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鳥には羽根 魚には鱗  作者: 阿古あおや
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蛇のまだらは皮に、人のまだらは心に(人は見かけによらぬもの)1

 「あのおっさん、どこにいるんだよ…来てねえとか言ったら、殴っていいよな」

 「駄目に決まってるだろ…」


 クロムが不機嫌を隠そうともせず、辺りを見回す。


 東門は、開門を待つ人々でごった返している。

 以前の西門と同じように、多いのは畑へ赴く農夫たち。けれど、あの時は割と目についた、冒険者や行商人の姿は少ない。

 ほとんどの冒険者は緊急クエストを受注しているわけで、今ここに居るのは、俺たちの様に別件を引き受けている連中くらいなもんだ。

 行商人はこの季節、もう仕事納めをしているのか、それともクローヴィン神殿襲撃について警戒しているのか。


 東の国境の街ラバーナに至る街道と、クローヴィン神殿は遠く離れているとは言え、トチ狂った軍が何をするかはわからない。

 アステリア聖王の名で、「東方へ向かうものは十分警戒するように」とのお達しが出たのは、昨日の夕方だ。

 兵士たちが大声で叫びながら大通りを往く姿を、冒険者ギルドから宿までの道のりで何度も見かけた。

 今も東門を守る兵士が、通達ありと人を集めている。

 それを聞く人々は、すぐ近くの家族や友人、見知らぬ人と言葉を交わしているが、不安に駆られた様子はない。

 むしろ、なんだか盛り上がっている感すらある。


 「聖王陛下よりのお言葉である!」


 十分人が集まったのを見て、兵士が口を開いた。

 他の兵士さんより少し装備が立派なので、兵士長とかなんだろう。

 少し声がかすれているのは、もう何度も大声を張り上げた後だからか。


 けれど彼は、「聖王よりのお言葉」を民に伝える、という役目を誇りに思っているに違いない。顔に疲労感はあるけれど、張り切った様子が見て取れる。

 兵士長さんは、朝日に負けず明るい光を双眸に乗せ、大きく口を開けた。


 「クローヴィン地方に賊軍あり!バルト陛下御自ら義勇兵を率い、討伐に向かわれる!

 この中にクローヴィン地方とその周辺に向かうものがあれば、重々注意せよ!」


 『バルト陛下御自ら討伐に向かわれる』


 その言葉に、わあっと歓声が上がった。

 御触れの内容は、大半の人はもう知っていることだろう。

 それでも何度でも歓声は上がり、気の早い人は、どこの酒場で聖王陛下の勝利を祝して杯を干すかの相談をしている。

 聖王陛下が負けるなどとは、誰も思わない。

 悪いやつを聖王陛下が蹴散らして凱旋すると、一人の例外もなく信じている。


 バルト陛下がどれだけ民に慕われ、英雄として讃えられているか…この光景が何よりも雄弁にそれを説明しているよな。


 「いやはや。これぞ王者の徳というものでござりますなあ」


 「ぴゃあっ!!?」


 いきなり至近距離でかかった声に、ヤクモが悲鳴を上げて跳んだ。俺もちょっと体が揺れた。

 その声のした方向へユーシンが電光石火の勢いで腕を伸ばし、その手が声の主を捉える。


 「ちょ、末将それがし!末将にござる!」

 ユーシンの咽喉を掴まれ、いつもより高い声でウー老師が騒いだ。


 もっとさあ…登場の仕方、考えようぜ?

 なんで武芸はからっきしなのに、気配を消すのはやたらに上手いんだ。


 「あ、おっさん。いたのか」

 「クロム!おぬし、末将を探していたのではなかったのか!」

 「探しちゃいたが、湧いて出ろとは言ってない」


 クロムの全く悪びれない返答に、ウー老師は大袈裟に咽喉と腰をさすった。

 掴んでいた手は離れているけれど、ユーシンは毛長牛ヤクを持ち上げる怪力だしなあ。一瞬、ウー老師の足も宙に浮いてたように思う。

 

 「えっと、おはようございます。ウー老師」

 「もっと他に言うことはないのですかな!?」

 非難がましいウー老師の視線を、ぺい、とクロムが手で払った。

 「おっさんのその態度、トールに余すことなく伝えとくわ。ファンを脅かしたあたりを特に大袈裟に盛りに盛って」

 「若は驚かれておらなんだが!?」


 「そーいやさ、ファン」

 一番驚いたであろうヤクモは、もう立ち直っている。

 眠そうにしていたから、目がばっちりさえて良かったのかもしれない。


 「この人のこと、ぼく、何にも知らないよ?どゆ人?」

 「あ、紹介してなかったっけ?」

 「うんー。ファンのおにーさんの守護者スレンって言うのは聞いたと思う」


 ヤクモの言葉に、ウー老師は「ウォッホン!」とわざとらしい咳をして、襟を直した。

 

 「末将はウー・グィ!星竜の守護者(オドンナルガ・スレン)にして、星竜君わがきみの軍師である!」

 「へー」


 偉そうな名乗りは、これ以上ない平坦な声で受け入れられた。

 すっごく不満そうな目で俺を見られてもね?


 「ヤクモは別に、アスラン軍に興味ないから…」

 「では一体、何を名乗れと!?」

 「うーんと、ごめんなさい。特に名前以外に知りたいこととかなかったです」


 ぺこり、とヤクモが素直に頭を下げると、さすがにそれ以上言うことはできなかったようで、やっぱり俺をじっとりと見つめる。

 だから、俺を見つめられてもな?


 「で、おっさん。アンタ一人じゃないよな?」

 その視線に割って入り、しっしとクロムは手を振った。


 馭者がいるっていってたよなあ。アスラン人の馭者で、馬の扱いも問題ないって。

 兄貴がウー老師に着けるんだから、遊牧民出身かつ決して裏切らないって思っている人だろう。

 星竜親衛隊の騎士の一人かな?


 「こちらにござる」


 ブチブチ文句を垂れ流しつつ、老師は踵を返した。

 どうやら彼の故郷の言葉らしく、俺にも何言っているのかさっぱりわからない。

 ヤクモが身に着けている『言語理解』が込められた腕飾りも、通訳してくれるのはタタル語だけだ。何言っているかは聞き取れないだろう。

 まあ、たぶん、判らなくても何一つ問題ない事だろうけれど。

 

 老師についていくと、東門前馬場に出た。

 その一角から、嬉し気な馬の嘶きが聞こえる。


 「あっちだな」

 

 その嘶きの方を見れば、頭を振り建てる流星栗毛ヘールハルザンの姿が見えた。

 手綱はかるく杭に結ばれているが、引きちぎるような様子はない。嬉しそうではあるけれど、落ち着いている。いい状態だ。

 俺たちの馬の横には、馬車に繋がれている二頭の馬と、その馬車に繋がれているもう二頭の馬の姿があった。

 全部アスラン馬だ。冬に備えて毛が伸びてきているのが可愛い。

 

 「よーしよし(フゥーイフゥーイ)


