プロローグ:現実 『奇妙な届け物』
ピピピピピ──。
目覚まし時計の音で目を覚ますと、ベッドに座って一息つく。
「あの夢を見るのは本当に久しぶりだな…。あれからもう7年か…」
ベッドの縁に手を付き立ち上がる。その衝撃でベッドルーフに飾ってあった写真立てが一つ落ちた。拾い上げ、元に戻そうとして不意に涙が零れそうになった。
写真立ての写真は、半分から破られている。まるで、元々一人しか写っていなかったかのように。
「散々泣き虫って言われてたっけ。治さないと怒られるよな」
窓の外に目をやる。眩しさに目を細めると、朝食を摂るため自室を後にした。
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それは朝食での出来事。
なんとも言えない感情のまま食卓につくと、食パンを頬張っている妹と目が合う。
左手で食パンを持ったまま、新たに右手に白い封筒を持つ。
こちらに封筒を突き出しながら、言葉を発した。
「ふぉはひょう、ふぉひいひゃん。ふぉふとひふぉひいひゃんはふぇの──」
「口の中がなくなってから喋ってくれ。なに言ってるのか全く分からん」
封筒を受け取ると、自分の皿に盛られたクロワッサンを齧る。
おれがクロワッサンを飲み込むのと同時に妹が再び話し出す。
「おはよう、お兄ちゃん。ポストにお兄ちゃん宛の手紙入ってたから持ってきたんだけど、なんか変だよそれ。宛名しか書いてないもん。直接入れたんだよ、きっと」
妹に言われた通り、真っ白い封筒の表には何も書かれておらず、裏に小さく三上 章史様とタイプされている。
「早く開けてよ、お兄ちゃん!私もお兄ちゃんが起きてくるまで待ってて、気になってるんだから!」
「あぁ、ちょっと待ってろ」
ペン立てからハサミを引っこ抜き、封筒を光に透かして、中の紙を切らないように慎重に上部を切り落とす。
そうして中から出てきた手紙を開いた。
「「VRフェスティバル開催のお知らせ?」」
妹と声が重なる。
「って、お兄ちゃんこれ前に応募してなかった?」
「あぁ。確か、2ヶ月くらい前に応募したけど──」
他になにか入っていないかと、封筒を逆さに向けると、簡素な装飾がされている招待状と書かれた便箋が出てくる。
「けど?」
「VRフェスなら、宛先とか流石に書くと思うんだよなぁ。だって会社から送ってくるんだし。わざわざ投函しに来るなんて、本当に時間の無駄でしかないだろ?」
封筒の中に入っていた便箋で妹を指す。
「たしかにそうだね」
クロワッサンと食パンの残りを咥えて唸っていると、台所からお袋が声をあげた。
「アンタ達!早く支度してこないと、学校遅れるわよ!それと、朝ご飯食べ終わったのなら、さっさと持ってきなさい!洗い物が終わらないから!」
「「はーい!!」」
急いで残りを飲み込むと、台所に向かって二人仲良く返事をしてから、妹に声をかける。
「ほら、先に準備してこい。お前の中学校の方が遠いんだから。食器持ってくのは兄ちゃんに任せて」
「やった!それじゃ、お言葉に甘えて」
面倒な仕事を引き受けて貰えたと、意気揚々と2階の自室へ駆け込んでいく。
残った俺は、妹の食器を自分のに重ねると台所へと持っていった。
2話目です。
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