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鳥には羽根 魚には鱗  作者: 阿古あおや
74/89

幕間 焼肉食べたかっただけなのに 夏の過ちと破滅の嵐編

番外編になります

サブタイトルのことわざのストックがきれまして…。

気楽に読んでもらえる感じに仕上がる予定であります。

 「なあ。肉食わせろよ」


 唐突なクロムの要求に、ファンは読んでいた書面から視線を上げた。

 紅鴉府での書類仕事。本来なら、昼食前にその時間は終わっているはずなのだが。 

 不可解なことに、文机に積まれた書類の束は…いまだ圧倒的な存在感を放っている。


 「…さっき、昼飯に入ってたじゃん。肉」

 「そうじゃねぇよ。詫び肉だよ詫び肉。銀貨百枚の店」


 ああ、そういう事かという納得と、覚えてたか…と言う落胆が混ざった顔で、ファンはひとまず頷いた。

 クローヴィン神殿解放戦で、クロムを乗せているにもかかわらず、飛竜のマナンに急降下、急旋回をさせてしまったのは当然覚えている。

 結果、クロムの三半規管と矜持に深刻な打撃を与えたことに対し、「焼いた肉」を売り物する高級店での食事を要求されたことも、ちゃんと覚えてはいた。

 

 しかし。できれば、違う店にしておきたい。

 眼が良すぎて至近距離は見え難いので、長時間の書類仕事や博物誌の執筆などの際は掛けている眼鏡の奥で、ファンはその満月色の双眸を眇めた。


 貧乏性ではあるが、けっして吝嗇けちではないファンが渋る。

 その理由は、二つある。


 ひとつは、クロムという男は奢りがいがないのだ。


 ユーシンのように素直に「美味い!」と連呼しながら喰いつくとか、ヤクモのように「はじめて食べる!おいしぃねぃ!」と新鮮な驚きを見せてくれるなら、財布を軽くする価値もあろうというものなのだが。

 クロムときたら「ま、いいんじゃねぇの」程度で、ただバクバクと食い進めていくだけなのだ。

 自分で作った料理や、庶民的な値段の食事ならそれでもいい。だが、一人銀貨百枚も払ってそれというのは、ちょっとこう、納得できないものがある。

 

 そしてもうひとつ。

 

 ファンは真面目な男なので、ちゃんとその「焼いた肉を銀貨百枚で食わせる店」がどんな店か、調べてはいた。紅鴉府しょくば御用聞きの商人に聞いてみたり、紹介されている雑誌を読んだりしたのだ。


 確かに評判はいい。


 アスランでは基本的に肉は煮るか蒸す。

 燃料が貴重であり、火の気が絶えることは死を意味する草原の暮らしに於いて、効率よく肉に熱を通すには、最も適している料理法だからだ。

 加熱の魔導具や、馬糞を加工して造られる燃料が安価に出回った現在でも、肉を焼くのはせいぜい串焼き程度。塊肉を焼く、という調理法は、アスラン料理にはない。


 カーラン料理や西方料理、メルハ料理には「肉を焼く」をいう調理法はある。しかし、「肉だけを焼く」という料理はやはりない。

 肉は焼くなら野菜や豆と一緒に炒めるもの…と言うのが、食の都でもある大都の住人たちの、一般的な認識だった。


 そこにかの店は、「肉だけを焼く」という料理を出してきた。

 焼くのは主に牛で、荷運びなどをさせずに育てた牛の肉は柔らかく、そこに門外不出らしい調味料を振りかけて焼くだけで、数々の美食家たちを唸らせたという。


 まあ、それはいい。

 ただ食べるためだけに牛を育てているのだから、金は掛かるだろう。だから、料理の値段が高いのも仕方がない。


 しかし、しかしだ。

 

 「でもさあ、クロム。その店、お前が忌み嫌っている、デカい皿にポツンと肉が乗っている系の店みたいだぞ?」


 そう。高いが、量が少ないらしいのだ。

 客が塊肉から自分で食べたい部位を選ぶという、楽しそうな演出をしてくれるわりに、出てくる肉はちんまりと小さい。

 それが、実際に食べに行ったことがあるという商人の証言であるし、雑誌に記載されていた映写の魔導具で写し取った絵も、それを裏付けている。


 「でかいの焼かせればいいじゃねぇか」

 「ええー…値段が上がるじゃん」

 「お前、陛下にもトールにも、たんまり小遣い貰って使い道がねぇってほざいてたじゃねぇか。いつ使うんだよ。今だろ」

 「ええー…」


 確かに父から「一年分のおこづかいだよ!」と、とんでもない額の兌換券は渡された。それを銀行に持っていけば、慎ましい生活なら大都でだって一生を送れる。

 さらに兄からは「アステリアで金に困っていたそうではないか!」と、握りこぶし大の袋につまった砂金を押し付けられたし、祖父には「たまには贅沢を愉しむことも王族の勉学ぞ?」と大金貨が整列する小箱を持たされた。

 もう一つおまけに言えば、母からも「なにか美味しいものでもお食べなさい」と金貨十枚を渡されている。


 ちなみに、金貨一枚は銀貨百枚だ。つまり、母からのお小遣いだけで飲食代には十分である。


 兄からの砂金はアステリアに戻った後の非常事態用貯金とするとして、残りはどうしようかと頭を悩ませていたのは事実だ。

 全部貯金にしたいところではあるが、絶対に、両親も祖父も、「あの金で何をした?」と聞いてくる。貯金したといっても納得はしてくれるだろうが、間違いなく何か言われる。

 

 「まあ、確かにそれもそっか…」

 「だろ?」

 「じゃあ、この仕事終わったら行ってみるか。店が開くのは夕方から夜だけみたいだし」

 「よし。絶対に終わらせろよ?」

 「へいへい」


 眼鏡をはずして眉間を揉んだのち、ファンは尽きぬ山(ヘルムジ)の断崖絶壁のようにすら思える書類の束に、視線を向け。

 深いため息とともに、絶望的な戦いへと再び身を投じた。


***


 「俺が苦労したのに、なんでこいつらまで…」

 「良いじゃないか。美味いものは一緒に食べる人数が多い方が美味いしさ」

 「そーだよー。クロムがお金出すわけじゃないのに。けちんぼ~」

 「まったくだ!」


 大都の夕暮れはアステリアより遅いが、それでも真冬。後六刻ともなれば、夕暮れ黄昏の気配はもうどこにもなく、夜が始まっている。

 それでも、道に沿って並んだ魔導燈や、店から洩れである灯り、馬車に吊るされた行燈などで、道を歩くのに支障はない。


 「しかし、俺たちまでごちそうになっていいのか?」

 「クローヴィン神殿救出戦の慰労だからさ。ガラテアさんもシドも、ミクたちへの救援の使者として頑張ってくれたし」

 

 ファンの隣を堂々と楽しそうに歩くガラテアと違い、その弟は遠慮しているようで、いつもなら凛々しく上がっている眉毛に元気がない。


 「うむ!それにクロムなど、飛竜の上で吐いていただけのくせにこの態度だ!微塵もシドが気にすることはあるまい!」

 「あ゛!?」

 「どうせクロム、肉が小さいとかいちゃもんつけるんだし。俺も美味い美味いって食べてくれる人が増えたほうが嬉しいよ。っと、この近くだな…」

 