 撫でて撫でて、と鼻面を押し出してくる流星栗毛の顔を撫でると、他の馬たちも顔を押し付けてくる。あー、馬くさい。いい匂い。落ち着くなあ。

 なんだか、毛並みも前に見た時よりいい。しっかり手入れされている。

 きっと、アスラン人の馭者がやってくれたんだろう。馬たちが落ち着くわけだ。気持ちの良いことをしてくれる人を、馬は嫌ったりしないからな。


 視線を動かしてその馭者を探すと、馬車の側で何か落ちた音がした。


 馬車に繋がれた馬たちが、落ちた汗掻き棒(ホソール)を鼻でつついている。

 これで汗を掬い取ってもらうのが、馬たちは大好きだ。なんでその大事なものを地面に落しているんだろうと不思議がっている。

 

 落とし主は、目を見開いて俺を見ていた。

 馬たちがつついても、身じろぎひとつしない。

 焦れたらしい馬が、ぱくりと歯を立てずに腕に噛みつく。それでも、微動だにしない。


 その顔は良く知っている顔だった。


 年は離れているけれど、乳兄弟の弟だ。

 一年見ない間にずいぶん男らしくなったけれど、丸っこい目やびっくりすると止まる癖は変わっていないみたいだな。


 「ココチュ」


 歩み寄りながら名前を呼んで、肩に手を置く。


 「ひっさしぶりだなあ。変わりはないか?ずいぶん背が伸びたな。最後に会ったときは、俺の肩くらいだったのに」


 今はもう、あまり俺と背丈に差がない。クロム、抜かされたな。

 

 「わ、わわわわ、わわわ」

 「うん。ゆっくりでいいよ。ゆっくり話してくれ」


 こくこくこく、と頷いて、どんどんと自分の胸を叩く。何度か口を動かして、意を決したように顔を上げ、俺を見た。


 「わ、わ、わわ、若、あえ、ああ、あ、あえあえ、会えて」


 ごくりと唾を飲み込み、ぎゅっと顔全体で笑う。まだ、こうすると子供だな。後ろを子羊みたいについてきた頃を思い出すよ。


 「あえて、うれしい!」

 「俺もだよ、ココ!」


 肩に置いた手を背中に回し、抱きしめる。

 ココチュの身体からは、馬と乳の匂いがした。


 タタルの草原で生きる者の匂いだ。

  

 身に纏う服は、西方諸国の仕立てとは全く違う。

 立襟で、左側に打ち合わせがあり、長い裾は大きく割れている。馬に乗るために必要なものだ。

 カーラン皇国では、これがはしたないとされていて、長い事馬は跨るものではなく、車を引かせるものだったのだとか。

 今じゃカーラン人も馬に乗る時は、タタル式のデールを着るけれど。

 

 全部、懐かしい。俺の、故郷の手触りと匂いだ。

 再会の歌を歌いたいところだけど、下手糞とクロムに怒られそうだし、やめとこう。


 「お前だったのかよ!おっさんにムカついてないか?」


 俺の横からクロムも手を伸ばして、ココチュの肩に拳を当てる。

 もちろん、ユーシンとケンカする時のような勢いはない。当てているだけだ。


 「つか、勝手にでかくなりやがって…!」

 「く、くく、クーは、ちぢ、ちぢ…ん、縮んだ?」

 「縮んでねぇよ!むしろ伸びてる!」


 ココチュを離すと、少し胸を逸らし…ほんのちょっと踵を上げて…クロムに向き直る。

 得意満面!と顔全体で主張するココチュに、クロムが歯をむき出して唸る。狼じゃないんだから…

 その後、飛びかかってココチュの頭をぐいぐいと押しているのは、少しでも縮めようとしているのか?

 まあ、二人とも笑っているから、じゃれあってるだけだな。放っておこう。

 

 「仲いいんだねぃ」

 「一緒に兄貴に鍛えられた仲だからな」

 「そうなのか!なら、是非一手手合わせを願いたいな!」

 「あとでな?」


 ココチュはクロムの一つ下で、クロムにとっては数少ない弟分だ。

 吃音は本当に子供の時からで、それを馬鹿にするような連中もいた。

 ちゃんと話そうとしても言葉が出ず、それを馬鹿にされたり、もういいよと遮られたり、憐れまれたり…そんなんで、二人が初めて会ったころには、ココチュは失語一歩手前位の状態だった。


 …お前は顔みりゃ何言いたいかわかるから、無理に話さなくていい。


 吃って俯くココチュに、そう言って。

 クロムは不機嫌そうな顔で口をへの字に結び、しばらくしてから、ニヤッと笑った。その顔につられてココチュも笑い…

 それから、二人はこういう仲だ。


 いつもは短気なクロムだけれど、ココチュが話そうとしたときは言い終わるまで待っている。お互い無言でも気にしない。

 そういう友人が出来たことが、いい影響になったんだろう。それからココチュは段々また話せるようになってきたし、表情は今だって雄弁だ。

 ただ、士官として兵の指揮することは難しいから、士官学校には行かずに兄貴の従者見習いになっていたはず。

 ウー老師の馭者兼護衛をしているところを見ると、正式に勇士ドルジとして任命されたのかな。

 ちらりとウー老師を見ると、こっくりと頷いた。


 「先々月、星竜君の御前で馬が蜂に刺されて暴れましてな。それを見事収めたことで、勇士の称号を賜っております」

 「そうか~。おめでとう、ココチュ!」


 クロムと頬を引っ張りあいつつ、ココチュは顔いっぱいに笑顔を浮かべた。

 勇士は騎士バアトルと違い、部隊を持つことはない。

 王や王族の身辺警護を行い、西方で言えば近衛騎士に近い。

 騎士の様に指揮能力を求められることはないけれど、忠誠心と武勇は騎士よりもずっと高いものを求められる。

 十代で勇士の称号を得たって言うのは、結構すごいことだ。


 「紹介するな。こいつはココチュ。俺と同じヤルクト氏族の出身で、さっきも言った通り、クロムの兄弟弟子」

 「よろしくねぇ、ぼく、ヤクモ!」


 ヤクモの名乗りに、困ったようにココチュは首を傾げた。


 「あれ?言葉通じてない?これ、壊れちゃった?」

 おそるおそるヤクモが腕輪を指さす。クロムがそれに悪乗りしないうちに、説明しとくか。


 「『言語理解』は、あくまでタタル語の意味を理解できるようになるだけで、西方語で話した言葉がタタル語に訳されたりしないんだよ」

 「あー、それはそうだよね!昨日、ぼくら西方語で話してたけど、皆ちゃんとわかってたもんねぃ」

 「けど、その腕輪をつけてると、すごいタタル語の勉強に役立つぞ。聞いた言葉の意味をどんどん学んでるようなもんだからな」

 語学の学習法に、母国語と異国語の単語を交互にずっと聞いているってのがあるらしいけれど、それと同じことをしてるわけだしさ。


 『俺はユーシン!キリク王国のシーリンが子、ユーシンだ!こいつはヤクモだ!よいやつだ!』

 ヤクモに代わり、ユーシンが名乗りを上げる。こちらはちゃんとタタル語だ。


 「ええ~、よいやつって、そんなでもないよぅ」

 ちゃんと通訳された言葉に、ヤクモが照れる。でも、ほんといいやつだぞ?お前。

 言わなくても野菜食べるし、洗濯物もたたんでしまうし、手伝いもしてくれるし、ツッコミが間に合わないときにはそっちも手伝ってくれるし。

 

