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鳥には羽根 魚には鱗  作者: 阿古あおや
41/89

馬の親子は斑も同じ(蛙の子は蛙)3

 ラスヤントを訪れたことはないが、その名はシドも聞いていた。

 

 アスランで貿易港と言えば、第一にソリル内海に面したウハイフンゲルだ。

 こちらも行ったことはないが、メルハ諸国にカーラン皇国、さらにはヒタカミを始めとする島国からも交易船が訪れ、大都に次ぐ人口と賑わいを誇る。


 ただ、そうした無秩序な活気と言うのは、どうしても影を濃くするものだ。

 船乗りと言うのはどうしても荒っぽいのが多いうえに、船が町に着いたら逃亡して姿を晦ます前科持ちも潜んでいる。

 護衛を探す船も多いから、港町には仕事を捜して傭兵も集まるものだが、そうした中には組合ギルドを通して仕事をせず、直接交渉して職にありつこうとする連中もいる。

 大抵、組合を通せば弾かれるような、実績も信頼もない輩だ。そして、雇う方もそれを知っていて「安いから」と理由で雇うような、ろくでもない手合いである。

 

 必然、そうした連中が混ざれば治安の悪化は避けられない。

 大都は惜しげもなく騎士と兵を投入して治安を維持し、商工会も水運組合も全力で協力している。

 だが、この街は十二狗将の一人が守る要地ではあるが、大都ほどには締め上げていないらしい。

 傭兵組合で聞いた話では、大都に持ち込めないご禁制の品なども、目に余らない程度なら見逃されているという。


 つまり、あまり締め上げすぎると完全に潜られて負えなくなるから、息継ぎに上がってくる場所を作って、完全に頭を出したまぬけをポカリとやんのさ…と、ラスヤントについて教えてくれた傭兵が、物知り顔で語っていたのを思い出す。


 正直、不安である。

 そんなところに姉が降り立って、なんの騒ぎも起こらずに済むだろうか。 

 姉にちょっかいをかけた恐れしらずが、鼻の骨を叩き折られるくらいならば自業自得だが、ファンになにか迷惑を掛けたりしないだろうか。


 いや、だが、本当に立ち寄るだけだというし…と悩みながら、シドは狭い船室の吊床ハンモックで、ぐっすりと眠った。

 眠ったつもりはなかったが、目を開けてみれば真っ暗だった船室はうっすらと明るく、小さな明り取りの窓は白く輝いている。

 水の音と揺れと、仲間の寝息はどれもこれも…一人寝息がおかしいのがいたが…子守唄よりも効く。

 それにしたって、もう少し「眠れぬ夜」を過ごすとかないのか、と自分に苦笑した。


 「あ、おはよう。シド」

 「おはよう」


 吊床を揺らしながら身を起こすと、同じく寝起きらしいファンが髪を編んでいた。

 目を合わせていつも通りににっこりと笑い…それから、何故か真顔でマジマジと見られる。


 「なんだ?」


 よだれの跡でもついているか、と口許を拭う。ファンの視線はどうもそのあたりに突き刺さっている…気がする。


 「あ、いや!なんでもないよ!」

 「…ものすごく、何かある気がするが…」

 「いやその、あのだなあ、あー、ガラテアさんが…いや!なんでもない!!」

 「姉さんがすまん」


 とりあえず、姉が何かしたようだ。ラスヤントについてもいないのに。

 寝起きの顔でしかも寝床でやっても誠意がないと思うが、とりあえず深々と頭を下げておく。見たところ、顔や見えるところに痣などの負傷はないから、腹に一発入れられたか。


 「いやいやいやいや!!なんもない!ないから!」

 「…ぅるせ…」


 唸り声は、クロムと思われる布包みから聞こえた。それが合図だったように、残る二つの寝床からもモソモソと音がする。


 「朝だ!おはようだ!腹が減った!」

 「うー…もう着くぅ?おはよお~」

 「おはよう!ほら、クロムも起きろ!朝にはウースノールに到達するって言ってたから、きっともう、湖には入ったぞ!甲板に見に行こう!」

 「朝飯はどこだ!」

 「甲板にでて買おう!ほら、行くぞ!」


 甲板に出て買う?とシドは首を傾げたが、起き上がったヤクモも同じ気持ちだったらしい。だが、すぐに「?」の顔は「!!」へと変わった。

 

 「ユーシン!ぼくのうえで暴れないで!!落ちてきたら重いし硬いでしょ!!」

 「吊床というのは良いな!気に入った!」


 吊床の上ではしゃぐユーシンと、その下から逃げながら文句を言うヤクモ。

 ついにユーシンがぼとりと床に落下して、間一髪、巻き添えを逃れたヤクモが溜め息を吐く。

 

 「ほーら落ちたじゃん」

 「わはは!寝台から落ちるなど、子供のころ以来だ!楽しいな!」

 「うるっせえっつてんだろうが!!!」

 「いや、いいからお前も起きなさいよ。まったく…」


 髪を編み終えたファンがぼやき、ヤクモが賛同し、さっさと甲板に行こうとしたユーシンの帯を掴んで「服着て!」と叱る。

 いつもの朝の光景だ。ファンももうすっかり、「いつも通り」になっている。


 本当に姉さんは、何をやらかしたんだろうか。


 ファンに限って、姉に迫って反撃を食らった、などという事はないだろう。となれば、姉がやはり、なにかしら迷惑を掛けた…という事だ。

 本人がいいと言っているから良いのだろうか。良いとして良いのだろうか。


 いやだが…上陸したら、姉を捕まえて聞こう。


 悲痛な決意を胸に、シドは毛糸で編まれた貫頭衣を手に取り、甲板に行く支度を始めた。


***


 船室を出れば、すでに船員たちが忙しく歩き回り、気さくに挨拶を投げてくれる。

 それに答えつつ、狭い階段を登って甲板へと向かった。


 「うわ、寒い!」


 ヤクモが悲鳴と歓声の中間のような声をあげて、外套の前を合わせた。

 朝の寒さは、夜の寒さとはまた違う。

 夜の寒さが、ひたひたと押し寄せる水のような寒さなら、朝の冷気は鋭い刃だ。


 だが、澄んだ空気は不快ではなく、まして目の前に広がる光景は、暖かい船室に戻ろうなどと思わせない。


 視界いっぱいに広がる水。

 その先、湖の縁の端から端まで続く街。

 朝日を浴びた無数の船が、その街に向かって水面を走っていく。


 その光景は、かつて見た、故郷の景色に似ていて。

 シドは姉のしでかしたことも、寒さも忘れて見入っていた。


 もちろん、完全に同じではない。

 故郷セスと違い、ここは湖だ。海ではない。

 外輪船は、故郷ではほとんど見かけなかった。帆船の帆の形も違う。


 だが、それでも。

 記憶の奥底に押し込めてきた『故郷』を思い起こさせるには十分で。

 

 「で、朝飯はどうするんだ?」


 するはずのない潮の香まで再現しようとしていた記憶の奔流を、ユーシンの声が押しとどめる。

 現金なもので、追憶は即座に空腹という現在に追放されて霧散した。昨日の夜は慌ただしかったのもあり、魚の揚げ物が挟まれた面包パンを食べただけだ。美味かったが、量が足りなかったのは否めない。