 向かう店は、万馬大道から数本西へ道を渡った先にある。

 流石に開店してまだ十年余りでは、老舗大店が並ぶアスラン随一の繁華街には並べない。

 しかし、この辺りも充分に賑わい、街灯の明るさや意匠は大道とない区画だ。人気の高級店には申し分立地と言って、過言ではないだろう。


 前の道には馬車が行き交い、客車から降り立つ客の足に靴を履かせる召使も同行している。つまりは、そういう階層の人々が訪れる店が多いという事だ。

 ただ、歩道を歩む人々の装いはそこまで高級感漂うものではない。とは言え、くたびれ、毛羽立ち皺の寄った服を着ているものもいない。

 身綺麗な人々がひそやかに談笑しながら、或いは足早に進んでいく。そんな区画だ。


 「ええっと…『白の三日月』亭…あれかあ」


 ファンの視線が捉えたのは、重厚な造りの店だ。

 色硝子のはまった窓からは惜しみない光量が漏れ出し、路面を照らしている。

 入口の前には二人の屈強な男が立っていて、白い息を吐き散らしながら行き交う人々を眺めていた。


 「門番付きの店か。さすが、銀貨百枚…」

 「さみーし、とっとと行こうぜ」

 「そうだな」


 ただでさえ、すきっ腹と言うのは寒さが堪える。まして、評判の店の前…微かに漏れ出る肉の焼ける匂い付き…では、辛さも倍増しようというもの。

 酒は一人三杯までにしよう。でも、ガラテアさんも飲みたがるよなあ…などと考えながら店に歩み寄るファンの前に、門番の男が立ち塞がった。


 「見ての通りの人数なんだが、入れるかな?」

 

 店はまだ営業を始めたばかりの時刻ではあるが、人気の店だ。もう席は埋まり切っているかもしれない。

 満席だと言われれば、とりあえず予約だけして違う店に行こう。そう思いながら声を掛ける。


 門番はファンを上から下まで一瞥すると、鬱陶しそうに手を振った。


 「お前らが入れるような店じゃない。失せな」

 「おい。今、なんつった?」


 少しばかり目を丸くして止ったファンを押しのけるようにして、クロムが前に出る。

 

 「失せろ、と言ったんだ。ガキ。お前らの財布じゃこの店の一番安い酒一杯にも足りん」

 「…節穴を顔に張り付けてるような能無しを門番にしてるのか。そら、金の無駄もいいとこだ」

 「なに?」


 今度は門番の声が尖る。

 もう一人も肩をいからせてやってくるのを見て、ユーシンがにやりと笑い、クロムの隣に歩み出る。

 

 「あ、こら、おまえら…」


 やめなさい、というファンの声は、近寄る馬蹄の音と勢いよく鳴らされた鐘の音にかき消された。


 「ち、お前らなんぞにかまっている暇はない。さっさと失せろ!衛兵を呼ばれないうちにな!」

 「ほーう?おもしれぇ。呼んでみろ…ンム」


 途中でファンに口を塞がれ、クロムは抗議の視線を主に送る。

 

 「なんだつまらん!引き下がるのか!」

 「大都に戻って忘れていたんだけどさ」


 ずるずるとクロムを引き摺って、店から遠ざかる。

 停まった馬車から降りてきたのは、うっすらと見覚えのある顔だ。確か、タイ叔父さんとこの文官の一人だったような…と記憶を辿るが自信はない。

 しかし、そんなんだったかなと思い出すという事は、見たのは宮中か朝議だろう。二太子の視線に触れる程度には、高位の官僚だ。


 つまりは、そういう客層を相手にする店なのだ。ここは。

 

 「あまりにもナランハルとしてちやほやされてたから、うっかりしてた。俺、そこまで顔が売れていないし、この店は王族御用達じゃない。そりゃわかんないよ」

 

 二太子を追い出す店はないが、古びた外套に羊革のマントを羽織り、長靴ゴタルに泥をつけて歩いているような風体の男を、客と見做さない店はある。

 

 「高級な店は、店の雰囲気も売り物だからな。この恰好じゃ入れなくても仕方がない。焼いた肉っていう新しい料理の店だし、そこまでじゃないと勝手に思ってた。失敗したなあ」


 文官…だったと思う…とその妻を、門番たちは実に丁寧に案内していた。

 夫妻は着飾ってはいないが、普段着でもない装いだ。ファンたちの恰好とは、あきらかに違う。どちらが店の構えに相応しいかと問えば、間違いなく夫妻の方と誰もが答えるだろう。


 「調べた時に出入りの商人さんに店のこと聞いたんだけどさ。そりゃあ、二太子が普段着の徒歩でトコトコ行くとは思わないよなあ」


 ジルチ広場までは鉄道馬車で移動し、そこから歩いた。馬車で行くには人数が多く、馬を駆れば道中無言だ。それは少し味気ない。

 それに歩くなら、履きなれた靴といつもの服の方が楽でいい。そう思って、つい、鈴屋にでも行くような気分で出てきたのだが。


 商人を責めることはできまい。

 ファンの普段をよく知る紅鴉宮の方に出入りする商人なら「馬の毛がついていない服を着て、馬車に乗っていくんですよ!」と忠告してくれただろう。しかし、生憎と聞いたのは紅鴉府に出入りする方の商人だ。

 そちらは皺ひとつなく、牛糞の欠片もついていない騎士服に身を包んだファンしか知らない。


 「そーゆーお店も、あるんだねぃ」

 「そりゃああるさ。まあ、仕方ない。縁がなかったって事で」

 「…お前、微妙にホッとしてないか?」

 「なんのことかなあ?」


 クロムを話しながらすっとぼけるファンに、全員が(図星か)と思ったが、あれだけ邪険にされてそれでもと思うほど、店に思い入れもない。

 誰ともなく踵を返し、店から離れようと歩き出す。

 

 「堅苦しい恰好をしなければ食えない店では、腹が満たされなさそうだ。私も姫様稼業を止めて長いし、二太子の妻としては日が浅い。もっと気楽に食べられる店が良いな」

 「もうちょっと行くと、酒場がいっぱいある通りだ。そっち行ってみよう」

 「お酒のめないけど、へーき?」

 「大丈夫。茶は何処の店にもあるし、弱めの酒を果汁で割って出してくれるところも多いよ」

 「そっかー!」


 そうと決まればうじうじと引き摺るようなのは冒険者ではない。新たな美味と美酒を求め、わいわいと歩き出す。

 どうにも気取った気配のある通りを抜ければ、人通りは目に見えて増えた。交わす声も賑やかになり、客引きの口上も混じる。

 

 「む!」

 「どうした?ユーシン」

 「こちらから、良い匂いがする!」


 いうなり、ユーシンは路地へと身をひるがえした。

 通りに比べれば少し街灯の間隔が空く路地にも、多くの店が看板を出しており、その看板を眺めならが歩く人々がいる。 


 「あのへんからだ!」

 「あの辺ねえ」


 ユーシンが勢いよく指差す方角には、ちょっとした人だかりがあった。

 店に入るのでもなく、この寒い中、立ったり座ったりしている。見た目は一言でいえば、破落戸ごろつきだ。

 破落戸たちは、路地を通る人々に剣呑な視線を向けていた。どうやら、その背後にある店の扉から遠ざけているらしい。

 