 「ココチュはクロムの一つ下だから、ユーシンと同い年、ヤクモの一つ上だな」

 「ええ!?ぼくといっこしか違わないの?!ぼく、まだ背が伸びるって信じてるんだけど、17でこれだと絶望的なの!?」

 「そこは人種によるんじゃないか?ヤルクトの民は十代後半で身体が出来上がるから」

 「信じるよ…?伸びなかったら恨むよ…?」


 恨まれても…それは、ヤクモのご両親やご先祖様に文句言ってほしいところだよ。


 「でも、なんかファンと同じ一族ってわかる気がする。体形一緒だもんね。髪の色も似てるし」

 ココチュの髪色は、俺のよりさらに灰色がかった淡い色合いの金だ。瞳はもっと色が濃く、赤銅色をしている。


 「わ、わ、わわわ、か、若ととと、おおお、おなじ、同じひひひひつ、ひつ羊食べて、そそそ、育ったたたから、から」

 「そっかあ!僕も羊食べたら背が伸びるかなあ」

 「俺よりでかくなったら削ぐからな」

 「怖いよ!どこそぐのさ!」

 「足?」

 怖い会話をしない。

 まあ、仲良くなりそうでいいことだ。


 とりあえず出立の準備を続けようと口を開いたとき、鐘が鳴った。

 まもなく開門の合図だ。


 「さて、老師は馬車として、ヤクモどうする?そんなに飛ばさないし、馬に乗るか?」

 ほんの数回ではあるけれど、乗馬の練習もしている。今のところ、速足までならなんとか乗っていられるようになった。

 さすがに駈足はしない予定ではあるけれど、その後のことを考えると、体力を使いすぎるのは良くないかな。


 「だが、おっさんと馬車の中に乗ってたら余計にダメージ食らわねぇか?」

 「どういう意味であるかっ!?」


 ウー老師と狭い空間に二人きり、と言うのは確かにちょっとしんどいよなあ。

 この人、許容範囲内であれば男女お構いなくな人だし…ヤクモがそうであるかは聞きたくもないけれど、今までの傾向見るとなあ…


 どうするかと思っていると、ココチュがニコニコしながら御者台を指さした。


 「ヤクモ、御者台に一緒に座るかって」

 「いいの?いいならそーする!」


 ヤクモの返答に、ニコニコ顔のままココチュは頷き、馬車へと歩み寄って手招きする。

 躊躇いなくその招きに応じて、ヤクモは馬車へ向かった。

 横に立ったところで、ココチュがひょいと抱えて御者台に下す。初めて乗る場所に、ヤクモは楽しそうにあっちこっちを見ては触りだした。楽しそうで何より。


 西方の馬車とアスランの馬車はちょっと違う。

 西方の馬車の客車は木製の箱だけれど、アスランの馬車は住居ユルクと同じく、木製の枠の内側と外側に、毛織物や毛皮をかぶせて壁や天蓋にしている。

 暑いときや外を見るときは、紐を引くだけで四方の織物は巻き取れる仕組みだ。下の方少しだけ開ける、とかもできる。

 内側に椅子はなく、絨毯と羊の毛側が敷かれ、クッションが置いてあるのも西方の馬車との差だな。

 元々タタル高原は大きな木が生えるような地域じゃない。少ない木材で工夫されて作られたのが、この馬車だ。

 

 「ふうう。また腰が…」


 文句を言いながら、ウー老師が乗り込む。扉はなく、木枠のない場所から布を捲って潜り込むのがアスラン式だ。

 外側からはわからないけれど、天蓋と外枠の間には隙間があり、そこから光が入るように作られている。

 ウー老師のような一応は身分のある人が乗る馬車は、そこに光を通す薄絹が張られていて、柔らかな光を室内に届ける。

 ウー老師が乗り込んだのを見て、ココチュは馬車馬の手綱を杭から外した。

 繋いでいなくても、ココチュの馬なら勝手に歩き出すことは絶対にないだろうけれど、まあ、マナーってやつだな。


 「俺たちも馬を曳こう」


 東門からはどんどん人が出て行っている。のんびりしてたら入城が始まってしまう。出ていく人と違って、入る人は賊軍の情報に不安がっているだろうし、遮る形になりつつ出ていくのはちょっと気が引ける。


 前と同じく、俺が流星栗毛、クロムが粕毛、ユーシンが黒鹿毛だ。葦毛の手綱はとりあえず俺が持つ。

 

 東門の作りも、西門とあまり変わらない。ただ、東門の方が心なし薄く見える。

 鉄格子の仕掛けもこちらの方が軽そうだ。

 これは、現在アステリアは西方諸国連合の東端だってことより、アスランの同盟国で最も西にある国、と言うことを重視した結果…ってことと、30年前にアスラン軍に完全破壊された東門は一から作り直すほかなく、どうしても薄くなっちゃったんだろう。

 

 いつもより人数を増した守備兵の横を通り、東門を出た。


 朝日は白く輝き、アステリア聖王国を、その王都イシリスを照らしている。

 一度だけ振り返れば、一年過ごした街が視界を埋めた。


 「…行ってきます」


 アスランへは、「行く」のではなくて「帰る」のだけれど。

 それでも、もう一度この門をくぐる時、俺はきっと、「ただいま」と言うだろう。


 それはちょっと変かもしれないけれど、「ただいま」と言える場所がいくつもあるって言うのは、中々良い事じゃないかな。

 少なくとも、この街で過ごした記憶が、黒や灰色じゃなく極彩色で彩られているのは、きっと良い事だ。

 

 同じように黙ってイシリスを振り返る、クロムやユーシンもそうなんだろう。

 ヤクモは普通にここが戻る場所だろうから、ちょっと違った感傷をもってイシリスを見上げているんだろうけれど。


 「さ、騎乗するか!」


 しっとりと朝露を含んで重量を増した毛布のような感情を跳ね上げるべく、声を出す。

 次にこの門を潜るために見上げた時まで、この少しばかり重くなった感情は取っておこう。

 たくさんのお土産を抱えて見上げる城壁と門は、どんな風に見えるのかな。

 早く懐かしい顔に会いたくて、見上げる余裕もないかもしれない。


 「先導は俺がする。ココチュもついてきてくれ」

 

 道をそれるのは、麦畑が終わってからだ。

 何せ、イシリスの外は見渡す限り広がる麦畑。そこに違う作物を植えている畑も混ざるけれど、街道以外は基本農地だ。

 そこに馬と馬車で踏み込んだら、衛兵を呼ばれても文句を言えない。

 しばらくは街道を行って、畑と人目が途切れたら外れるのが無難だろう。

 幸い…と言ったら駄目だろうけれど、旅人の姿は少ない。農地から出れば、直ぐに人目も切れるはずだ。

 