 故郷で過ごした時間よりも長い逃亡生活で、何か食えるだけで十分という忍耐力はつけたはずだが、たった一年大都で過ごしただけで、それもどこかへ消えてなくなってしまったようだ。


 「おはようございます、どのようなものを召し上がりますか?」

 

 ユーシンの声を聞いて、船員が一人駆け寄ってきた。手には何やら、書付を持っている。


 「肉!」

 「あー。あったかくて腹にたまるものがいいな。おすすめある?」

 「包子ボーズですかね。こーんなでっかいの、あるんですよ」


 船員は両手で包むような大きさを示した。顔の半分くらいはあるだろう。

 

 「お、いいね。頼めるか?」

 「お任せを!」


 船員は左胸を拳で叩き、舳先に駆け寄る。腰から何やら筒を取り出すと、それに口を当てた。


 「でかい包子自慢の店、求む!」


 その声は、なぜか帆柱の方から、しかも何倍にもでかくなって聴こえてきた。

 どうやら、帆に描かれた『拡大』の陣を使って声を拡散させているらしい。


 「え、え?今の何?なになに?」

 「店を呼んでいるんだよ」


 続いて「ホグショル、ショルツォイ、ボールツォグ~」と料理の名前が並んでいく。何をやっているのかと訝しんだのは僅かな時間で、その意味はすぐに知れた。


 小さい船がわらわらと寄ってくる。喫水も浅く、甲板の半分ほどを覆う屋根があるが、帆はない。突き出た櫂を使って漕ぎ進むようだ。

 同時に、船の外輪がゆっくりと回転を鈍らせ、やがて止まる。帆も降ろされ、船員たちが錨を湖に投げ下ろす。

 そして、一隻の小型船が湖面に向けて着水した。折り畳み式の帆を備えたその船体には、しっかりとアスラン軍の軍服を着込んだ騎士が三人、乗り込んでいた。

 一人は、紅鴉親衛隊の騎士だ。視線に気づくと手を振り、その勢いのまま左胸を叩く。


 「んっと、怪我している人もいるのに、ここで止まるの?」

 「ああ。ラスヤントはいつでも渋滞しているけれど、今の時期はさらにひどい。軍船専用の停泊所もあるけれど、そこに行くまでがな。まずは先触れを送って、案内人を寄越してもらうんだよ」

 「なるほど」


 あたりを見渡せば、そこかしこに船が停泊している。そのどれもが、ラスヤントへの入港待ちなのだろう。


 「だいたい、入港までは早くて一日、酷いときは三日以上かかる。だからああやって、食べ物や娯楽を売りに来るんだ」


 よく見れば、屋根には食べ物の名前や、「本」、「服」、「菓子」など、売り物が描かれている。文字だけではなく、絵も添えてあり、一目で売り物が何なのかわかる船もあれば、文字がなければ判別不可能な船もあった。

 帆はなくても旗を立て、そこに売り物や「うまい!」「でかい!」などと売り文句を書いている船もあり、見ているだけでなかなか楽しい。


 「なるほどな。で、あの辺の船は『娯楽』を売っているわけか」


 クロムの声を視線が向かうのは、屋根に半裸の女…だと思う…が描かれた船だ。そんなものまで売りに来るのかと、噂に名高いラスヤント商人の気合いに舌を巻く。

 

 「…一応言っとくけど、買わないぞ?」

 「いらねぇよ。危なくて買えねぇわ」


 口の端を持ち上げながら言いつつも、視線はすでに食べ物を売る船の方だ。クロムは夜の店によく行くとか、経験の有無でヤクモを揶揄ってはいるが、色気より食い気なのは間違いない。

 シドも男であるので、フフホト滞在時に、何とはなしに二人揃って夜の店に足を運んだが、その一回きりだ。色好みという人種は、金が入ればまずそちらに費やすものだから、このパーティでは目立つだけで、むしろ淡白な方なんじゃないかとさえ思う。

 

 そんなことをつらつらと考えて空腹を紛らわしていると、先ほどの書付を持った船員が、するすると縄梯子を使って降りていき、一番近くまで寄せてきた船に飛び移った。いつの間にか、背負い籠を装備している。

 屋根の絵と旗から、包子を売る店のようだ。


 待ち構えていた主人が、蒸篭をぱかりと開く。かなり巨大な蒸篭なのに、たった四つしか包子は入っていない。つまり、それだけ巨大という事だ。

 船員は頷いて商談を始めた。店の主人の顔が笑顔にあふれているところを見ると、ずいぶんな量を注文したらしい。主人の妻らしき女性も満面の笑顔で、巨大な包子を竹皮で包んでいく。


 それを受け取り背負い籠に入れると、船員は縄梯子に籠を括りつけた。すぐに甲板にそれは引き上げられ、次の籠が降ろされる。


 「どうぞ、ナランハル」

 「ありがとう。うーん、でかい!」


 籠を受け取ったファンが一つ取り出す。湯気をもうもうと噴き上げる包子は、赤子の頭くらいの大きさはあった。


 「ほれ、一人一個な」

 「ありがたく!しかし、特に働いていない我らが、先に食べていいのか?」

 「俺たちより先に食べさせたら、味わう間もなくがっつくしかなくなるだろ。だから、これで良いんだよ」


 包子を配りながら、その言葉を実践するように、ファンはその白くふわふわとした皮にかぶりついた。

 目元が緩んだところを見ると、皮からして美味いらしい。


 渡された包子は、見た目より…いや見た目通りというべきか、ずっしりと重く、それでいて皮はふっくらと柔らかく、これで不味いわけはない、と思わせる。

 ファンに倣ってかぶりつくと、最初の一口は中身に届かなかった。しかし、わずかな甘みのある皮は、それだけでも十分美味い。


 「うまひっ!あつひっ!」

 「ゆっくり食いなさいよもう…」


 朝の冷気が心地よく感じるほど熱い皮を食い進んでいけば、中から現れたのはごろりと大きな豚肉だ。甘辛く煮つけてあり、歯ではなく唇で噛み千切れるほど柔らかい。


 「ラスヤント周辺は、養豚が盛んなんだ。定住しているし、餌になる野菜くずなんかも多いからね」

 「…カーラン式に飼ってねぇよな?」

 「安心しろ。アスラン式だ。高い奴は、麦酒とか飲ませたりするらしいぞ」


 カーラン式、というと、噂に聞く、豚小屋の上が厠になっているというあれか。


 「へえ~。お酒飲むの?」

 「なんか、その方が肉が柔らかくなるんだって。まあ、こういう船上飯屋じゃあ扱わない、クロムの嫌いなデカい皿にちょこんと乗って出てくる店専用だと思うけどね」

 「美味いのは良いが、量が少ないのは嫌だ!それなら、俺はこっちがいい!」

 

 ユーシンの意見に深く頷きながら、現れた豚肉を味わう。脂身の多い、安い肉のようだが、この味付けにはよく合う。米に乗せても旨そうだ。ラスヤントの名物であるなら、滞在中に一度はそうやって食べたい…そう思う。