 しかし、そんなものを気にする繊細さがユーシンにあるわけもなく。

 すととと、と駆け寄ると、破落戸を無視して扉を開けた。

 

 「うむ!やはりこの店だ!!良い匂いがする!ファン、ここにしよう!」


 満面の笑顔で振り返るユーシンに、破落戸たちはどうしていいか困惑しているようだ。顔を見合わせ、何か小声で言いあっている。ユーシンなら聴こえる距離だが、たぶん、聞いていないだろう。


 「あのひとたち、なんかかわいそーだけど、なにやってんのぅ?」

 「どうせこの辺を仕切ってるつもりの馬鹿の手下だろ。あの店がみかじめ料払ってねぇとかだろうな」

 「みかじめ料?」

 「用心棒代ってとこだな。酔っぱらいがケンカしたり、ガラの悪い客が居座ると、ああいうのを派遣して追い払うって名目で徴収するんだ」


 本来なら、それは衛兵の仕事だ。しかし、大都は広く衛兵の数には限りがある。


 「大きめの商会なら、大抵用心棒を抱えているからね。小さな店は、いざって時に備えて、お願いしていたのが始まりらしいんだけれど」


 人が集まれば、真っ当な道から外れる者も出てくる。そうした連中を束ね、違法な商いや暴力での支配を目論む連中は後を絶たない。


 「あー、アステリアにもいるもんねぃ。やっぱり、どこにでもいるんだ」

 「ご禁制の品の取引とか、人身売買をしている証拠があれば捕まえられるんだけどね。店から用心棒代と称して金を巻き上げていても、本当にいざって時派遣するから捕まえられない。詐欺じゃないからさ」

 「ええっと、そのお金をあのお店は払ってないから、嫌がらせされてるってこと?衛兵さんコイツですできないのぅ?」

 「店の前で変顔しているのは犯罪じゃないからな。入ろうとした人に声を掛けたりなんなりして邪魔をするなら、できるんだけど」


 現状では、いるだけだ。もっとも、あんな連中が威嚇してくるのを気もとめず、店の入れるのは限られているだろうが。

 

 「やり方がせこくて気にくわねぇし、馬鹿の鼻は信用できる。あの店にしようぜ」

 「そうだな。お店の売り上げに、少しでも貢献しよう」


 破落戸たちはじっとこちらを睨みつけてくるが、それ以上は何もしない。怒鳴るなり殴るふりをするなりすれば、それは商売の邪魔と言う罪になる。商業を重視するアスランでは、盗みよりも重い罪だ。


 ユーシンは既に店の中に入ってしまった。その背に続くファンたちに「まずい店なのに」「金の無駄だよな」などと聞こえるようにぶつくさと呟く姿は、哀れですらある。


 「このクソ寒い中、こんなとこで突っ立って、一晩でいくらの商売になるんだろうな」

 「それなりには渡されると思うが…。割に合わないな」


 クロムのこちらも聞こえるように言い放った呟きに、シドも同じ声量で返す。扉の向こうに消えていく破落戸の顔は、夕闇でも見てわかる程度に歪んでいた。


 「あ、いらっはいまへ」


 変わって扉の中でファンたちを迎えたのは、暖かい空気と店主の気の抜けた声。

 そして、ユーシンがしきりに言っていた「良い匂い」だ。


 店はこじんまりと小さい。靴のまま入り、卓と椅子を使って食事をする形式だ。その卓は四人掛けが二つのみで、あとはカウンターに椅子が六脚。それが全てである。

 ファンたち六人が入れば、それだけで店の半分が埋まるほどだが、他に客は誰もおらず、カウンターの向こう側で店主がモグモグと頬を膨らましていた。


 「ご店主!何を食べている?とてもいい匂いだ!俺もそれが良い!」

 「ふぁい」


 ごくん、と店主は口の中のものを飲み込んだ。


 「お客さん来ないもので、自分の夕飯を作って食べてました!そんな賄いにするようなものですけど、いいんですか?」


 店主は二十代後半に見える、なかなかがっしりした体格の青年だ。髪と同じ明るい枯葉色の髭には、慌てて食べたせいか、何かの切れ端がくっついている。


 「何を食べていたんですか?」

 「いやー、名前の付く程の料理じゃないんですが、牛の小腸と野菜を入れた焼うどん(ツォイバン)です」

 「注文できます?」

 「はい!すぐ作りますね!」


 食べかすを布巾でふき取り、店主は上機嫌でいったん奥へ引っ込んだ。席の指定はされなかったので、ファンたちはカウンターに並んで陣取る。

 一番入り口近くの席にクロム、その隣にファン、ガラテアと並び、一番奥がシドだ。姉の拳が届かない位置に落ち着いて、少しほっとしているように見えたことは、口にしないでおいた方がいいだろう。


 カウンターの前には低い段があり、その上には杯や皿が並んでいた。箸はカウンターに三つ置かれた箸箱からとる仕組みらしい。

 座る前、見えた段の向こう側には、黒い鉄板か石板のようなものが見えていた。何をするものなのだろうかと、わくわくしながら店主の再登場をまつ。

 ファンの期待に応えたわけではないだろうが、店主はほどなくして戻ってきた。手には大ぶりの鉢を持っている。


 「今日もお客さん来なさそうだし、全部いっちゃいますね~」

 

 言いながら見せてくれた鉢の中身は、白く艶やかに重なり合う小腸だ。羊の内臓はファンたちにとっても馴染みの食材だが、牛のそれはアステリアでキドニー・パイとして食べた程度である。ちなみに、全員無口、無表情で食べきった。

 

 「牛の小腸をですね、よーく洗って、牛乳につけて、それからもう一回洗って、葱と生姜と一緒に煮まして、それをこれから焼きます」

 「煮るんじゃなくて?」

 「はい。うちは、肉を焼く料理屋ですから」


 先ほど断念した店と同じだ。出てくるのが牛肉か牛の小腸かの違いはあるが。

 偶然とはいえ、焼いた肉が食べられるのは僥倖かもしれない。

 ユーシンではないが、先ほど店主が頬張っていた焼うどんからは、実に食欲をそそる匂いがしていた。

 あんないい匂いがするものが、酷い味になるとも思えず、ファンは期待とともに湧き出る唾を飲み込んだ。


 「これ、鉄の板なんです。これを、熱くして、ここで焼きます。ちょっと、服や髪に匂いが移っちゃいますが…」

 「大丈夫。食べたら帰って寝るだけなので」

 「あ、外套とか上着は、後ろの席の下に、箱あるでしょう?そこにいれてもらえると、あまり匂いがつかないです」

 「ありがとう。そうさせてもらいます」


 立ち上がって後ろを見ると、確かに大きな革箱が二つ、置かれている。蓋が着いていて、がっしりとした造りだ。


 「みんな、脱いでここに」

 「はーい」


 店の中は暖かく、当然ながら外套はいらない。首巻も外し、帽子も取ろうとしてファンは一瞬悩んだ。しかし、すぐに頷いて首巻と共に箱に収める。

 いくら金髪金眼をさらしたとて、王族が徒歩でうろついていると思うまい。よく似た色合いだと勝手に納得される程度だろう。

 しかし、席に戻る一行を見て、店主はあんぐりと口を開けた。あ、ちょっと失敗したかとファンも焦る。


 「いやあ。こんなに美男美女で店が埋まるなんて、はじめてですよー。緊張してしまうなあ」


 特に忙しなく往復しているのは、ファンの隣のガラテアと、更にその隣のユーシンの顏だ。俺の顔の上で視線が止るのが一番短いな、と内心に安堵の息を吐く。


 「まあ、店が半分埋まるのも、はじめてなんですけどね~」

 

