第103話 粛清する者
【ディーン視点】
謹慎期間が過ぎたため、俺はゴスバール皇帝のいる城へとやって来た。
そこには、炎のヴォルトがいた。
「陛下、申し訳ございません。作戦は失敗しました。星の英雄たちによって、多くの兵士たちが戦死しました」
「そうか。下がれ」
「ハッ」
炎のヴォルトは報告を終えると、玉座の間を出ていった。
「皇帝陛下」
「地のディーンよ、何用か?」
「デブナント侯爵という貴族が、領民から不当に利益を横領しているとの情報を手にいれました。これから、私がそのデブナント侯爵を拘束しに行くのですが、是非ご許可を!」
「デブナント侯爵か。あやつは、前々から黒い噂が絶えないと聞く。よかろう、許可をする」
「はっ! ありがたき幸せ!」
俺は皇帝からデブナント侯爵を拘束する許可を得た。
不正を働く貴族は、決して許さない。俺が厳正に処罰してやる。
帝都からデブナント領までは1週間かかる見込みだ。
俺は配下の騎士たちを10名ほど集め、出発する準備を整えていた。
「よーし、全員揃ったな。黒鉄騎士団、俺に続け!!」
「「「ハッ!」」」
俺は馬に乗り、部下たちを連れて出発した。
そして、出発から1週間が経過した。
目的地であるデブナント領に到着した。
デブナント領は小さな町だ。
領民たちが不安そうに俺たちを見ていた。
町の一角には、一際大きな屋敷が建っていた。
「あれがデブナント邸か」
「はっ」
「よし、全員俺に続け。これより、デブナント侯爵を拘束する。ただし、抵抗してくる可能性があるから、警戒は怠るな」
「はっ」
俺は部下を連れてデブナント邸に乗り込むことにした。
門の前には、二人の衛兵が立っていた。
「何だ、貴様らは?」
「おい、待て! この方は……」
「私は帝国軍所属、六大帝将【地のディーン】である。デブナント侯爵に用がある。通せ」
「し、失礼いたしました!! どうぞ、お通りください」
俺が話すと、衛兵たちはあっさりと通してくれた。
そして、屋敷に入った。
屋敷では、肥満体型で頭頂部がハゲた男が俺たちを出迎えた。
「ようこそ。私がこの町の領主にして、この屋敷の主、ロベルト・フォン・デブナント侯爵と申します」
「私は帝国軍所属、六大帝将【地のディーン】だ」
「それにしても、騎士たちまで連れてくるとは物騒ですね。まあいいでしょう。立ち話も何ですし、良ければ私の執務室までご案内いたしましょう。ただし、ディーン将軍、お招き入れるのはあなただけです」
「いいだろう」
デブナントは俺一人だけを執務室まで連れて行くという。
用心深いな。
まあいいだろう。
俺はデブナントの指示通り、騎士たちを置いて一人で執務室まで向かうことにした。
「お前たちはここで待て」
「ハッ」
そして、執務室にて。
周囲にはデブナントの他、武装したデブナントの私兵らしき男たちが四人いる。
「さて、ディーン将軍。ご用件をお伺いしましょう」
「デブナント侯爵、実は貴方がこの町の領民から、不正に利益を横領していると話を聞いた。何か心当たりは?」
「そんな事実は知りませんね。何かの間違いでは?」
「……フン、とぼけても無駄だぞ、デブナント。すでに町民から話は聞いてきた。お前が毎年利益を奪っているとな」
「……なるほど、すでに調べ上げておりましたか。確かにあなたの言う通りですよ、ディーン将軍。確かに、私が町民の利益を私物化しているのですよ。ですが、それのどこに問題があるのです? この町の民は私の物です。したがって町民の利益は、私の物も同然なのですよ」
デブナントは、町民を私物化していると言って開き直った。
「町民はお前の私物ではない。お前が利益を横領しているせいで、この町の民は苦しみ、貧しい生活を強いられている」
「おやおや、だからこそ多少の金は町民に貸し与えてやっているではないですか。そうしているからこそ、町民は生活できているのです」
