王子様とお姫様
「皆の者突然こんな場に連れてきてしまってすまない」
そう言ったのは目の前の王子様っぽい人だ。
本当に申し訳ないというような顔をしているが頭を下げてはいないし、目の奥がどこか馬鹿にしているように見えて嘘くさい。
「嘘くさ」
隣からボソッと聞こえた声は海里だ。 どうやら同じことを思ったようだった。
しかし、そう思ったのは私達だけのようだ。
「王子様素敵……」
また、小さな呟きが聞こえてくる。
どこでそう思ったの? そう言いたくなるがあの顔だ。 真摯に謝っているように見えるんだろうな。
「ここってどこだよ!」
「家に帰して!」
「どうして連れてきたんですか?!」
「勇者召喚ですか!」
皆不安に思っていたのだろう。
周りを見渡すと口々に叫んでいる。
しかし、最後の一人はなんか違う。
「静まれ!! 殿下の前だぞ!!」
後ろに控えていた騎士の声がその場に響き渡る。
「やめよ! 急にこんな場所に連れてこられたのだぞ。 皆不安なのだ」
「しかし……」
「良い。 お前はもう下がれ」
そう言って下がらせた騎士はこちらを睨みながら去っていった。
そして、去り際に騎士の口元が何かを囁くように動いていた。
「い……え……せに」
何て言ったのか分からないが良いことではないことは分かる。
なんだか嫌な感じがする……。
「ねえ……海里……さっきの騎士……」
横に立っている海里にそれを話そうとした瞬間、また扉から誰かがやってきた。
今度はドレスをきた女性だった。
「お兄様……そちらの方々が?」
お兄様……つまり妹?
登場した彼女をそっと盗み見ると王子様と同じで金髪碧眼と顔の作りもよく似たこれまた美少女だった。
周りの男性人はその美少女を見てポーとなっていたが、海里を見ると無表情だ。
「海里?」
「ん? ああ。 性格悪そうだなっと思って」
「見て分かるの?」
「なんとなく?」
そう言った海里は笑っていた。
「ちょっと! 何鼻の下伸ばしてんのよ!」
近くから女性のヒステリックな声が飛んできた。
「っ!!」
そっとそちらを見るとどうやら男女のカップルが喧嘩をし始めたようだった。
主に女性がかなり怒っているが。
「伸ばしてねーよ!」
「あの女みて伸ばしてたじゃない!」
「お前だって王子様みてポーとなってたじゃないか!」
「はあ!」
声が大きい。
ほら、王子様達も驚いてる。
「おいおい、お兄さん達さ、醜い喧嘩はやめなよ」
そう言って割り込んで行くのは四人組の高校生の一人だった。
「ほら、あっち。 王子様方見てみろよ。 驚いてるよ」
男女のカップルは王子様達の方を言われたように見ると見られていることに気づいたのか静かになった。
「ださーい」
「恥ずかしいー」
それをみてクスクスと笑うのは残りの高校生のうちの女子二人だ。 もう一人の男子高校生は興奮していて周りが見えていない。 どうやら海里と同じような発言をしたのはこの男子か…。
そして、彼女達の言葉を聞いたカップルはキッと二人を睨むが「怖ーい」と言うだけでやめない。
嫌な空気。 こう言う笑い方は昔のことを思い出すから嫌だ。 クスクスと馬鹿にするような笑い方……。
「姉さん。 大丈夫?」
海里が心配そうに私を見るが心配かけたくなくて笑って
「大丈夫」と応える。
大丈夫。 攻撃対象は私じゃない。
「皆、落ち着いてくれ。 これからのこととなぜこの場によんだかを話したい」
王子様の声がかかるとさっきまで話していたのにシーンと静かになる。
「ありがとう。 では」
「お兄様。 まずは挨拶からですわ」
「ああ、すまない。 そうだな。 私の名前はアルデオン・シャルーズ。 この国の第一皇子であり、皆をこの場によんだ張本人である。 そして、隣の彼女は私の妹である」
「アリアナ・シャルーズですわ」
彼女はそう言って綺麗なカーテシーを披露した。
「では、まず貴方たちをよんだのは魔王を倒すためである!」
魔王ってあの魔王?
「王道展開来たー!」
叫ぶ声が聞こえてきたため、ラノベオタクの海里も同じ感情を持っているのではないかと隣を見ると彼は首を捻っていた。
海里?
「魔王ってどういうことだよ。 元の場所には帰れないのか?」
そう言ったのはヨレヨレのスーツをきたサラリーマンの男性だ。
「会社に戻らないといけないんだ……帰してくれ!」
しかし、それは無理だと首を横に振る王子様に対して絶望的な顔をした男性は「そんな……」と言いながら膝から崩れ落ちた。
「長生きはするもんだな」
それとは逆にずっと静かに黙っていたお爺さんの目はまるで子供のようでキラキラしていた。
皆、様々な反応をしている。
絶望している者から嬉しそうにしている者……不安そうにしている者に……泣き出す者……茫然としている者。
私は茫然としてしまった。
帰れない。 もう家族に会えないってこと?
「姉さん。 大丈夫。 何か方法がある筈だ」
ゆっくりと海里を見るとその目は諦めていない。
本当に帰れると思っている目だ。
そんな海里を見ていると安心してきた。
大丈夫。 私達は大丈夫。
「魔王はこの世界に脅威をもたらしている存在なのです。 大きな被害はまだ起こっていませんが」
「起こっていないのに倒せってか?」
さっき男女のカップルの喧嘩を止めていた男子高校生が馬鹿にしたように笑っていた。
「いいえ起こっていないのには理由が……あるのです。 それは……私達は定期的に生贄を差し出しているのです!」
アリアナは手を自身の目の前で組ながら、目に涙を溜めていた。
それは守ってあげなきゃと思わせる姿だった。