第参話:初友人と初任務
休めたのは良いが、まだまだ慌ただしい。暫く暮らしていた研修寮から栄命隊本部へ移動して、同期数人と暮らす事になるのだ。要するに引っ越しである。
「おや、大変そうですね。手伝いましょうか?」
「え、あ、ありがとう御座います・・・。」
突然自分に話し掛けてきた少女の声。振り向くと、水色のサラッとしたツインテールが目を引く。右目が前髪で隠れているが、陰気さは一切感じない。男勝りな表情をしているからだろう。
「えーっと、何号室ですか?」
「2、205ッス。」
「近いですね。いやー、にしても昨日見ましたか? アレ凄かったですねー。」
確実にアレだろう。固属性の影響を色濃く受けた180近くある女子(?)が野郎の骨を粉砕した話。この人も見てたのか。
「吃驚しましたよ。『マナ』って言ったっけ? あの子はお叱りを受けたのかな?」
「ハ、ハハ、ハハハハハ。」
笑って誤魔化すが、あまりその話は聞きたく無い。音がエグかったのもあって地味にトラウマなんだ。後お叱りで済んでないと思う。
「うーん、青褪めてますねぇ。でも栄命隊員になったからにはそれでビビってると後が持たないらしいですよ。当たり前の様に臓物や四肢が飛び交っていると聞きましたし。」
「マジかぁ、まぁ戦場だもんな。分かってますよ? 承知の上で此処来たんで。そんで貴方は・・・?」
話し掛けてきたからには名前を知りたいし、此方もコミュ症なりにも自己紹介はしたい。
「あ、失礼。忘れてましたね。僕は『清水流河』。人工知能対策班に所属した新人です。」
「・・・『宇野遥無』。人工知能対策班。新人です。」
「君の同期かい、じゃあ遠慮は要らないよ。」
「・・・うん、宜しくね。」
暫くは世話になりそうだな。自分の部屋に着くまでまだ時間が掛かりそうだし、何かお話が出来ないかな?
「・・・なぁ、清水の志望動機は何? えっと、対策班選んだ理由とか、さ。ウチは・・・まぁ、拾われた。」
ごめん、自分で聞いといてなんだけど訳有りです。こんな話しなきゃ良かったわ。だが、彼女は文句を言わずに答えてくれた。
「僕は・・・元々友人達と孤児院にいたんだけど、AIに襲撃されてしまってね。住む所が無くなったから止むを得ずに此方に来たんだ。」
「・・・そうなんだ。」
先程迄楽しそうにしていた彼女の口からは、壮絶な理由が出てきた。ってかサラッと言ったけど清水は孤児なのか。
「・・・まぁ、人生は何が起こるか分からないからねぇ。楽しまなきゃ負けだよ!」
「そういうモン?」
「そういうモノさ!」
数分も経たずに会話が終わった。只管青白い鉄板で整備された廊下を歩く。黙ったままなのも落ち着かないので、好物とかの話を振ってみようか。
「えーと、好きな食べ物は?」
「美味いヤツ。」
「嫌いな物。」
「不味いヤツ。」
「大体皆そうでしょーが。」
「そう言われても困るよ。」
・・・・・・。
「趣味。」
「色々。」
「得意な物。」
「知らない。」
「自分の事じゃん、何だよ知らないって。」
「思い付かないんだもーん! ずっと思ってたんだけど君さ、会話が結構下手だよね?」
「煩ぇ、気にしてんのに。」
「ハハハハハ、そうかそうか!」
何だコイツ。もう良いや。直に着くし。
「荷物持ち有り難ね。」
「いや、そんな事無いよ。君がコミュ障なのも分かって良かった良かった!」
「良くねぇよ何一t━━━━
ビー! ビー! ビー! ビー!
「え、」
突如、ウチの話を遮って警報が鳴り出した。まさかの緊急事態だ。出動しなければならない。
〈陽亡市幻煙町、志葉南町三丁目にAIが出現いたしました。現在の数は五体ですが、今後増加する可能性性があります。警戒を怠らずに出動してください。繰り返します、陽亡市幻煙町━━〉
ちっか!? 本部付近じゃねぇか巫山戯んな! こんな初っ端から襲撃されそうになるなんて事ある!?
「おやおや、初任務からトラブル発生かい? 宇野ちゃん、それ取り敢えず玄関に置いて駆け付けようか。」
「あ、ハイ。」
普通に返事しちゃったけど、え、清水落ち着き過ぎじゃね? 別に良い事なんだけど普通慌てない?
「い、急がないと・・・。」
雑に荷物を置いて直ぐに走り出すが、清水の姿は見当たらなくなっていた。まぁそうだろうな。寧ろ置いて行かずに待っていたら任務を放置したのと同義だ。
出入り口の梯子を登って天井となるドアを開けると、無数の悲鳴が聞こえる。既に戦闘が開始されているようだ。先に行った筈の清水がいない事に引っ掛かりを覚えるが、形振り構っていられない。
AIは先程から破壊されても傷痕が再生されているあの少年だろうか。属性は色が緑なので植属性か。かなりデカい蠅取草を振り回して血飛沫が舞っている。
ウチは無属性だけれど、中途半端に力はあるので援護くらいは出来るかもしれない。AIが相手に気を取られている内に登りきり、瓦礫の山の後ろへ周った。
この辺りなら気付かれないだろうと思い、相手に向かって人差し指を指す。指先から光線が飛び出てAIに命中した。
「よし。」
少し破壊が出来たようで、腕が取れたAIは犯人を突き止めようと此方を見た筈。その隙に彼方側も攻撃してくれたら良い。もう一発、次は水鉄砲の様に塩基性の液体を放つ。蛋白質を溶かすが、力自体は中途半端なので効果は望め無い。
暫くすると清水も出て来た。手には袋を持っている。キョロキョロと辺りを見回していたが、定位置を見付けたのか猛ダッシュで其処に向かう。くるりと振り向いたかと思うと、袋の中から水風船を取り出して相手に投げ付けた。液属性を生かした攻撃なのだろう。飛沫で他人に被弾しないか心配だったが、手を翳してAIへ更に液体を浴びせていた。どんどん身体がドロドロと溶けていくのが分かる。それを見計らった様に、清水はまたもう一個水風船を投げ付けた。
正直「自分要らなくね」とは思ったのだが、増える可能性がある以上、自分も動かなければならないのだ。
行動しようと思った矢先、北側から何かが猛スピードで飛来してくるのが見えた。咄嗟に避けたので自分に被害は無かったが、身を隠す為の瓦礫は粉々に爆破された。
「あっぶな、余計な事してくんじゃねーよ。」
如何にもならない事をぼやきながら飛来した方向を見ると、少し遠くに少し高めの廃ビルが確認出来た。恐らく彼処にもう一体のAIが潜んでいるのだろうと思い、その場を後にして向かって行った。