プロローグ:現実 『何の為にこんな事を?』
「『VRフェスティバル』…君もそうだったのか…」
場所は変わって、学校の自分のクラス。
俺の話を途中まで聞いて思案顔を浮かべるのは、中学からの同級生である、レヴィ。
「ああ、朝飯食べてたら妹に押し付けられてさ。切手とか何もなかったからちょっと不気味なんだよな。……君もそうだったのかってのは?」
「残念ながら、僕も君と同じだよ。それに僕の方が不気味だ。今朝投函されていたのはこの封筒だけ。うちは新聞も取ってるんだけど、まるで見つけてくれと言わんばかりにこの封筒だけしか入っていなかったんだ」
「た、確かに、そっちの方が不気味だな…」
などと今朝起こったことを話していると、横から声をかけられた。
「お前らも『VRフェスティバル』に参加すんのか?俺達も参加するんだよなー」
少しヤンチャな三人組である。俺は特に接点が無いので、関わることは殆ど無いが今日は事情が違う。
ひらひらと見せてきた便箋。
それは俺たちが持っていたものとは全くの別物だったからだ。薔薇の花が印刷されている、一目で招待状と分かるもの。
俺たちは顔を見合わせると、便箋の持ち主の方を向く。
相手と面識があるレヴィが、口を開いた。
「ちょっとその招待状、見せてくれないか?」
すると、すぐさま怪訝そうな顔になる。
まあ無理もない。『VRフェスティバル』の話をしていたのなら招待状を貰っている筈なのだから。
俺がそう思っていると向こうも口を開いた。
「なんでだ?お前らも参加するんなら招待状を貰ってるはずだろ?」
その返答はレヴィも分かっていたらしく、
「いや、花の柄が違っていたんだよ。僕が貰ったのは向日葵だった」
そこまで言い、俺の方を向く。
「章史は、ガーベラだったんだろ?」
目で合わせろと言ってくる。
「あ、ああ。変わった花だったから家で調べたんだよ」
すると、相手は少し納得した様子を見せる。
よし、もう一押し!そう思って、今度は俺が口を開く。
「そういえば、『VRフェスティバル』じゃ、謎解きのゲームもあるんだったよな?その余興とかじゃないか?」
俺のひと押しは上手くいったようで、相手はすっかりその気になっているのだろう。目を輝かせている。
「何かあるかもしれないから、少し僕に預けてくれないか?発見があったら教えるからさ」
言葉と共に手を差し出すレヴィ。上手い。相手にとってはメリットしかない提案だ。もっとも、本当に謎が隠されていたらの話だが。
「おう!お前になら預けても問題ないだろ!」
そこまで言うと、声を潜めて、
「何かあったらすぐに教えてくれよ?約束だからな!」
とそこまで言うと、仲間とニヤニヤしながら帰っていく。
三人が、教室を出る直前にレヴィが、背中に向かって声をかける。
「今日の放課後には返すから!」
便箋の持ち主は、片手をあげると廊下へと消えていった。
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「やっぱり、こういう事させたら天下一品だな。詐欺師の才能あるんじゃないか?」
廊下へ送った視線を戻しながら俺が言うと、返ってきたのは苦笑だった。
「最後の一言だって、思い出したみたいに言ってたけど、わざわざ俺たちの席まで戻って来て訂正するにはめんどくさい位置で声掛けたんだろ?」
「教室に戻ってこられて話を聞かれたり、封筒の嘘がバレたりしたらめんどくさかったからね」
いたずらっ子のような笑みを浮かべている。その顔は、まるで芸能人のようだ。
それもその筈、俺の親友の本名は、エドアルド・レヴィ。イタリア人と日本人のハーフなのだから。
それに加えて成績優秀、運動神経抜群、性格も良い。──最近ファンクラブが出来たらしい。
今現在も、レヴィを見に来ているのであろう1年の女子が廊下に見える。
「にしても良く、花の柄が─、なんて嘘つけたよなぁ。普通考えつかないぞあんなの」
