第陸話:潜入前
鼓膜を負傷してから1ヶ月が経過した頃だった。
あの生意気な医者の思惑通りに業務へ復帰が出来る。本当に腹が立つが健康第一、元気満々になるので喜ばしい。何より立花ともう顔を合わせなくて良いのだ。
暫く装着していなかったガスマスクを白いベルトに引っ掛けて、仕事を貰いに行こうと自室から退室した時だった。
「やぁ宇野ちゃん、復帰するんだろう? 今度の仕事で此処に行くんだけどさ。着いてきてくれないかな?」
「タイミング良いじゃん。ウチの事こっそり伺ってくれてたの? 良ーよ、着いてく。」
仕事が欲しくなっている事自体、清水は把握していた様だ。復帰後から早々に仕事を持って来てくれた友人に気分を良くして、二つ返事で了承して感謝を述べた。
しかし、当の依頼して来た本人は何やら珍しく険しい顔。この1ヶ月で彼女の行動を見て来たのだが、中々お転婆な性格をしており、問題児だと噂が瞬く間に広がっていったのを間近で見てきた。今となってはそんな表情は余りにも似合わない。
「有り難う。いや、実はね・・・野郎共の内の二人が一週間前に諜報員として樹海へ潜入しに行ったんだけどさ。数日は生存報告で僕達にも連絡をくれたんだけど、三日前から一向に音沙汰が無くて。」
「え、大丈夫なの? 誰と誰?」
「優雨汰と千波。あの二人は僕達の中では頭が回る方だからねぇ、大丈夫だとは思いたい。たかが三日で焦り過ぎだろと言われれば其れ迄なんだけど、如何しても。」
「・・・そっか。」
信頼はしているのだろうけど、その顔には相手を心配する気持ちが有り有りと浮かんでいた。まぁ、幼馴染が変な目に合ってちゃ不安になるよなぁ。
「因みに、何処へ行って何を調べに?」
「えーっとね、確かマングローブばかり自生している樹海。陽亡市にある山の向こうにあって、背後には海。川も流れて雨も降り易いから液属性にとっては絶好の環境なんだけどさ。」
成る程、湿地帯か。近くにそんな場所があったとは、自分もまだまだ世間知らずだな。
「其処で液属性ばっかり行方不明になるんだ。結構昔からその事件が多発しているから、立ち入り禁止になってるんだよ。いつしか其処は『終水山』と呼ばれるようになった。」
「そーなんd、いや地名、湿地帯の要素は何処に行ったんだよ。そんで、何の情報を貰ったんだ?」
「研究所が見付かった。然も稼動してるからAIが運営しているのは確定。乗り込むって息混んでたけど、其処から全く音沙汰が無い。」
「うわぁ、確実に何かあったじゃんそれ。」
タダじゃ済んで無いだろう。潰されたか、研究材料にされたか。後者だったら同情物だ。何せウチも同じ目にあったのだ。お陰で副作用が残り、頭痛腹痛の二連鎖が絶えない。
「だろう? バレたのかなぁ・・・?」
「・・・そーゆーのは自分の目で見てみねーと。直ぐに行ってやろーよ。普通に欲しー情報が手に入んなくて手間取ってさ、一旦帰還するのを忘れてるだけだったら叱ってやりゃ良ーじゃん。」
先程と少し矛盾しているが、自分なりに励まして清水を元気付けようとする。清水も思い直したのか、普段通りの勝気な笑顔に戻った。
「まぁそうだね! アイツらの事だし。行こうか宇野ちゃん! 海斗も待たせてるだろうから。」
「いやそれは先に言えよ。浜津弟が可哀想だろ。」




