プロローグ:○○時代 『悪魔のような女との邂逅』
「ハァッ、ハァッ、ハァッ!」
森の中をひたすらに走る。
途中、枝や葉で手足が傷つこうとお構い無しに。できる限り遠くへ逃げなければ──死んでしまうだろうから。
時を遡ること30分前。
落下中に目の前が真っ白になった俺は、気がついたら、何も無い草原に1人で立っていた。
いきなりのことに頭が働かず、その場に座り込む。何の気なしにそこら中に生えている草を撫でて、その質感のリアルさに驚く。
手で草をちぎった時の感覚なんて、現実世界と遜色がないほどだ。
扉をくぐっていないのにゲームを開始できたのだろうか?とにかく、ここが何処で、今は何時代なのか早急に調べなければ。
この世界の住人を探すため、一面の平原をあてもなく歩き出した。
5分程歩くと草原は途切れ、目の前には森林が広がった。まるで手のつけられていないそれは、中に大型の野生動物がいるのではないかと不気味だったが、何もしないよりはマシだと思い、意を決して森林へと足を踏み入れた。
森の中は、意外にも鳥などの鳴き声のおかげで賑やかだった。
周りの木や落ちている葉っぱなどこれは現実なのではないかと錯覚するほどだ。でも、日本にこんなに広い森なんてないし…。
と、1本の枝を支えにして奥深くへとわけいっていると、気づく。数メートル先は木が生えていない。もしや、集落か!?と歩く速度を早めて、森を抜ける。
そこは集落ではなく、森を切り開いた土地で、木でできた小屋が1軒建っていた。
この世界にいる人間は俺1人...なんてことにならなくて本当に良かった。心からの安堵を吐き出すと、小屋の中を覗き込む。
──何も無かった。人どころか、物すら何一つ無い。
しかし、誰かがこの小屋まで来ているのなら、通ってくる道もあるはずだと、小屋の周りを一周する。
小屋の裏まで回ったところで、予想通り人1人なら通れる小道を見つけた。
この道を辿ればいずれは人に会うことができるだろう。足取り軽やかに再び森の中へ入った。
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初めは軽かった足取りは徐々に重くなっていった。20分ほど小道を歩いたが、一向に森を抜けることが出来ない。
それに加えて、あの小屋に何があるのかさっぱりだが、余程隠したいのだろう。分かれ道が多すぎる。数十メートル歩くと、分岐に差し掛かるのだ。戻る時は、一本道を辿ればいいだけなので楽に帰れるが、あの小屋に辿り着くのは道を知っている者以外は絶対に無理だろう。
......道が5本に分岐していた時は、思わず乾いた笑いが出てくるほどだった。
もうすっかり目の前の地面しか見なくなった頃、今まで聞こえていた環境音では無い何かが耳に入った。微かにだが、確かに聞こえた人の声。ハッと顔をあげる。すると、まだかなり先だが、森が途切れているのが見えた。今まで歩いて溜まった疲労などなんのその。もう既に目的は人に会うことよりも、森を出ることになっていたが──、森の出口まで早歩きし始めた。
残り50メートル。声を張り上げなければ聞こえない距離であるにもかかわらず、俺の耳にはっきりと聞こえてきた──、悲鳴。
一瞬、駆けつけるべきか躊躇するが、俺にも何かできる事があるだろう思い、さらに加速した。
残り30メートル。木の量が徐々に減っていき、この先で起こっている光景が視界へと入ってくる。それにこの臭い──。
残り5メートル程まで来た時、俺は完全に足を止め、近くの木に身を隠した。
森の出口に近づくにつれて強くなっていった臭い。この距離では確実に判断できる。──、血の臭いだ。
どうやらここ一帯は植林場のだったようで、手に斧を持った男が一人、明らかにこの世界には不釣り合いな格好の女と対峙している。女の容姿を一言で表すとするなら、《悪魔》が一番近いだろうか。
そして、その女の足元には、男が二人倒れている。臭いの主は彼等だ。
俺は、喉元まで上がってきた嘔吐感を必死に呑み込むと、もう一度木の影から様子を伺う。
男が痺れを切らしたように、左手の斧を肩口にかまえ女へと突進する。
逆袈裟に切り下ろす。刀ならばここから派生を入れられただろうが、斧では難しい。それを女も分かっているのだろう、バックジャンプで軽々と避けるが、反撃に転じる様子はない。嬲り殺すためにわざとだろう。それでも、男は右手に左手に斧を持ち替え、女へ攻撃を止めない。
このままではダメだと頭では思いながらも、俺の足は鉛のように重く、動かない。
男たちの亡骸の傍には斧が落ちているのに。その距離約10メートル。斧を拾い、助太刀すれば、戦況は大きくこちらに傾くだろう。しかし、俺の心は、男が勝てるのではないかと、きっとそうだと、理由をつけ身体を動かそうとしない。
逡巡している間に、男は斧を拾っていたようで、両手で攻撃を繰り出していた。
袈裟斬り、逆袈裟、左右切上。両手のコンビネーションにより攻撃速度は上がったものの、変わらず女に当たる気配はない。
男は袈裟斬りをしようとしたのだろう。斧は刃が厚い分、重い。何十回も振っていれば、手に汗もかく。男の手からすっぽ抜けた斧は、女の左肘から下を持っていき、地面に突き刺さった。
女の様子がおかしい。普通、腕を飛ばされれば、表情に出るはずだ。にもかかわらず、女は何事もないように涼しい顔をして立っている。地面には血溜まりができているのに。
男もそのあまりの異常さに、攻撃の手が止まった。女が残った手の人差し指を男へと向ける。その動作で我に返った男は、斧を振りかぶる。
しかし、女の方が早い。腕を横に振ると、男の首がずり落ちた。
女は、切り落とされた腕まで歩いていき、腕を拾い上げる動作の途中、こちらに背を向けて、屈んだまま話し出した。
「あーぁ。物足りなかったなぁ。三人もいたのに。四人目はどうかな??」
その言葉を聞き、弾かれたように辿ってきた道を走り出した。
5話目です。
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話...進みませんでしたね...。次は進むと思うので!!
それでは次回も、よろしゅう!!