 「街道を外れて馬で突っ切るのか!その方が早いものな!」

 「おい、馬鹿がまだわかってねぇぞ」

 上機嫌で馬を歩ませるユーシンに、クロムが吐き捨てる。

 「まあ、俺たち以外はぴんと来ないんじゃないか?」


 「左様でしょうなあ」


 馬車の外布を巻き上げ、ウー老師が加わってきた。

 そうやって捲れるとは思わなかったのだろう、近くにいた鍬を担いだおじさんが「へぇっ」と感心したような驚いたような声を上げた。

 そのおじさんに愛想良く手を振り、ウー老師は顔をこちらにむけて、その愛想をぽいと捨てる。


 「末将はこのままココ殿と馬車で行きたいのですが…」

 何とも言えない渋面から、深い溜息が吐き出された。


 「おっさん、ついてくるって言ったよな?」

 珍しくにっこりと笑顔を見せるクロムは、何が何でも付き合わせることを言外に宣言している。


 「わかっておる!希望と最善手はまた別であるという事よ!…トホホ…」


 「ねぇ、ほんとーに、なにすんの?怖いんだけど」

 二人のやり取りに、ヤクモが本気で怯えた顔をした。

 「あー、まあ、ここまで来たら、その時までのお楽しみってことで」

 言っても良いんだけど、変な緊張感で疲れちゃったら後が大変だし。

 まあ、少しびっくりさせたいという欲求もある。

 

 「それはそうと、大神殿の諸氏より言伝ですぞ」

 渋面をしおしおと萎れた表情に変えたまま、ウー老師は話題を変えた。


 「ああ、見送りは断ったもんね」

 ウィルさんもロットさんも行きますと言ってくれたけれど、二人は準備やら何やらで忙しいし、バレルノ大司祭やジョーンズ司祭は言わずもがなだろう。

 だから、見送りは不要とはっきり断っておいた。一生会えなくなるわけじゃない。三月したらお土産渡しに行くんだから。


 「旅の無事を、毎朝女神に祈ります、とのことですぞ。それから、ウルガ殿より大司祭殿へ伝えられた言伝もござる」

 「さっさと言え。なんだって?」

 「そのように短気では、閨でおなごに嫌われるぞよまったく…

 まあ、クロムが早いと嘲笑されるのは末将の知ったことではないし、どうでもよいか」


 「は・や・く・言・え?」


 「何故剣の柄に手を掛ける!?あー、大神殿の使節団の前方後方には、クトラ傭兵団を配備するので心配なく、だそうだ。

 若君らと合流するまで、ひそかに護衛するとのこと」

 「そっか。それなら安心だな。ナナイも一緒だし、少し気になってたんだ」


 アステリアは街道を外れない限りそこまで危険な国じゃないし、大神殿の馬車を襲うような馬鹿はそうはいないけれど、護衛がいるに越したことはない。 

 また左方が嫌がらせしてくるかもしれないしな。

 

 結局、あの時の襲撃は「自決」した司祭らが雇ったものだった。

 アンダ博士が傭兵の集団を連れていたけれど、どうやら博士にはそういう手合いを手配する協力者がいたらしい。

 そっちがアスラン側国境の街サライで下手を打って、兄貴がクバンダの蜜が密輸されていることに気付いたわけだ。

 詳しい報告はまだ聞いていない。実家に帰って兄貴に会ったら、そっちの情報も照らし合わせたい。

 

 ドノヴァン大司祭が異形と化し、マルダレス山に散ったあの一件は、まだ全容が見えていない。アスラン側の情報も合わせればもう少し詳しくわかるだろうか。

 司祭たちが「自決」する前に口を割った「遺言」を聞いたのは、兄貴の守護者だ。

 ウー老師聞いているだろうけれど、教えてくれないところを見ると、言う気はないんだろう。

 言う気なら、聞かなくても絡んできそうだし…


 そう思っていると、ウー老師が表情をまた変える。今度は、おや?と何かに気付いた様子だ。

 その視線は、まだクロムの手が置かれている剣の柄に向いていた。

 

 「クロム、その剣はどうした?」

 「予備だ。爪はこちらにある」

 クロムの右手が、腰の剣の柄から背負った包みに移った。


 あの一戦で、クロムの剣…『紅鴉の爪(ナランハル・ホロウ)』は、包んでいた鋼の刀身が削れて剥き出しになっている。

 光さえ吸い込むような黒で構成された鋼は、伝説によれば神々の至宝『真の鋼(クロム)』だ。

 クロムの名前の由来だが、アスランやキリク、クトラでは男子の名前として珍しいものじゃない。うちのクロム以外に、俺も三人くらいクロムさんを知っている。

 

 その『真の鋼』は、本来人が扱えるものではなく、それ自体に神格が宿るとされる至宝だ。

 普段は鋼で覆っているのも、資格のない者が手にすれば、『真の鋼』の怒りを買い、魂が吸い込まれるからだと言われている。

 

 資格のあるもの…それはつまり、紅鴉ナランハル・アスランと、紅鴉の守護者(ナランハル・スレン)

 

 実際、四代の御代に、それは証明された。

 四代の宮廷には他国のものが我が物顔で横行し、様々な至宝が国外に持ち出されたが、『紅鴉の爪』もその一つだった。

 『紅鴉の爪』を手にしたのは、カーランの皇族で、その皇族はカーラン軍を率い、五代大王…当時はまだ王じゃないけれど…の軍と対峙した。

 『紅鴉の爪』の鋼をわざわざ剥ぎ取り、新たに設えた鞘に納め、これ見よがしに腰につるしていたそうだ。


 そして、いざ開戦を宣言するために剣を抜いた瞬間、皇族は馬上から崩れ落ちた。

 慌てて近習が助け起こした時には、目を見開いたまま死んでいた、と史書は記す。

 アスラン側だけじゃなく、カーラン側の史書にもそう記載されているから、真実なんだろう。

 総大将を突然失ったカーラン軍は崩れ、五代大王ジルチ率いる軍の突撃になすすべもなく壊滅した。

 死者数はカーラン全軍の四割近くになり、現在でもそのあたりを軽く掘れば甲を纏った白骨が出てくる。

 

 そうして『紅鴉の爪』は再びアスラン王家へと戻ったけれど、その怒りは静まらず、鋼を纏わすために五人の鍛冶師が命を落としたと言う。

 なお、カーラン側では、皇族が命を落としたのと同時に、鋼の剥ぎ取りに関ったもの全員が突然死し、工房は炉から火が出て燃え尽きたそうだ。

 