 「美味そうだな。私の分はないのか」

 「お、おはようっ!ガラテアさん!」


 姉の声にびくりとしたのは、じぶんではなくファンだった。

 その反応に、ユーシンですら食べるのを中断して、目を瞬かせながらファンを見つめている。


 「もちろん、あるよっ!どうぞ!」

 「ありがとう。そして、おはよう」


 姉の方は、いつもと変わらない…ように見える。優雅に包子を受け取ると、これまたしとやかに口に運ぶ。その口元の動きを凝視するファンに、ニコリと微笑みかけた。


 「なんだ?接吻キスの一つも経験がないとは思わなかったが?」

 「い、いや、あるよ!あるけどもっ!!」

 「…ファン、どーゆーことぅ…?」

 「ええと、そのだなあ…!」


 どうやら、やはり姉は、何かしでかしたらしい。

 ヤクモがなぜかファンに詰め寄り、ユーシンはどうやら自分には関係ないと判断したようで包子の攻略を再開し、クロムはぽかんと主を見つめている。


 とりあえず、もう一度謝るべきか。

 

 「シド」


 己の次の動作を考え、実行する前に、姉の一声で動きを止められる。


 「港に着いたら、ちょっと付き合え。良いな?」

 「…わかった」


 断る、という選択肢を認めないのに「良いな?」と聞くのはどうだろうか。

 シドははるか遠くに見えるラスヤントを眺めながら、諦めに似た感情を胸に、包子に齧り付いた。


***


 入港は、さすがに早かった。

 堂々とアスラン国旗を掲げ、明らかに何かがあったと思われる客船と進む船の姿に、他の船たちは道を開ける。

 水賊に襲われるのは他人事ではない。軍船に付き添われているということは、「最悪の事態」だけは避けられたという事だが、「完全に助かった」わけではないという事でもある。

 水路を開ける他の船の船員や乗客たちは、助けたアスラン水軍に敬意を表しつつ、災難にあった客船を憐れみ、己がその難を逃れたことに胸をなでおろしていた。


 船が停泊するや否や、にわかに甲板も港も慌ただしくなった。客船から怪我人が降ろされ、待ち構えていた兵の手によって運ばれていく。とりあえず、船の中で死んだ者は一人もいないようだ。


 本来なら姉もその命を救った功労者ではあるが、それについての賞賛や感謝を受け取る気はないらしい。

 下船するや否や「ちょっと茶店に行ってくる」と歩き出した姉の後を、シドはファンに頭を下げながら追いかけた。


 波止場というのは、当然、船旅を終えた、あるいは始めるもの為の店が立ち並ぶものだ。

 ガラテアが足を止めて「ここでいいか」と宣ったのは、雑多な気配の茶店だった。

 

 アスランでも茶は嗜好品だが、金持ちだけが窘めるものではなく、品質さえ問わなければ、その日暮らしの貧民でも口にできるものだ。

 それに加え、遊牧民たちは酒があまり強くない。そのため、酒場でも普通に茶を注文でき、いかにも船乗り、といったごつい男が、茶を上品に啜っている、なんていう光景も当たり前にある。


 ガラテアが選んだのは、まさにそういった、「茶も飲める酒場」だ。それでも「茶店」と掲げるのは、酒場として登録すると税金が少し高くなるかららしい。

 

 「…姉さん、ファンに何をしたんだ」


 その一角に腰を落ち着け、姉は麦酒を、シドは冷たい緑茶を注文した。外は寒かったが、熱い包子を平らげた口は冷たい飲み物を欲している。


 「なあ、シド」

 「なんだ」

 

 シドの質問に答えてくれる気はないらしい。少し物憂げな面持ちで、長い赤髪をいじっている。

 そんな姉の姿に、周りの客がやけに姿勢正しくなっているが、いつものことだ。とりあえずちょっかいをかけてくれるなと内心に呼びかける。

 姉はたぶん…今、ちょっかいをかけた相手を許さないだろう。

 腰を浮かしかけた男どもを睨みつけて牽制し、シドは大海の主に祈りを捧げた。


 ああ、大海の主(ダロス)よ。あなたのたいして敬虔ではないが、司祭の姉を持つ信徒の心を、どうか安らかに。


 だが、その祈りは、姉の唇から紡がれた、吐息のような言葉に、木端微塵に打ち砕かれることとなったが。


 「私は、男から見てものにしたくなるような女だろうか」

 「…は?」


 はいと答える。「姉をそんな目で見ていたのか?気持ちが悪い」→殺される。

 いいえと答える。「そうか。なんかむかつく」→殺される。


 とっさに頭に浮かんだのは、どう足掻いても絶望な未来。


 「…な、何故、急に、そんなこと…」

 「質問に質問で返すな」

 「そうは、言っても…意味が、分からない」


 姉の氷青の双眸が、じろりとシドを射抜く。他者はその顔を絶賛するが、シドからすれば見慣れた顔だ。とりあえず、怒ってはいないようだと感情を読み取って、こっそり止めていた息を吐き出した。


 「好きな男ができた」

 「…は?」

 

 その息が、喉の途中で止まって「ぐきょ」と変な音を立てる。


 まさか、そんな。

 とっさに、未来の義兄になるかも知れないその男に、「逃げろ!」と警告を発する。もちろん、声には出さずに。

 とりあえず、その男の顔はファンだったが、おそらく…間違ってはいないだろう。


 「は?とはなんだ?私に好きな男がいてはおかしいか?」

 「いや…おかしくは、ないが」


 おかしい!と絶叫する心の中の自分を抑え、シドは運ばれてきた緑茶を口に運んだ。青磁の椀に入れられた茶は僅かな酸味と苦みがあり、少々脂っこくなっていた口と咽喉を潤していく。

 精神も些か潤されたようで、頭の中を暴れ狂いながら右往左往していた感情は、少しばかり落ち着いてくれた。

 

 「ならばいいだろう。姉の幸せを願え」

 「その、姉さん。しかし、身分違い、というやつではないだろうか」


 もし、今まで、自分たちの身分がセス王国の王女と王子であったとしても、アスランの二太子と釣り合う身分とは、到底言えない。

 キリクやアステリアと比べても…比べるのが失礼なほどに小国だったのだ。セスは。


 「ああ。だから、私が男にとって是非にもモノにしたいような女であれば、第三夫人くらいには収まれないだろうか」


 やはり、未来の義兄の姿は間違っていなかったようだ。

 正直に答えれば、姉は十分、そうした容姿を持っていると思う。今までも、あちこちの名家の御曹司や、時には当主から熱烈な求愛を受けてきた。

 力づくでものにしようとしてきた輩も数知れず。その鼻や股間を潰してきた姉である。今さら弟に確認するまでもあるまい。

 それなのに、シドに意見を求めるという事は、姉もわかっているのだろう。


 「…あいつは、そういうことができる男じゃない、と思う」


 美女だから己のものにする。

 それは、全く珍しくもなく、責められるような事でもない。相手の意思や感情を踏みにじって、おのが欲望を優先させるから責められるだけであって、美女の方から望むのであれば、なんの問題もないだろう。

