第106話 闇のクロノス
【ルナ視点】
私たちはグランヴァル帝国に向けて、登山を順調に進めていた。
もうすぐ帝国との国境なので、気を引き締めなくてはならない。
登山を進めていると、漆黒の鎧兜を装備した7人の騎士たちに遭遇した。
中央には、マントを羽織ったリーダーらしき騎士がいる。
「やはり、帝国軍か」
「如何にも。私たちは帝国軍所属【暗黒騎士団】。帝国の中でもエリート中のエリートだ。そして、私はそのリーダーにして、六大帝将の一人【闇のクロノス】だ。この前はヴォルトの部隊を退けたようだが、我々はそうはいかんぞ」
先頭の騎士は、闇のクロノスと名乗った。
クロノスは全身を漆黒の鎧兜に包んでおり、素顔は見えない。
兜の目の部分が赤く光っており、不気味さを醸し出している。
そして、声から判断するに男性のようだ。
すると、クロノスはいきなりファインに斬りかかって来た。
私は剣を抜いて、クロノスは一撃を防いだ。
ファインなら、おそらく今の一撃を防げただろうけど、念のためだ。
「ほう、女。私の剣戟を防ぐとは、大したものだ」
「不意打ちとは、ずいぶん卑怯ね」
クロノスは私たちから一旦距離を取った。
「面白い。女騎士、私と一騎討ちしろ。貴様、なかなか強そうだな」
クロノスは突然私に一騎討ちを申し込んできた。
「ルナ、応じる必要はない。ヤツは僕が相手する」
「いいえ、彼の相手は私がするわ。その勝負、受けて立つわ」
私はクロノスとの一騎討ちに臨むことにした。
その間に、ファインたち3人は部下6人の相手をすることになる。
剣を抜き、クロノスと向き合った。
「先手は譲ってやろう」
私は先手を譲られたので、クロノスに向かって走り出した。
そして、私はクロノスに向かって剣を振り下ろした。
しかし、私の剣戟はクロノスに防がれてしまった。
「ほう、なかなかの剣筋だな。しかし……!」
「何、このパワーは!?」
私はクロノスに押され始めたので、一旦距離を取ることにした。
「今度はこちらから行くぞ」
すると、クロノスが走って近づいてきた。
「氷結剣!」
私は氷結剣を放ち、クロノスに接近される前に攻撃した。
しかし、クロノスは躱して右から近づいてきた。
そして、私に肉薄して剣で斬撃して来た。
私はクロノスの攻撃を受け止めた。
クロノスは何度も斬撃を放つ。
「一撃一撃が……重い!?」
クロノスの攻撃に、私は徐々に押されて行く。
このままでは、防戦一方になってしまう。
私は一瞬の隙を突いて、クロノスの背後に回り込んだ。
そして、クロノスの首を狙って斬撃を放った。
ところが、クロノスは反転して私の剣戟をガードした。
その直後、クロノスは反撃してきたので、私は回避して一旦距離を取った。
「ほう、なかなか楽しませてくれるな」
「風斬刃!」
私は剣を横に薙ぎ、風斬刃を放った。
「なるほど、【王国式剣技】か。ならば、暗黒刃」
クロノスが剣を振ると、闇属性の刃が複数飛んできた。
そのうちの一発は、私の風斬刃と相殺した。
そして、残りの刃が私に向かって高速で飛んで来た。
私は何とか躱した。
しかし、安心したのも束の間。
クロノスはすでに私の目の前にいた。
「いつの間に!? ……ぐっ!!」
私は咄嗟に防御の構えに入った。
クロノスは私のお腹に蹴りを入れて来た。
防御鎧のおかげでダメージは軽微に抑えられた。
「いったぁ……レディのお腹を蹴るなんて、失礼よ!」
「これは殺し合いだ。失礼も何もないだろう?」
剣だけではクロノスに勝てないと私は判断した。
そこで、氷の矢をクロノスに向けて放った。
しかし、クロノスは剣で魔法を切り落とした。
「騎士でありながら、魔法も使えるのか。しかし、その程度で私を倒すことは出来ぬぞ」
「だったら……! 火炎爆弾!」
私はクロノスに向かって、火炎爆弾を放った。
ものすごい爆発が発生した。
「やった!?」
しかし、次の瞬間、爆発の中からクロノスが現れた。
そして、私に斬撃を繰り出す。
私は咄嗟に剣でガードした。
「上級魔法まで使えるのか、それも無詠唱で。貴様、相当な魔力を誇っているようだな。今のはさすがに少し効いたぞ。ローランドにも有力な戦士がいるようだな」
クロノスはそう言うが、未だにピンピンしている。
どういうテクニックを使って防いだかは分からないが、クロノスはほとんど無傷であった。
もっとも、そう簡単に倒せるとは思わなかったが。
私はもう一度、クロノスに向かって火炎爆弾を3発放った。
しかし、これは目眩ましである。
火炎爆弾はどうせ防がれてしまうので、贅沢に3発放って目眩ましにする。
爆発が晴れた瞬間に、私は本命の風斬刃を放った。
「ぬう!?」
風斬刃はクロノスに直撃した。
胸の部分には斜めに傷が入り、そこから血が出てきた。
鎧の上からでもダメージは十分。目眩ましをした甲斐があった。
「とどめよ!!」
私はすぐさまダッシュして、クロノスに接近することにした。
「暗黒刃」
ところが、クロノスは剣を振ってダークカッターを放ってきた。
鎧越しとは言え、傷はそれなりに深いはずだ。
そして、すぐに血は止まった。
ただ、回復魔法をかけた素振りは見せなかった。
「目眩ましとは、姑息な手だな。とは言え、今の攻撃はさすがに答えたぞ」
あの攻撃を受けてなお、クロノスは立っている。
演技って感じではなく、本当に平気そうである。
普通なら、あの攻撃を受けて立っていることは難しいはずである。
すると、クロノスはまた走って近づいてきた。
そして、剣を振り下ろしてきた。
このパワーは負傷しているという感じではない。
もし怪我をしているのなら、ここまでの力は出せないはずである。
自己再生能力でもあるのか。
私は一旦距離を取ることにした。
「また距離を取るか。ならば、闇の衝撃波」
そう言うと、クロノスは剣を振り下ろした。
衝撃波が地面を伝わって飛んで来た。
私は横に跳んで衝撃波を避けた。
このままでは長期戦になってしまう。
私は稲妻斬撃で決着をつけるべく、天高く剣をかざした。
「稲妻スr……」
「遅い」
クロノスは私に肉薄すると、剣で斬撃してきた。
私は間一髪のところで回避する。
「こんなに追い詰められたのは、ファイン以来かしらね」
やはり六大帝将の一人を名乗っているだけはあって、一筋縄では行かないか。
でも、だからこそ戦いは燃えるというもの。
「身体強化!」
私は身体能力を強化し、先程よりもパワーとスピードを上げた。
私は素早い動きでクロノスを猛攻する。
クロノスは防戦一方になっている。
これなら勝てる!
そう思っていた。
しかし、それは私の誤算だった。
「動きが先程よりも鈍って来たようだな。私が防御に徹していたのは、この瞬間を待っていたのだよ。攻撃を続けていれば、やがて疲労で動きが鈍くなるというもの」
そう言うと、クロノスは剣を思いっきり振った。
私は剣を落とされてしまい、丸腰になってしまった。
「もらった」
絶体絶命のピンチ。
空からは私を嘲笑うかのように、無慈悲に雷鳴が轟いた。
そして、クロノスは私に剣を振り下ろした。