 一歩間違えば呪いの剣だが、紅鴉の守護者が持っていれば問題はない。

 とは言え、クロムは正式に紅鴉の守護者に任命する儀式を受けていないから、『真の鋼』向き出しの状態で振っていいものか、判断が難しい。

 なんで、俺の首巻こと無爪紅鴉旗で包んでクロムが背負っている。

 あの一戦で振えたから問題はないと思うんだけど、「二度目はない」だったら怖いからなあ。


 鋼を纏わすのも、当然そのあたりの鍛冶師には頼めない。

 『紅鴉の爪』を整備することが出来るのは、アスランでもただ一人。


 大鍛人テムジンの称号を得た者だけだ。


 それも、数日にわたる鎮めの儀式を行ってからじゃないと駄目らしい。

 自分より位の低い金属に覆われて隠されるのを、『真の鋼』が嫌うからだという。

 また鋼で覆って隠すか、それとも完全に取っ払うか、帰ったら相談だな。


 正直、黄昏の君が用意した『眼』の中で、ドノヴァン大司祭は弱い方だろう。


 それでも、『紅鴉の爪』を顕現させなければ傷ひとつ付けることはできなかった。

 今後、立ち塞がるのはもっとずっと、理不尽な敵になるはず。

 それならいっそ、『紅鴉の爪』を完全な状態にしておいて、普段は予備の剣を使う方がいいかもしれない。


 「あ、ファン~。買ってもらっておいてゴメンなんだけどさ」

 「ん?」

 そんなことを考えていると、馬車の御者台からヤクモがおずおずと手を挙げる。


 「ぼくの剣、もうなんか、グラグラしてんだけど…」

 「マジか…安かったからなあ」


 あの一戦で完璧に折れたヤクモの剣は、当然ながら買い直した。直すより買った方が早い状態だったし、剣先を回収できなかったしな。

 ただ、剣って言うのは中々値が張るものでして…

 アスランで誂えたほうが良いんじゃ?と言うことになって、とりあえずの一本をクロムもヤクモも買うことにした。 

 ただ、ただな、何度も言うけど、結構値が張るもんでね?

 二本購入となると、だいぶんきつかった。

 なもんで、二人とも中古の激安品をとりあえず腰につるしている。


 「ま、まま、ま、マが」

 「ん?マシロが?」

 「かかかか、かじ、鍛冶屋なっ、たたたか、ら」

 ココチュがヤクモの剣を指さす。

 「そうなのか~。身体はもういいのかな?」


 少し首をかしげてから、ココチュは小さく頷いた。元通りじゃないけれど、元気にはなった…ってとこか?


 「マシロって?ひとの名前?」

 「そうだよ。俺のはとこで、士官学校卒業して最終課題の兵役についたんだけど…」


 話を聞いているクロムの顔も苦みを含む。

 俺もこいつの兄貴分だけれど、マシロは年が近い分すぐ上の兄ちゃん、といった立場だった。家も子供の足で遊びに行ける距離だったから、俺よりも一緒に過ごした時間は長い。


 「そこで、な。配属された部隊が…壊滅した。

 あいつも、救出があと少し遅ければ助からなかったって、医師せんせいが言ってたよ」

 

 新兵は最前線に配備されることはない。

 どうしても新兵が混じった部隊は弱くなるし、一部隊が崩れたことで一軍が潰走することもあるからだ。

 なんで、当然激戦が予想される場所にはおかれない。戦よりも賊への警戒とか、陣地や塞の整備要員として配属され、軍での生活に慣らすのが主目的になる。

 俺だって初陣から帰参までの一年ほどで、戦闘になったのは僅か二回だ。


 ただ、それでも、そこを突かれるということはある。


 「三年前の話だ。俺たちが大都を出た時には、日常生活は何とかできるくらいにまで回復してたけど…

 鍛冶師になるなら、もっと良くなったんだな。本当に良かった」

 「まったく。心配させやがって」


 憎まれ口をたたいているけれど、安心したんだろう。口元が緩んでいる。

 マシロが瀕死の重傷を負ったって聞いた時には、ものすごい心配してたしな。少しくらいこういうことを言っても、笑って許してくれるだろう。


 「マシロか!あいつの祖母殿の飯はまことに美味い!大都に着いたら食いに行きたいぞ!」

 ユーシンが手綱を離して両手を広げる。

 たぶん、巨大な皿をイメージしているんだろう。そこに乗っている料理も見えているのか、腹減った時の目つきになっている。


 「実家はご飯屋さん?」

 「昨日ギルドで話したろ?宿屋と雑貨屋と飯屋をやってるんだ。うちの祖父ちゃん祖母ちゃんと、叔父さん一家も一緒に」


 さすがに実家に顔出す前にそっち行ったら怒られそうだし、翌日あたりに尋ねたい。できるだけ腹を減らしてからな。


 「ヒタカミ料理とカーラン料理、アスラン料理…あちこちの料理を色々食わせてくれるぞ。ヤクモも楽しみにしてろよ!」

 「ひゃあ!」

 嬉しそうに笑うヤクモの横で、ココチュも自分の顔を指さして頷く。

 「うん、ココくんも一緒に行こうねぃ!」


 言ってから通じないのを思い出したのか、自分とココチュを交互に示し、ご飯を食べるジェスチャーをする。

 人懐っこいヤクモは、ココチュにも距離がない。ココチュはココチュで、吃音があるだけで人見知りしないいい子だしな。昼飯を食う頃には、もう何時から友達だったっけ?ってなくらい仲良くなっているだろう。


 「俺はたくさん食うぞ!良いよな!ファン!」

 「俺が手伝いして借金を返さない程度ならな」

 料理でもお運びでも皿洗いでもやるけどね。祖母ちゃん容赦ないからなあ。

 「その場合は、馬鹿が身体でも何でも売って金稼げ。働く場所には困らんだろ」

 「俺も金は溜まっている!心配するな!」

 「ほう。なら、お前の奢りな!酒を樽で頼むか!」

 

 クロムの言葉に、ユーシンは無言でにっこりと笑い、槍をくるりと回す。

 その動作に、クロムも剣の柄に再び手を掛けた。

 

 「はい、そこまでー。まったく、お前らはさあ…」

 「いつもこうなのですかな?」

 「いつもこーです…」

 ウー老師の質問にヤクモが返答する。その横で、ココチュがケタケタと笑った。


 友人の近況…それも、良くなっているっていう話は良いね。会う時には、快気祝いを持っていこうか。

 鍛冶師かあ。マシロの兄が鏃工だから、師匠を紹介したんだろうか。

 修行を始めてまだ一年なら、使いっ走りの下働きだろう。でも、何でも器用にこなす奴だし、三年も勤め上げれば剣を打つことも許されるかもしれない。

 今回、クロムとヤクモの剣を頼むのは間に合わないけど、そのうちアイツの打った剣をクロムが腰に佩く日が来るんだろうなあ。

 

 ああ、楽しみだ。


***


 麦畑は比喩ではなく、見渡す限りに広っていた。

 抜けたかな?と思うと、イシリス在住の農家さんの畑ではなく、違う村の畑や牧場が街道の両脇に出現する。

 それを数回繰り返し、ようやく道を外れることが出来たのは、日もずいぶんと高く昇ってからだった。

 

 「腹が減った!」


 中天が近い、と言うことは、つまり昼飯時である。

 「だいぶん道もそれたし、狼煙を上げがてら休憩しよう。まあ、あんまりがっちりとは食わせてやれないけどな」

 「む!飯がないのか!」

 「パンとハムくらいだな。ココチュ、アロールはあるか?」

 得意そうに頷いて、ココチュは腰に付けられた袋を指さした。

 「それ、なに?」

 「簡単に言えば、干したチーズだな」

 