 古今東西、美貌を武器に王の妻という座を手に入れた女性は数多い。姉がそこに加わったところで、何の罪にもなるまい。


 だが。

 シドにはそれを絶対に許さない人間がいることがわかっていた。

 他でもない、ファン・ナランハル・アスランその人である。


 美女が都合よく自分に好意を持っている。だから、娶ると囲うとか…そういうことができない男だ。短い付き合いだが、そう思う。

 政略結婚なら、どんな相手だって受け入れるだろう。けれど、そうではないのなら。

 本気にさせられなければ、いやー、もっといい人いるよ~とか言いながら、何処までも後退って逃げる。


 「わかっている。だから、私をものにしたい、と思ってくれないものかとな」

 「…そ、そうか…その、姉さん。なんで急に、そんなことに…?」


 短い付き合いだが、なんとはなしにファンの人となりは分かってきていた。それだけに、姉がどこに惚れたのか、わからない。

 友人として…人としては、とてもいい男だと思う。


 基本的に穏やかで、人当たりがいい。人の幸せに笑顔を浮かべ、不幸に涙を流せるやつだ。顔だって、本人は大したことがないと言っているが、十分に人目を惹く。背は高く、足も長い。


 だが、それだけで姉が惚れるだろうか。

 実際、そういう男は今までもいた。アスランほどの大国ではないが王子で、見眼麗しく、性格も実にまっとうな男の求婚も、興味がないとばっさり切り捨てた姉が。


 「眼が、美しかった」

 「…眼?」


 満月の瞳と謳われる、あの独特の金眼の事だろうか。

 金色に近い瞳の色は他にも見たことがあるが、確かにあの色は独特だ。


 「アスランが滅びたら、お前はどうする、と聞いた」

 「…二太子に向かって、ずいぶんな質問だな」

 「そうしたら、アスランが滅びたなら、自分はもう生きていない、と答えられた。もし、そのような国家滅亡の危機が迫るようなら、まず死ぬのは自分だ、と。すべてを掛けて時を稼ぎ、父と兄の勝利の道に結び付ける、そう言われた」

 

 微笑む姉の顔は、まさに恋する女の顔で、一瞬眩暈がする。

 だが、今の話のどこに惚れる要素があるのだろうか。まして、眼に関係はあるのか?


 「自分が敗北する前提の話であるのに、双眸はまるで、狩りに赴く狼のようだった。月明かりに浮かび上がるその金の双眸は…とても美しかった」


 艶やかな吐息の色は、おそらく姉が手にする麦酒と同じ色をしているだろう。

 金色に揺蕩い、喉越しよく…苦い。


 「あれは、己を草を食む無害な動物と錯覚している、おそろしい獣だ。鋭い牙も爪も備えているのに、当人に自覚がない。それがなんとも、いとおしい。うん。この気持ちを、愛おしい、と言うのだろうな」

 「…姉さんの好みがおかしいのは、なんとなく理解した」

 「おかしいとはなんだ。では、お前はどんな女が良いんだ」


 弟を殴らない姉、と答えかけて、さすがに押しとどまる。しばしの沈黙の後、「料理がうまい女が良い」と答えて、姉から「それは違うと思う」と首を振られたが、まあ、それはいい。


 「…それで、ファンに何をしたんだ。まさか、押し倒したりはしていないよな?」

 「キスをしただけだ。アスランでは大した意味はないだろう」

 「…本気で言っているのか?」


 アスランでは、確かに大した意味はない。

 だが、セスでは違う。婚姻の誓いであり…そして、姉にとっては鍵である。

 

 セス王家に生まれた女子は、生まれてすぐに大海の主(ダロス)の加護を受ける。

 その加護は、身を護る最後の鎧だ。


 もし、婚姻の儀式を経ずにその身を穢そうとすれば、大海の主の加護が発動する。

 発動すれば、海原の浪が突然凪ぎ、どれだけ帆を張っても船が進まなくなるように…欲という欲が、周囲の人間から消失するのだ。

 当然ながら燃え滾っていた性欲はもちろん、それどこか、「生きようとする意欲」自体が消え失せる。

 

 一度、シドもその現場を見たことがある。姉を押し倒し、欲望に目をぎらつかせていた男どもが突然動かなくなり…そのまま、その場に倒れた。

 全部で十人ほどいたすべての男どもが虚ろな目を見開き、ただ息をするだけの物体となり果て、剣を近付けても瞬きすらせず、無表情に転がっている。

 その異様な光景は忘れられない。同時に、大海の主への感謝も忘れない。


 あの加護は、間違いなく姉を守る最後にして、最強の鎧だ。


 その加護を終わらせるには、婚姻の儀式を行う事。

 さらに簡潔に言えば、姉から男へ口付けること。


 つまり、もう、姉に大海の主の加護はない。

 いくら強いと言っても、大勢の男に取り囲まれて押さえつけられれば、姉とて打つ手はない。どうしても、筋力では男に劣る。


 これから先、何かあれば…最悪の事態すら、起こりえるのだ。


 弟の厳しくなった顔を見ながら、しかし、ガラテアは事も無げに笑い、口を開く。


 「エルディーンもな、ファンの事を好きなのだ」

 「見ればわかる」


 まっしぐらに好意をぶつける少女の想いに気付いていないのは、当の本人だけだ。

 ファンはどうも、好意に鈍感であるらしい。

 クロム曰く、周りの人間から好意しか受けて育っていないから、好かれるのが当たり前のことだから、という事だが、それは当たっているように思う。


 同時に、エルディーンはファンが「女」として見るには幼すぎるのだろう。

 ナナイの事を妹のように思っているそうだから、彼女と同年配以下は、そう言った熱のこもった感情ではなく、守るべき相手という認識になっているように見えた。

 

 「だが、サライで失恋してしまってな」

 「…ファンが何かしたそぶりはなかったが?」 

 「ファンは、芋虫を食べたことがあるそうだ。その口にキスできるか、とナナイに聞かれて、無理だと泣いた」

 「それは…うん。そうか」


 そして彼女も、恋と呼ぶにはあまりにも稚拙で、幼い感情だったようだ。

 もし、自分に心底惚れた相手がいたとして、かつて芋虫を食ったことがあると聞いても…気にしない。今まさに芋虫を咀嚼している口に口付けができるかと言えば、それは嫌だと思うけれど。


 「だから、ファンに惚れたかもしれないと思った時、試してみた」

 「…試した、なんて…」

 「それに…少し、恥ずかしくなってな」


 女から男に、婚礼の儀式以外で口付けるほうが、余程恥ずかしいのでは…とシドは思ったが、口には出さなかった。殴られる可能性は減らしたかったし、杯をもつ姉の指先が、微かに震えているのが見えたから。


 「エルディーンも、ナナイも…神官の娘たちも、そんな加護は受けていない。皆、私のように戦うことはできないのに」

 「別に、恥ずべきことではないと思うが…」

 「そうだな。恥ずかしい、というのとは、少し異なる。意地に近いか?とはいえ、後付けだな。やはり。したかったら、した。それが一番大きい」


 シドは視線を天井に向けた。無機質な、漆喰で塗り固められた天井。

 別に、天井が見たかったわけではない。そういうわけではないが。


 「…なあ、姉さん」

 「なんだ」

 「ファンが、姉さんを好きになると、良いな」


 姉の本来の婚約者は、物語に出てくるような性悪で横暴な王子で、意地悪同士お似合いだ、なんて子供のころは思っていたけれど。

 