 明るく笑いならが…笑い事ではないと思うが…、店主は鉄板に油を垂らし、鉄へらで広げていく。しばし待つと、油がはぜる音と焼ける匂いが漂い始めた。


 「えーと、それは店の前の破落戸のせいですか?」

 「んー、やっぱりそうなんですかねえ?いつもいつもいるわけじゃないんですけど、最近は良くいますから」

 「みかじめ料でもめたのか?」

 「いやあ、たぶん、叔父の雇った人じゃないかなあ」


 じゅう、と大きな音が響いた。鉢の中身が鉄板に落とされ、肉の焼ける芳香が空気に加わる。


 「叔父さんに?」

 「はいー。叔父は、白い…月?的な名前の店をやってまして。肉料理の専門店ですね」

 「…もしかして、白の三日月亭?」

 「そうですそうです!有名になりましたからねえ。どうも、覚えられないんですけど。でも、意味が通じたから問題ありませんよね~」


 あははは、と楽しそうに笑いながらまた奥へと引っ込み、鉢を持って出てくる。奥の間に材料が置かれているようだ。

 今度の鉢の中身は、野菜だった。統一されておらず、人参と何種類かの青菜で構成されている。どれも野菜くず、形容できるようなものである。


 「これねー、近くの店できれっぱし貰ってくるんですけれど、傷んだりはしてませんよー。ボク、毎日食べてますから」

 「野菜きらいが変な顔しただけなんで、大丈夫ですよ」

 「あらまあ。そうなんですか?じゃあ、端っこのお兄さんの皿には、なるべく野菜入れないようにしますね」

 

 「そうしろ」という声と「いえ、気にせず入れちゃってください」という声が重なる。店主がどちらを優先するかは、クロムの前に置かれた皿を見て判断するしかないだろう。


 「さっき、叔父さんの店、入っちゃダメって言われたとこなんですよ」

 「あらまああらまあ。前はもっと、手軽な店だったんですけどねえ。というか、元はこの店だったので」

 「え、どゆこと?!」

 「鉄板で牛の肉を焼くっていうのは、親父と叔父がはじめたんですよー。うちの親父が、いろいろ工夫してね。調味料とか、焼き方とか、あと、牛そのものとか。でも、親父が死んだあと、なんか、叔父さんがやったってことになりましてー」

 

 口調も明るく、にこにこ顔だが、そんなご機嫌に語る話ではない。

 ファンたちの心の声を気取った様子もなく、店主は三度奥へと引っ込み、今度は山盛りにうどんが乗せられた大皿を取ってきた。


 「この小腸もね~。その調味料で味をつけているんです」

 

 うどんが鉄板に投入された。今度は長い箸でかき混ぜながら、店主は無造作に鉄板の横に置かれた壺を取り、中身を注ぐ。

 薄い黄に染まった液体は、その秘伝の調味料なのだろうか。少なくとも、注がれた瞬間に食欲を直撃する匂いが強まったことは、事実だ。

 その芳香を断ち切るわけではないだろうが、店主はすぽりと鉄板に蓋をした。焼うどんは最後に蒸しあげる。その行程だろう。


 「あ、お飲み物どうされます?と言っても、麦酒と麦茶しかないんですけど」

 「そこの二人は麦茶、あとは麦酒で」

 「はーい」


 のんびりしているように見えて無駄のない動きで、店主はカウンターの下から薬缶を取り出した。段に並ぶ杯をひっくり返し、そこに中身を注いでいく。

 

 「ここに、置いときますんで、何杯のんだか覚えておいてくださいねえ」

 「たぶん空っぽになるので、薬缶ひとつ分で支払います。麦茶の方は…」

 「はい、これを」


 同じくカウンターの下から取り出されたのは、麦酒の入ったものよりやや小さい薬缶だ。年季はこちらの方が入っているようで、底が煤けている。

 飲み物の用意が終わると、店主は鉄板に被せていた蓋を取った。立ち上る湯気には身を悶えさせたくなるような匂いが濃厚に含まれていて、凝視するユーシンの目に野生が宿る。


 店主は手際よく、出来上がった焼うどんを皿に乗せ、端から順に配っていく。ちらりと見た感じだと、クロムの皿には普通に野菜が混じっていた。 


 「うん!旨そう!」

 「イダムタラしょうらあれ!」

 「ちゃんと言いなよう。お祈りなんでしょー?」


 ヤクモの声は、当然のようにユーシンに届かない。だが、それを気にかけている余裕は、当のヤクモにすらなかった。


 箸を動かし、食らいつく。

 

 「うっま!」

 

 思わず、ファンは口の中に食べ物が入っている事も忘れ、感嘆の声を上げていた。

 しっかりと下拵えされた小腸は臭みがまるでなく、口の中でくにゅりと独特の歯応えを発揮する。そのたびに溢れる脂は甘くさえ感じられた。

 それに、店主が無造作にかけた、あのタレ。

 塩と、香草を油に溶いたものだろうとは思うのだが。


 小腸の脂を中和し、味を引き締め、飲み込んだ後は強烈な旨味を口の中に残す。

 そこに麦酒を流し込めば、いささか絡みついていた脂っぽさが流され、いっそ爽やかとさえ感じる後口だ。


 「これ、麦酒にも会うけど、米にもものすごい合いそう…」

 「飯、よければこれから炒めます。追加しますか?」

 「します!」


 言ってから仲間たちの顔を見回すと、力強く頷かれた。うどんは大量だったが、六人で食べるには十分な量とは言えない。

 

 「代金はいくらでも支払うので、どんどん追加してください!」

 「ええ!お客さん、太っ腹だなあ!」

 「恥ずかしながら、親にみんなで美味しいもの食べなさいって、小遣い渡されまして。使い切らないと、怒られてしまう」

 「ええっと、焼うどんは一皿銀貨二枚です。焼き飯も同じく」

 「他の料理は?」

 「なにせ、お客さんあまり来ないもんで、仕入れもそんなにしてなくて…羊の肉なら、肋と腿肉を足一本分仕入れています。焼いちゃっても…?ちょっと、高くなっちゃうんですけど…」

