着いた場所は
ガタガタと揺れながら森の中を走っていくのを小さな窓から眺める。
さっきまではこの国の民だと思われる人達の歓声と共に街道を走っていた筈なのに気がつけば森の中を走っている。
ずっと乗っているためお尻が痛い。
それに……気になることがある。
「ねえ、海里……さっきの歓声ってどういうことだと思う?」
「えっ! お姉さん、分かんないの?」
私が海里に聞いたことを目の前に座っている高校生の男の子が反応した。
そう、私達は4人ずつ馬車に乗り魔力検査を受けに行っているのだ。
昨日、アリアナが調べるとは言っていたがまさか馬車で行かなければいけないほど遠いとは思わなかった。
なので王族の彼女達に加えて護衛をする騎士、それに私達が乗る馬車……騎士は馬に乗っていたがそれなりの数での移動だった。
それに……馬車に誰と乗るかで少し揉めた。 主に女子高生2人と男女のカップルだ。
で、揉めた結果……何故か私と海里に男子高校生2人組で乗ることになったのだ。
あとは、サラリーマンとバスの運転手におじいさんと男女のカップルの男性の4人組と残りの女性陣組だ。
何故揉めたのか意味がわからない。 何故、この組み合わせ? それは海里も同じようだったが相手は年下。 何も言わずに飲み込んだ。
そして、馬車に乗り込み走り出して街に近づくと歓声が上がり出したのだ。
王族を拝んでいるのかと思うとそうではなかった。
なぜなら……聞こえてきたからだ。
「これで……私達は……出さなくていい」「安泰だ!」「これも彼らのおかげ!」など……普通なら魔王を倒してくれる勇者様だ。 という意味の歓声だと捉えたらいいのだと思うがなんだか違う気がしてならない。
海里はどう思ったのかと私の隣に座っている海里を見ると外を睨んでいた。
だが自分が見られていることに気づくと、睨んでいたのは見間違いかと思えるほどに私を見る目がさっきまでとは打って変わり瞳を緩め「どうしたの?」と優しく声をかけてくれた。
それを見て私は「大丈夫」と答え、海里から視線を晒し、前に座っている高校生2人を見る。
どうやら歓声が嬉しいのか窓から手を振っていてこちらを見ていなかった。
それから馬車で歓声が上がる街を通り過ぎるまで黙って窓の外を見ていたが街道を抜け、森の中を走り出すと気になってきた。
それで海里に問いかけたのだが彼より先に帰ってきたのは高校生のうちの一人。
アリアナに惚れてしまった彼だ。
確か……有明一君だ。
馬車に乗る前に名前を教えてくれたのだ。 彼もまたかっこいい部類だと思う。
少し吊り上がった目に鼻筋が通った鼻、少し日に焼けた肌は健康的だ。 それにスポーツをやっていたのか体格もいい方だ。
だが、ちょっと上から目線の俺様風は良くない。
そんな彼が私に笑いながら教えてくれる。
「俺たちが勇者だからだよ!」
「勇者? まだ決まってないよ」
彼の言葉にすかさず答えたのは海里だった。
「えー。 お兄さんは魔王を倒す気はないってこと?」
「そうだね。 まだないよ」
「この国を守りたいと思わないわけ?」
「思わない」
きっぱりと言い切る海里。
それを聞いた一は海里を睨みつけながら言った。
「アリアナの話を聞いて何にも思わなかったの? 血も涙もない冷たい奴だな」
「別になんとでもいいなよ。 君が何を言っても俺はこの国を守りたいとは思わない」
「はあ!」
「立ち上がらないでくれない? ただでさえ狭いんだから……それに姉さんの方に倒れられても困るから……早く座れよ」
「……くっ!」
いつもの海里ならこんな風に言い返したりしない。
もっと穏便に済ます筈なのに今日の彼は……いや昨日からここに呼び出されてから彼はおかしい。
「一、落ち着きなって」
一に落ち着くように声をかけたのは昨日興奮していた彼だ。
名前は……頭山大和君。
彼は見た目はオタクには見えない。 一とは違い垂れ目でその目にはメガネをかけている。 そして優しい雰囲気を醸し出している。 クラスに一人いる委員長みたいだ。