 逃避行を始めてしばらく、姉は先に食事を済ませるようになった。

 最初は、姉だけ美味しいものを食べているんだと思って頬を膨らませていたが、しばらくして…姉が倒れた。

 何のことはない。ガラテアは先に美味しいものを食べていたのではなく、食べたことにして自分の分もシドに分けていただけだったのだ。

 恐怖と寂しさで泣いた夜も、シドが眠ってしまうまで手を握り、背を擦ってくれた。どれほど自分が疲れていても。

 そして、決して、泣く姿を弟に見せなかった。


 この世に残った、たった一人の家族。

 シドに対して傍若無人だけれど、同時に、誰よりもその身を案じ、愛してくれている姉。

 もう、自分は強いから、そんなに守ってくれなくていいと言っても…姉は絶対に、「弟を守る」という責務を投げ出さないだろう。どれほど傷を負っても、痛みを抱えても、いつものように不敵に笑って、「なんでもない」と嘯く。


 その姉が、誰かに寄りかかって。

 重みを降ろして、自分の事だけを考えてくれて。

 弱さも、何もかもさらけ出して、本当に心から、笑ってくれて。


 …幸せに、なってほしいな。


 天井を仰ぎ見たまま、シドは心から、そう思った。


***

 

 「ファンめえええ~!!おモテになりよってえええ!!」

 「え、ええと、ヤクモ君、落ち着いて…」


 唸り声をあげるヤクモを、ロットが苦笑いを浮かべながら宥める。

 その横で、ウィルは何を言うべきか、必死に言葉を探していた。


 ロットとウィルの子弟は、客船の方で夜を明かしていた。

 負傷者の容体急変に備えてと、軍船の船室には、彼らが眠れる余地がなかったからだ。

 もちろん、そう言うことにして、吊床ではないまともな寝台を譲られたのだ、という事もわかってはいるが。


 合流した時からヤクモはこの調子で、その原因になったのであろうファンは、「ここの領事官と将軍に挨拶してくるねッ!」と、クロムとユーシンを連れてそそくさと離脱した。

 ユーシンは明らかに面倒くさそうで、クロムはなぜか、他の猫のお尻の匂いを嗅いだ猫みたいな顔をしていた。


 その様子を面白そうに見ていた船長は、何があったかと聞いても黙して語らず、代わりにロットに小さな財布を手渡した。

 

 「ナランハルが、これで頑張ったお嬢さん方へのご褒美を買ってきてくれ、と」


 受け取った財布は小さいが重く、中にはアスラン銀貨が三十枚ほど入っていた。

 援けた客船の一番安い客室が、フフホトから大都まで銀貨三十枚と聞いたから、決して安い金額ではない。


 しかし、夜も交代で怪我人に付き添い、今は疲れ切って眠ってしまった少女たちへのご褒美としては、高すぎることもない。

 怪我人が運び込まれるとすぐに、宿の手配が完了したと報せが来た。

 それを受け、今度は眠りこける少女たちが運ばれていく。女官たちが付き添い、レイブラッドも護衛として同行したのだから、心配することは何もないだろう。


 それならば、自分たちに出された依頼を完遂すべきだ。

 

 さて、どんなものにしようかと思案していると、船長が波止場から少し先に菓子屋の並ぶ通りがあると教えてくれ、連れて行ってくれる馬車も手配してくれた。

 軍に属する馬車ではなく、金を払えば好きなところまで乗せて行ってくれる商売らしい。

 フフホトでもそうした馬車はあり、見かけはしたが、利用するのは初めてだ。

 アステリアでも乗合馬車はあったが、街中をこうした馬車が走ることはなく、街中で馬車に乗れるのは、それなりの身分と金が要る。

 だが、アスランのこうした馬車は多少の贅沢になる程度で利用でき、身分など当然関係ない。


 「それじゃあ、出発しますよう!」


 馭者は中年女性で、陽気に笑って馬に合図を送る。

 走ると歩くの中間程度の速度で馬は足を動かし、男三人で乗るには少々狭い馬車はするすると進んでいった。


 馬車は当然ながらアスラン式で、床にじゅうたんが敷かれ、そこに直接腰を下ろすようになっている。靴は脱ぐ代わりに、すっぽりと袋をかぶせるようにと言われた。

 そうして顔を突き合わせ、通り過ぎていくラスヤントの街並みに思いをはせるわけでもなく…ヤクモの恨み言を宥める神官二人。

 もし、ロットがヤクモに向けて『静寂』の御業を祈ったとしても、女神は苦笑しつつ許してくださるだろう。


 「あ、あの、ヤクモ、もしかして…」

 「う?」


 おずおずと問いかけられた声に、ヤクモは唸りと止めて首を傾げた。その様子にホッとしつつ、ウィルは必至で言葉を組み立てる。

 

 「あの…ガラテアさんの事、す、好き…だとか?」

 「きれーなおねーさんは、当然好きだけどねぃ」

 「そ、それで、ファンさんにやきもち…を?」

 「ぼくだって、きれーなおねーさんにキャアキャア言われたいからねッ!!」

 「…思うに、ヤクモ君の『すき』と、ウィルの言う『好き』は違う感情ではないかな?」


 苦笑交じりの師の言葉に、ウィルは目を瞬かせた。好きに差があることは分かるが、この場合の差はどういうことなのか。


 「ヤクモ君は、結婚がしたい、というわけではないんだよね?」

 「ふえ?うん。そりゃあ、そーでしょー」

 「え、ええ?結婚したくない、のに、その、女性に、好かれたいの?その人に、申し訳ないのじゃ…」


 ウィルにとって、女性に好かれたいという事は、つまり結婚し、家庭を持ちたいという事だ。だが、ヤクモはそうではないという。

 ヤクモは、初めてできた友人と言ってもいい。だから、その大切な友人が不誠実な願望を口にしているとは…思いたくはなかった。


 「あー。これがファンのよく言う、文化の差ってやつかあ。

 あのね、ウィル。ぼくは、恋人がほしいわけじゃなくて…いや、けっこう切実に欲しいけれども!その前に、女の子やおねーさんにきゃあきゃあ言われてちやほやされたいだけなんだよねぃ」

 「はは、文化の差、というよりは、個人の差、だね。大神殿の神官だって、同じように言っているさ」

 「え…その、先生も、ですか?」

 「ロットさんはおモテになる側だからねッ!」


 確かに、師匠は良く女性にうっとりと見つめられたりしている。説法をすれば、聴衆の八割は女性だ。それを嬉しそうにしているそぶりはなかったけれど。


 「私は、女神にすべてを捧げているから。アスター神官は婚姻を禁じられていないけれど、するつもりはないよ」

 「うぐぐ…こーゆー余裕が、おモテを呼ぶんだろーか…」 

 「えと…つまり、ヤクモは、ガラテアさんを、その、愛している、とかそういうことはない…の?」

 

 ウィルの問いに、ヤクモは思いきり眉を寄せた。そのまま、頭を傾ける。


 「ガラテアさんが、ヤクモ好きぃ結婚してーって言ってきたら、一瞬で頷くと思うけどねぃ。でも、それは、ガラテアさんがすっごいきれーなおねーさんだから、で、ガラテアさんのどこが好きなのって言われたら、困ると思う」

