第107話 暗黒騎士団
帝国に向けて登山を進めている。
国境付近に差し掛かった時、7人の帝国騎士団に遭遇した。
どうやら、帝国軍の奇襲部隊のようだ。
この山道を通り、ローランド王国へ奇襲するつもりだったようだ。
やはりこのルートを選んでおいて、ある意味正解だった。
「私たちは帝国軍所属【暗黒騎士団】。帝国の中でもエリート中のエリートだ。そして、私はそのリーダーにして、六大帝将の一人【闇のクロノス】だ」
闇のクロノスは、六大帝将の中でも素性がよく分かっていない人物である。
ルナがクロノスと一騎討ちを開始する。
それと同時に、僕たちは配下の騎士たち6人との戦闘に突入する。
「僕が3人を相手する。ヒューイは残りの3人を頼む」
「おう!」
「セレーネ、ヒューイの援護は任せた」
「任せてください」
セレーネはまず、全員に防御鎧をかけた。
「我らは帝国軍の中でも、精鋭中の精鋭だ。我々に勝てるとでも思っているのか?」
「随分な自信だな。試してみればわかる」
僕はまず敵に向かって、風斬刃を放った。
しかし、敵の盾によって防がれた。
こう見えても、風斬刃は鋭い切れ味を誇っている。
それを防ぐということは、あの盾は相当頑丈に作られているか、防御魔法が施されているかだろう。
「その程度の攻撃で、我ら暗黒騎士団を倒せるとでも思っていたのか? 我々も随分と舐められたものだな」
騎士の一人は得意げにそう話す。
今回ばかりは一筋縄では行かないようだ。
「今度はこちらから行くぞ!」
そう言うと、騎士たちは前進してきた。
そのため、僕も正面からぶつかり合うことにする。
敵は剣と盾を巧みに使いながら戦う。
そして連携力も高く、3人であることを利用して僕に攻撃を仕掛けてくる。
何とか隙を付いて攻撃しようとするものの、攻守において全く隙がない。
エリート中のエリートと言うだけはあり、一般兵でも強い。
やはり今までの敵のように、そう易々と首はくれない。
一旦、敵の間合いから離れることにする。
「距離を取るか。ならば、闇の衝撃波!」
敵が剣を振り下ろすと、黒い衝撃波が迫って来た。
僕は横に躱したが、直後に別の騎士が背後に回り込んできた。
そして、斬撃を放ってきた。
僕は振り向いて、敵の剣戟をガードする。
「隙だらけだぞ!」
3人目の騎士が剣を薙ぎ、黒い刃を飛ばしてきた。
言わば、暗黒版の風斬刃と言ったところか。
僕はジャンプして躱し、距離を取った。
暗黒騎士団は、実力だけでなく連携力にも優れているようだ。
「どうした? 貴様の力はその程度か? 我らを相手に手も足も出ないようだな!」
敵は得意げに挑発してくる。
腕に相当自信がある様子だ。
「僕の力を侮ってもらっては困るな」
僕はそう言って火球を放った。
しかし、敵には盾で防がれてしまった。
そして、騎士たちはまた僕に向かって接近し、剣戟を放ってくる。
僕は正面の騎士の攻撃を避けたのち、剣で反撃する。
相手は読んでいたとばかりに、盾でガードした。
「もらった!」
すると、別の騎士が僕の背後に回り込み、剣で攻撃してきた。
しかし、行動は読んでいた。
僕は背後の騎士に向かって、左手で火球を放った。
「ぬうっ!?」
さすがに敵もこの攻撃は予想外だったのか、火球は直撃した。
しかし、鎧に少し焦げ目がついた程度で、敵騎士はダメージを受けた様子はない。
僕は正面の敵に対して、左手で空気刃を放った。
相手は素早い反応で回避する。
その直後、右方向から3人目の騎士が接近。
そして、そのまま刺突してくる。
僕はジャンプで躱すと、上から氷の槍を放つ。
3人目の騎士は散開して避けた。
「ふん、思ったよりはやるようだな!」
「暗黒騎士のくせにしては、よく喋るようだな」
僕は稲妻矢を放つ。
しかし、僕の魔法は盾で防がれてしまった。
稲妻矢は雷属性故に、金属製の盾で防いだとしても感電してしまう。
それを完全に防御できるということは、やはりあの盾は防御魔法がかけられている可能性が高い。
ちなみに、クロノスは盾を装備していなかった。
リーダーゆえに余程の自信があるのだろう。
「その盾……防御魔法がかけられている盾だろう? そうでなければ感電死してしまうからな」
「その通り。確かに我ら暗黒騎士団の持つ盾は、強力な防御魔法がかけられた特別品だ。もっとも、知ったところで貴様に成す術はあるまい!」
「ありがとう。死ぬ前に教えてくれて」
「なんだ、もう諦めたのか。潔いな? ならば、お望み通り殺してやろう!」
そう言うと、騎士たちはまた僕に向かって接近して来た。
僕は再び稲妻矢を放つことにする。
「稲妻矢」
「また雷魔法か? 無駄だ。何度やっても同じ結果よ!」
