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剣豪の星

慶応元年 七月 京都 妙法院近郊。


「やっと追い詰めたぜ、てめぇだな斉藤を倒したってのは」


妙法院の石垣が月明かりによって淡く輝いている。竹林が風でざわめいている。


「姿を現しやがれっ!」


竹林よりガサリと音がした。その者巨体である。真っ黒な西洋甲冑に身を包み、金色の伸縮カラクリを付けている。そして巨大な兜を被り、面鎧を装着している。素顔は全く見えない。


「おめぇ異人か?どっちにしても逃がす訳にはいかねぇ!

 俺は会津中将様御預かり、新撰組、 土方歳三!」


「同じく一番隊 隊長 沖田総司!」


「同じく十番隊 隊長 原田佐之助だっ!」


その者、竹林から出る。草むらの広き場所にて相対する。ズシン!左足僅かに前進、安定した姿勢を取る。全てにおいて無駄がない。右手がゆっくり弧を描き左腰の銀色に輝く得物に触れた。 


 BUUUUUUN!抜刀した!


「な…何だ、その刀はっ!?」


BUUUUN BUUUUN 異様な音を立て青白く輝く光剣。その者、姿勢を僅かに落とし両手にて中段に構える。静寂の中に、その者の吐息が聞こえる。  


 KOUHAAA…DOUHAAA…


「この異人がっ!」


原田、跳躍!前進しつつ抜き打ちに放つ!ギャリーン!BUUUUUN!閃光がほとばしる。その者微動だにせず、左肩上方にて受け止める。その者の左足が原田の胸を蹴り上げる!原田、前方に跳ばされ転倒!


「ぐあっ…の野郎!」


「ざまぁねえぞ、どうした!」


「うるせぇ土方、奴の太刀、異常に重い!」


DOUHAAA…DOUHAAA…その者、左後方に体をずらす。光剣の位置が変わる。前方に長身だが細身の若者が立っている。沖田総司…。新撰組、最強の剣士と言ってもいい。


「凄いですね、貴方は。原田さんの抜き打ちを受け止めるとは…

 これじゃ斎藤さんがやられちゃう訳だ」


時に京では剣豪を狙った襲撃事件が起きていた。スキを付き不意打ちをかけてくる訳ではない。堂々と真剣の勝負を挑んで来る。相対する者は幕府側でも薩長側でも見境はなかった。かつて岡田以蔵もやられ桂小五郎もやられた。そして新撰組では沖田に匹敵する凄腕の斉藤一がやられた。しかし斬殺されるのではない。二日も立てば元気に回復するのだが、不思議な事に相手の記憶がないのである。ただ立会い負かされたという屈辱感のみが深く残る。しかし新撰組では敗北は許されない。隊の沽券に関わる。その為、土方が一計を案じた。隊士を出動させずカモとなる隊長のみで動き相手を誘い出す。そして今日、その目論見は成功した。その者が目前にいるのである。


「沖田総司まいるっ!」


沖田突出!右腕に<大和守・安定>その者、沖田に目標を変え一閃!BUUUUN!沖田の頭上に光剣がせまる。沖田、空中で回転しつつ胴撃ち!ガキュュン!気魂の一撃が決まる!しかし安定が折れた。甲冑の硬質に折れた。  WAHAHAHAHAHA…その者が笑う。


「土方ぁ、こうなりゃ二人で同時攻撃だ!」


「よしっ原田、滅茶苦茶な兵法だが、それしかあるめぇ!」


二人は突撃した。薩摩示現流の様に上段に構え突進した!その者、両腕をクロスさせ突進に備える。二人が同時に斬撃した。ガキーン!BUUUN!その者、右手で光剣を持ち左手でみねを持ち一文字にして二刀を受ける!その者、力は強大。二人は押し返され体は徐々に捻じ曲がって行く。


「くっ…何て奴だっ!二人がかりでこれかよ!」


沖田総司、背中に担ぐ二刀目を抜刀!月明かりに刀が光る。名刀<菊一文字>!(しかし何処を狙えばいいのだ…) 


「くそおおっ!殺られちまう!」


二人の力は限界に達していた。その時、バン!バァン!銃発の音!その者、右手を大きく開いて腕を伸ばす。バシッ!バシッ!銃弾を手の平につかむ。右手の光剣が揺らぐ!