 「つまり、愛してはいないってことだね」

 「うん。それに、ガラテアさんがそんなこと言うわけないしねぃ。ぐぬぬファンめぇ…しかも、ファンそういわれても絶対逃げるじゃん!もったいない!」

 

 現に、素早い『敵前逃亡』をやってのけたわけだし。


 「お似合いだと思うんだけれど。エルディーン君は、悲しむかもしれないが」

 「あのことのフラグは瞬殺されたから安心してたのにぃ!」

 「うん…一応、エルディーン君が振った、というか、諦めたらしいけれどね。妹弟子たちの話によると。芋虫を食べた口はちょっと…だそうだ」

 「さらに蜘蛛とか食ってるよって追撃してあげたい!!」


 ヤクモの怨嗟の叫び…と言うか鳴き声は、ひときわ大きな振動で止まった。

 外から扉が開かれ、馭者が「ついたよ!」と呼びかける。


 靴から袋を外して外に出ると、そこは少し大通りから入った路地のようだった。

 すぐそばの通りからは馬蹄の響きや人の喧騒が聞こえてくるが、この路地自体は穏やかな晩秋の陽ざしに相応しい、緩やかな静けさに包まれている。

 人通りもあるが、それほど多くもなく、歩みもゆっくりだ。

 

 「この辺りはね、だいたい、菓子屋なんだよ。値の張るような店はないから、安心して入って見て大丈夫だよ!」

 「ほえ~。あ、あのお店、ファンの飴ちゃんの店だ」


 ヤクモが指さしたのは、猫が瓶を抱えた絵が描かれた看板の店で、硝子張りの窓の向こうに、色とりどりの飴の瓶が見えた。


 「トール・ティムタムだね!おととし、分店ができたんだよ!ちゃんと味は大都のと同じだからね!おすすめさ!」

 「あの飴は妹弟子たちが良く美味しかったと言っていたし、一つ買おうか。あとは見て回って決めよう」

 「はーい」

 「それじゃ兄さんがた。帰りも馬車を使うなら、大通りで探すんだよ。馬車溜まりがあちこちにあるからさ」

 「はい。ご親切にありがとうございます」


 馭者は明るく笑って手を振り、御者台へと戻った。馬に声をかけ、進ませる。彼女もまた、その馬車だまりに待機して、次の客を待つのだろう。


 「何買おっか!なんかさ、かわいくっておいしーのあげたらさ、ヤクモさん素敵!とかになるかなあ!」

 「もともと、妹弟子たち曰く、ヤクモ君が一番話しやすいそうですよ」

 「ええ!ほんとっ!よっし!ぼくにもモテ期きてるかも!」


 ヤクモが話しやすいというよりは、ファンは年上のお兄さんで、クロムとシドは不愛想で話しかけにくい、ユーシンは…何を考えているのか、ちょっとわからなくて怖く、消去法でヤクモである、と言った方が正確ではあるが。

 まあ、それは言う必要はない。それに、そうだとしてもヤクモが一番話しやすいのは事実であるし、いい気分になっているところに水を差すこともあるまい。


 「いいかい、ウィル。誠実であろうという君の姿勢は正しい。けれど、ヤクモ君のように、人生を楽しむことも必要であると、私は思う」

 「人生を、楽しむ…ですか…」

 「もちろん、女性をもてあそぶような真似は言語道断だけれども。ヤクモ君がそんなことをしないのは、君もわかっているだろう?」

 「はい!もちろんです!…でも…」

 「うん」


 指定の視線の先には、弾むような足取りであちらの店、こちらの店と見ながら、目当ての飴屋に向かうヤクモの姿がある。


 「その…女性に、きゃあきゃあ?言われる事と、人生を楽しむ、が、どうつながるのかが…その、わからなくて…」

 「ヤクモ君と友人を続けて行けば、わかるかもしれないな。教えられることではないし」

 「あ、でも、ヤクモと友達でいるのは、楽しいです!」


 弟子の答えに、若き師はにっこりと笑った。


 「うん。とりあえずは、そういう事だよ」


***


 「いっぱい、買ったねえ!みんな、喜んでくれるかなあ!」 

 「おいしいって、食べてくれたらいいね」


 背負う背嚢は、色とりどりのお菓子でずっしり重たい。

 飴はファンが言っていたような量り売りではなく、すでに瓶詰されているものだったが、綺麗に層をなして詰められた飴は、見ているだけで楽しいものだ。


 小さな瓶で人数分買うか大瓶を買うか悩んだ末、小瓶だと消費に差が出るという判断で、大瓶になった。ロットが預かって管理すれば、不平不満もでるまい。


 他にも花の形をした砂糖菓子や、動物や貝を模した焼き菓子など、見た目にも華やかな菓子たちは、きっと頑張った少女たちに笑顔を齎してくれるだろう。


 「みんな、すっごい頑張ったもんねぃ!ウィルもさあ、御業、ちょーつかえるじゃん!ぼく、ふつーに戦う事しかできないから、ちょっと憧れちゃうよ!」

 「そ、そんな!!ヤクモも十分すごいよ!」

 「魔導とか使えたらいーんだけどなあ!かあっこいいよね!」

 「ヤクモ君のパーティは、全員戦士だったっけ」

 「うん。戦士、男ばっかり―。シドもそーだしね。あ、いちおー、ファンが使えるよ。お水の召還。どこでもお水飲めるから、便利なんだけどさあ。見た目地味なんだよねぃ。ファンっぽいっていうか」


