第102話 不死の者たち
炎のヴォルト率いる帝国軍精鋭部隊を撃退した次の日。
僕たち一行はゲルマ湿地帯へと足を踏み入れる。
ぬかるみで足場は悪いが、ここを通らないと遠回りになる。
そのため、僕たちは迷いなく湿地帯を突っ切ることにした。
ちなみに、今日の天気はどんよりとした曇り空である。
湿地帯を進んでいた、その時であった。
突然地面から、複数体のモンスターたちが現れた。
現れたのは、スケルトンやゾンビと言ったアンデッドだった。
アンデッドは、死んだ人間が成仏できなかった姿だと言われている。
王帝戦争ではこのゲルマ湿地帯周辺も激戦区となり、敵味方問わず多くの戦死者が出た。
そのため、このアンデッドたちは王帝戦争の戦没者と思われる。
特に、スケルトンはもともと戦士や騎士だったとされている為、剣や盾で武装していた。
「見て、アンデッドよ」
「構うな、このまま斬り捨てる」
そう言うと、僕は風斬刃を放ちアンデッドたちを一掃した。
そしてそのまま馬を走らせる。
しかし、アンデッドたちは湿地帯で次々と湧き出てくる。
今は少しでも急ぎたいため、僕は剣技や魔法でアンデッドたちを一掃する。
ところが、大量のアンデッドたちによって、行く手を阻まれてしまった。
この湿地帯にアンデッドが出没することは知っていたが、さすがにこんなに多くのアンデッドが出るとは思わなかった。
「道を阻まれたか」
「やだ、噓でしょ? こんなにアンデッドたちが出るってわかってて、この湿地帯を通ったの?」
「本当はショートカットのためにここを通ったんだが、仕方がない。やるぞ、準備はいいか?」
「いつでも構いません」
「そう来なくっちゃな!」
スケルトンとゾンビの集団はゆっくりと近づく。
仕方がないので、馬を止めて応戦することにした。
「まずは私が参ります。低速化」
セレーネが敵に魔法でデバフをかけた。
もともと、ゆっくりだったアンデッドたちの動きはさらに遅くなった。
僕が火炎弾を放ち、何体かのアンデッドを焼き払った。
敵が減ったところで間髪入れずに、僕は一気に敵陣に突っ込んだ。
そして、剣でアンデッドたちを次々と斬り捨てて行く。
「今度はオレが行くぜ!」
次にヒューイがダッシュでアンデッドの集団に向かった。
そして、スケルトンに向かって斧を勢いよく振り下ろした。
スケルトンは盾でヒューイの一撃を防いだ。
しかし、ヒューイの強力な一撃を防ぐことはできず、スケルトンは盾ごと粉砕された。
「ハッ! そんな盾で、オレ様の一撃を防げると思ったか!!」
最後にルナが氷結剣を放ち、アンデッドたちを切り刻んだ。
その後も、次々とアンデッドたちを倒していく。
数こそ多いものの、一体一体の強さはさほどでもない。
しかし、如何せん敵の数が多すぎる。
倒しても倒しても、アンデッドたちは次々と湧き出てくる。
「妙だな。こんなにアンデッドたちが湧き出てくるなんて」
そのことに僕は違和感を覚える。
それからしばらくして、ようやくアンデッドたちを倒すことが出来た。
そう思っていた。
しかし、その直後に禍々しい気配を感じ、突然目の前の空間が歪曲した。
そこから出て来たのは【ドラゴンゾンビ】だった。
「おいおい、なんでこんなのが出てくるんだよ!?」
ドラゴンゾンビは、その名の通り竜の死体がアンデッド化した魔物で、所々骨が剥き出しになっている。
「どうやら、僕たちを狙う者がこれを召喚したようだ。そしてそれは、ジャズナ王国で会ったあの“フードの男”の可能性が高い」
「つまり、それってどういうこと?」
「つまり、昨日の傭兵団と帝国軍精鋭部隊は、あのフードの男が転移門で僕たちのもとに連れて来たんだ。そうでなければ、こんなに早く襲撃されるはずがない」
「ヘッ、どこの誰だか知らねぇが、おもしれーじゃねーか! オレたちに喧嘩売るようなバカは、とっ捕まえて必ず後悔させてやるぜ!!」
ヒューイはそう言うと、斧を構えた。
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ヒューイは斧を構えて臨戦態勢を取った。
「まずは、あのデカブツを倒すのが先だな! おりゃあああああッ!!」
そう言うと、ヒューイはドラゴンゾンビに向かった走り出した。
ドラゴンゾンビは、ヒューイに向かって紫色の猛毒ブレスを吐き出した。
「危ない、ヒューイ! 猛毒のブレスだ!!」
しかし、ヒューイは猛毒ブレスを躱し、ドラゴンゾンビに一気に肉薄した。
そして、ヒューイはジャンプし、ドラゴンゾンビの頭上から斧を振り下ろした。
「破断岩斧!!」
その強烈な攻撃は、ドラゴンゾンビの頭部に命中した。
「よし、手応えアリだ! ……!?」
しかし、ヒューイの強烈な一撃は、ドラゴンゾンビにはあまり効いていなかった。
「何でだ!? 確かに手応えはあったのに……!」
「なら、私が行くわ!」
そう言って、次に出たのはルナだった。
ルナはドラゴンゾンビに向かって一気に走り出した。
ドラゴンゾンビは、アイスブレスを吐いた。
ルナはそれを躱し、ドラゴンゾンビの懐に潜り込んだ。
「剣の舞!」
ルナは目にも止まらぬ速度で、ドラゴンゾンビを切り刻んだ。
「仕上げよっ!」
ドラゴンゾンビが怯んだ隙に、ルナは天高く剣を掲げた。
暗雲の中を稲妻が走る。
「稲妻斬撃!」
ルナが言葉と共に剣を振り下ろすと、稲妻がドラゴンゾンビを切り裂いた。
ドラゴンゾンビはバラバラになった。
「やったー!」
しかし、喜んだのも束の間。
ドラゴンゾンビは次第に身体を再生していった。
「そんな……!?」
「おいおい、マジかよ!? あれだけの攻撃を喰らって平気なのかよ!?」
「アイツはアンデッドだから、耐久は高い。それに恐らくアイツは、魔力で強化されているから、大ダメージを与えてもすぐに回復するんだ。つまり、普通の攻撃は効かない」
「じゃあどうするんだよ!?」
「ここは私にお任せください」
会話をしていると、セレーネが出て来た。
「出でよ、光の精霊【ウィル・オ・ウィスプ】」
セレーネは光の精霊を呼び出した。
そうか、光魔法か!
それなら、あのドラゴンゾンビを浄化できる可能性が高い。
「聖なる光よ、邪なる者を浄化せよ……【ホーリーライト】」
セレーネが魔法を唱えると、天空から眩い光がドラゴンゾンビに向かって降り注いだ。
光がドラゴンゾンビを焼いて行く。
「ギャアアアアアアアアアッ!!」
ドラゴンゾンビは断末魔の声を上げる。
光魔法は、アンデッドにとっては苦しいだろう。
「なるほど。ウィル・オ・ウィスプの魔法は、光属性だから、アンデッドを浄化できるのね!」
聖なる光によって浄化されたドラゴンゾンビは、跡形もなく消滅した。
「やったぜ! セレーネがドラゴンゾンビを倒したぞ!」
「とりあえず、この湿地帯を抜けよう」
その後、何事もなかったかのように無事ゲルマ湿地帯を抜け出すことができた。
しかし、アンデッド軍団と戦ったことで、結果的に少し時間がかかってしまった。