表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

文化祭 映像作品

文化祭小説 外伝

作者: 空白

透明な君に



少女は、少年に恋をしていた

その飾らない笑顔が好きだった

心に秘めた淡い思いは、彼女自身も気付かぬままで――




勇気を出して声をかけてみた。

趣味が合い、自然と話すようになった。

二人で出かけることも増えた。


そして文化祭の日、彼から告白をされた。

最後の花火を、二人並んで眺めていた時の事だ。

恋が実るという一本杉の木の下で。




そして呆気なく、終わりを迎える。

それから数日後の事だった。

彼の死を以て。




一年後の、文化祭の日


彼が亡くなった日に、手紙を受け取った事を思い出した。

この想いと共に、しまっておいたはずだった。

私に何を言い残そうとしたのだろう。

破れないように、慎重に封を切る。


―― 一本杉の下で、いつまでも待ってる ――


...!

慌てて目元を拭い、押さえる。

手紙が、濡れてしまったじゃないか。


私、気持ちを伝えなきゃ。

気付いた頃には、自然と駆け出していた。




――少女の言葉に振り向いた少年は、透き通った綺麗な瞳で見つめ返している


「また会えるさ」


そして、消えた

澄み渡る青空と、ある夏の日の、遠い物語




「だから、文化祭の日に幽霊が現れるとか、そういう話になったんだよ。」


「ふーん。よくできた作り話(フィクション)じゃん」


「ユウトお前...」


学校の七不思議的に楽しめばいいのだろう。

だって、2人は結局離れ離れじゃないか。


...いや、確か別の話を聞いた事があった。




――こんな話を知っているかな

"文化祭の伝説"について


ああ、噂程度には知っている


――幽霊が象徴するのは、後悔や不安

想いが形となって現れるの


何が言いたいんだ?


――だから、消えてしまう訳じゃない

生きるとか死ぬとか、そういうのじゃないんだ


話が見えないな


――その話には続きがあるの

2人はまた出会い、恋に落ちる


やけに詳しいね


――お互い本音を見せ合ったからだね

それだけ伝えたかった


どうしてそんなことを?


――今は言えない。けど、

直に分かるかもしれない


...


――忘れないで




「......」


「どうしたんだ?」


「いや、なんでも」


ふと、窓の外を見上げた。

そこには、いつもと同じように 、青い空が広がっている。



夏の陽炎



...


薄く瞼が開く。射し込む陽の光に、少し目が眩む。


どのくらい眠っていたのだろう。

惰眠を貪るような不快感も無い、かと言って、スッキリとした目覚めでもない。

梅雨特有のどんよりとした空気が、どうにも心まで気だるげな気持ちにさせる。


ゆっくりと腰を上げ、服に着いた土を丁寧に払うと、

眼前には、見知らぬ景色が広がっていた。

ここは何処だ?まずは家に帰ろう...自分の家に...


「あれ?」


思い出せないのだ。自分が何者であるかさえも。

知らない場所で、1人で寝ているのもおかしな話だ。

記憶喪失になったとでもいうのか。


身につけているのは...○○高校の制服だろうか。

充電の切れた携帯、ティッシュ、白いハンカチ。

ポケットを探っても、頼りなものはなさそうだ。

ただ、いつまでもこうしている訳にはいかない。


しばらく歩くと、開いた通りに出た。ポツポツと人が歩くのを見受けられる。

道に迷ったときは、やはり人に聞くのが手っ取り早い。


「あの~、○○駅って...ここからどうやって...」


「...」スタスタ


いくら急いでいるからって、最初から見向きもしないなんて!

確かに道を教えるなんて面倒くさいかもしれないけど...それにしたって失礼な人だ。

道に迷ったときは、やはり自分で歩くのが手っ取り早い。


無い記憶を頼りに、感じるままに歩いてみる。

自分にとって馴染みのない道でも、どうやら体の方が覚えているらしい。

おそらく自分(・・)が通っているだろう高校に着く。

あいにく、今日は閉校しているようだが...


関係ない。門を越えて中に入ろうか。

そんな考えがふと頭をよぎったのは、なかなかイタズラ好きの性格であるのか。

少し解放的な気分になりながら、思わず笑みがこぼれる。


「おっ...とと」


こういった行為には慣れていないみたい。だけど、イケないことをしているようで楽しくなってきた...!