 思わずロットは吹き出し、ウィルは礼儀正しく沈黙を守った。口の端が震えていたが。


 三人は買い物の後、徒歩で港に向かっていた。

 方向はわかるし、大通りはすぐそこである。もしも道に迷ったら、その時は馬車をさがせばいい。

 やはり、ここ数日の船旅は快適だが少々窮屈ではあった。少し動きたいという欲求もあったし、知らない街を歩いてみたい、という好奇心もある。


 裏通りならばそんな好奇心も霧散するだろうが、三人が歩いているのは、日差しも明るいごく普通の道である。人通りはあまりないが不穏な空気は全くない。

 どうやら倉庫街らしく、ときおり中から荷を馬車に積み込んでいたり、逆に船で運ばれてきたのであろう荷物が山積みにされ、それを検品している人もいた。


 道の端では野良犬か飼い犬かわからない大きな犬が悠々と寝そべり、時折あくびをしている。飢えた様子はなく、実に満足げで気怠げだ。


 「お腹すいてきたねぃ!お昼、どーすんのかなあ」

 「ファンさんたち、戻ってきたでしょうか…」

 「さすがに、会食になるんじゃないかな。でも、港までいけば、食事処はたくさんありそうだしね」


 人通りが少ないのも、ちょうど昼食時だから、というのはあるのかもしれない。

 そろそろ胃袋は隙間を埋めることを要求しだしており、たまに風に乗ってやってくる、何かを煮込んだり焼いたりしている匂いがつらい。


 ふと、その芳香に混じって…異質な臭いがしたように思えて、ヤクモは鼻をひくつかせた。

 獣なみ、と呼んで差支えがないユーシンの嗅覚ほどではないし、それほど「変なにおい」を知っているわけではないが…それでも、足を止めさせる程度には危機感を刺激する。


 「どうしたの?」

 「…なんだろ、へんな臭い、しない?」

 「へんな、臭い?」


 師弟はあたりを見渡しながら鼻で大きく息を吸い込み、そして首を振った。


 「わからない…」

 「私も、特には」

 「んー…気のせい、なのかなあ?」


 けれど、相変わらずヤクモの危機感は警戒を緩めていない。

 それに、つい最近、似たような臭いを嗅いだ気がする。あれはどこだったっけかと、記憶の頁を捲ってみるが…すぐには出てこない。


 だが、その代わりに…今度ははっきりと、聴覚がその音を捉えた。


 「…悲鳴!?ちょっと、二人はここで待ってて!見てくる!」

 「ヤクモ君!待って!」


 微かに聞こえたのは、「助けてくれ!」という声。

 それは捻くっても若い女性の声ではなく、むしろおっさんの濁った声だったが、だからと言って何もせずに見過ごす、という選択肢はヤクモの中になかった。

  

 だって、ファンならすぐに行こうって言うもん。


 リーダーの方針は、パーティの方針だ。

 駆けつけてみて、自分にはどうしようもできなさそうなら、改めて助けを呼んだっていい。すぐ近くには、倉庫へ荷物を運び込む人たちもいる。


 それは、考えたというよりも閃いた、と表現した方が良い速度で、ヤクモの脳裏を流れて行った。

 

 声は、少し先に行った、倉庫と倉庫の間の通路から聞こえた…ように思えた。

 背嚢を背から滑り降ろし、ヤクモはそこを目指して石畳を蹴りつける。

 ほんのわずかな疾走で、目的地へは到達するだろう。悲鳴は、はっきりと、しかし先ほどより切羽詰まって、続いていた。


 駆け込んだ場所で、ヤクモの視界は、石畳に尻をつき、じたばたと手足を動かして逃げようとする男の姿を捉えた。

 ヤクモからは顔は見えない。だが、その顔が恐怖にひきつっているであろうことは、伺えた。


 何を見て、この人は怯えている?

 薄暗い路地の先、ヤクモはその先へと焦点を合わせる。


 その次の瞬間。


 ヤクモは、ただ必死に、男が怯える「モノ」を探していた。

 だから、そうヤクモが動いたのは…まったくの、無意識の領域だった。


 腰をわずかに落とし、膝を曲げる。

 左手を鞘に添えて、右手で柄を握り。


 剣を、引き抜く。


 ガギィン!!


 「!!?」


 耳障りな音に、ヤクモはようやく、己が剣を引き抜き、顔の前にかざしていたことに気付いた。

 そしてその剣が、「何か」を防いだことに。


 ムッとする異臭に、眉が寄る。だが、身体はすぐに次の動作に移った。

 後ろに弾かれた衝撃のまま、後ろに飛ぶ。

 その「何か」と距離を取り、次の攻撃に備えるために。

 

 だが、次の攻撃は、来なかった。

 叩きつけられていた殺気が、ない。


 汗がどっと毛穴という毛穴から吹き出し、今、自分が生きるか死ぬかの線の上に立っていたことを、本能が理解する。


 「ヤクモ君!」

 「ヤクモ!!大丈夫!!」


 ロットとウィルの声を聴いた瞬間、ヤクモの両膝は支えることを放棄した。へたりと座り込みながら、ただ、荒い息を繰り返す。


 「怪我してるの!?」

 「あ、あは、だいじょーぶ。どっこも、痛く、ないよ」


 しいて言えば、剣を握っていた右手が痺れている。

 受けた時の衝撃で、よく剣を落とさなかったものだと感心しながら、ヤクモは剣を見た。


 アステリアで買ってもらったグラグラガタガタする中古の安物と違い、サライでヤクモに合わせて調整してもらった高品質の剣である。

 曇りない白鋼は見るからに切れ味がよさそうで、前の剣よりも細身ながら、きっと値段は百倍くらいするんだろうなあと手入れするたびにニヤニヤしてしまう逸品だ。


 何気なく視線を落とし、その刃を見て…ヤクモは、目を見開いた。


 剣の中ほど。ちょうど、先ほどの攻撃を受けたあたり。

 そのあたりが、ぱっくりと、抉り取られている。


 「その…剣、どうしたの?」

 「…わかんない。でも…」


 再び、汗が噴き出て背を濡らす。


 「剣を、構えなかったら、ぼくの顔がこーなってた…」

 「…!!」


 無意識の、一挙。

 ヤクモの身体は、ヤクモがそう判断するよりも早く、動き、命の危機を退けた。


 (…はじめて、できた、かも!)


 次にまた同じことをやれるかと言われれば、自信はない。

 だが、一度できたなら…自分は、きっと、また、できる。


 「…っひ!!」

 「はえ?」


 その余韻は、ウィルの引き攣った声に断ち切られた。

 ロットが倒れかけた弟子を支えながらその視線の先を見て…ウィルを支えた態勢のまま、後退る。


 「どしたの?」

 「あ、あれ…」


 震える指が示す先を無造作にヤクモは眺め、二人の恐怖の、意味を知った。


 悲鳴を上げていた、男。

 まだ、尻は石畳に張り付いており、手足がバタバタと動いている。


 だが、その、顔。

 ヤクモからは、後ろ頭しか見えなかった、その部分。


 それが、上半分…ない。


 「んにゃー!!!」


 ヤクモも、人の死体を見るのは初めてではない。マルダレス山の冒険でもさんざん見たし、山賊討伐などにも参加したことがある。

 だが、そうした「危険な場所」ではない、ただの街中で不意打ちのように見せられた、凄惨な「人だったもの」は、悲鳴を上げるのに十分な理由になる。


 「おい、いたぞ!!」

 「なっ!!なんだこりゃ!!!」


 その悲鳴を聞いてきたのか、それとも、たまたまなのか。

 唐突に動きを止めて倒れ伏した男の向こう、通路の先から、どやどやと数人の男たちが駆け込んできた。


 「ひっ!!なんだよ、なんだこりゃあ!!」

 「おい!!お前、お前がやったのか!!」


 男たちは、アスラン軍の兵だろうか。軍港で見かけた兵たちと、同じような服を着ている。

 よく見れば、死んだ男も同じ服だ。


 「え、ちがうよ!ぼくじゃない」

 「ち、タタル語もわからんのか!!」


 あ、そか。ぼくがわかるだけなんだった。


 簡単な会話ならばできるようになってきてはいるが、怯えを怒りで塗り替えようと、むやみやたらと興奮しながら駆け寄る兵を前に、正しい発音が思い出せない。


 「違います!彼もまた、襲われて身を護るために剣を抜いただけです!」

 「ロットさん!」


 血の気のひいた顔で、しかし、ロットははっきりと言い放った。発音も文法も問題ないタタル語だ。兵にも当然、理解できたらしい。

 

 「信じられるか!!おい!何をした!!てめぇじゃねえなら、誰がやった!!」

 「え、えと」


 思い返す。

 あの、一瞬。

 