「今だっ、押し返せっ!」


「判明した、甲冑のスキを衝く!」


沖田、再度突出!重心を低め、その者の首筋めがけ一閃する!紫色の鮮血がほとばしる。GUWAAAAA…!その者、絶叫!土方、光剣を払いのけ二度目の斬撃!その者の面鎧を直撃する。面鎧が裂ける。ビシッ!「うおおおっ!」その者の顔が露出した。真っ赤な瞳を持つ目が六つ、牙を持つ口が耳元まで裂けている。皮膚は紫色である。その者、顔を右手で押さえて素早く後退して行く。


「逃がすものか、この化け物がっ!」


土方、追跡!その者、左腕のカラクリを操作する。背中に背負う器械より発光!PAAAAAN!一体が光に包まれた。三人は眩しさの余り行動が停止する。光が和らいだ時、原田が上空を指差し絶叫した。


「て…鉄の船が浮いておる!」


三角形の物体が空中に飛翔していた。その物体、やがて増速し天空に向かって消えて行った…

三人は唖然として見つめている。原田、腰を抜かしてへたり込む。沖田は我に帰り周辺を目配りした。 


「あの銃発は何処から一体誰が…」




竹林の中を疾走する男女がいる。男の帯にはS&W33口径回転式拳銃…。


「憎い新撰組だが異人に斬られるのは我慢出来んキニ。おりょうさん早う、邪魔が入る」


「あい…」




辺りは静寂に戻った、虫の声が聞こえる。


「土方さん、こんな事、誰に話しても信じないでしょうね」


「ああ、沖田、言わねぇ方がいいな。局長にも報告しねぇ方がいい…」


新撰組、知られざるエピソードである。戊辰戦争勃発まで、後、四年…。





<太陽系第三惑星、衛星軌道圏内> 超巨大恒星間機動要塞「シエーカン09号」


スペースちゃぶ台がひっくり返った!


「バカ者!地球人如きに遅れを取ったのか!」


「父ちゃん、こんな剣術養成ギプスをしていては動きが取れない。

 それに交通誘導刀じゃなく普通の光剣が欲しい!」


バキッ!父ちゃんがスペース絆創膏だらけの、その者を殴り倒した。


「バカ者!それでこそ鍛錬なのだ!」


「ど〜は〜ひどいよ、父ちゃん!」


「あの射手座の脇でランランと輝く星を見るがよい、あれこそ我が本星<剣豪の星>だ!

 つまらぬ事でブ〜タレおって、あの星に恥かしいとは思わぬのかっ!」


「どう〜は〜父ちゃん!俺は間違っていた、俺は恥かしい!」


スペースふすまの脇でアギゴ姉ちゃんが泣いている。


「ううっ…ベイ馬(これは苦しい)」


宇宙の果て、射手座の脇に<剣豪の星>がある。ただひたすらに強い惑星人(剣術に限る)に試合を望み、鍛錬を続ける事に生涯を捧げる知的生命体が存在する。宇宙は広大である。この様な生態を持つ宇宙人もいるのだ!多分…いる。いるんじゃないかな?などと言いつつ、この物語は終わるのであった。


               


                   △Grand Blue 2oo9 1/25 



















SFパロディ作品です。単純に読んで楽しんで頂ければ幸いです。


御感想など頂ければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちはグランブルーさん、初めましてではない、武倉です。僕に対する記憶、脳内の片隅の端っこの脇の方にでもおありでしょうか? もしそうであるなら幸いです。 この度ふらふらと検索をかけていた…
[一言] 面白かったです。最初はダースベーダ○かよ! と思ったけどどうやら違うよで・・・、プっ、と噴き出す感じの笑いでした。
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