 「問題ないです」


 ファンは懐から財布を、その中に収められている金貨を取りだした。

 金貨は一枚で銀貨百枚の価値がある。店主は目を丸くし、それからにんまりと笑った。


 「嬉しいなあ!いーっぱい、料理が作れる!」

 「いーっぱい、作ってください!」

 「はーい!」


 脂が揺蕩う鉄板でいためられた焼き飯は言うまでもなく、焼かれた羊肉も絶品だった。

 羊肉を焼くときには串焼きで、香辛料をたっぷり塗して食べるものと言うのがファンたちの認識だったが、鉄板で焼かれても十分に美味だ。あの調味料とは別の胡椒や香草が混ぜられた塩での味付けも、よくあっていた。


 「スイマセン、材料が切れました~」


 他にも焼き餃子(バンシュパ)や滲み出た脂で焼いたじゃが芋など、店主が楽しそうに繰り出す料理を堪能した結果。

 満足げな終了宣言がなされるまでに店中の皿が使用済みとなり、店内には満腹時特有の幸せな気怠さが漂っていた。


 「いやあ、美味しかった~」

 「ありがとうございます~。こんなにたくさん作ったの、久しぶりだなあ。ああ、楽しかった」

 「店主殿!実に美味かった!また食いたい!」

 「スミマセン~。材料なくなってしまったのと、同じ味はもう出せないので、しばらく店を閉めようかなって」

 「え!?もしかして、俺たちが食いすぎて?」

 「いやあ、そうじゃないんですよお」


 にこにこと鉄板を拭く店主は、その顔のまま首を振った。


 「このタレなんですけどねえ。油と塩と、あと色々混ぜてつくってるんです~」

 

 持ち上げたのは、鉄板の隣の小瓶だ。彼の父が作り上げたというもの。


 「その油が、ボクらはアブラニンジンって呼んでいる草の実からつくるんです~。あ、本当の人参じゃないんですよ~。花とかが似てるから、そう呼んでいるだけで」

 「種が油になるんだったら、アブラナ科の植物なのかな?」

 「スミマセン、ちょっとわかんないんです~。なんでも、親父の生まれた村にしか生えない草らしくて」

 「え!?って事は、まだ未分類の植物かもってこと!?」

 「ファン、めッ!座ってて!!」


 ヤクモに叱られ、クロムに肩を掴まれて、ファンはすごすごと浮かしかけた腰を下ろした。

  

 「それをですねえ、植木鉢で育ててたんですよお。気持ち悪いくらい実がとれるので、秋の終わりに収穫して、植える分だけ残してあとは油にしてって使ってたんです~」

 「そ、その種は!!」


 種だけでも手に入れば、栽培して観察することもできる。

 新種かもしれない植物の種子の為なら、財布に残る全ての金貨を使っても悔いはない。


 「それがですねえ。うっかり、花が咲いてた夏に、夜、植木鉢を仕舞うの忘れて、しおしおに萎れて枯れちゃったんです~」

 「え…」


 大都の夏は、昼間は強烈な日差しによって暑くなるが、日が沈むと一気に冷え込む。大都周辺で育つ草木ならば問題ないが、南国の花などは夜を越せない。

 その為、そうした草木を愛でる人々は、日が沈む前に植木鉢を家の中に避難させるのが常識だ。


 「種取る前だったからねえ~」

 「あああ…」


 新種かもしれないと盛り上がった心が、夜の冷え込みにやられた草のように萎れていく。ガラテアが「よしよし」と頭を撫でているが、それにも気が付かないほどの落ち込みっぷりだ。


 「こんなに落ち込んだファン、久しぶりだねぃ」

 「夏に、俺の布団にしょんべん掛けやがったクソ蝉に逃げられて以来じゃね?」

 「変な蜘蛛を鶏に食われた時も、こんなふうだったぞ!」


 そのあたりを見ていないライデン姉弟も、容易に想像がついたのだろう。同じく学者だった叔父を思い出しつつ、頷く。


 「親父の生まれた村は、長城を出て、ちょっと東にあるインシュの谷間にあるらしいんですけどね~。そこに行けば、たぶん、アブラニンジン生えてると思うんですけど~。叔父は、そこから仕入れているみたいだし」

 「インシュの谷…あそこなら、あり得る!!」

 「どんなところなんだ?」


 シドの視線はクロムに向いていた。ファンに聞くと話が長くなるという予感はある。

 

 「昔話でな。草原にでかい山があった。んで、そこには乱暴者の巨人トム・フンが住んでいた。そいつは癇癪を起しては地団駄を踏み、そのせいで地面は揺れて人も獣も安心して暮らせなかった。そこで、紅鴉が一計を案じ、『住んでいる山の方が大きいのに、何を威張っているのか』と煽り立てた」

 「それ、アスラン王国が出来る前の話?」

 「だろうな。できてからなら、紅鴉がどうにかする前に、アスラン軍が討ち取る」

 「紅鴉に馬鹿にされたと思った巨人は癇癪を起し、住んでいた山を散々に蹴って崩してしまった。けれど、巨人も疲れ果ててその場に倒れ、死んでしまった。巨人は溶けて水になり、インシュは低い山に囲まれ、小さな湖のある谷になったって昔話だ」


 クロムの昔話の続きを言い切ったファンは、口の端を不敵に持ち上げていた。強敵を前におのれを鼓舞しているような表情だが、その頭にあるのは人参っぽい草である。


 「あそこは、山に囲まれているから風が入り込みにくく、気温も周辺より高い!さらに、今じゃ湖と言うより池だけれど、水場があることで湿度も保たれている!新種が発見できる可能性は、かなり高いぞ!」

 「でもさあ。大都からそんなに遠くないんでしょ?もう、誰かが見に行ってるんじゃない?」

 「あそこ、めんどくせぇらしいからな」

 「面倒くさい?」


 ファンの頭を撫でながら首を傾げたガラテアに、クロムはそれこそ面倒くさそうに頷いて見せた。


 「あそこは、それこそ開祖のころから定住氏族が住んでる。さっさと開祖に服従したんで、自治が認められててな。大運河が完成するまでは、阿漕な商売していたらしいぜ」

 「ああ、水の独占か」

 「そういう事だ。冬でも凍り付かねぇ水場は貴重だったらしいからな。ま、今じゃ高い金出してまで池の水を買うやつはいない。家畜に飲ますだけなら、大運河にいきゃいいし」


 さらに、周辺の町や村では井戸が整備され、大運河から伸びる水路も無数に走っている。美味いと評判の清水ならともかく、池の水を求めてやってくるものは余程の物好きだけだ。


 「でも、阿漕な商売してたから、報復されるんじゃねぇかってビビッて、引きこもっている。草を探しに来たなんて怪しい奴を、素直に入れるかはわかんねーな」

 「そうなんだ。調査にものすごく非協力的なんだよ。無理矢理入ることはできるだろうけれど、それで賊扱いされて訴えられたら負ける…でも、だ!」


 ガラテアの手をそっと頭から降ろし、ファンは今度こそ勢いよく立ち上がった。


 「店主さん!アブラニンジンの種、取りに行きましょう!!」

 「ええ~?」

 「あなたのお父さんがインシュの谷出身なら、親戚もいるかもしれない!それなら…!」

 「っていうかさあ。種だけなら、その叔父さんから貰えるんじゃないのぅ?」

 「いやあ。くれないですねえ~。叔父は、この店を潰したがっていますし」

 「なんでまた…」


 思わず口から洩れた疑問を、愚問だったなとファンは後悔した。

 話を聞く限り、店主の父が作り上げた調理法を叔父は己のものと言い放っているようだ。確かにあの店は「特別な調味料」を売りにしていたし、それは店主が試行錯誤の上で編み出したもの、という謳い文句だった。


