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英雄たちの物語 -The Hero's Fantasy-  作者: おおはしだいお
第3章 帝国との戦い
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第109話 ヴォルト、再び

 闇の精霊シェイドと契約した僕たちは、帝都オストに向けて再び北上する。

 もうすぐ森林地帯を抜けることができる。

 しかし、森林を出る直前に異変に気が付いた。


「止まれ」


 僕は仲間に止まるように指示を出した。

 森の外には、軍隊がいるのが見えた。

 どうやら、帝国軍のようだ。

 数こそ10人前後でそう多くはないが、今は帝国軍に見つかりたくはない。

 そのため、木陰に隠れて様子を窺うことにした。


「どうしたの?」

「軍隊だ。十中八九、帝国軍だろう」


 馬に乗った帝国騎兵の中に、見覚えのある人物がいた。

 それは、オレンジ色の髪をした巨漢の男だった。


 そう、六大帝将の一人【炎のヴォルト】である。


 彼はヒューイとの戦いで重傷を負った。

 しかし、たった数日で回復しているとは。

 帝国に優秀な癒し手(ヒーラー)がいるのか、或いはヴォルト自身が余程タフだからなのか。

 いずれにせよ、ヴォルトが復活しているのは事実だ。

 だが問題は、炎のヴォルトがこんなところで何をしているのかと言うことだ。


 よく見ると、ヴォルト率いる帝国軍の対面には、馬に乗った一人の老人がいた。

 老人は、白髪に白髭であった。

 そして、鎧を着用していることから、その老人も帝国の軍人か何かのようだ。

 恐らく、年齢的に将軍クラスの人物と思われる。

 ヴォルト率いる部隊は、なぜか武器を構えていた。

 僕は木陰から耳を澄ませ、ヴォルトと老人の会話を聞くことにした。

 すると、会話が聞こえてきた。


「レオナルド将軍、皇帝陛下よりあなたを国家反逆罪で処刑せよとの命令が出ている。覚悟してもらおうか」

「ワシは、行方不明になった皇女殿下を捜している。皇女殿下は恐らく、何者かによって攫われたのだ。ワシのことなどどうでもよい。しかし、ヴォルトよ、どうか皇女殿下だけはお前がお助けしてくれ! 頼む!!」


