6話 龍殺し
6話 龍殺し
ここは、龍哭きの谷。多くの龍がすみ、絶えず龍鳴き声がすることが名前の由来となっている。人間にとってかなりの危険地帯であり、まともな人間は寄り付かない。
そんな龍哭きの谷に一人の人間と龍が対峙し、見つめあっていた。
「………」
「………」
(えーっと、こいつは…あれだよな、ドラゴンってやつだよな…トカゲみたいだし、羽あるし、爪とか牙とかいろいろとんがってるの付いてるし…やっぱりまなで見るのは良いな、リアリティがあって…………………………というか、現実か。と言うことはこの状況、マズくね?)
「GaaaAaaaeeEe!!!!
「っマジかよ!!!」
ドラゴンは、大きな口を開け、こちらに迫ってくる。
「おいおい!確かに変なところに飛ばされるとは言ってたけどよ、ドラゴンの前だとは思わねぇだろ!!」
全力で走って逃げるが、ドラゴンと人間では体躯、ステータスが大きく異なるのか、徐々に浩也とドラゴンの距離が縮まっていく。
「っくっそ…!早速、カード使うしかないか…」
浩也は、カードを一枚取り出した。
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カード名: トロワ・メリー
型: 使役型
効果: メリーさんを呼び出し、30秒後に対象一体を確殺する。
クールタイム: 60秒
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「いくぜ、メリーさん!」
浩也は、カードを掲げる。するとカードは光り消えていった。直後、身も凍るような殺気が当たりを覆った。
「GaAAa!?」
ドラゴンは、そのさっきに驚ろき、足を止め当たりを見渡し、殺気の出どころを探る。だが、それらしきものは見つからない。そして、空から殺気に似つかない綺麗な声が響く。
『私、メリーさん。今貴方の3歩後ろにいるの』
ドラゴンにも意味は通じたのか、ドラゴンはすぐに自身の後ろを向くがそこには誰もいない。ドラゴンは訳が分からないと言ったように、忙しなく当たりを見渡す。そして、さっきよりも強い殺気が辺りを覆う。
『私、メリーさん。今貴方の二歩後ろにいるの。』
ドラゴンは発狂したかのように、腕や尻尾を振り回す。
『私、メリーさん。今貴方の一歩後ろにいるの。』
ドラゴンは、恐怖しきったのか、羽を大きく広げ空へと逃げようとした。直後、より濃密な殺気が辺りを包み、
『私、メリーさん。今貴方の後ろにいるの。』
そんな声が聞こえた。その声の後、ドラゴンは身体中から血を吹き出し、地面へと落ちてきた。浩也は、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「ハハッ…まじかよ。こんなに強力なのか、このカード……本当にドラゴン倒しちまった…。」
浩也が、笑いながら突っ立ってると、ドラゴンの死体の後ろからピョコッと綺麗な少女が顔だけ出してこちらを見ていた。浩也がその子に気づくと、その子は浩也に対して手を振った。
「あ、ありがとうな、メリーさん。」
浩也は、呆気に取られつつも手を振り返した。そして、少女はにっこりと笑って消えていった。
「はぁぁ…、なんかどっと疲れたわ。」
浩也は、地面に寝転がった。
「……………水でも飲むか。」
浩也は、女神からもらった鞄をあけた。鞄の中には、女神が言っていた通り、食料と水、名付き、それと手紙のようなものが入っていた。
「こんなのあったか?」
浩也は、水を飲みながら手紙らしきものの封を切り、中身を見た。そこには、以下のような内容が綴られた紙が入っていた。
〜浩也さん、無事に転移されましたでしょうか。確認はできませんが、浩也さんであれば無事だと信じています。あのような場所では時間が限られていたので、スキルとこの世界のシステムについて説明が不足していました。なので、この手紙で説明させていただきます。
まず、浩也さんには女神の加護という名前だけのスキルを追加でつけさせてもらいました。特に効果はないのですが、有れば変な目で見られることはないと思います。それとこの世界では、ステータスと心の中で念じるとステータスを見ることができます。そのステータスに少し機能を追加しておいたので、確認してみてください。
浩也さんのこれからの旅が良いものであることを祈っています。〜
「…本当、律儀だよなぁ、あの女神様。」
転移者にここまでフォローしてくれる女神も珍しいのではないかと、浩也は女神様のご好意を噛み締めていた。
「っと、それよりステータスだっけ?」
試しにステータスと念じてみた。すると、目の前にパソコンの画面のようなものが広がった。
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名:比谷木 浩也
性: 男
年齢: 19
スキル: 呪遣い(カーステイカー)
レベル:1
体力:1000
魔力:500
攻撃:2000
防御:2000
討伐対象
一級:0/3
二級:0/5
三級:1/8
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「…へぇ、便利なもんだ。自身の状況が数値化できるってのはなんか新鮮だな。……っていうか、さっきのドラゴン、一応討伐対象だったのか…」
「…んー、数値だけ見ても分からんな。基準も分からんし…まあ、とりあえず今は人がいるところに行かないとな。」
浩也の冒険は始まったばかりである。