 しかし、それがただ単に、兄の手柄を盗んだものだとしたら。


 急に名が知れた店は敵も多い。まして、傲慢な対応で客を選ぶような店なら、面白くないと思うものは大勢いるだろう。

 そんな店が、実は…と噂が立てば。

 あっという間に悪評は、それこそ枯野に火を放ったように燃え広がる。

 さらには、「兄の手柄を我がものとする、非道な行いをする店主を懲らしめるのだ」という正義感という強風も加わるのだから、消火は不可能に等しい。


 あまりにも客層が違いすぎるから、調味料が同じと気付いたものは今までいなかったのかもしれない。

 しかし、ファンが「二太子」として例の店に赴けば、入って料理を味わうことが出来るだろう。そうなれば、気付く自信はある。

 そういう「奇特な貴人」が他にいないとは限らない。だからこそ、白の三日月亭の主人は、この店を潰したがっているのだ。


 「たぶんなんですけどー。五年位前かなー。叔父の買っておいたお菓子、ボクが食べちゃったことがありまして。それを恨まれてるのかなって」

 「絶対違う!」

 

 思わず全力でつっこみをいれてしまったが、逆に叔父がとんでもない狭量な人間だという皮肉なのかもしれない。

 でも、店主さんの顔見る限り、そういうんじゃなさそうだよなあ…と力も抜ける。


 「そーですかね?じゃあ、なんでだろ?」

 「…いや。あんたはそんな事は考えずに、料理だけ作ってた方があちこち幸せになると思うぜ」

 「うん!ボクは料理作ってですね、お客さんが美味しいって顔してくれるのが大好きなんです。そうですよねえ。叔父の考えている事なんてわからないんだから、楽しい事している方がいいですよねえ」

 「ええ。俺もそう思いますよ。だからこそ、アブラニンジンを取りに行きましょう!」

 「お客さん、そんなに気にいってくれたんですかあ?うれしいなあ」


 いや、コイツはその珍しい草を調べたくて仕方ないだけ…とファン以外の全員が思ったが、当のファンが罪悪感に強張った笑顔になっていたので、言わないことにした。

 ファンの興味が珍しい草であっても、店主の料理が美味かったことは間違いない。そして、二度と食べられないと言われて諦めるには惜しい味であったことも。


 「うむ!そのニンジンがあれば、また作れるのだろう?ならば、俺も取りに行く事は賛成だ!もっと食いたいからな!」

 「だろ?!ユーシンは話がわかるなあ!」

 「だが、お前はダメだろ。仕事どうするんだ」

 「もうちょっと頑張ったら、一段落するから!親父と兄貴とタイ叔父さんに土下座して頼むから!」

 「軽々しく土下座すんじゃない!絶対トールのアホは了承しちまうだろうが!!」


 流石に金髪金眼の男に掛ける言葉の中に、「トール」という名があれば、まさかと思われても仕方がない。

 しかし、クロムの言葉後半は、扉が激しく開く音によってかき消された。


 入り込んできた寒気と、重い足音に全員の視線が入り口に集まる。

 そこにいたのは、店主と同じ年ごろと思われる男だった。


 「く…」


 扉に縋るようにしながら、店内によたよたと入ってくる。左手は右肩を抑え、纏う上質な外套には、泥が散っていた。

 

 「あれえ?どうしたの?」

 「ああ…」


 店主の声も、僅かに上擦っている。

 

 「もしかして、外の破落戸に…」

 「いや、恥ずかしながら…」


 擦りむいた頬を悲痛に持ち上げ、男は切れた唇を歪ませた。


 「さっき、そこで転んでしまって。おもいっきり右の肩から倒れたし、グネッた左足首が一番痛い」

 「本当に恥ずかしいな…」

 「いやでも、転ぶと痛いしね…。うん。あの、湿布いります?」

 

 常に応急処置用一式は持ち歩いている。回復薬もあるが、それは流石に転んだだけの人に渡すのは過剰だ。


 「あ、すいません…お客様に…」

 

 なんとか椅子までたどり着き、男はアイタタタタ…と呻きながら腰かけた。大都はどこもかしこも石畳で舗装されているので、受け身を取れずに転ぶとかなり痛い。


 「明日の朝になったら、お医者行った方が良いですよ」

 「そうですね、そうします…って、そんな場合じゃなかった!大変だ!ティカとサーヤが攫われたんだ!」

 「え、ええ!?」


 湿布を渡しながら、なんか驚いてしまったファンだが、すぐに(誰…?)と首を傾げる。


 「あー、サーヤはボクの妹で、ティカは彼の妹です。彼はボクの従兄でー」

 「例の叔父さんの息子さん?」

 「そーです。叔父はボクが怒らせてしまったから仲が悪いんですけど、亡くなった叔母も、従兄妹たちも仲が良くて。ティカは特にサーヤに懐いていて、あと二年して成人したら、サーヤのお嫁さんになるって言っているくらい」

 「ああ。だから、ティカが三日前から姿を見せないのも、いつも通りここに来ているんだと思っていたんだ…」


 あと二年で成人という事は、現在十三歳。まだ大人ではないが、完全に子供と見做される年齢でもない。普段から従兄妹の家に入り浸っているのなら、何の心配もせず、見に行かなくてもおかしくはなかった。

 

 「そしたら…さっき、俺の部屋に、ベックがこっそり手紙を届けてくれて」

 「ベックというのは、彼の家で働いている小間使いの子ですー」

 「あ、ご親切に、どうも…」


 肩を抑えていた左手で、店主の従兄はなんとか懐から目的のものを引っ張り出した。

 卓の上に置かれたのは、くしゃくしゃになった手紙と言うより、走り書きが記された紙きれである。あまり質のいい紙ではないため、掠れて読みにくくはあるが、筆跡自体は綺麗な文字だ。


 『ティカがインシュの谷に連れていかれた。私が行けば代わりに解放するとの事。叔父と共に行く。兄に十日以内には戻ると伝え、職場にもその旨伝達の事』


 「要点と要求が纏められた文だなあ」

 「攫われた女が書くもんか?これ…。軍の申し送りじゃねぇんだから」

 「あー、サーヤは騎士なので」

 「なるほど」


 しかし、これを見る限り、少なくともサーヤと言う女性は攫われたのではなく、自主的に向かったように思える。

 十日以内には帰る、という事は、自身も帰還できるという自信があるからなのだろう。インシュの谷まで、馬を駆れば三日の距離だ。往復と滞在それぞれ三日で済ませるつもりらしい。


 「ほっといていいんじゃね?」

 「でも、なんでそもそも妹さんが連れていかれたんだろ?」


 最終的な目的は、店主の妹…サーヤの方であるようだ。しかも、こういう手段を取るという事は、彼女自らの意志では足を運ぶことはない、と見做されている。

 

 「サーヤは、父たちが連れて行ったようなんです。いつも、インシュの谷へは、父と数人だけで向かっていました。俺やティカが同行したことはなく…帰ってくると、いつも父は疲れ果てていて、なんだか荒んでいました」