 俺たち遊牧民は、夏の間は「白い食べ物」つまり、乳製品を食べる。肉も食べるけれど、狩りで得た鹿や鳥がメインだ。

 羊を食べるのは客人を迎えた時や、祭りの時だけ。

 街に羊肉を売る商売をしている人でも、出荷はしても自分じゃ食べない。

 夏の羊は、青臭くて脂も少なく、あんまり美味くないってのもあったりする。これは個人の感想で、夏の方が美味いって人もいるから、絶対の理由じゃないけれど。

 

 じゃあ、何喰って生きてるのか、と言えば、このアロールや馬乳酒アイラグで生きている。

 アロールを齧り、馬乳酒を飲みながら羊を追う。それが夏の暮らしだ。

 夏じゃなくても、旅に出るときや遠征するときには、アロールは持っていく。日持ちがするし、美味いし。

 ただ、強烈な酸味があるんで苦手な人にはとても不評だ、クロムとか。


 「…他にはないのか」

 「な、ななな、ななんで?」

 うん。俺たちとしたら、アロールあるならいいじゃん?ってなるからな。

 「クロム、パンにハム挟んでやるから…ヤクモもそっちのがいいかな」

 「末将、末将もそちらで!…しかし、食いすぎれば後が怖いですしなあ」

 

 ごそごそと、ココチュは御者台の横に備えてある箱を漁った。

 得意そうに引っ張り出すのは、二つの袋。


 「こここ、こっち、あ、ああアロール」

 「もう一つは?」


 差し出された袋を受け取ると、ずっしりと重い。

 中を見てみると、そこには白い粒の群れ。


 「こ、米だ!!!」

 思わず叫ぶ。

 

 この絶妙な丸みを帯びた楕円形、磨き上げた象牙のような艶…

 間違いない!夢にまで見た(口に入れる瞬間目覚めたけれど)米!


 「うあああ、米、米だよ!お米様だああ~!」

 「ファ、ファン、落ち着いて、ね?」

 

 おろおろとヤクモが声をかけてくれなかったら、米に向かって五体投地していたかもしれない。

 一年間、一切口にできなかった大祖よりの我が家の大好物、米!


 「ココ、食べていいのか!?この米!!」

 うんうん、と頷くココチュが神に見える。


 「米か…久しぶりだが、乗せて食う肉がないとな…」

 「ああ、煮るか焼いた肉を乗せると一層美味いな!」

 「マサラでもいいが…ちょっと狩りに行くか?」

 それはもう、できればそうしたいけれど、さすがに目的を見失いすぎだ。


 「あんまりがっちりと食わせてやれないって言ったろ」

 なにも食わないのも駄目だけれど、消化によく、胃にやさしいものにするべきだ。

 そうなると、作るべき料理はただひとつ。


 「ヤクモ、俺の荷物から椀とコップと、それから鍋を出しておいてくれ」

 「はあーい」

 もし壊れてもいいように、食器類は八人分持ち歩いている。ココチュと老師の分も賄える。

 「ココチュ、竈を作っておいてくれ。二つな」

 力強く頷いて、ココチュは左胸を拳で叩いた。すぐに草を払い、火をたく場所を作り始める。

 「クロムとユーシンは、狼煙を上げてくれ」

 「心得た!」

 「狼煙は後ろか?ココ」

 クロムの問いに、ココチュはヤクモが座っていた側を指さす。そこにも、箱が備え付けてあった。

 左右に荷物を分けるのは、万が一どちらかを投げ捨てる羽目になってもいいようにだ。食料か連絡手段や武器、どちらかがあれば、片方喪ったとしてもどうにかできる可能性が残る。

 単純に食料と狼煙を一緒にしておくと、臭いが移って飯がまずくなるって言うのもあるけれど。

 

 「で、おっさんはなにするんだ?ふんぞり返ってるのはなしだぞ」

 「末将は常に頭脳を全開に使っておるのだ!」


 うーん、老師に頼めること、思いつかない…


 「まあ、老師は待機で…」

 視線を逸らしながら指示を出すと、クロムが半眼になって溜息を吐いた。

 「あまりおっさんを甘やかすなよ」

 「クロムはそれ言っちゃダメだと思う~」

 「うむ!ファンは一度、クロムをとことん叱るべきだ!」

 「まあ、それはおいおい?」

 うう、そんな生温かい目で俺を見ないでくれ。まあ、たぶん、一生できないのはわかっているけど…

 もっとすっごくダメなことをしたら叱るよ?いまは態度が悪いくらいだしさ。だから、な?

 

 話題を逸らすべく、鍋に米をいれて水を灌ぐ。匙を使ってかき混ぜて水を捨てる…その動作を、水袋の水がなくなるまで繰り返す。

 それが終わったら、もう一つの鍋に水を召喚する陣を描く。やっぱり、米はアスランの水で調理したい。

 出てきた水を、研ぎ終わった米に注いで、と。普通に炊くよりずっと水は多めだ。その上から干し肉をほぐしながら入れて、準備完了。


 ココチュの方を見ると、ちょうど竈を作り終えるところだった。

 地面を軽く掘り、その上に炭と石を置く。火をつけて上に鍋を置けば完成だ。

 途中で炭が燃え尽きても、熱された石で温度が保たれる。

 アスランの草原なら、炭の代わりに乾燥した牛糞を使うんだけど、さすがに他国にまでもってくるものじゃない。普通に炭買えるしな。

 

 鍋を火に掛けたら、まずは沸騰を待つ。

 泡が出る程沸いてきたら、隣の竈に鍋を移す。こっちはあまり火を入れず、鍋の底をあぶる程度の火力にしてある。


 「ヤクモ、吹きこぼれそうになったら混ぜてくれ」

 「りょーかい!」


 匙を渡すと、張り切ってヤクモは鍋を見つめだした。

 ココチュもその隣に座って、じっと見ている。こっちが見ているのは鍋よりも、その鍋をあぶる火の方だとは思うけれど。

 

 召喚した陣は停止していたけれど、新たに鍋一杯分の水が召喚されていた。

 そのまま鍋を火にかけ、だいぶん削れて掌の半分ほどになった団茶を削りいれる。

 お茶は絶対買ってこないと。煉瓦ほどの大きさに固められた団茶をアステリアで買おうと思ったら、アスランで買う十倍はするし。

 それでも、メルハやカーランで買うと、更に半額くらいになったりする。

 はるか異国でしか採れない嗜好品を、現地の倍で買えることを喜ぶべき、なんだろうなあ。

 

 米だってそうだ。大祖はヤルクト氏族の一員としての暮らしに不満はないが、ただひとつ米か餅を食べたいと常日頃から言っていたそうだ。

 その願いはかなうことなく彼は亡くなってしまったのだけれど、父の墓前に米を備えたいという開祖の要望により、米の輸入が始まった。それがアスランの交易の始まりだったと言える。


 いろいろな国の多種多様な食べ物を食べることが出来るのは、交易国家アスランの強みだ。

 遠い異国からやってきた旅人が、大都で故郷の料理を食べて感動する、なんて話はよく聞くし、似ても似つかない何かになった故郷の味に泣く、のもあるあるだ。

 まあ、俺も、アスラン風と名乗りを上げる料理に打ちのめされたことはあるしね。

 特に内臓料理は要注意だな。羊の内臓を煮ればいいってわけじゃあないんだよ…。捌きたての新鮮な羊だから塩だけの味付けでイケるのであってね?