敵はその場に立ち止まり、盾をかざした。
僕は指先から稲妻矢を放った。
そして、雷は盾に直撃した。
「ぐわああああっ!? バ、バカな……なぜ魔法が通じるのだ……?」
「冥途の土産に教えてやる。先程、僕がお前たちの盾の魔法構造を解析し、そして防御魔法を解いておいた。したがって、その盾はただの重い飾りだ」
「な、なんだと……!?」
「だから言ったんだ。死ぬ前に教えてくれてありがとう、とな」
「まさか、死ぬのは俺たちの方……」
僕は喋っている敵の首を、容赦なく剣で斬り捨てた。
「や、野郎!!」
仲間がやられて動揺したもう一人の敵が、僕に向かって突撃してきた。
「う、動けん!?」
仲間を失い、冷静さを失った敵は突っ込んできた。
それを予測し、事前に麻痺罠を仕掛けておいた。
そして、その予測は見事に的中した。
僕は罠にかかった敵の首も剣で刎ねた。
「バ、バカな……」
「どこを見ている?」
「なにっ!? がはっ……!!」
3人目の敵は同様している隙に、瞬間移動で背後に回った。
そして、赤熱剣で胴体を貫いて殺した。
その頃、ヒューイが残りの騎士3人を相手に苦戦していた。
「ちっ、なかなかやるじゃねえか……」
「その程度か? 一気に畳みかけるぞ!」
3人は今、一斉にヒューイに向かって突撃していた。
「ヒューイ、下がれ!! 一気に片付ける!」
僕が剣を掲げると、ヒューイは察したのかすぐに後退する。
そして、剣を振り下ろした。
「稲妻斬撃!!」
稲妻の剣が、敵の騎士たちに突き刺さった。
「「「ぐわああああああああッ!!」」」
騎士たちは断末魔の悲鳴をあげて倒れた。
「ルナ!!」
後ろを振り向くと、ルナがクロノスに追い詰められていた。
ルナは剣を失い、今まさにとどめを刺されようとしていた。
僕はクロノスの目の前に瞬間移動し、剣戟を受け止めた。
「ぬう!?」
「よくもルナをいじめたな! うおおおおおおッ!!」
僕は身体強化を行い、クロノスを追い詰める。
そして、剣のガードを崩した隙に、赤熱剣で胴体を貫いた。
しかし、クロノスは右手を動かした。
嫌な予感がしたので、僕はすぐに身を退いた。
すると、クロノスは剣で斬撃してきた。
しかも、この素早く力強い動きは、負傷者では到底できない動きであった。
「バカな……こいつ、致命傷のはずだ……!?」
そうでないにしても、こんなに激しく動けるはずがない。
クロノスが剣を引き抜くと、傷口から大量の血が出て来た。
だが、出血はすぐに収まった。
「ここまで我々を追い詰めるとはな。貴様らが初めてだ。部下も失った上に、この負傷だ。今日のところは退かせてもらうとしよう。だが、この屈辱……決して忘れはせんぞ」
そう言ってクロノスは転移石を使って撤退した。
「アイツ、一体……?」
さすがに部下を失ったクロノスは撤退したが、敵に自分たちが近づいていることを報告されてしまうだろう。
「どうするの? ファイン。このままローランドに引き返すの?」
「いや、帝国まで目前だ。このまま突き進む。ここまで来て引き返すことはできない」
引き返すか仲間に相談されるが、このまま突き進むことを決意する。
この山を越えれば、帝国までもう少しだ。
こんなところで足を止める訳には行かない。
■■■■■
星の英雄たちが王都エストを出発してから2日後。
アポロ・セラフィーは軍を率いて、帝国に向けて出発しようとしていた。
「よし、全隊揃ったな。これより我が軍は、グランヴァル帝国に向けて出発する!」
アポロの号令により、王国の騎兵たちは出発した。
「なあ、父上」
「父上ではない。軍では【セラフィー将軍】と呼べと、あれ程言っただろう、フレア!」
この作戦には、息子にして同軍の騎士であるサンとフレアも同行する。
そして、出発から10日余りの時が経った。
王国軍は、まもなく国境の砦に到達しようとしていた。
国境の砦は相変わらず帝国の支配下にあり、ここを突破しなければ帝国へは入れない。
そのため、アポロは今まで以上の大軍を率いて帝国を攻略しようとしていた。
今回の戦闘では、終始王国軍がかなり優勢であった。
帝国には、六大帝将のような有力な指揮官がいなかったためである。
今までは砦の守りが堅く、突破することができなかった。
そして、砦を攻略してから僅か半日。
ついに王国軍は、帝国軍を国境から撃退することに成功したのである。
(妙だな。今まではこうも簡単に国境を突破できなかったのに)
あまりに簡単に行き過ぎたため、アポロは少し違和感を感じていた。
しかし、一日でも早く帝国に侵攻しなければならないため、アポロはその考えを捨てた。
敵に有能な指揮官がいなかったためだと割り切って、アポロは軍を帝国へと進める。