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殺偈禍  作者: サ
序章
7/10

第伍話:医療班本部の一員

「失礼します・・・。」


 医療班の本部である大型のドアが自動で開く。目前には、昔は存在していたとされる『春』を表した風景が広がっていた。


「綺麗だ・・・・。病院、だよな?」


 木々には梅や桜、桃、木蓮等が。地面には菜の花を始め、チューリップや薔薇等が咲き誇り、その中にある広い池も蓮や水蓮で埋め尽くされていた。その周りには蒲公英の綿や花弁、葉が舞い、そして色取り取りの蝶がふわふわと羽ばたいていた。

 空色に塗装された天井に整備されてある、人工太陽の役割を果たすLED照明が擬似とはいえ日光として良い味を出している。


「・・・ーい、おー・・・。」


(個人的な珍百景には入るけど・・・花粉症と昆虫恐怖症なら間違いなく悲鳴をあげるな。)


「患者ですよねぇ。どうかされましたかー?」


 間延びした少女の声が後ろから聞こえる。振り向くと、緑の髪をツインテールにして緩く巻いている可愛らしい子が立っていた。

 看護服を着ているので此処の職員だろう。首から下がっているプレートには『(たちばな)立花(りつか)』と表記されている。


「右耳の鼓膜が多分破れました。」


「あ〜、成る程ぉ、通りで反応が凄く鈍いなぁと思いましたぁ。」


「すんませんしたー。」


 その一言に苛つきながらも謝罪をするが、心中で悪態を突いた。露見されると知りながらも。


(悪いとは思ってるけどさ、栄命隊員は一言でも毒舌とか暴言吐いたり挑発しねーと気が済まねーのか?)


「失礼ですねぇ、そんな事ありませんよぉ。・・・フッ、フフフフフッ・・・!」


「オイ。笑ってんじゃねー。」


 植属性は特有の眼を持っており、相手に舞っている花が見える。その花にを意味する言葉を思い出して、正確迄には行かないが感情や思考を読み取る事が出来る。

 率直に言えば、相手の心を大雑把に覗き込んでいるので嫌われ者である。

 本人達も好きで覗いている訳では無いと思うが、此奴の場合、初対面で毒を吐かれた上に笑われた時点で内面の印象は最悪である。


「ったく・・・。」


 ぼやきながら複数ある内の一つの診察室へ案内され、椅子へ薦められて座る。そうすると、彼女はカルテと幾つか専用の器具を取り出して此方に向き直った。


「・・・医者なんスか。」


「まだまだですけどねぇ。鼓膜が破れたっぽいんですかぁ。一応耳鏡検査しますねぇ。・・・あぁ、右は本当にやっちゃってますねー。10日から2週間は絶対に安静にしてくださーい。」


「あぁ・・・はい。」


「まぁ再生能力は高いのでぇ、耳の中を乾燥させて清潔に保ってれば1、2ヶ月程で塞がりまーす。風呂に入る時は耳に水が入らないよう注意してくださいねぇ。途中経過で治癒されないようならぁ、仕方無く治療も施しますのでぇ━━・・・」


 順調にメモを取りながら診察結果を聞いていく。一先ず大怪我が無くて安堵した。人体実験で薬による副作用等で苦しんだりしたが、鼓膜が破れる怪我は初めてだったのだ。


「他に異常は御座いませんかぁ?」


「いえ、耳以外に大きな事は特に無いッス・・・。」


「そうですかぁ。じゃあ次はこの日に来てくださいねぇ。お待ちしておりますが、出来ればサッサと自力で回復してくださると包帯が無駄にならずに済むので助かりますぅ。」


「はいはい、失礼しました。」


 一礼して直ぐに退室すると、広く高い大きな病室を彩っている風景式庭園が目に入る。美しいだけでは無くとても暖かいので、ずっと此処に居たいと後ろ髪を引かれてしまう。


「綺麗か?」


「え、あ・・・はい。ずっと、見ていたくなります。」


「そう思ってくれるなら、師匠も手入れをする甲斐があると思うよ。時期によって咲く花が違う。定期検診に合わせて見ると良い。師匠の粋な計らいだ。」


「はい・・・。」


 先程、医者として診察してくれた少女に雰囲気が似ている。髪色は深いが属性は同様の植属性で、巻き方は違えどドリルツインだ。

 もしやと思い、札に記載された姓名を見れば一目瞭然だった。


(たちばな)樹理(じゅり)


(姉妹なんだ・・・。)


「妹に診て貰ったのか。」


「・・・はい。ウチと・・・そんなに年は変わらないと思うんスけど、凄いなって。」


 初対面で毒を吐かれたのは引き摺るが、淡々と熟していく姿は素直に評価したい。そのまま伝えると、樹理は嬉しそうに笑った。


「そうか。あんな奴だが根は何だかんだ優しいんだ。引き摺るとは思うが、悪くは・・・まぁ、うん。」


 妹にフォローとも言えない発言を入れたが、その後にボソリと呟いた声はバッチリと聞き取った。


「何でそんな所で師匠に似たんだか。」


(苦労してんだなー。今度から差し入れを持ってこよーかー。)


 苦笑いをしながらそう決めた。

プロローグは此処で終了いたします。


最初は何処かのんびりとしておりましたが、次回からは本格的に話が進んで行きます。


引き続き、暖かく見守ってくださると嬉しいです。

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