 「わ、わわ、若、こここ、これ」


 しみじみと、半年くらい前に食べたアスラン風内蔵のスープの味を思い出していると、ココチュが袋を差し出した。

 少し開いた口から見えるのは、アロール。

 僅かに黄色味を帯びた白い塊は、ひとつが子供の握り拳くらいある。

 

 「ありがとな、ココ。嬉しいなあ…ヤクモも食ってみるか?」

 「うん!でも、ちょっとだけちょーだい。クロムが野菜以外で嫌がるって、ちょっと怖いから」

 「好みが分かれるからな。ちょっと待っててくれ」


 まずは手巾に一塊をくるみ、それをナイフの柄で叩く。

 手巾を開けば、大小さまざまに砕けたアロールが現れた。


 「まずは小さいのから食ってみ?硬いから気を付けてな」


 ヤクモに進めつつ、自分もひとつ、大きめの欠片を摘まみ上げた。それをココチュの掌に落して、もうひとつ摘まんだ欠片を口に放り込む。

 とたんに口に広がる、乳臭い酸味。


 あー…アロールの味だ。


 鼻の奥がつんとするのは、アロールの酸っぱさだけが原因じゃないだろう。

 頬と奥歯で挟み込み、唾液で柔らかくしながらちょっとずつ歯で削って食べる。

 

 「アスラン軍が強い理由が見てわかりまするな」

 「どひたんれす?急に…」

 頬に食べ物を詰めているときに話すのは良くないな。うん。


 いつの間にか隣に床几を置き、そこに座ったウー老師が、茶漉しの置かれたカップをそっと出していた。まあ、お茶も沸いたからいいか。鍋を傾けて、お茶を注ぐ。

 もうひとつの空の鍋に、ウー老師のカップから外した茶漉しをおいて、そっと注ぎ入れておく。そろそろ茶葉をださないと、苦くなっちゃうからな。

 牛乳があれば奶茶スーティにするんだけどね。

 野外の昼食に鍋三つ使うとは贅沢だ…。小さめとは言え、鞄の大部分を圧迫しても持ってきてよかったぜ。


 「まず、ひとつ。アスラン軍の主力たる遊牧騎兵軍は、このアロールと干し肉、季節によっては馬乳酒で長期間健康を損ねずにおられますな。つまり、長い補給線を確保する必要がない。

 古今東西、糧食の問題が軍の命運を別けるもの。野営による士気の低下もないに等しいですしなあ」

 「というか」

 アロールを噛み砕き、飲み込んでから口を開く。最後の一個なら曖昧な笑顔で頷いて聞き流すところだけれど、まだあるし。

 

 「うわ、すっぱい!不思議な味!」

 ヤクモは気にせず初体験の味を楽しんでいる。顔が中央に寄っていないところを見ると、どうしようもなく不味いと感じたわけじゃないらしい。

 「あー、でも、ぼく、嫌いじゃないな。この味」

 「もう一個食ってみるか?」

 「うん!」

 先ほどより少し大きめの欠片を摘まみ、ヤクモは口に放り込んだ。もごもごと味わいつつ、首を傾げたり頷いたりしている。


 「若君…末将に、なんぞか、言い掛けておられませなんだか?」

 「あ、ごめんごめん。えっと、クリエンがそのまま移動しているだけだから、野営とは違うんじゃない?」

 俺たちからすれば、家が移動するのは当たり前だし。

 「左様、左様。しかれど、我ら定住の民にとっては耐え難いものなのですぞ。何より望郷の念が士気を下げる。遊牧の民は草があれば、天尽き地果てるまで往ってしまいますからなあ」

 ずずーっと音を立ててお茶を啜る。


 「ああ、俺も大学でカーラン国境へ調査に行った時、調査隊の中で一人だけ何ともなかったですね」

 カーラン南西部とアスランの間には、「天卓山地」と呼ばれる山岳地帯が広がっている。山々の頂上が平らで、そこには他では見られない動植物がおり、毎日とても楽しく、充実した調査だった。

 三十人ほどの調査隊のうち、最初の十日で半分脱落したけど。そもそも、現地まで辿り着けたのは二十人くらいだったし。

 

 「末将も聞きおよんでおりまする。現地の案内人ですら引くほどに、若君は元気溌剌としておられたとか」

 「勧められたもの食べただけなのに引かれるのは、ちょっと納得できなかったですけどね」

 

 若竹の中にいる蛾の幼虫は、かなり不思議な味がした。草を食っているみたいな、けれど動物の味もするような。蜂の子の方ははっきりと甘く、蜂蜜味だったな。

 食べてみろって言われたから食べたのに、それから微妙に目を合わせてくれなくなったのは、酷いよな。付近の村の子供たちも見つけては食ってたから、現地人でもゲテモノ食いに分類されるものじゃなかったと思うんだけどさ。

 

 「何食べたのか、聞かないどくね?」

 「わ、わわわわか、は、なまなま生、の、魚、たべ食べる」

 「寄生虫を取り除いて食えば、美味いんだぞ?」

 ヤクモ、芋虫食ったのを見た案内人と同じ顔をするなっての…


 変顔は、ユーシンがとことこと歩いてきたことで終了した。クロムも手をはたきながら続いている。作業が終わったようだ。

 「アロールか!俺も食いたいぞ!」

 「ほれ」

 包みを差し出すと、ユーシンは顔を輝かせて大きな欠片を摘まんだ。ポイっと口に入れて、にっかりと笑う。


 「美味い!」

 

 その後ろに、天へと上る煙が見えた。

 狼煙台は、三本の棒を組み合わせ、その上に金属の皿を置いて作る。クロムとケンカもせずにちゃんと立てれたな。よしよし。

 

 「干し肉の粥か」

 クロムの視線は、時折ヤクモが掻き混ぜる鍋に注がれている。

 「もう少し煮込まないとな」

 まだ米粒が硬い。もうちょいドロッとするまでは煮込まないと。

 その前に、最後の具を投下しよう。

 茶漉しをさかさまにして、開き切った茶葉を落とすと、乳白色のつゆに琥珀色が広がっていく。

 煮だした後の茶葉を粥に入れて炊くのは、キリクやクトラの食べ方だ。茶葉を無駄にしない知恵だな。クロムも子供のころ散々食べたんだろう。「草をまぜるな!」と怒ったりはしない。

 

