第一章:弥生時代 『情報の交換を』
青年=五卆芹 となります。
歴史上では卑弥呼には弟がいた事は確かなのですが、名前が判らなかったので勝手に決めてしまいました。
なので、実際の名前とは異なります。
ご理解の程、よろしくお願い致します。
「えっと、改めて、私の名前は卑弥呼。そして、こっちが弟の五卆芹。私は巫女としてこの国──邪馬台国の代表を任されてるんだ。数年前に両親が死んじゃってね。」
寂しそうな表情を浮かべる卑弥呼。俺はかける言葉が見つからず、黙り込んでしまう。
それを見た卑弥呼は、ハッとした顔をすると、笑みを浮かべた。
「もう踏ん切りはついてるから、ごめんね。──それで、あなたのことも聞かせて欲しいな。」
「俺は──」
自分の名前を名乗ろうとして、ふと考える。この時代は姓と名の概念はなかったはずだし、次にあの悪魔のような女に会った時のことを考えると、全ての情報を開示するのは得策ではないのではないか?
「──俺の名前は、章史。この世界じゃないところから来たんだけど、危険なところじゃないから安心して欲しい。」
隠し事を作ってしまったことに少しの罪悪感を覚える。しかし、これからの行動で挽回していこうと考えた。──そういえば。
「さっき言ってた『救世主』ってのはなんなんだ?」
「ええ、私が巫女だって言うのは話したでしょ?数日前に神託があったの。『現界せし異界の者、この先起こる大いなる戦にて吉報をもたらすであろう』ってね!あの時あなたを見てすぐにピンと来たわ。この人は『現界せし異界の者』だって。それなのに五卆芹は!」
五卆芹の方を見る卑弥呼。少々気の毒に思ったので、助け舟を出すことにする。
「まあまあ、誰にでも間違いはあるんだからさ。代わりと言っちゃあなんだけど、五卆芹のことも教えてくれないか?」
五卆芹は卑弥呼の目を盗んで、片手を立てるジェスチャーをすると話し始めた。
「俺は、姉さん──卑弥呼の弟で、専属の兵士って立場にいる。この屋敷は、邪馬台国の巫女の所有物になってて、巫女を護るっていう名目で家族が一人と、身の回りの世話をする女の従者が複数つくんだ。俺は、姉さんが神託を受けて、それを代わりに民衆に伝える役目も担ってる。」
前半の説明はすんなりと耳に入ったが、後半部分に疑問を持つ。
「なんで、五卆芹が神託を伝えるんだ?卑弥呼が直接伝えればいい話じゃないのか?」
すると卑弥呼が固まった。俺が不思議に思っていると、再度五卆芹が口を開いた。
「姉さんは、神託が終わったら、だらしなくなるんだ。言葉では言い表せないくらい。そりゃもうほんとに。そんな状態を民衆に見られでもしたら、威厳が地に落ちるからな。」
「ち、違うの!神託を受けるのってすごく集中力がいるから、そのあとは反動で……だらしなくなるの!!」
手をぶんぶんと振り回して、弁明をする卑弥呼。その姿はまるで子供のようで、微笑ましい。
「失礼じゃなきゃいいんだけど、卑弥呼たちって何歳なんだ?」
素朴な疑問を聞いてみる。すると、五卆芹が手を挙げた。
「俺から説明する。姉さんは一年の間、ずっと眠ってて起きなかったことがあるんだよ。だから今の本当の歳は20で精神的な歳は19だ。」
「20!?年上なのかよ!?.......え?じゃあ、五卆芹は?」
「ん?俺は17だけど。」
「なんだ、タメか。よかったよかった。」
安堵のため息をつく。周りが全員年上だったら落ち着かない。ましてや、知り合いが一人もいないこの状況では尚更だ。
そのあとは俺に鉄球がつけられた経緯などを少し話して、もう夜も遅いということで続きは明日ということになった。
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初めに通された部屋。敷かれたままだった薄布の上に寝転がり、今の自分が置かれている状況の整理を試みる。
──今は【弥生時代】で【邪馬台国】内の【卑弥呼】の屋敷に居候させてもらっている。
思わず笑みが浮かぶ。これは間違いなくゲームの中だ。こんなありえない状況、ゲームの世界以外に考えられない。【体験する時代】の項目がバグってしまったのだろう。取り敢えず、当面の目標はなんとしてでも【平安時代まで行ってレヴィと合流すること】としよう。
そこまで考えて、一気に睡魔が襲ってくる。体力を使い果たしたのだろう。一日目は地下牢だったこともあってしっかりと寝付けなかったからな。そんなことを考えている間に睡魔は、俺を眠りの世界へと導いていった。
9話目です。
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現在の章史が置かれている状況が少しずつ分かってきましたね。
それでは次回も、よろしゅう!!