第一章:弥生時代 『朝食はハンバーガー』
今日で使われているパンとは、ポルトガル語の pãoからきています。
この時代にポルトガルなんてないだろ!というツッコミは心の中に閉まっておいていただけると幸いです。
ご理解の程、よろしくお願いします。
追記:242年頃の中国の国名は魏です。大変申し訳ございませんでした。
「──て。─きて。起きてってば!」
初めはゆさゆさ程度だった揺れが、最後には圧力に変わった。まだ七割ほど寝ている頭で状況を確認する。俺の上に乗っているのは女の子。そういえば、ここはゲームの中──。
そのことに気づくと、一気に覚醒した。
「ああ、おはよう卑弥呼。」
「目は覚めた?もう少ししたら朝ごはんだから、私の部屋に来てね。」
それだけ言い残すと、さっさと部屋を出ていった。
敷き布と掛け布を畳むと、身体中を鳴らしながら軽くストレッチを行う。最後に両手で頬に喝を入れると、卑弥呼の部屋へ向かうべく自分の部屋を後にした。
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廊下では、卑弥呼の従者である女性たちが、慌ただしく走り回っていた。
その中で他の従者に比べて、頭一つ小さい娘が指揮をとっている。小さいのに立派だな、と見ていたら向こうも視線に気づいたのだろう。こちらへ近づいてきた。
「どうも、章史さん。卑弥呼様よりお伺いしております。朝食の支度が出来ているので、卑弥呼様のお部屋まで急ぎ、よろしくお願いします。」
「ああ、ご丁寧にどうも。」
やはり大人たちの上に立って働いていると、大人びるんだなぁ。変に感心しつつ、言われた通りに卑弥呼の部屋へと向かった。
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「おっ、やっと来たか。待ちくたびれたぜ。」
部屋に着くなり、五卆芹に声をかけられる。
「ごめんごめん。さっき廊下で小さな女の子に会って、少し話してたんだ。」
「小さな女の子...。あぁ、なるほどな。きっと正体知ったら、びっくりするぞ。」
にやにやと不敵な笑みを浮かべながら、俺の席を手で指してくれた。
「ところで、卑弥呼は?」
席につきながら、五卆芹に聞く。今この場所には、俺と五卆芹の二人しかいない。呼びたてに来た部屋の主はどこに行ったのか。
「姉さんなら──」
「あっ、もうついてたんだ。配膳の手伝いしてたら遅くなっちゃった。」
卑弥呼と一緒に朝食が運ばれてくる。続いて従者たちの入室。みるみるうちに四人分の食事の用意がされていく。
「あれ?一人分多くないか?俺、卑弥呼、五卆芹で、三人分で十分だろ?」
それに答えたのは二人ではなかった。
「私もご一緒させていただくからですよ。」
部屋の入口から声。見ると、先程話した小さな女の子が立っていた。
すたすたと空いている席に歩いていき、行儀よく座る。
「君はさっきの。まだ小さいのに立派だね。」
何の気なしにそう声をかける。場の空気が凍った気がした。
「すみません、誰が小さいのか教えていただけませんでしょうか、章史さん?」
斜向かいに座っていたはずの女の子の姿はなくなっており、代わりに頭上から声が降ってくる。
え?瞬き程度の時間で後ろに回り込んだの?え?
理解が追いつかない。すると、五卆芹が堪えられないといったように笑いだした。
「あはははっ!壱与さんのこと小さいなんてっ!!ふはっ、あははっ!!」
事情が飲み込めず目を白黒させる俺に対して、卑弥呼が説明してくれる。
「あのね、今あなたの後ろに立ってるのは壱与って言って、この屋敷の全てを管理してるとても偉い娘なのよ?それと、体術ならこの屋敷で一番強いの。村で暴れた熊を素手で倒したこともあるくらいにね。」
「そう。そんで、そのつよーい壱与さんが一番嫌いな言葉が小さいなんだよ!あははっ!」
「すみませんでしたぁッ!!!」
全力の土下座を敢行。
「あはははっっ!!!ひーっひはははは!!」
床に転げ回る五卆芹。この野郎、痛い目見やがれ。土下座を崩さずに横目で見ながらそんなことを思う。その思いが通じたのか──。
「はぁ。まあ私のことをよく知らなかったとして今回は許しましょう。ただし、五卆芹くん?あなたは私についてよーく知っていますよね?」
その言葉を聞くや否や、五卆芹は一瞬で部屋から逃走する。
「逃がしません!!」
それを追って、壱与も飛び出して行った。
二人で顔を見合わせる。
「はぁ、あの二人は放っておいて先に私たちは朝食にしましょうか。冷めちゃっても悪いしね。」
呆れた様子で卑弥呼がそう言う。腹も空いているし、あの調子ではしばらく帰ってこないだろう。断る理由もないので、素直に従うことにした。
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朝食のメニューは、現実で言うところのハンバーガーのようなものだった。
パンの間に魚を焼いたものと、野菜が少し挟まっている。魚が香草焼きのような風味を醸し出していて、パリパリとした食感のパンと相性がいい。夢中で半分ほど食べたところで、壱与に連れられて、五卆芹が戻ってきた。
ぐったりしている五卆芹を俺の隣に放ると、壱与は卑弥呼の隣に腰を下ろした。
「全く...手間をかけさせられました。もうお食事になっているので分かっているかもしれませんが、本日の朝食は“鮭の香草焼きはさみどんぐりパン”です。卑弥呼様が以前から食べたいと仰られていたので、魏の方たちに作り方を聞いてきました。」
「ありがとう、壱与。とっても美味しい!」
「いえ...そう言っていただけるのなら、作ったかいがあったというものです。」
ほんのり顔を赤くして、俯く壱与。女の子が仲良さそうにしているのを見るのはいいな、と破顔する。二人とも幼く見えるので、中学生ではないかと錯覚を起こしてしまう──。
そこまで考えて、壱与の年齢を聞いていなかったことを思い出した。しかし、直接聞く勇気は出なかったため、隣でニセハンバーガーを両手に掴んで食べている五卆芹にこっそり耳打ちする。
「なぁ、壱与って何歳なんだ?」
「ん?18歳。」
さも当然のことのように言われる。そういえば、五卆芹は壱与を呼ぶ時はさんをつけていたな...。
あの見た目で年上だったとは...。卑弥呼といい、年齢不詳の人物が多すぎる。
「どうかしましたか、章史さん。私になにか?」
知らぬ間に、壱与さんの顔を凝視してしまっていたようだ。ぶんぶんと首を振り、何も無いことを示す。それを見て、壱与さんが食事に戻った。ふう、危ない危ない...。
視線を感じたので、顔を上げると卑弥呼と目が合う。その顔は、全てわかっているとでも言いたげな笑顔を浮かべていた。
ついに10話目です。
面白いと思っていただけましたら、ブックマーク等よろしくお願いします。泣いて喜びます。
ほのぼの回でした。食べていたものが少し重要になるかも?
それでは次回も、よろしゅう!!