だが、昨日の発言を考えると海里と同じラノベオタクなのかもしれない。
「一、別にお兄さん達が魔王を倒そうとしなくても俺たちが頑張ればいいだけだろ? なっ?」
そう言いながら一を座らせ、肩を叩く様子はどこか慣れていた。
「そっそうだよな! 俺たちで頑張ろうぜ!」
その言葉に納得したのか一は私達を見て「俺たちが英雄と呼ばれて有名になっても知らないからな」と言ってきてた。
それを聞いた海里は「別にいいよ」と笑顔で返していた。
そんな話をしていたら馬車が止まった。 どうやら目的の場所に着いたようだ。
緊張と不安から身体が強張っていく。
「姉さん……」
馬車から降りようとすると先に降りた海里に手を引かれ、ゆっくりと降りる。
「海里……」
「大丈夫。 俺が守るから」
そう言ってくれた彼のおかげで強張っていた身体から少し力を抜くことができた。
周りを見渡すと木、木、木しかない。 やはり森の中だ。
だから不自然なのだ。 この場所が…………。
この、私たちの身体より遥かに大きな扉がこの森の中にあることが。
扉がついているのは大きな崖の下。 扉には複雑な魔法陣が描かれている。
一番上の模様は炎? 逆に斜めには鳥? あれは……。
「皆、道中大丈夫だったか?」
そう言いながらやってきたのはアルデオンとその妹アリアナ……そして護衛の騎士とどうやら先にこの場所に来ていたのかフードの人たち数人と……見たことがない人が一人。
「ああ、こちらはフォール神官長だ」
アルデオンが私達に彼を紹介する。
「初めまして皆さま。 フォール・ダッタです。 神殿で神官長をしております」
紹介された彼は細い瞳をさらに細め微笑み、物腰がとても柔らかく聖職者だと一目でわかる衣服を身につけている。
「フォール神官長にはこれから先行うことにとても必要な人物だ」
「皆さまよろしくお願いします」
軽く頭を下げたフォールに皆「よろしく」と言葉を返していく。
「お兄様……そろそろ行かなければ日が暮れますわ」
私達の挨拶が終えたタイミングでアリアナがアルデオンに声をかけた。
「そうだな……。 皆、そろそろ扉の中に入り儀式を始めよう」
その言葉を合図に私達は扉の前に立つと騎士達がゆっくりと大きな扉を押し開けていく。
そして、フォールを先頭にアルデオン、アリアナに続き私達、フードの人たちに騎士が扉の中に入る。
中はどうやら崖をくり抜いているようで周りはゴツゴツとした岩だった。
また、真っ暗な道を歩いていくのかと思ったがフォール神官長がある一定の場所で魔力を込めると道筋にあかりが灯ってていったため大丈夫だった。
ただ、この中に入った途端に身体が何かにのし掛かられたかのように重く、また息がし辛い。
「姉さん。 大丈夫?」
「……うん……大丈夫。 海里は?」
「俺はなんともないよ」
そう言った海里は本当に平気そうだったが、周りはどうやら私と同じような人が多い。
だが、そうでない人もいる。 その筆頭がフォールにアルデオン、そしてアリアナはとても涼しそうな顔をして歩いている。
どういうことなのだろうか?
近くからはあ、はあと荒い息苦しい声が聞こえてくる。
……自分の息だ。
「はあ、はあ、はあ」
「姉さん、本当に大丈夫なの?!」
「だっだいじょ……っ!」
「姉さん!」
倒れそうになった身体を海里がさっと手を伸ばし支えてくれた。
「姉さん! 大丈夫?!」
ゆっくりと海里の顔を見ると、ひどく歪んでいた。
「大丈夫……だから」
「だけど……」
「着いたぞ!」
先を歩いていたアルデオンの声が響いた。
この先に……。
「海里……もう少しだから大丈夫」
「でも!」
食い下がる海里をやんわりと押しのけ彼の目をみる。
「ねっ……」
「…………はあ、分かった。 だけど、支えては行くからね」
そう言って彼は私を支えながらゆっくりとアルデオン達がいる方向に向かっていく。
この先にあるものを知らずに……。
運命が狂うまであと少し。