 「クソ田舎に大都から行けば、疲れもすんだろ」

 「まあ、俺も学校の大都城外学習に参加したら、なんか夜、変な泣き声みたいのするし、埃っぽいのに風呂はいれなくって、帰ってきてから三日くらい熱だしましたが…なんというか、そういう事じゃない感じで…」

 「…あんたもいい加減、弱いな…」

 「なんか、ナナイといい勝負だねぃ」


 見た目は長身でがっしりした体格ではあるが、受け身も取れずにすっころんで顔に打ち身を作るほど、運動神経難ありのようだ。

 

 「子供のころから、虫が服について取れなくて、泣いたりしたもんね」

 「ふ…こないだの夏も、な」

 「ダメだなこいつら」

 「今日初対面の人に向かって、ダメとか言ったらいけません」


 こんな兄を見て育てば、騎士になるような従姉に憧れるのも無理はないかもしれない。


 「えー、じゃあ、纏めると、ティカさんを攫ったのは、おそらくインシュの谷の人って事で良いのかな。で、解放条件として、サーヤさんの身柄を要求している、と」

 「衛兵に訴えればよいのでは」


 ガラテアの提案に、ファンとクロムも頷いた。大都の民が長城の外に連れていかれた…しかも未成人の少女であるなら、緊急性ありとして捜索に出動してくれる案件だ。


 「それなんですが…もしかしたら、父は何か、悪い事をしているのかも」

 「兄貴の手柄をてめぇの手柄にして、甥っ子の店に嫌がらせしている時点でやってんじゃねぇかよ」

 「ええ!?それは本当なのか!!この店に嫌がらせって…」

 「店の前の人、良くいるんだよー。叔父さんのお菓子食べちゃったから怒ってるのかと思うんだけど」

 「クソ!やっぱりあの男は器量が狭い!!」

 「納得するなよ。で?ほかになんかやってやがんのか?てめぇの親父は」


 兄の手柄を奪い、甥を社会的に潰そうとしている男から、どうしてこんなあらゆる面がホンワカした息子が出来たのか。母の血が濃すぎるのか。

 それも気になるところだが、聞いても疲れるだけな気がするので、クロムはあえて話題にしなかった。どうでも良い話を延々と語るのは、主だけで充分である。


 「…はっきりとは、わからない。けれど、店の従業員の間で噂がある。父がインシュの村に行くといは、若い女性を連れて行くが、戻った時に…その人は、いない、と」

 「売り飛ばしてる可能性大、だな」


 アスランに於いて、奴隷の売買は国か国が認めた商会のみが行うことが出来る。

 無許可での人身売買は大罪であり、発覚すれば首謀者は処刑されるのは勿論の事、家族や親族は奴隷として売られていく。

 それでも奴隷商人の摘発が終わらないのは、やはり人間が金になる「商品」だからだろう。


 「そうなると、衛兵に知られるのは困るよなあ」

 「そうなんです…!うちの店には、イントルが咲いたら恋人に求婚するつもりのが一人と、来月にも子供が生まれるのが一人と、もうすぐ親一人子一人で育った娘さんが嫁ぐ人が…!」

 「うわ…すごい通報しにくい…」

 「しかし、妹たちは心配だろう?いかにアスラン騎士とは言え、女一人でどうにかなる相手なのか?」


 ガラテアのもっともすぎる懸念に、従兄は悲痛な顔で首を振った。


 「わからない…」

 「本当に奴隷商人が絡んでるなら、一人二人って事はない。売りさばくにも相手が必要だし、大抵の奴隷商人は反抗に備えて戦力を揃えているから…と、言うわけで、だ!」

 「うわぁ、嫌な予感するねぃ」


 立ち上がってふんすと鼻息を吹きだしながら胸を叩くファンに、クロムは顔を手で覆い、ヤクモは半笑いで頷く。


 「俺たち、隣国アステリアで冒険者と言って、荒事や危険なことを代行して請け負う仕事をしています!妹さんたちの救出を、依頼してみませんか!」

 「お前…変な草を見つけに行きたいだけなんだろ…?」

 「それもあるけども!!だが、女の子が攫われて、アスラン騎士が我が身を顧みずに助けに行ったと聞いたなら、助太刀しないわけにはいかないだろ!」


 大きなため息とともに、クロムは顔を覆った手を外した。その表情はいつもの通りの無表情だが、鋼青の双眸には強い意志の光が宿っている。

 その意志を分類するなら、「仕方ないとか言いながらも結構乗り気」あたりになるだろうか。


 「でもさ、ファン。お仕事休めるのう?ぼくらだけで行ってきて、草も探してくるほーが、よくない?」

 「そそ、それはだな!!ええと、あれだ!大事な仲間で客であるお前らだけを危険地帯に送ることはできないって言うか!仕事はあれだよ!!土下座するし!」

 「絶対、自分で草探したいんでしょ」

 「俺は良いと思う!ファンがいないと、道中の飯が美味くない!」

 「え、俺の価値って、そこ?」

 

 仕事は本当にあと一息でどうにかなる…はずだ。今夜、外出するために頑張った。追加さえなければ、明日中には終わる見込みである。

 

 「親父と兄貴も、事情を聞けばきっと許してくれると思うんだ!」

 「その通りさ!そしてお父さんも一緒に行くよ!」

 「あ、兄もだぞ!弟よ!」


 ばばーん、と扉が激しく開く音とともに。

 押し入ってきた声と人物に、全員の視線が集中する。


 「なんでここに…」

 「ファン君たちが、美味しいお肉を食べに行くと聞いて!」

 「よくわかりましたね。俺らの場所」

 「トール君がねえ!こっちな気がするって!」

 「うわ…」


 朗らかに反応に困ることを言いながら、モウキはずかずかと店内に押し入ってきた。その後ろで閉まっていく扉の向こう、破落戸が泣きそうな顔をしているのがちらりと見える。


 「…なんか、哀れだな」

 「シドもそー思う?三連発で完全に無視されてるもんねぇ」


 従兄については雇った側の人間ではあるが、いきなり目の前ですっころばれたあげく、よたよたと店に入って行く姿を茫然と見ているしかなかったのだろう。その光景は、想像に難くない。


 「え、でも、親父と兄貴は流石にダメじゃない?仕事、絶対なくならないでしょ?」

 「一日二日くらいならどうにかするとも!ねえ、トール君!」

 「はい。無論です。父上」


 いつもに比べてトールが無口で気配を無にしているのは、知らない店への入店かつ、知らない人が二人もいるからだろう。父の後ろに蝉のように張り付き、もにょもにょと返答する。


 「ほら、ね!」

 「母さんも怒らない?」

 「女の子が攫われて、助けに行かない方が怒るともさ!ねえ、いいでしょ?ファン君!お父さんも一緒に行きたいよお!断ったら、五十路の父がお店で転がって駄々をこねるところを見ることになるよお!!」