 男の視線の先にいたのは、逆光で良くは見えなかったが…フードを目深にかぶった、小柄な人影に、見えた。

 だが、それを説明すべきタタル語が出てこない。

 冷静になったとしても、今のヤクモの語彙では、「見えた。小さい。人」程度にしか説明はできないが。


 「言え!言わねえと、痛い目みるぞ!!」


 男の手が伸び、ヤクモの髪を掴んで引き上げる。痛みと共に、引きちぎれる感触が伝わって、ヤクモは再び悲鳴を上げた。


 「やめてください!!彼ではない!」

 「うるせえ!!アスラン軍に逆らうのか!!」


 ヤクモを助けようと、ロットとウィルが兵に駆け寄るが、他の兵が二人を突き飛ばし、それを阻む。

 石畳に突き倒され、二人の口からも短い悲鳴が上がった。


 「ウィル!ロットさん!!このっ!離せ!!」

 「おい、やっぱりコイツだ!!逃げようとする!!」

 「やっちまえ!!」

 「おう!まずはおとなしくさ」


 兵の言葉は、最後まで発することができなかった。

 言葉を止めたのは、鈍い、音。


 痛みと頭皮の引き攣りに涙目になっているヤクモの視界に、自分の髪を掴んでいた兵の腕が、肘ではないところで曲がっているのが映る。

 同時に、痛みと圧迫感が、消え失せた。


 「…何を、している」


 低い、唸り声のような、声。

 倒れ伏して腕を抑え、転がる男を見据える、うっすらと笑いを浮かべた顔。


 「ユーシン…?」


 ファンと共に、この街の「偉い人」に会いに行ったはずの仲間の名を、ヤクモは呆然と呟いた。


 「おい!仲間が出たぞ!」

 「どっからでやがった!」

 「信じられねえ!壁蹴って上から降ってきたぞ!このガキ!」


 他の兵が狼狽えながらも剣を抜き、ユーシンと対峙する。それを見ながら、ロットたちを突き飛ばした兵が、何とか立ち上がった師弟に手を伸ばした。

 人質にする気だ!とヤクモはその行動の意味を看破し、阻むべくまだ力の入らない足を叱咤して立ち上がる。


 だが、それよりも早く、その兵は吹っ飛び、先ほどのロットたちのように、石畳に叩きつけられた。


 「てめぇら、うちのもん甚振りやがって…死ぬ覚悟はできてんだろうな?」

 「クロム!」


 振りぬいた盾を構えたクロムの顔は、鋼青の双眸だけが燃えるような怒りを宿し、無表情に固まっている。

 ユーシンの笑みも、クロムの無表情も、二人が激怒していることを高らかに宣言していた。


 「大丈夫か!ヤクモ!ロットさん、ウィル!」


 安心して再び力に抜けた身体を、がっしりと暖かい腕が支えてくれた。

 心配そうに見下ろすファンの顔に、ヤクモは涙をこらえ、鼻をすすりながら頷いて見せる。


 「アスラン軍騙ってんだ。ぶっ殺される覚悟はできてんだよなって聞いてんだよ破落戸ゴロツキども!」

 「お前らがまことにアスラン軍であっても、俺の友を傷付けたことは許さんがな」

 「か、騙りだと!!」

 

 二人の気迫に圧されているのを誤魔化すように、一人が何とか吠えた。だが、その決死の咆哮をクロムは鼻で笑って切り捨てる。


 「騙りだろ?アスラン軍に、たった二人の若造に脅されて、小便垂らしてビビりまくるようなクソはいないからな」

 「お前たちがアスラン軍だというなら、何処の所属で部隊長は誰だ?」


 嘲るクロムの言葉に続き、ファンの静かな声が通路に響く。

 基本的に、ファンは相手が年上ならば、必ず丁寧に呼びかける。初対面の相手に「お前」などとは言わない。

 そうするのは、すでに「敵」と認識した相手だけだ。


 「うるさい!!お前ら、そいつの仲間か!全員、覚悟しろ!!拷問にかけてやるからな!」

 「質問に応えろ」

 「こ、答える必要はねぇ!!」


 剣を振り回し、リーダーらしき男が吠える。だが、それは威圧というよりも負け犬の遠吠えにしか聞こえず、じりじりと後退を始めていた。


 「てめぇらごときにわざわざ問いかけてやった、我が主の問いに応えないなんて無礼、万死に値する」

 「我が友を傷付けた罪もだ!合わせて二万回死んでも良いな!」


 二万回は死ねないんじゃないかなあ…というファンの声はいつものもので、ヤクモは少しほっとした。

 この偽者らしき兵士より、一瞬の差で逃れた死より…怒っている三人の方が怖い。


 「ファン、どうしてここに?」

 「うん、ちょっとな。ラスヤント府までいかなくても良くなって…引き返して来たら、ユーシンが変な臭いがするって騒ぎだしてな」

 「あ、ユーシンにもわかったんだ…」

 「来て見てよかった。怪我はないか?」

 「ちょっと、おハゲできたかも~」

 「大丈夫。ふさふさだよ」


 笑ってファンが髪を掻き回し、ヤクモもやっと笑えた。足にも力が戻り、少し膝は震えるが、立つことができる。


 「ごめんね、ウィル。ロットさん。ぼくがもっと強かったら、守れたのに…」

 「大丈夫!ちょっと、尻を打ったくらいだから!それより、ヤクモの方が…!」

 「ぼくはへーき!それより、ファン、あの人たち、偽者なの?」

 

 ヤクモの問いに、ファンは少し眉を寄せて肯いた。


 「ああ。アスラン兵っぽい恰好をして、軍を騙って無体を働く連中がいるらしくてな」

 「ほんとに、困っちゃうよねえ~w」


 急に続いた知らない声に、ヤクモはほんの少し飛び上がった。

 びっくりするほど近くからその声がしたことが、主な原因だが。


 弾かれたように真横を見れば、それほど背の高くない痩せた男が、にこにこと笑っている。

 ぼさぼさの長い黒髪の、三十代前半から半ば程度に見える男だ。


 だが、男が纏うのは…まぎれもなく、アスランの騎士が身に着ける外套。

 その胸元には金色の狼…にしては耳が垂れているから、犬か…を象った徽章が輝いている。


 「だ、だれぇ?」

 「あー、この人は…」


 にこにこ笑いを崩さないまま、男は対峙するクロム、ユーシンと偽兵士の間に進んでいった。

 その顔のまま、腰につるしていた剣を抜き、一閃する。


 「おにーさんさぁ、こういうセコイの、大っ嫌いなんだあw悪いことするなら、人に擦り付けずに自分でやんないとねw」

 

 切り落とした偽兵士の首を踏みながら、それでも口調と表情は変わらない。

 

 「だから、おにーさんは名乗るよ。アスラン王国十二狗将がひとり、ジャスワン」


 嫌な音がして、首が踏み抜かれる。

 その凄惨な光景に、偽兵士たちは動くことすらできず…クロムは肩を竦め、ユーシンは首を傾げ、ファンは自分の身でヤクモ達三人からその光景を隠した。


 「赤狼ドールの名前くらい、聞いたことあるっしょw」

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