 老人は、ヴォルトに【レオナルド将軍】と呼ばれた。

 レオナルドとは六大帝将の一人で、光の地位を授かっている。

 18年前の王帝戦争でも活躍し、様々な戦いで功績を挙げたと言われている。

 そして、年老いた今でも現役で活躍しているようだ。

 レオナルド将軍は、皇女が攫われ行方不明になったと言う。

 そんなレオナルドを、ヴォルトは国家反逆罪で処刑すると言う。

 一体、レオナルド将軍は何をしでかしたのだろうか。


「皇女殿下が攫われた? なるほど。ならば、尚更その責任をあなたに取ってもらおう。無論、死をもってしてな!」

「まさか、皇女殿下が行方不明になったのは、貴様らの仕業か!?」

「あなたの時代は終わったのだよ、ご老体。さらばだ、レオナルド将軍!」


 炎のヴォルトは大剣を抜き、今まさにレオナルド将軍を処刑しようとしていた。

 皇女行方不明の件について、レオナルド将軍に濡れ衣を着せるつもりのようだ。

 あくまでも帝国同士。即ち僕たちの敵ということだ。

 レオナルド将軍がいなくなれば、敵が減るということで、王国側にとっても少し有利になるだろう。

 しかし、敵とは言え、目の前で人を見殺しにするというのも気分が悪いと言うもの。

 それに、レオナルド将軍を助ければ、帝国軍の戦力など重要な情報を聞けるかもしれない。

 そのため、僕は馬で帝国軍のもとに駆けつけることにした。


「待てーッ!!」

「貴様らは……星の英雄たち(スター・ヒーローズ)!? ちっ、みすみす帝国への侵入を許すとは……クロノスめ、敗れたか!」

「弱い者いじめとは、みっともねぇな!」

「お前は、ヒューイ・サウスリーか!」

「よお、久しぶりだな。炎のヴォルト! オレはお前に、もう一度タイマンを挑むぜ!」

「……いいだろう。丁度俺もお前との再戦に臨みたいと思っていたところだ!」


 ヒューイは再び、炎のヴォルトとの一騎討ちに臨む。

 一方、僕たちは配下の兵士たちを一掃することにした。


「お主らは……!?」

「下がっていろ、レオナルド将軍。彼らの相手は僕たちがする!」


 僕はそう言うと剣を抜き、帝国軍の前に立ちはだかった。


「血迷ったか? 敵を庇うなどと、正気とは思えんな!」


 帝国兵の一人がそのように話す。


「いいや、至って正気さ。ただ、目の前で人を見殺しにするのは気分が良くない。そう思っただけさ」

「フン! まあいいだろう。レオナルド将軍もろとも、貴様らも葬り去ってやろう! そうすれば、皇帝陛下の我々に対する評価も上がるというもの。そうすれば、俺たちの出世も間違いなしだ! 行くぞ!」