「いや、あれは嘘じゃないんだ。君が登校してくる前に何人か封筒を持っている人を見かけたんだけど、同じ封筒を持っている人は見かけなかったから。あながち章史が言ったなにかの余興である説は間違っていないのかもしれないね」
そこまで言うと、レヴィは椅子に座り直した。
「そんなことより、今は誰がこんな意味の無いことをしたか突き止めるのが先決だよ。まずは2つの招待状を見比べてみようか」
言うなり、封筒から招待状を取り出し始める。俺も自分の鞄から封筒を引っ張り出した。
ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴る。渋々レヴィに封筒を預けると、自分の席へと戻った。
それから昼休みまで、体育や移動教室など、落ち着いて話し合う時間が取れず、午前の授業は身が入らなかったのは言うまでもない。
そして、昼休み。
いつも昼休みは教師に隠れてゲームをするために旧校舎の教室に2人でいるので、特に誰にも怪しまれずに話し合いの場を設けることが出来た。
「さて、まず招待状を開封してみたんだけど、薔薇の印刷された封筒は至って普通の招待状だったよ。おかしいのはやっぱり僕たちに届いた封筒だ」
「俺、まだ1回も中身見てないんだけど、どうおかしいんだ?」
「単刀直入に言うけど、暗号になってるんだよ」
「暗号?どんな?」
興味をそそられた俺は、身を乗り出してレヴィに訊ねる。
「5段11行で書かれてて、8行目の2と4文字目、10行目の2~4文字目が何も書かれていない。それと、11行目に1文字だけ飛び出すように句点が打たれているんだ」
そう言われ、頭の中にその図を思い浮かべる。
5段11行ということは本来書かれるべき文字数は55文字。そこから、文字が書かれていない8行目の2文字、10行目の3文字を引けば──!
「これってもしかして50音表になってるってことか!?」
俺の回答は合っていたようで、レヴィは笑顔を見せた。
「恐らくそうだろうね。もうひとつ重要な事だけど、2人とも内容が同じわけじゃなかった。今言ったのは僕が貰った方。章史の貰った方は少々複雑だったよ。並びは僕のものと同じだったんだけど、全部ひらがなで書かれていたんだ」
「50音表と照らし合わせてみれば何かわかるかもしれないな」
「僕もそう思ってやってみたんだ。そうしたら、3つだけ50音表と重なる文字があった。章史の予想は大当たりさ」
「その3文字ってのはなんだったんだ?」
「《れきし》だったよ」
れきし...歴史...でも、一体どこの国の歴史なんだ...?と頭をひねらせていると、ひとつの考えが頭に浮かぶ。もしかして、レヴィに送られた手紙はヒントとしての意味だけでなく、暗号の答えにもなっているんじゃないのか?50音表はひらがなやカタカナを表すもの。そして、ひらがなやカタカナを使用している国はひとつしかない──!
「そうか、わかった!日本の歴史に何かあるんじゃないか!?」
「ああ。『VRフェスティバル』に出展するゲームの中で日本の歴史について取り扱っているものを探したんだ。そしたらあったよ。ひとつだけ」
「名前は!?」
「『History Origin』。楽しんで歴史を勉強できるゲームを語っている。数年前から様々なイベントなどに出展しているけど、一向に製品化されないから疑問を持つ人も少なくないみたいだ」
「ふむ、怪しさ満点だな。喧嘩を売られたってことで、乗り込みますか!それに──。」
レヴィが何かを言ったようだが、小声だったので聞こえなかった。そんな事よりも、レヴィがこういう事にやる気を見せたことの方に驚く。いつもは面倒臭いで一蹴してるのに...。
普段との変わり様にかなり驚きながらも、当日の集合時間や場所など決めて、その日はお開きとなった。
3話目です。
面白いと思っていただけましたら、ブックマーク等よろしくお願いします。泣いて喜びます。
暗号でも何でもないというツッコミは心の中に閉まっておいて下さい(´;ω;`)
それでは次回も、よろしゅう!!