第一章:弥生時代 『罪滅ぼし』
「ありがとう那阿ちゃん。」
木をくり抜いて作ったコップに注いでくれた水を飲み一息ついたところで、本来の目的を思い出した。
「紗阿さん、さっき那阿ちゃんに渡したお金は自由に使ってください。その中のお金で勝手に肉を買っちゃいましたけど。」
|那阿ちゃんが袋を持ち上げる。袋がじゃらっと重い音を立てて鳴った。
「それは...、那阿がいただいた花を売って得た《貨泉》ですよね?」
紗阿さんが窓際に置かれている朝顔に目をやる。
「失礼ですが、幾らほど入って…?」
「えっと...1400枚程ですね。」
肉を買うのに少し使ったので、稼いだ分丸々とはいかなかった。
「「1400枚!?」」
那阿ちゃんと紗阿さんの声が重なる。次いで、紗阿さんが首を横に振る。
「そんな、頂けません!まだ旦那が残した蓄えもありますし、那阿も稼いできてくれてますから!」
「気にしないでください。こっちが勝手にした事ですから。」
「いえ、受け取れません!」
このようなやり取りを何度かした後で幾らなら受け取ってくれるのかと、善意が無駄になったじゃないかと、少し意地悪に聞いてみるとそれでも気持ちだけで嬉しいと言う。なにを言っても受け取らないことは分かっているので、対価として支払うことにした。
離れたところで話を聞いていた那阿ちゃんにさっき渡した肉を焼いてもらうことを頼む。すると那阿ちゃんは木を十字に組み糸でその端を結んだ、弓のような形の道具を取り出し、簡単に火を起こした。
「それ、凄いね。そんな便利な物があるんだ。」
「えへへ、凄いでしょ。お父さんが作ってくれたんだ。」
那阿ちゃんはそういうと、かまどで肉を焼く行程に入る。
紗阿さんには何をしてもらおうか...?そういえば。と、花を売っていた時に気になったことを聞いてみることにした。
「あの、この村でのお金の稼ぎ方ってどんな手段があるんですか?」
「えっと、旦那は森の木で色々なものを作って村の商業区に売りに行ってました。その椅子も那阿が火を起こした道具も旦那が作ったものです。他には村の兵士になって森を開拓して、お金を貰ってたりする人もいますね。」
「それって具体的に幾ら稼げるんですか?」
「うちの場合は、売れてる時は一年で《貨泉》900枚くらいでしたね。」
ということは、1ヶ月で約70~80枚。俺が稼いだ分は大体、20ヶ月分になるわけか。
「兵士達の給料は残念ですが、分かりません。開拓した報酬は商業区から出てるとは聞いたことあるんですけど。」
「なるほど。」
「それと──。」
「はい、できたよー!」
肉を焼き終えた那阿ちゃんが皿を持ってきてくれた。食べやすいように一口サイズに切られている。よく気の利く子だな、そう思いながら一切れ口に入れ、那阿ちゃんに皿を返すと、《貨泉》の袋を手に取る。
「お話、聞かせていただいてありがとうございました。那阿ちゃんに肉を焼いて貰った分と、紗阿さんに質問に答えて貰った分──。」
袋から一掴みだけ《貨泉》を取り出し、残りを紗阿さんのベッドの脇に置く。
「ほんの気持ちなので、受け取ってください。那阿ちゃんもまたね。」
紗阿さんに頭を下げ、那阿ちゃんの頭を軽く撫でて、家を出る。紗阿さんは何か言いたげだったが、振り返らなかった。
少し進んだところで、後ろから那阿ちゃんの声が聞こえた。
「章史さん!絶対にまた会いに来てね!ありがとうっ!」
──これで、よかったのかな。
返事は無い。夕陽がぼやけて見えた。
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「ちくしょー、なんで加士の奴帰っちまったんだよ。もう止めようって、昼間に何も出来なかったのに。」
「そうだよね。これ以上ビョーキが拡がらないように出ていかせようとしてるんだから、感謝して欲しいよね。」
「それにしてもなんだよ、昼間にいたヤツ!味方をつけやがって、ビョーキ女め。」
「ほんとだよね。──ん?昼間にいたヤツがビョーキ女の家から出てきたよ!」
「ほんとだ!なんでビョーキ女と一緒にいるんだろうな?」
「うーん。分かんないね。」
「よし!後をつけてアイツの家にも正義を執行しようぜ!ビョーキ女と一緒にいるってことはアイツもビョーキってことだからな!」
「そうだね、行こう!」
18話目です。
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ダメだ...続きが書けてない...過去最低に...
おそらくかなり期間が空くと思いますが、失踪はしないのでご安心ください。
それでは次回も、よろしゅう!!