 帝国兵たちは、一斉に僕たちに向かってきた。

 好戦的なのはいいが、相手の力量も測れないようでは戦いには勝てない。

 そして何より、以前に比べると質も量も大したことはない。

 戦いはすぐに終わるだろう。


 僕は向かって来る帝国兵に、風斬刃(ウィンドブレイド)を放った。

 帝国兵の首は真っ二つになった。

 生き残った兵士たちは、驚いて足を止めた。


「よ、よくも……!!」

「真正面から向かって来るからいけないんだよ」

「くっ、怯むな! 数はこちらの方が上だ!!」


 残りの帝国兵たちは自分たちを鼓舞すると、僕に向かって走って来た。

 すると、ルナが前に出てきてすれ違いざまに帝国兵たちを斬り捨てた。

 今のルナの攻撃で、3人の帝国兵が倒れた。


 敵の後方からは、矢や魔法が飛んで来た。

 弓兵や魔法使い(メイジ)が何人かいるようだ。

 僕は結界バリアーで攻撃を防ぎ、稲妻矢サンダーアローで後方の敵に向かって放った。

 後衛の敵に雷が降り注ぐ。後衛は一瞬で倒れた。

 後は残っている前衛の敵を排除するだけだ。


「ダメだ、やはり歯が立たない! おい、お前! 帝都に行って駐留部隊に報告し、援軍を頼め!」

「わかった!」


 帝国兵の一人が逃げ出した。

 しかし、一人として逃がすことはできない。

 逃げられて、仲間に僕たちのことを報告される訳には行かない。


「逃がすか!」


 僕は戦線離脱した帝国兵に対し、氷の矢(アイス・アロー)を放った。


「ぐあっ!!」


 氷の矢(アイス・アロー)は兵士の後頭部に直撃し、そのまま馬から転げ落ちた。


「背後が隙だらけだぜ!」


 すると、背後から敵が迫って来た。

 僕は振り向いて、カウンターの刺突を放った。

 そして、残りの敵たちもルナが倒してくれたようだ。

 これで、ヴォルトを除く帝国兵たちを全て倒した。

 後はヒューイを援護し、炎のヴォルトを倒すだけだ。


■■■■■


【ヒューイ視点】


 オレは炎のヴォルトに再びタイマンを挑んだ。

 前回も一応オレが勝ったことになっているが、あれはオレだけの力ではない。

 あの時はファインやセレーネに助けてもらったから、何とか勝てた。

 つまり、『不完全な勝利』というワケだ。

 だから、今回こそはオレ自身の力でヴォルトに勝ちたいところだ。


「さあ、行くぜ! 炎のヴォルト!」

「いつでも来い!」


 オレは斧を構えてヴォルトに向かって走った。

 そして、ヴォルトに対して思いっきり斧を振り下ろした。

 しかし、ヴォルトは大剣でオレの一撃を防いだ。

 そこまでは予想できたが、ヴォルトは徐々にオレを押し返していく。


「な、なんだ!? このパワーは!?」

「当然だ。あれから、俺はお前に負けまいと鍛練を積んだのだ。今度こそ、俺はお前に勝つ!!」


 炎のヴォルトは明らかに以前よりも強くなっていた。

 やばいと思ったオレは、一旦ヴォルトから距離を取った。


「灼熱爆炎斬!!」


 ヴォルトはすかさず、灼熱爆炎斬を放った。

 凄まじい炎がオレに迫ってくる。

 しかし、オレは間一髪でかわした。


「ふう~、今のはさすがに危なかったぜ」

「ほう、今の攻撃をかわすとはな」

「当ったり前よ! あれからオレは、お前に勝つためのシミュレーションをずっとしてきたんだぜ! そう簡単に負けるわけないぜ!」

「なるほど、良い心掛けだ。それでこそ、俺の“ライバル”だ!」

「おう! どんどん行くぜ!」


 オレは再びヴォルトに向かって走って行った。


「また走って近づくか。だが、動きが単調だな!」


 オレが近づいたところで、ヴォルトは大剣を振り下ろした。

 しかし、オレはこれを待っていた。

 敢えて自分から攻撃せず、相手から攻撃させることで隙を作らせた。

 オレはヴォルトの攻撃を横に動くことで回避した。

 そして、ヴォルトに斧で攻撃した。


 オレの一撃が、ヴォルトに当たった。

 しかし、ヴォルトは相当頑丈なのか、手応えはまるで鋼のように硬い。

 直後、ヴォルトの大剣がオレの脇腹に当たった。

 鎧のお陰で傷こそ深くはなかったが、オレは血を吐いた。

 そして、ヴォルトはオレの腹に蹴りを入れた。

 オレとヴォルトとの間に、少しだけ距離が出来る。


「灼熱爆炎斬!」

「ぐおおおおおおッ!!」


 そして、ヴォルトはすかさず灼熱爆炎斬を放った。

 オレは大ダメージを受け、後方に吹き飛ばされてしまった。

 だが、オレは膝をつきながらも、何とか起き上がった。

 これしきのことで、倒れる訳には行かない。

 丁度その頃、帝国兵たちをやっつけたファインたちが駆けつけてきた。


「大丈夫か、ヒューイ! 今助けるぞ!」

「ヒューイさん、援護します!」

「手を出すな!!」

「ヒューイ!?」

「これはオレたちのタイマンだ。今日こそオレ自身の力で勝ってみせる!! うおおおおおお!!!」


 オレは雄叫びを上げた。

 すると、オレは自分の周囲を炎のような凄まじいオーラに覆われた。

 それに、今まで以上に力がみなぎってくる。

 なるほど、これが『闘志』か。


「ほほう、そんな力を隠しもっていたとはな」

「オレも驚いたぜ。なんせ、今初めて出したからな!」

「なるほど、追い詰められて覚醒したという訳か。だが、いいぞ! それでこそ俺のライバル! 俺も全力で答えることにしよう!」

「さあ、行くぜ! うおおおおおおッ!!!」


 オレは炎のヴォルトに向かって走って行った。


「灼熱爆炎斬!!」


 ヴォルトを大剣を振り下ろし、灼熱爆炎斬を放った。

 凄まじい炎がオレを襲った。

 だが、オレは怯まずそのまま走り続けた。


「なにっ!?」

「うおおおおおおおお!!!」


 そして、ヴォルトに向かって斧を思いっきり振り下ろした。


「破断岩斧!!」


 斧はヴォルトに直撃した。

 手応えはバッチリだ。

 ところが、ヴォルトは血だらけになりながらも、再び立ち上がった。

 やっぱダメか。

 そう思った直後、ヴォルトは突然倒れた。


「見事だ……どうやら、俺の負けのようだ。お前が勝者だ」

「ありがとよ、ヴォルト。オレもお前と戦えて楽しかったぜ」

「お前こそ、真の『戦友とも』だ……最後にお前のような強者と戦えたことを……誇りに思うぞ」

「ああ。オレもお前のことは一生涯忘れることはないだろう」

「さあ、行け。星の英雄たち(スター・ヒーローズ)よ。お前たちなら、皇帝陛下の野望を止められるかもしれん」


 炎のヴォルトはそう言うと、力尽きた。


「敵との友情を育むか……儚いな。戦争がなければ、敵同士でなければ真の意味で友情を勝ち取れただろうに」

「ああ、そうだな」


 その後、オレはファインの同意を得て、ヴォルトの遺体を火葬することにした。

 ヴォルトの好きな『炎』だ。

 アイツの魂も、あの世で喜んでいるに違いないだろう。

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