「とにかく、お前を皇帝陛下のもとで厳正に処罰させてもらうために拘束させてもらう。帝都まで来てもらうぞ、デブナント侯爵」
俺はデブナントを拘束することにした。
「おやおや、状況がわかっていないようですね? 私の周りには四人の私兵がいます。対してディーン将軍、あなたは一人しかいません。つまりあなたには勝ち目はありません」
デブナントはそう言うと、下の階から大きな音が聞こえた。
なるほど、初めからこれが狙いだったという訳だ。
俺を孤立させることで、絶対的優位に立ったつもりのようだ。
「悪いですが、証拠隠滅のために口封じさせてもらいますよ、ディーン将軍。行け、お前たち!」
デブナントの指示により、私兵たちが一斉に剣を抜いた。
「俺に勝てるとでも?」
「血迷いましたか、ディーン将軍。あなたは一人。対してこちらには四人もの私兵たちがいるのですよ。あなたに勝ち目はありません!」
「フッ、大した自信だな」
「その言葉、そっくりそのままお返しいたしましょう。……やれっ!」
デブナントの合図で、私兵たちが一斉にかかって来た。
初めは話し合いで解決するつもりだったんだが、こうなっては仕方がない。
俺は剣を抜き、応戦することにした。
しかし、俺は四人の私兵たちをあっさりと倒してしまった。
「な、何ぃ!?」
「当然の結果だ。俺は六大帝将【地のディーン】だ。まさか、4人程度で挑んで本気で俺に勝てるとでも思っていたのか? たかが雑兵が4人集まったところで、俺の敵ではない。さて、あとはお前だけだな、デブナント」
「く、くそ! 舐めやがって!」
俺はゆっくりとデブナントに近づく。
すると、突然執務室のドアが開いた。
入って来たのは、配下の騎士だった。
「ディーン将軍、ご無事ですか!?」
「ああ、俺は無事だ。それより、下の階はどうした? 大きな音が聞こえたが」
「デブナント侯爵の私兵と思しき集団から奇襲を受けました!」
「やはりな」
「この奇襲により、3名の騎士が負傷しました!」
「3名も負傷しただと? 警戒は怠るなと言ったはずだ!」
「はっ、申し訳ございません」
「まあいい。それよりもデブナントを拘束する」
そう言って振り返ると、デブナントは既にいなかった。
よく見ると、隣の部屋に通じているであろうドアがあった。
そのドアを開けると、下へ通じる階段があった。
「まさか……」
俺はその階段を下りた。
すると、一階には裏口があった。
デブナントが馬に乗って逃げて行くのが見えた。
「チッ、逃げたか」
「ディーン将軍! 馬をお持ちしました!」
「そうか、でかしたぞ」
部下の一人が馬を持ってきたくれた。
たまには頼りになる部下もいたもんだ。
俺は馬に乗ると、デブナントを追って森に入った。
しばらく走ると、逃亡するデブナントが見えて来た。
俺は馬の速度を上げた。
すると、デブナントもこちらに気が付いたのか、速度を上げた。
山道は木々が生い茂っている上に、カーブでデブナントが捉えにくい。
俺は何とかデブナントを捉えると、風斬刃を放った。
「ぎゃああああああっ!!」
デブナントの左足が吹き飛び、その衝撃で馬から転落した。
俺はデブナントを捕らえた。
「な、なんて酷い……」
「最初から大人しくしていれば、こんな風にはならなかったんだぞ」
そして、俺はデブナントを帝国城に連れてきた。
「ロベルト・フォン・デブナント、利益横領罪で逮捕する。そして、同時に貴様からは侯爵の爵位を剥奪する!」
「お、お許しを、皇帝陛下ぁ!!」
デブナントは皇帝ゴスバールから侯爵の爵位剥奪を言い渡された。
いい気分だ。貴族がどん底に落ちるさまを見るのは。
だが、お遊びはこれまでだ。
王国軍が攻めてくるそうなので、俺もそろそろ戦線に復帰しようと思う。