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ツキは王を魅了する  作者: 小梅
2/7

異世界へ

 そもそもの始まりはあの日からだった。

 あの日……バスにさえ乗らなかったら今も彼と一緒に笑いあえていた筈だった。


 私の名前は小暮伊月(こぐれいつき)、25歳。

 新卒で入った会社に馴染めずまた、いじめられたため、その会社を辞めて引きこもりに。

 元々、引きこもり癖はあったのだ。 中学、高校の時にいじめに遭い引きこもっていた時があった。

 しかし、大学に入り自分は変わった大丈夫だと思っていたが、引きこもり癖は治らない。

 あの日もいつものように再就職に就くこともなく、部屋にこもって漫画や本を読んだり、ゲームをして過ごそうとしていた私を見た大学生の弟が息抜きをしようと外に連れ出してくれた。


「姉さん! 今日は新刊出る日だよ! 引きこもってばっかりいるんじゃなくて外に出ようよ!」


 そう言った弟の名前は小暮海里(かいり)、20歳。

 見た目平凡で地味な私と全く違い、爽やかなイケメンという感じだ。

 「本当に姉弟?」と聞かれたことがあるほどにだ。

 だが、残念なことに中身はただのラノベオタクだった。


 最初に新刊が出ると言っていたので二人で本屋に行き、本を買ってからもうすぐ母の誕生日だったのでショッピングモールに行きプレゼントを探した。

 そう、何事もないただの平凡な休日だった。


 だけど、それが終了したのは私のたった一言のせい。


「ここからバスで30分走った場所に美味しいカフェがあるんだけど行く?」


「何で知ってんの?」


 引きこもりの私が何で知っているのか不思議そうな海里にニタリと笑い「テレビで見た」と答えた。


「なるほど! 行こうよ! もうすぐ昼だし」


 彼はスマホで時間を確認しながらそう言った。


「じゃあ、決まり!」


 私達はバス停まで歩き、ちょうどバスが来たので乗り込んだ。

 中は休日なので多いと思っていたのだがそんなに混んでいなかった。

 むしろ、いつもより少なかった。


 今あの時に戻ったら絶対バスには乗らなかった。 


 ガタガタとバスが走る。

 ボーと外の景色を見ていると、隣に座った弟が私に声をかけてスマホを見せた。


「姉さん、これ見て」


「なにそれ?」


「新しい新刊の表紙」


「さっき買ったのに?」


「それとは違うやつだよ。 これは女の子が主人公なんだ」


 そう言った海里はこの本の内容を細かく教えてくれるがその話を聞き流していく。


「ーーーーで、ーーーーだから、ーーーーなんだよ。 それで魔王様はーーーーだからーーーなんだ」


「…………」


「って……姉さん聞いてる?」


「聞いてる、聞いてる」


「絶対聞いて……っ!」


 ガタッと大きく車内が揺れた。


「きゃっ!」


「姉さん‼︎」


 腕を伸ばした海里が私を支える。


「大丈夫?」


「大丈夫……だけど何が起こったの?」


「分からない」


 そう言った瞬間、さっきよりも大きく車内が揺れ、光に包まれた。


 そして、次に目を覚ましたのは煌びやかなまるで物語の世界に入ったような部屋だった。


「姉さん……」


 隣を見ると同じように困惑している海里の姿だった。


「何が起こったの?」


「分からないけど、バスに乗っていた他の人達も皆んなここにいるよ」


 周りを見渡すと確かに彼の言った通りだった。

 高校生ぐらいの男女四人組に、ヨレヨレのスーツを着たサラリーマンにおじいさんが一人、恋人同士だと思われる男女に、同じ歳ぐらいの女性が一人……そして困惑している運転手までいると言うことは彼が何かをしたわけじゃなさそうだ。

 だけど、この状況って……一つのことが頭に思い浮かぶ。


「これってまるで……」


「あっ! 姉さんもそう思う?」


 さっきまで困惑していた弟とは別人のように目がキラキラしていた。


「海里……」


「姉さん! 異世界トリップだよ!」


 興奮している海里の背後を見るとかなり離れた位置、部屋の隅にフードを被って顔が見えないが約10人ぐらいが立っていた。

 ヒソヒソと何かを話しているように見える。


「姉さん? 聞いてる?」


「海里……。 部屋の隅にフードを被った人達がいる」


「フード?」


 海里も自身の背後をチラッと確認する。


「本当だ……きっと俺たちを魔法で呼び出した人達だよ。 下に魔法陣が描かれてるし」


「え……? 下?」


 そーと下を見ると、海里が言った通り大きな魔法陣が描かれていた。

 しかし、描かれているだけで光ったりはしていない。


 もう機能を果たしたってこと?


「ねえ、ここは一体どこよ!」


「そうだぞ! さっさと帰せよ!」


「異世界トリップ来たー!」


 バスに乗っていた他の人たちが徐々に冷静さを取り戻し始めて運転手に詰め寄り始めた。

 一人、海里みたいな子がいるけど。


「会社に帰らないといけないんだぞ!」


「そんなこと私に言われても……私も何がなんだか……」


 ザワザワと騒がしくなっていく私達の部屋の扉がバーンと開いた。

 フードを着ていた人達を見ると頭を下げている。


 灯が逆光で顔が見えない。


「きっと偉い人だよ」


 隣で海里が小さな声で囁いた。


 だが、確かに彼が言った通り偉い人なのだろう。

 フードの人達は皆頭を下げ、何人も引き連れて現れたのだから。


 あっ。 顔が見えた。

 現れた男はスラリとした体型に金髪碧眼。 ザ・王子様だった。 しかも、顔もイケメン。


「リアル王子……」


 どこからか呟く声が聞こえてきた。


 そして、そんな王子様の後ろには本でしか見たことがないような騎士服に腰には剣を差していた。


「騎士まで……イケメン」


 また、呟く声が聞こえてきた。


「海里……」


「うん、姉さん……マジで異世界トリップだ」


「うそでしょ……」


 誰か夢だと言って欲しい。

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