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呪遣い(カーステイカー)  作者: リンゴの木
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1話 転移準備

1話 転移準備


「はぁ、はぁ…」


 時間は、午後6時ごろの夕方。向こうには、地平線に落ちかかる夕日が見える。夕日は、山の空を血の色のような刺々しい赤色で染めていた。空は真っ赤に染まっているものの、あたりは暗くなり始め、不気味さを増していく。

 まさに逢魔が時。人ならざるものが動き出す時間帯。そんな時に、少年は一人、山を登っていた。


「はぁ…今、何時だ…?」


 少年は息を切らしながら腕にある時計をみる。その間も足を止めず、ズンズンと山の中を進んでいく。


「…6時03分か。もう少しだな…、急ごう。」


 何か大事な用事があるのか少年は、歩みを早め、山の頂上を目指していく。空は、赤と青が混ざりグラデーションを呈していた。もう夕日の光は少ししか届かず、あたりは薄暗く、不気味だ。それでも少年は一応念のためと持ってきたライトをつけることなく進んでいく。


「ふふ…もう少しだな」


 こんな重く不気味な空間にいるにも関わらず少年の足取りは軽く、むしろワクワクとした雰囲気が漂っていた。そのギャップが少年を異質なものとして浮き立たせていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 とうとう少年は、山の頂上一歩手前に来た。この林を抜ければ、そこが頂上だ。少年は、一度その場で立ち止まり、荒れている息を整えた。そして最後に深呼吸をして、山の頂上へと入っていった。


「ははっ……」


 少年が頂上に入ると同時に少年の体を黒い光が覆った。山の頂上だと言うのにあたりは真っ暗で何も見えない。あるのは目の前にある、"ナニカ"だけだった。

 それは黒く、球状で、その球のなかには何かが蠢いていた。それが分かるだけでそれ以外は何も分からなかった。そもそも、それを理解して良いのかさえも分からない。


「やっと…会えたんだな…」


 少年は感極まったとばかりの声を出し、一歩、また一歩と歩いて行き、"ナニカ"に手を差し出した。


 "ナニカ"はそれに気づいたのか、手なのか触手なのかよくわからないものを球体の表面から伸ばした。そして、少年の手とそれが触れた。


「ありがとう…嬉しいよ…」


直後、少年の視界は暗転した。



「んっ……」


 何か柔らかいものが頭に当たっている気がする。いつも愛用している枕とは違う気もするし、何より少し暖かい。頭の下にあるのが何なのかを確かめるために手を伸ばし、触ってみる。


むにっ


 触った瞬間、さっと血の気が引いた。

(んっんー!?待て待て。冷静になるんだ、俺!いや、でもこの感触確かにあれだよな、そうあれだよ、その…)


「ふとももですか?」


(そうだよ、それ!ふ、と、も、も、だよ!それでだ、ふとももが俺の下にあるって言うことはだよ、これはもしや…)


「………」


(ひ、ざ、ま、く、ら!そう膝枕!俺は今膝枕をされている!何故だか知らんが、人生初の膝枕!これは堪能せずにはいられないぞ、このやろー!)


「喜んでくれているところ悪いんのですが、目が覚めたのなら起きてください。」


(少し待つんだ!俺は今猛烈に感動している!もはや膝枕など無縁のだと思っていたからな!こんな貴重な経験はもっと味わってお…………って少し待て。今の声誰だ?というか、誰の膝だこれ…?)


「私の膝です。さっきから言ってるのですが、早く起きてもらえますか?」


 再びサッと少年の血の気が引いた。少年は、引き攣った笑みをなんとか浮かべながらゆっくりと目を開けた。


「あ、起きましたね。おはようございます。」


「お、おは…」


「突然ですが、あなたは死んでしまいました。」


「よう…………へ?」


「そして、死んでしまったところ悪いんのですが、私の世界を救って欲しいのです。」


「……………」


少年は、考えるのをやめた。


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