第一章:弥生時代 『いやがらせ』
荷物を全て片付けて那阿ちゃんの家へと向かう。
道中辺りを見ながら歩いてきたが、区画が意外と綺麗に分けられていて驚いた。道案内により、次の角を曲がれば家が見える所まで来たが、何やら微かに話し声が聞こえる。
那阿ちゃんにも聞こえたのだろう。不安そうな顔をする。
「こんなところに人なんて滅多に来ないのに...。」
その言葉に俺も不信感を覚える。だが、よく耳をすませば子供の声に聞こえなくもない。一応、警戒はしておくが追い払うことは容易いと思う。
「そこの家の角から様子を見てみよう。ここからならバレないだろうし。」
話している間に角に着いた。まず俺が、慎重に家の影から顔をのぞかせる。
すると、那阿ちゃんとさほど年齢が変わらなさそうな男の子が三人見えた。友達かもしれないと思い、後ろを振り返って男の子が三人居ると伝える。すると那阿ちゃんは血の気が引いた顔になり、男の子たちの方へと駆け出していった。慌てて後を追いかける。
男の子たち三人は俺達の姿を見るやいなや、一目散に逃げていった。訳が分からないながらも走っていると、先行していた那阿ちゃんがいきなりぺたんと地面に座り込む。
どうかしたのかと声をかけようとして気づいた。泣いているのだ。那阿ちゃんが落ち着くのを待ってから聞く。
「あの子たちと......何かあったの?」
「うん...。あいつら、私に石を投げつけてきたり...。ビョーキ女って言われたりもしたし...。でも、家に来ることなんて無かったのに...。」
しゃくりあげながら、那阿ちゃんが答える。
初めて会った時に見えた腕の痣はそれが原因か。と、今はそんなことを考えている場合ではない。初めて家に押し掛けてきたということは、なにかするつもりだったのではないか?
「家の場所はどこかな...?もし何かあったら手伝うよ。」
那阿ちゃんが、少し先に建っている家を指さす。そこまで歩いていき、様子を確認。幸い、子どもたちになにかされる前だったようで、家は無傷だった。ほっと胸をなでおろす。
いつの間にか後ろまで来ていた那阿ちゃんに約束する。
「今日中にお金を用意してくるから、待っててね。」
「ありがとうございます、本当に...。──あの、私のことも知らなかったくらいだから、章史さんってこの村の人じゃないですよね...?どこに住んでいるんですか?」
「えっとね──」
正直に答えそうになって、壱与さんに言われたことを思い出した。この子が卑弥呼達を嫌っているはずはないだろうけれど、一応。
「──あー、隣の隣の村だよ。そんなことよりこれ。」
話題を逸らすべく、袋から鉢植えをひとつと朝顔の種、水筒を渡す。
「花でも見ながら待っててくれたら嬉しいな。それじゃ!」
追加で何か聞かれる前に退散するべきと、袋を抱え足早に那阿ちゃんの家を後にした。
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遠ざかってゆく背中を見ながら、ぽつりと呟く。
「私、知ってるよ。章史さんが卑弥呼様の屋敷に住んでるって。でも、私達を助けようとしてくれる人が悪い人なわけないもんね。」
無意識に流れ落ちた一筋の雫が朝顔の種を濡らした。
15話目です。
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続きが書けたので投稿します。(2話)
それでは次回も、よろしゅう!!