 「ええ!?それは嫌だ…」

 「つーか、さっき入ってきたのに、なんでその話しってるんです?」


 クロムの胡乱な視線に、モウキはニコリと、真夏の太陽のように笑った。

 笑いながら分厚い冬の帽子を取り去り、マントを脱ぎ、外套を己の背から椅子の背へと移す。


 「そこのお兄さんのマントに、『集音』の魔導具を張り付けたからさ!本当にファン君がこの店にいるか、確かめてから入ろうって、トール君が!」

 「これだな」


 ガラテアの白い指先が、従兄の背から何かを摘まみ上げる。

 棘の生えた種子のように見えるそれは、アスランの諜報たちが携えている魔導具だ。この程度の広さの店ならば、話している内容が不明瞭ながらも拾える。

 拾った音は対になる魔導具から聞く事ができ、録音などはできないものの、何かと便利に使える品物だ。


 「思いっきり転んでいたけど、大丈夫だった?あれ?なんかぼーっとしているね。頭打っちゃってたら、危ないなあ」

 「父上、肩からいって頬を擦っていましたが、頭部は問題なかったかと」

 「そっかあ!じゃあ、どうしたんだろ?」


 金髪金眼は、アスラン王家の特徴。

 そして、トールとファンと言う兄弟は多いが、その父で、ソウジュという妻を持つモウキという男は、世界にただ一人しかいない。


 「へへへへへ…」

 「うん?」

 「陛下!?大王陛下にあらせられたりちまったりしちゃって!?」

 「あ。またやっちゃった!まあいいよね!ところで、店主君!」

 「はいー?」

 「お腹すいちゃった!何か作ってくれる?」

 「スミマセン、品切れで…」

 「ええー!!こんないい匂いしているのに!?」

 「ば、ばっけろろお!!」


 足と肩の痛みも忘れたように、従兄は店主に向かって飛びついた。当然、カウンターに阻まれて腹を打ち付け、「ぐえ」という声が上がったが。

 

 「おまおまおあま!!こ、こちらの方々をどなたと!!」

 「ええ?新しいお客さんじゃないー?」

 「ば、ばかー!!ちょ、ちょっと、家から肉持ってくる!!」


 大慌てで従兄は出て行った。分厚い扉の向こうから、「痛ァ!!」という声が微かに聞こえたので、また転んだかもしれない。


 「んー。肉は何とかなりそうなので、ボクはうどんを作っていますね!」

 「よろしく!」

 「おお!肉がまた食えるのか!ありがたい!」

 「ユーシン、ユーシンはたくさん食したのであろう?であれば、遠慮というものをだな…」

 「知らないやつが一人減ったから、少し元気になったな」

 

 おそらく、従兄は抱えきれないほどの肉を持ってくるだろう。できれば、一人で運ばずに誰かの助力を頼んで欲しいが。せっかくの肉が無残にも地面にブチ撒かれるのは勿体ない。

 多少泥や土で汚れたくらいなら、気にせず食べる客しかこの場にはいないが…全員王族か、元王族なのだが…どうせなら、無事に運ばれてきて欲しい。


 「じゃあ、お肉来るまでに、作戦会議だ」

 「完全に、親父と兄貴も来る気だね…」

 「お父さんだって、たまには王様以外の事したいのー!」


 髭面をぷっくりと膨らませても、可愛くはない。むしろ、げんなりする。

 この顔…しかも、自分の三十年後の顔でひっくり返ってじたばたする姿は、ものすごく見たくない。

 

 「しかしだ、弟よ。戦力的にも、俺と父上が同行した方が不安はない。それに、インシュの谷までどう行く気だ」

 「マナンに乗って行こうかと…」

 「それでは、お前とクロムしか乗れまい。飛竜隊を動かすのか?」

 「そのつもりだったけど…」

 「そうなれば記録が残る。そうはしたくないのであろう?」


 記録が残れば、『白の三日月』亭の店主の罪は、どうにも誤魔化せない。家族や従業員も連座し、次の春に咲くイントルの花は見ることが叶わなくなるなるだろう。


 「あのうっかり屋さんや、攫われちゃったらしい妹ちゃんには罪はない。従業員の皆さんも、加担しているのはごくごく限られた一部だろうしね」

 

 本来、違法な人身売買に関わったもの野家族を奴隷に落とすのは、罪を犯した者に対する罰の一つだ。愛する家族が己の罪で枷に繋がれ、羊のように売られていくのを見せる、という。

 しかし、最近、「あまり効果なくない?」という声が上がってきているのも事実。

 家族が泣こうが喚こうが、あまり罪人は堪えていないようだと、報告されることも多い。人を違法に売り買いするようなものが、これから訪れる自分の死よりも家族の境遇に嘆く、などという事はあまりないのも当然のことだ。


 それに、違法な売買で儲けた金で贅沢三昧をしているとか、買われてきた奴隷は何をしてもいいと非道な扱いをしているとか、そういう外道なら奴隷に落とすことを躊躇いはしない。

 だが、今回のように家族は何も知らず、それどころか心を痛めているような件では、後味も寝覚めも悪い。

 

 「ほんとーに、やっちゃってるなら、店主は見逃せないけどね。奴隷商人を全員潰して終わらせることもできるけど。ま、いっか!とりあえず、妹ちゃんたちを助けないとね!」

 「そこでだ。弟よ。俺とお前で先に飛竜を駆ってインシュの谷付近に往き、転移陣で残りの者たちは来る。これならば、飛竜は俺のムカリと弟のマナンだけで良い」

 「えー。お父さんも飛竜で行くよ~。ルガルはもうお爺ちゃんだけど、その程度なら問題ないからね!」


 一瞬、トールが整った顔中を皺にしたが、モウキは機嫌よく息子の抗議を黙殺した。ファンも父が駄々をこねることを警戒して口を閉ざす。


 「うーん…じゃあ、そんな感じで」


 まあ、八代大王と一太子が命じた方が、素直にくだんのアブラニンジンの種も差し出してくれるだろう。

 本来なら、王と一太子が護衛も連れずに賊の本拠地かもしれない場所へ赴くなど、赦される事ではない。万が一があったらどうするのかと言われたら、反論できない。


 (でも、この二人が揃っていて万が一って…それこそ、魔族でも顕現しない限り、起きないだろうしなあ)


 小さめのナルガくらいなら、普通に討伐して解体するくらいのことはできる。身内の贔屓目ではなく。


 「奴隷商人ごときじゃ、一方的にぶっ殺して終わりだな」

 「だなあ…。でもさ」

 「ん?」


 本当に、奴隷売買なのだろうか。

 そうだとすれば、何故、「この店の店主の妹」を要求した?


 現役の騎士が失踪すれば、当然調べられる。所属する隊だけでなく、『猟犬』と畏れられる専門の騎士が、生死判明するまで追いかける。

 すぐにその鋭い鼻は、『白の三日月』亭を嗅ぎ当てるだろう。


 「なんか、そうじゃない気がするんだよな」

 「なんでもいい。さっさとクソをぶった切って、お前を安全な執務室に押し込める。それだけだ」

 「…それはそれで、嫌だなあ」


 ただ、待ち受けるのが奴隷商人であってもなくても。


 「お肉、たのしみー!」

 「そうですね。父上」

 「まだお顔くしゃってしてる!」


 『敵』に、避けられない破滅の運命が近付いていることだけは、間違いない。

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