そのまま門を飛び降りた拍子に、先ほどの白いハンカチが地面に着地する。


「あちゃ~...汚れちゃったかな」


クタクタにはなっているが目立った汚れもなく、大事に使われた形跡が見て取れる。

自分・・に申し訳ないと思いながらゆっくりと拾い上げ、それを開くと――


「ゆ...ゆうき?...れい。の名前...?」




「――ッ」


頭が割れるように痛い。どうしようもない吐き気と眩暈がする。

断片的な情報が、無理やりにでも存在を主張するかのように。

見たことのある・・・・・・・情景が、チカチカと点滅しては消えていく。


...思い出そうとするのはやめておこう。

きっと記憶喪失にも理由があるはず。

詮索するのは、よくない。


学校を後にする。


記憶に繋がりそうなものを探してみたが、大した進展はなく。

他に手がかりがあるとすれば...




ここは、たぶん 自分・・の家だろう。

学校の帰り道が日常であるせいか、案外 楽にたどりついてしまった。


そこで、気付いてしまった。

私は、他の人から見えていないのだと。

違和感はあったが、到底信じられることではない。


思わず目を疑った。

()が、いたのだ。


あまりに理解出来ない現象に遭遇した時、人は意外と冷静でいられるらしい。

自分がおかしいのだ、と。


どれくらい、歩いただろう。

見慣れた街並みも、もはや見る影もない。

この光景の中に、もう私は居ないのだろうか。


そんなことを、考えながら。

誰も居ない街を、独り彷徨う私は――


幽霊、みたいだ。




数日がたった。

その時どう過ごしていたのかは、今では分からない。

記憶も取り戻していたかもしれない。


また学校に行く。

理由は簡単だ。それ(・・)しかないから。

立場も、居場所も、全てが奪われていると知りながら。

いや、偽物は私か。少なくとも――私以外にとっては。

普段の習慣が、鎖のように心を縛っていく。




いつもならば、一人教室を飛び出して、歌いながら歩くことができるだろうか?

好きの反対は無関心だとは、よく言ったものだ。


そこで一瞬

こちらに近づく気配がした。


そこにいたのは

――クラスではいつも一人で過ごしている彼


たいした接点はなく、あまり話した事もないだろう。

それでも、呼び止めずにはいられなかった。

縋るように、その名前を呼ぶ。


振り向いて、くれた。


口をついて出たのは、知らない物語。

ただ、何処かで知っているようにも思える。




また、少し時が流れた。

再び君の前に現れる。


違いを見抜くなんて、中々鋭い。

意外と私のことを見てくれているのかもしれない。

それだけで嬉しかったのに


そして最後に、君は応えてくれた。


「文化祭、一緒に回ろうよ」





その言葉が、嬉しかった。

誰よりも、()を見てくれている気がして。


「僕は占いなんて非科学的な物は信じないぞ、

きっと何かタネが...」


「へえ、君の隣にいるのは誰だっけ」ニヤニヤ


お礼にかこつけて、連絡先を聞いてくるような人が多かった。

告白を断ると、根も葉もない噂を流す人達がいた。

あの子が君につらく当たってしまうのは、私のせいだから。

でも、


「はは、幽霊なのにお化けが怖いんだね。ってわぁー!?」


「ゆ、ユウトくんの方が怖がっててんじゃんn」



でも君は――




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




私は何時でも 良い子を演じなければいけなかった。

「こうあるべきだ」という他人の理想に囚われていた。

優等生は良くも悪くも退屈だ。

それなりに成功していれば、それでいい。

失敗が怖いから、挑戦から逃げ続けてきた。

今まで築き上げてきた信頼が、実績が、何もかもが、一度の裏切り(・・・)で崩れ落ちる様を見たくはなかった。

結局、私は()であることを強制される操り人形に過ぎない。

いつかこの檻から抜け出したいと、そう望んでいた。


――望んでいた、だけだ。

その一歩が、どうしても踏み出せない。




こう(・・)なれて良かったのかもしれない。

思い描いた通りではないけど、私は私の殻を破ることができた。

君に伝えたいことがあるんだ。

「文化祭の伝説」なんてきっと関係ない。

これは私の"本音"だから。


この言葉の意味が、わかった気がした。

私は消えても、この思い出が消える訳じゃない。

揺蕩い、流れ、儚く溶ける陽炎の、その一欠片でも、君に届いていたらいいな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