第一章:弥生時代 『あの娘への』
【プロローグ:過去 『あの日の約束』】に追加した部分があります。
少女がアメリカに行く理由を記載し忘れておりました。
現在は書き溜めている最中なので、次話からはきちんと校正を行なっていく所存です。
大変申し訳ありませんでした。
「鉢植えですか?私自身、野菜を育てているので幾つか持ってますけど──ああ、先程の朝顔を育てるために使うんですね。」
こちらが全て言うより先に、要件を理解して器を取りに行ってくれた。仕事中にもかかわらず申し訳ない。明日村に出かけた時に何かお礼の品でも買ってこよう。
両手いっぱいに譲ってもらった鉢植えを抱え部屋に戻ると、大きな布袋を持ちながらよたよたとこちらに歩いてくる卑弥呼と目が合った。
「これ...土...!外から......取って......!はぁっ!」
ドサッと土の入っている布袋を置いて、腰を伸ばす卑弥呼に礼を言う。
「ありがとう。これで朝顔の栽培ができるようになったよ。」
「そうそう。これ、預けておくね。何かしらに使うと小さくなっていくから、消えちゃったら私に言ってね。新しいの作るから。」
先程卑弥呼が生成した光球を渡される。手に触れるが、なんの感触もない。なんとも不思議な力だ。
「私もう疲れたから、部屋で休んでるわね。」
そう言うと卑弥呼は、片手を振りながら客間を出ていった。
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壱与さんに貰った器に、卑弥呼がとってきてくれた土を入れる。そして発芽している種を軽く埋め、光球をかざす──。一瞬で茎が伸び、花が咲き、種子が出来た。そこからさらに成長しないように、光球には布を掛けて光を遮断しておく。
うーん、種を確保するためならこれでもいいんだけどな...。鉢植えから枯れてしまった朝顔を抜きながら考える。売るとすれば花の状態になるので、このまま光を当てると効果が強すぎてしまう。首を捻っていると──。
「よお、またなにか面白そうなことしてんだってな。屋敷中で話題になってるぜ?何やってるか教えてくれよ。」
ちょうど良く、五卆芹が顔を覗かせた。
「五卆芹、ちょうどいい所に!実は────。」
「成程な。──植物なんだから、こいつを沈めた水でも与えてみりゃいいんじゃないか?」
俺の話を聞き、少し考える様子を見せてから光球を指さす。それから五卆芹は「上手くいくかどうか分かんないけどな。」と付け足して、水を汲みに行ってくれた。
少しして戻ってきた五卆芹から水の入った器を受け取って、光球に掛けておいた布を取り、水の中に沈める。器の中を二人で覗き込むが、何か変化がある訳ではなかった。
少し小さくなった気がしないでもない光球を取り出して、布を被せる。失敗か、そんな空気で鉢植えに水をかける。すると──。
「すげぇ!ちゃんと花になったな!しかしなんだよ、この変な花。花びらが全部繋がってんのか?」
「ああ、朝顔っていうんだ。なんにせよありがとう。五卆芹がいなかったら花の栽培なんて出来なかったよ。」
「この花で何しようかなんて知ったこっちゃないけどよ、これは貸しだからな。いつか何かで返してくれよ!」
にやりと笑って俺に指を突きつけてくる。俺は苦笑して、必ず返すと約束をする。それを見た五卆芹は満足そうに頷き、部屋を出ていった。
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俺しかいない部屋で、横になりながら考える。
これであの子のお金の問題は解決すると思う。だが、たとえ解決したとしても一時しのぎでしかない。根本的な問題は手足が痺れる謎の病。医者ではない俺に出来ることはないだろう。
そこから先は考えようとしても頭が上手く働かない。ぼーっと天井の木目を数えていると、壱与さんが呼びに来た。夕食の用意が出来たとのこと。
朝食と同じく卑弥呼の部屋にて、四人で食卓を囲んだ。
たわいのない事を話しながら夕食を食べたが、喉に小骨が引っかかったような感じが取れることは無かった。決して夕食の鯛の骨が引っかかった訳では無い。
翌朝、朝食としてふかした芋をひとつ貰った。
それを齧りながら用意しておいた荷物を抱え、約束した花畑へと向かう。
着くと既に女の子が花畑の前にしゃがんでいた。
「おはよう、早いね。えっと──。」
「那阿です。おはようございます。」
「ごめんね、那阿ちゃん。俺の名前は章史。それはそうと、はいこれ。」
自己紹介を軽く済ませ、手に持っていた袋の中から道具一式を取り出して地面に置く。
「鉢植え...、何を育てるんですか?」
鉢植えをひとつ持ち上げ、那阿ちゃんが不思議そうに尋ねてくる。
驚いてくれるといいな、そんな気持ちで準備を始める。
「初めて会った時、那阿ちゃん俺に花を売ろうとしてたよね。そこから何かないかなって考えてたんだけど、っと。」
全ての準備ができ、持ってきていた瓢箪の水筒を那阿ちゃんに渡す。
「これをこの鉢植えにかけてみて。きっと驚いてくれると思うな。」
俺の言葉に、那阿ちゃんは俺と水筒に交互に視線を送ると、おっかなびっくりといった様子で水を注いだ。
「わぁ!綺麗なお花!すごい、すごい!」
花が咲き、年相応の喜びを見せてくれる那阿ちゃん。初めて会った時から、大人びた子だなと思っていたが、このくらいの歳の子はやはり無邪気に快活であるべきだろう。
「じゃあ、那阿ちゃんの家の場所を教えて貰ってもいいかな。できたお金を渡しに行く時、知らなかったら不便だからね。」
「何から何までありがとうございます、章史さん。──でも、どうして私を助けてくれるんですか?村の人からはとっくに見捨てられてるのに...。」
どう返したものかと少し考えてから、口を開く。
「いくら病気になったからって扱いが酷いと思ったからだよ。それに──、那阿ちゃん今何歳?」
「え?10歳ですけど、それがなにか...?」
「いや、──とにかく酷いなって思ったからだよ。」
少々強引に話を切り上げる。見立て通りの年齢だったことに苦笑して、広げた道具を片付け始める。隣では、那阿ちゃんが手伝ってくれている。その様子を横目で見ながら、思う。
本当のワケは自己満足でしかない。
──あの娘を助けられなかった事への罪滅ぼしだなんて。
14話目です。
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次回から物語が動くと思います。(予定)(未定)
それでは次回も、よろしゅう!!