 お茶を飲んだりアロールを齧ったりしていると、粥がいい具合に炊けてきた。

 岩塩を味を見ながら削りいれれば、出来上がり。


 「さ、食べよう。熱いから、ゆっくり食えよ」

 「はあーい」

 「うむ!イダムよ、ターラよ!照覧あれ!」


 後ろから見守ってくれているという二柱の神へ感謝を捧げ、ユーシンは粥の乗った匙を口に突っ込む。

 とたんに顔がきゅーっとなったのは、やっぱり熱かったんだろう。


 「馬鹿は、本当に馬鹿だな」

 ちびりちびりと匙を口に運び、クロムが呆れる。うん、これはなんつうか、擁護のしようがないわ。

 「み、みみみ、水」

 そっとココチュが水袋を差し出す。それをユーシンはきゅーっとしながらも遠慮した。

 

 「問題ない!味が薄まる方が困る!」

 ユーシンにとっても、懐かしい味だもんな。


 一年ぶりの、米。

 つやつやに炊いたご飯じゃないのは残念だけれど、それでも。


 ぱくりと口に含めば、懐かしい味。

 それが全身に喜びと共に広がる。


 「へええ~。おこめって、こういう味なんだねぃ。おいし!」

 「違うぞヤクモ…これは、お米様の実力の十分の一も引き出せてないからな…」

 「そなの?どう食べるのが一番おいしいの?」


 「肉を乗せて食う!」

 ヤクモの質問に、満面の笑みを浮かべてユーシンが答えた。

 「馬鹿と同意見なのは癪だが、その通りだな」

 まったく、肉食どもめ…確かに美味いのは否定しないが。


 「マ、マママ、マ、マサラ掛ける」

 「あれ、美味しいよねぃ。ご飯にかけてもいいんだ~」

 「本来はそうして食うものだな。米が手に入らないから、麺や芋の味付けにしてたけど」

 

 だが、やっぱりお米様を一番美味く食うと言ったら。

 「塩を掛ける。これだな!」

 自信満々に言い切ると、なんだかしらっとした視線に迎え撃たれた。あれ?

 

 「ぼく、お肉かマサラかけたいなあ」

 「それは玄人の領域に踏み込みすぎですなあ」

 ええ~…ウー老師まで…


 いいんだ。それでも俺は塩で食うのが一番好きなんだ。

 一椀の米に、一つまみの塩。

 これは岩塩より、海塩の方が良い。

 ヒタカミ産の最高品の塩を使っちゃうのが、コツだな。これを食べると、王子でよかったとしみじみ思う。王族でもなければ、おいそれとは口に入らない品物だし。


 「あの煙でさ、ここでーすって合図してるの?」

 ふぅふぅと匙を吹きながらも、ヤクモの興味は狼煙に移ったようだ。

 軍にでもいなきゃ、狼煙なんて普通は見ないし、用途もわからないよな。


 アスラン軍で使う狼煙は狼の糞に火薬を混ぜたもので、かなり高くまで登る。

 今日は風もなく、いい天気だから相当遠くからでも見えるだろう。

 付近の村人や旅人にも見えちゃうのが難点だけれど、ヤクモの様に知識がなければ焚火の煙に思ってくれる…といいなあ。


 正直、他国で軍用の狼煙をたくなんてのは、密偵中と判断されても文句は言えない。アスランなら拘束されて「お喋りの時間」コースだ。

 

 アステリアはその辺ぬるいらしいし、今は旅人も少ない。街道も畑を抜けるころには、俺たちしかいなかった。

 街道からも随分それたんだし、問題ないと思っとこう。

 …もし、通報があったら、あとでバルト陛下とウルガさんに平身低頭して謝罪だな。


 「お迎えって、やっぱり馬?」

 「違うよ。それならこっちから行った方が早い」

 

 東の空を見上げると、ちぎって投げたような白い雲が浮かんでいるのが見えた。

 その俺の視線を見て、ユーシンが匙を振りかざす。米粒飛んで勿体ないからやめなさい。

 

 「なるほど!迎えが何か、わかったぞ!」

 「ええ?そなのぅ?なに?なに?」

 「馬ではないならトールが飛んでくるのかと思ったが、それよりも話が早いな!」

 「兄貴も忙しいだろうし、さすがにないよ…ないよな?」

 クロムとウー老師とココチュを見ると、全員難しい顔をした。


 「末将の意見を申し上げさせていただくとすれば…」

 片眉を上げて片目を反対側の片目を細めるという複雑な顔をして、ウー老師が言葉を続ける。

 「…ありえる、としか申し上げられませんなあ。最近、若君らしきモノを見ておられたようですし」

 「…俺らしきものって…」

 「我らには見えぬモノ故、何とも申し上げ難く…」

 兄貴、大丈夫?さすがにそれは、医者に見せたほうがいいのでは?


 さすがに兄貴も空は飛ばないけれど、もう一度東の空を見上げる。

 兄貴らしきモノ、は見えなくて、ちょっとほっとした。

 

 「おい、鷹の目をこんなことで使うなよ」

 「使わないってのができないんだけどな」

 とは言え、ただ茫然と遠くを「見る」だけなら、それほど負担はかからない。元から俺の目は、クロムたちと比べて良いようだし。

 さすがにそれで負担がかかってたら、とっくに失明している。コントロールはできないとは言え、日常生活に使う程度ならなんともない。

 

 粥を口に運びつつ、蒼穹の彼方を見ていると、白い雲を何かが突き抜けた。

 

 「え?もう?」

 思わず声が漏れる。

 一度目の狼煙でこっちを見つけたってことは、結構前から探してたのか?


 「おい、二度、三度は狼煙を上げろって言ってなかったか?」

 「言ってた。だから俺も、驚いてる」

 

 点は一つだけだ。それはただの点から、形を変えながらぐんぐんと近付いてくる。

 

 「一騎だけか?妙だな」

 クロムが呟き、ウー老師も頷く。

 うん、ばらけて捜索してたんだとしても、最低でも二騎で組んで行動するはずだ。

 

 「あ、見えた!ぼくにも見えたよ!」

 ヤクモが指さす先に、翼を羽ばたかせながら空を往く姿がある。


 巨大な翼、優雅に長い首と尾。

 広い胸には、赤い絹布。そこに描かれた鴉の意匠。


 飛竜。


 「陸を往くのに時間がかかるなら、空からってな」

 飛竜の翼なら日が傾き始めるころにはクローヴィン地方に到達できる。

 そのまま上空からクローヴィン神殿周辺を偵察しつつ、救援が来ることを報せる。

 それが俺の計画だ。


 「…反吐をぶちまけるのは覚悟しろよ」

 「ぶちまけるの確定なのぅ!?」

 「俺が出すのにお前みたいなクソ雑魚が出さないわけないだろ!」

 そこは個人差だけど。クロムは駄目なんだよなあ。

 「一人で乗っていいのか!」

 「駄目に決まってるだろ…」

 竜騎士になるのに何年かかると思ってるんだ。さすがにキリクの王子を墜落死させたら国際問題待ったなしだわ。

 

 そんな地上のわちゃわちゃを気にもせず。

 飛竜の白く優美な巨体は、秋草の上に降り立った。

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